増原 本日はお忙しいところをご出席いただきまして、有難うございます。
横塚 昭和63年3月に「セシード」が発売されましたが、これは前歯部用でした。その当時から臼歯部にも審美性への要求は高まりつつあり、それに対応できる素材は陶材だけ、それもメタルボンドというものに限られていたわけです。
それで、審美性に優れ、なおかつ操作性の良いものができればということで、クラレ社に臼歯部用の開発をお願いしました。
1年後の平成元年の5月に試作品ができ、日本補綴歯科学会の関東支部学会で発表しましたが、より良いものを作り上げたいという考えから、私共の大学だけでなく、色々な権威ある先生方にもご協力をいただけたらということで、北海道大学の内山教授、大阪歯科大学の川添教授、福岡歯科大学の松浦教授にお願いしました。
そして、平成2年3月に4大学で第1回の研究会を開催してから、今日まで、計10回の研究会を開催してきました。その間、表面性状の問題、耐摩耗性の問題、歯肉等への為害性の問題等、様々なテーマを決め、それぞれの大学で手分けして検討してきました。
そういうことで、このエステニアは非常に多くの方が開発に参画し、基礎と臨床の両面から十分に検討がなされた材料ではないかと自負しております。
増原 より良いものを作ろうとすれば、ただ1メーカー、1大学ということではなく、色々な人の知恵を結集して作るという時代になってきているということです。
内山先生はどのような研究をなさったのでしょうか。
内山 臼歯部用の修復材となりますと、咬合面まで覆ってしまうということになりますので、当然対合歯の摩耗の問題が出てきます。以前にもコンポジットレジンのインレーが出たときに、できるだけ咬合に直接かかわらないような部分に留めた方が良いという意見を出したこともあり、私はこの問題については、かなり慎重でした。
今回、横塚先生からお誘いがあり、研究チームに参加させていただいたわけですが、このエステニアについては、色々な材料との比較も含めて、摩耗試験を行いました。
その結果、従来の充用のコンポジットレジン等と比べると、エナメル質にやさしい材料であることがわかりました。
横塚 セシードと比較しますと、エステニアは圧縮強度が1.3倍、引っ張り強度が1.4倍、曲げ強度が1.9倍、硬さが2.7倍ということで、機械的性質は非常に向上しています。
増原 適合性に影響を与える重合収縮や熱膨張係数も改善されていると聞いていますが、マージンの適合についてはいかがですか。
内山 重合収縮は1.6分の1、熱膨張係数は約2分の1と、セシードより向上していますが、適合性については、それ以上に操作上の問題が大きいと思います。
ドクターサイドでいえば支台歯形成です。本当はショルダー・タイプがいいんでしょうが、これは形成がかなり難しい。ではどうするかとなると、ヘビーシャンファー・タイプの形成です。これですと、マージンもうまく適合します。
それともう一つ重要なのが、技工操作です。こういった材料では、技工士さんの役割は非常に大きいんですね。
増原 横塚先生は確か技工士さんのための研究会もつくられたと伺いましたが。
横塚 はい。4大学のそれぞれの担当の技工士さんを集めて、ドクター抜きのテクニシャンだけの研究会です。
増原 それは新しい試みですし、自由に技術的な工夫が展開できるという点でも、大変素晴しいことですね。
ところで、臨床応用する際の天然歯との接着の問題はどうなっているのでしょうか。
内山 通常ですと、レジン系の接着材がいいということになるのですが、エステニアはフィラーの量が大変多いですから、どちらかというとセラミックスに近いということで、むしろポーセレン用の接着材であるクリアフィル・ポーセレンボンドを併用した方がよく接着します。
増原 前処理は必要でしょうか。
内山 シランカップリング剤処理をした方が効果が高まると思います。それから、技工操作上、重合収縮によって模型から外れにくくなるのを防ぐために、スペーサーを技工物の内面に一層コーティングするのですが、これをきれいに取り除くためにも、何らかの表面処理は必要だと思います。
横塚 審美性については、クラレ社も相当苦労していたようですが、私の感想では、口腔内に装着したものの写真を比較しても、メタルボンドなのかエステニアなのかの見分けはつかないように思います。
内山 ポーセレンとの比較で、表面滑沢性については、当初、表面の重合度が全体のそれに比べて多少低くなり、滑沢性が失われるという問題がありました。
それを解決するには、表面を削り取ってしまえばいいわけですが、私共の大学で採用したコア法は精密さでは優れているのですが、研磨できる表面の量が少ないものですから、低重合層が取り切れないでいたのです。
そこで、やはりできるだけ低重合層を減らすということで加熱重合の温度を100℃から110℃に上げると共に、エアバリアを表面に塗付して低重合層をカバーすることで解決しました。
横塚 私共の大学では、築盛法を採用しましたので、少し余分に盛り上げておいて形を整えるというやり方のため、低重合層については問題ありませんでした。
表面を大体30ミクロンくらい取りますと、表面滑沢性は低下しないというデータを得ています。
内山 従来、無機質のフィラーが使われますと、どうしても表面が少しザラつくというようなことが言われてきたわけですが、今回のものは、フィラーの大きさの問題と、それをハイブリッドにして、要するにきっちり詰め込んであることが表面が滑沢になった要因ではないでしょうか。
それともう一つ、使われているマトリクスレジンが違うこと。
増原 そうですね。今、内山先生がおっしゃったように、マトリクスになっているレジンと無機質フィラーの関係が非常に大きな役割を果たしているらしいのです。材質的に、これが新しい進歩につながっているのではないかと、私はみています。
それと、先程加熱重合の温度が110℃というお話が出ていましたが。
横塚 はい。エステニアは光重合した後に加熱重合を行い、完全に重合させるわけです。
当初は100℃で15分間行っていたのですが、先程のお話にもありましたように、表面滑沢性の問題をより向上させるために、いろいろ検討した結果、110℃で15分間の加熱重合が、一層滑沢性を高め、装着後も長期間にわたって光沢を持続するということがわかりました。
増原 それからもう一つ、陶材で問題になる切端の破折、チッピングの問題ですが、今までの臨床成績はいかがですか。
横塚 治験の時の症例をそのまま3年間経過観察しました。50症例中、リコールできたのが40症例で、そのうち2例に破折がありました。 陶材に類似しているということで、破折という問題がついてまわると思います。しかし、そのことは一つの欠点ともいえますが、破折は天然歯を傷めないで済み、かえって生体の防御になるという考えもあると思っています。
内山 私も破折の問題については、大きなこととは捉えていません。というのも、私自身が上顎中切歯の4級インレーを2つ入れていますが、相当厳しい条件にもかかわらず、5年経過した現在も、何ら問題なく使っていますから。
増原 やはり、臼歯部に使うとなると、破折や咬合面の耐摩耗性の問題は重要ですからね。
横塚 ただ、注意していただきたいのは、最後方の臼歯を修復する場合には、最後方の臼歯の咬合接触部を金属で被覆することと、クラスプがかかる鉤歯の修復も金属でお願いしたいということです。
内山 破折については、とにかく接着をしっかり行っていただきたいということですね。今のポーセレンにしてもコンポジットレジンにしても、入れた後、割れたり欠けたりするのは、かなりの部分が接着の問題だと思います。
増原 そうですね。いくら素材が破折に強くても接着がきっちり行われていなければ、耐衝撃性が低下して、破折の危険性がありますからね。
内山 きちんと接着したものは非常に割れにくいんですね。
増原 接着させたものが本当の意味で歯質と一体化すれば、素材そのものよりも、かえって強くなるはずなんですけどね。
ところで、今、先進の歯科医療界では、できるだけ口腔内から金属をなくそうという方向に向かいつつあると思うのですが、この新素材の登場によって、臨床の場で新しいものが生まれるような気がします。
増原 そうですね。私も同感です。
内山 そういう方向に行くと、技工士さんがワックスやレジンを盛ったりという今までの作業はなくなると思うんです。
今CAD/CAMはドクターが使っていますが、これからは技工士さんが画面を見ながら設計して、あとは器械が作るというように大きく変わっていくだろうと思っています。
そうなると、例えば昼間に設計をしてデータを保存しておく、そして夕方器械に指示を出して家に帰る、翌日来たら全部ものができているといったことも考えられるわけです。
増原 そういった方向に変えていかなければなりませんね。
ところで、このエステニアでブリッジを作る際、メタルフレームなしではだめなんでしょうか。
横塚 現時点では、メタルでフレームを作って補強した方が強度的にも形態的にも安全ですね。
増原 そうですか。私は、できるだけメタルを使わない方向で進んでほしいと思っているのですが。
内山 現在の金属焼付ポーセレンは、やはり、金属の良さとポーセレンの良さを合体して生かしたわけですね。そのポーセレンの代わりにエステニアを用いて、審美的な補綴物を廉価で患者さんに提供しようということですから、これはこれで意義があると思っています。
横塚 私は、高分子材料には無機材料にないキャパシティがあると思っています。
将来の夢として、高分子材料を発展させて金属と同じような物性のものができれば、ノンメタルの時代がやってくるでしょう。
増原 メタルボンドや鋳造冠に関しては、ヨーロッパでも否定的な方向に向かいつつあるようですし、新しい素材を新しいアイディアで生かしていくといった研究が望まれますね。
ところで、エステニアの臨床での使い方について、注意しなければならない点といえば、何でしょうか。
横塚 やはり、守るべき点をきっちり守って使っていただきたいということですね。前にも述べた最後臼歯やクラスプの鉤歯のことや、重合温度と時間など、トラブルを事前に回避するためにも、是非とも守っていただきたいと思います。
内山 あと、操作上の問題ですが、ベテランになればなるほど、それまでの経験に基づいて、これは以前からあったあの材料に似ているから、こんな感じでいいだろうと思い込んで、大事なステップを飛ばしてしまうということがないようにしていただきたいと思います。
増原 最後に、エステニアの臨床での展開ですが、どこまで広がりを期待できるのでしょうか。
横塚 現在はクラウン、ブリッジがメインでインレーやアンレーもできます。ただ、ラミネートベニアは現時点ではちょっと難しいという気がします。
内山 私は、どちらかというと、将来的にはフルカバレッジよりも部分修復が増えるだろうと思っています。この材料はベースがレジンですから、接着にはとても有利ですし、口の中で重合させることによる問題もないですから、技工士さんに外できちっとしたものを作ってもらって、歯質と完全接着させれば、今までとは違った展開も期待できると思っています。
増原 日本の技工士さんは優秀ですし、こんな素晴しい材料が登場したわけですから、新しい発想で日本の審美修復を展開していきたいですね。
本日は興味深いお話を伺わせていただき、本当に有難うございました。