デンタルマガジン83号鼎談(1995年2月1日発行)


新しい貴金属接着用前処理剤
"Vプライマー"の特徴と臨床応用



増原 英一 総合歯科医療研究所所長
熱田 充  長崎大学歯学部教授
松村 英雄 長崎大学歯学部講師



わが国の鋳造歯冠補綴分野において、金銀パラジウム合金は最も多用される歯科用合金の一つであるが、従来、金銀パラジウム合金をはじめとする貴金属合金は非貴金属合金と比較して、その接着は難しく、加熱処理やスズ電析を施すなど煩雑な操作が必要とされてきた。ところが今回、長年の研究の結果、貴金属表面に塗布するだけで、加熱やスズ電析処理と同等以上の効果が得られる"Vプライマー"が開発された。これは、スーパーボンドC&Bと組み合わせて使用することにより、貴金属合金に対する接着耐久性を飛躍的に向上させるものであり、その生体安全性から口腔内での使用も認可されており、幅広い臨床応用が期待できる。
今回は、"Vプライマー"の開発に長年携わってこられた長崎大学歯学部から熱田 充教授と松村 英雄講師をお迎えし、その開発の経緯から特徴、臨床展開について貴重なご意見をお伺いした。



∨‐プライマー開発の経緯



増原 本日はお忙しいところをご出席いただきまして、ありかとうこざいます。
最近、サンメディカルから新しい貴金属接着用の前処理剤「V-プライマー」か市販されましたが、今日はこのV-プライマーとはどんなものか、また、臨床でどのように使用するのかといったお話をお聞かせいただきたいと思います。
まず初めに、なぜこういったものが開発されたのか、私から簡単に解説しておきたいと思います。
以前からチオコールラバー印象材はカッパーバン卜によく接着することが知られていました。私はこれにヒントを得て、これを貴金属の接着に応用できないかと考えて、10年程前に、医用器材研究所にいた門磨義則助教授と小島克則先生にお頗いして、モノマーの研究を始めてもらったわけです。
その後、両先生がいろいろな化合物を合成されていくうちに、実用性のあるものができたのです。今度はそれを長崎大学の熱田教授にお願いして臨床的研究を進めていただき、これをサンメディィカルと三井石油化学が協同しながら製品化に当たって、ようやくl0年がかりで世界に誇れる日本独自の新製品が生まれたというわけです。
今まで、貴金属の接着の前処理としては、長崎大学補綴の田中卓男先生が間発された金合金の表面を400℃に加熱して酸化する方法や、クラレが開発したスズ電折法などがありましたが、いずれも操作が煩雑で普及が阻まれていました。
その点、今回のV-プライマーは操作が簡単で、臨床家の先生方にとってとても使いやすい材料といえます。
そこで、V-プライマーの開発にずっと携わってこられた松村先生にV-プライマーとはどんなものか、開発の経緯を簡単に説明していただきたいと思います。

松村 最初に研究を始められたのは、もちろん増原先生の教室で、今お話にあったチオコールラバー印象材とカッパーバンドの関係から、いわゆるメルカプト基を持った化合物をなんとか接着材に応用できないものかということでプライマー用の化合物の研究が始まったと思います。
ただ、従来の接着性レジンとメルカプト化合物を併用すると、途中で硬化反応が阻害されるなどの不都合があり、それを解決するために分子構造をいろいろ変更することによって、今日のトリアジンジオチール誘導体(VTD)に到達し、V-プライマーが生まれました。

増原 これで安定して臨床でも使用できるようになったわけですね。

松村 商品化に際しては、実際に患者さんに使用する場合の操作性や保存安定性に関して、できるだけ臨床家にとって使いやすいものになるようメーカーにお願いしました。



スーパーポンドとの併用で最大限の効果を発揮する



増原 ところでV-プブライマーはスーバーポンドC&Bと組み合わせて使用するのが効果的だといわれていますが。

松村 その組み合わせは小島先生が最初に実験されたものですが、スーバーポンド系レジンを使用した理由は、MMAがそのまま使用でき、モノマー自体の性能を検討するのに適していたためだと思います。
また、なぜスーバーボンドが良いかというと、MMAモノマーはTBBOで活性化されますが、このレジンは重合開始剤であるTBBOがかなり多量に入っています。このTBBOがV-プライマーのモノマーにある比較的重合しにくいビニル基をも重合させるためであろうと推測しています。

私もいろいろテストした結果、V-プライマーはスーバーポンドと併用するのが最も効果的であるということを確認しました。

増原 では、BPOアミン系などの他の接着性レジンと組み合わせた場合はどうですか。熱田先生、いかがでしょうか。

熱田 私どもの教室では、スーバーボンドとの組み合わせを主体に実験を行ってきましたので、スーパーボンドに関しては5年以上の臨床デー夕があり、これは非常に満足できるものです。
ただ、それ以外の接着性レヅンについては、基礎的な実験は行っていますが、期間も短く、現時点では確証を持って言えないというのが本当のところです。

松村 どんな接着性レジンの場合でも、V-プライマーを塗布しないよりは塗布した方が良い結果は出ています。処理効果は確実にあるというのが、現時点での結論です。後は耐久性が問趨になるわけですが、他の接着性レジンセメントは比較的新しいものが多く、現在はデータを集めている段階です。

増原 長期的な結果が出ていないわけですね。

まあ、商品としてはスーパーボンドとV-プライマーはセットにされて販売されていますから、V-プライマーはスーパーボンドとの併用で使っていただくのが一番理想的ですが、このスーパーボンド自体をまだ使用されていない先生方も大勢いらっしゃると思いますので、これを機会により一層使い慣れてもらうことが期待されますね。

熱田 スーパーボンドは扱いにくいという意見も確かにありますが、これに代わるものがないというのであれば、やはり使い慣れていただくしかないと思います。
リン酸亜鉛セメントと比較すれば、かなりイメージは異なるかもしれませんが、最近では、粉を少なくしたりダッペンディッシュを冷やして操作性を良くするなど、使い方の工夫もされてきましたし、慣れさえすれば、そんなに扱いにくいものではないと思います。

増原 そうですね。そういう意味でも、今回のV-プライマーの使い方も慣れていただかないといけないわけですが、V-プライマーの性能を確実に発揮させるためのポイントは何でしょうか。



塗布するだけの簡単な操作で接着性が向上する



松村 もともとV-プライマーの開発の方針は、器材や処理の煩雑さを解消するためでしたから、合金の加熱処理やスズ電折の必要もなく、ただサンドブラストをかけるのみでよく、あとはl液性のV-プライマーを塗布するだけの操作ですから簡単です。

増原 そういう簡便なシステムになっていても、人によってはサンドブラストさえしないことも考えられます。サンドブラストをした場合としない場合の差は大きいのですか。

熱田 従来型のセメントでは、嵌合力による合着ということで、フルクラウンの内面はアズキャストのままでよく、特別な処理は必要なかったのですが、V-プライマーの場合は合金表面の状態に左右されますから、清掃とか接着面積を増強するとかいった意味からもアルミナによるサンドブラスト処理は欠かせません。

増原 サンドブラストは必須だということですね。もし手持ちのサンドブラスターがない場合は、どのように対処すればいいのでしょうか。

熱田 金属の新鮮面を出しながら、凹凸もつけることができればよいわけで、ザンドブラスターがない場合はフィッシャーバーを使って、あるいは口腔内ではダイヤモンドバー等で代用できるのではないでしょうか。

増原 サンドブラスト処理の後、超音波洗浄をする必要がありますか?

熱田 超音波で残ったアルミナを取るため、当初は行っていたんですが、エアーブローをかけるか、トントンと振動を加えてアルミナを振り落とすだけでも接着力は変わらないという緒果を得てから省略しています。
サンドブラストはl〜2分で処理できますが、超音波洗浄はl0〜l5分かかりますので、これが不要になったことは臨床においては非常に助かります。
また、V-プライマーは塗るとすぐ乾きますから、時間のロスがありません。操作性に間しては、実に簡便になったと思っています。

増原 ところで、このV-プライマー処理はスズ電折と比較した場合、どうなのでしょうか。

熱田 スズメッキは、あの色がいいと言う人もいますが、接着力と耐久性に関しては、V-プラライマーとスーパーボンドの組み合わせであれば、金銀バラジウム合金に関しては、スズ電折より勝るとも劣るということはありません。



金銀パラジウム合金に最も優れた効果を発揮



増原 次に、合金についてお伺いしたいのですが、V-プライマーは貴金属合金の中でも、特に銅の含有量が多い合金に、より効果が大きいと思われますが、現在、健康保険で使用頻度の高い一般に市販されている金銀パラジウム合金でも十分に使えるわけですか。

熱田 はい。V-プライマーは金銀パラジウム合金に対して、最も優れた接着耐久性を発揮することがわかっていますので、十分大丈夫だと思います。

増原 多数歯の接着ブリッジの症例などに使用しても大丈夫でしょうか。機械的な強度などの面から見た場合に…。

熱田 接着ブリッジの場合は、金銀パラジウム合金を使うなら、l歯欠損くらいに限局することを原則とした方が安全だと思います。それ以上の多数歯にわたる時は、タイプIVの金合金かメタキャストのようなコバルトクロム系の丈夫な合金を使った方がいいでしようね。

増原 コバルトクロム系の合金は、少し硬すぎるのではないですか。

熱田 硬すぎるというよりも、融点が高いために寸法精度的に適合が若干甘くなるといったことはありますね。最近の接着ブリッジはかなり細かな形成も人ってきていますから。

増原 それと、金銀パラジウム合金は熱処理をすると強度が上がるということがありますが。

松村 接着ブリッジのような比較的薄いメタルフレームを製作する場合は、確かに高温で加熱処理をした方が効果的ではないかと思っています。今の製品で5割から倍くらい、硬さが上がると聞いています。

増原 技工所とのからみもありますから、現実には難しい面があるかもしれませんね。いずれにしても、もう少し強度の面で優れた金銀パラジウム合金が開発されれば、それが一番望ましいわけですね。

熱田 はい。接着に関しては、今まで以上に向上していますから、それも含めて考えますと、そういう強度的に優れた金銀パラジウム合金が出てくれば、多数歯欠損の接着ブリッジにも使えるようになるだろうと思います。



幅広い臨床展開が司能になる



増原 とにかく、金銀パラジウム合金への接着耐久性が向上したわけですから、今後、臨床の場でいかに応用していくかが重要になってくると思います。

熱田 私どもでは、プライマー処理をすべての金銀パラジウム合金で作った歯冠補綴物に行うようにしています.操作が簡便な上に接着耐久性に優れていますから、l0年オーダーの予後を考えた時、従来のセメント合着法よりも格段に優れているだろうと期待しています。

増原 そうですね。いわゆるマイクロリーケージを防ぐという意味で、接着性レジンは非常に効果がありますからね。
熱田 天然歯の支台歯、つまり象牙質に対しての接着はかなり改善されて良くなりました。あとは鋳造冠の内面にいかに接着させるかということだと思います。
また、支台歯が無髄歯の場合はメタルで築造することが多く、そのメタルも金銀パラジウム合金が一番多いわけです。そういう意味からもこれからは金パラ支台に対する接着ということが大きなポイントになってくるのではないでしょうか。
特に、最近増えてきているキャスタブルセラミックスクラウンなどでも、口の中の金属支台とセラミックスの接着ということが欠かせないわけですから、そういうものに対しての前処理剤として有効になってくると思われます。

増原 V-プライマーは口腔内でも使用することができるという点で非常に有用ですね。

松村 はい。口の中でも簡単に処理できるというのは大きなメリットの一つです。例えば、金パラブリッジのレジン前装部が破折した時は破折部分を形成後、簡単に補修できますし、ポーセレンブリッジが破折した場合も、口腔外で補修冠を製作して按着すれば簡単に修理できます。

増原 口腔内での金属表面のサンドブラストはどうするのですか。

熱田 ラバーダム装着してからペンシル型サンドブラスターを用いて行っていますが、自分で全てやるとなると、これがなかなか煩雑です。
ダイヤモンドバー等で金属表面を軽く荒らして、V-プライマーを塗布するのも一つの方法です。
口腔内で使える化学的な処理で、サンドブラストと同じ効果が得られる処理剤みたいなものが開発できないかと、メーカーにもお願いしているのですが。

増原 それは、これからの研究課題ですね。

ところで、V-プライマーは歯質と金属の接着だけでなく、技工的な用途にも活用できるのではないでしょうか。

松村 例えば、レジン前装冠作製の時には、とても役立つと思います。

熱田 レジン前装冠は保険で認められている前歯の歯冠補綴物ですし、金銀パラジウム合金をフレームに使ってレジンを接着させる場合、非常に有効だと思いますね。
それに、技工士さんにとっても、技工操作の際にレジンが本当に接着していると、チッピングしないで、辺縁の仕上げもきれいにできると聞いていますので、メリットば大きいと思いますよ.

増原 それが有効であるとすれば、技工所にもスーパーポンドとV-プライマーのキットを常備していただかなければなりませんね。

今日は、いろいろ貴重なご意見をいただきまして、本当にありがとうございました。