増原 本日はお忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。
柏田 エナメル質に関しては、予防的な修復を目指したものしかないのではないでしょうか。
まず口腔内の環境を整えるために、リスクファクターを調べ、それに基づいた処置を行い、それでもリスクが大きいときには、例えば子供の場合、裂溝齲蝕を防ぐためにティースメイトF-1などでシーラントを行っているわけです。ただ、裂溝が汚れたところにシーラントをやっても中まで入っていかない。確実にするためには、ADゲルという次亜塩素酸ナトリウムをゲル化したもので汚れを取ってからシールするとよく中に入っていくんですね。
その他に、エナメル質のどこから悪くなってくるといったら、歯頸部や隣接面のあたりが悪くなってきます。歯頸部などで初期に白濁してきたときにどうするかといったときに、やはりこれからの時代、リスクが大きかったらコーティングをしていくことがいいのではないかと。裂溝も含め、齲蝕好発部位を徐放性フッ素の入っている接着材でコーティングして予防する。エナメルへの侵襲についての対策は、今そんなところです。
増原 確かにフィッシャーの中が汚れたままでは、シーラントでコーティングしても効果は少ないんです。そこで、アーウィンという、新しいエルビウム・ヤグ レーザーでフィッシャーの中を蒸散して、それからシーラントを充填すれば本当にいいと思うんですね。
柏田 それはいいですね。
増原 エナメル質をなるべく削らないという考え方について、熱田先生、補綴分野ではいかがでしょうか。
熱田 エナメル質を残したままで、補綴物ができるかという問題は、これまで、いわゆるパーシャルベニアなどで繰り返し論議されてきたテーマなんです。
ただ現状では、補綴の分野ではフルカバレッジが主流だと思います。しかし、北大の内山洋一先生も、フルカバレッジにしたための、つまりエナメル質を全部剥いでしまったための弊害を強く言っておられます。
増原 そうですね。
熱田 私は材料の進歩がないと、例えば審美という点からいっても、やはりエナメル質を残した修復というのは、今のままの材料ではなかなか難しいと思います。だから、材料の進歩があって初めて補綴の領域でも、エナメル質を残した歯冠修復ということが可能になるだろうと思っています。 それと、力学的な面からの研究も必要でしょうね。補綴物はねじれの力に弱いわけです。そういったねじれを受けても大丈夫な最小限のエナメル質の削除の設計があると思うんです。
熱田 解剖学的にはセメント-エナメル ジャンクションの上か下かの問題で、そこを超えてしまうとエナメル質がなくなり、セメント質が若干あって、あとは象牙質ということになります。結果として象牙質の中に辺縁を設けるような形になって悪循環が起きていると思います。
柏田 歯肉縁下で正確に適合させることは難しいし、接着という面からも、また、ペリオの関係からもまずいと思います。
歯肉縁上に持ってくる場合、露出した象牙質の象牙細管に徐放性フッ素含有の接着材でレジンタグを形成し、さらに周囲の象牙質もコーティングする方法をとっています。そうすれば、細菌の影響を防ぐと同時に歯質の耐酸性を強化できると思います。私はこの一連のコーティングを“現代のお歯黒”と言っているのですが。
増原 できるだけ歯質を削らないということでは、新しい方法ですね。ところで、今、先生がおっしゃったフッ素のコーティングには何をお使いですか。
柏田 ティースメイトF-1しかないんですね、今のところ。もっと徐放性のあるものがいいのかもしれません。フッ素だけではなくて、極端なことを言うと、細菌をバリアするようなものが出てくれば、歯肉縁ギリギリのところの色々な問題が結構解決されるかなという感じがします。
柏田 審美的な良さもありますが、一番のメリットは生体に合ったものだということですね。私のところには金属のアレルギーの患者さんが割合に来られるんです。そういった時、大臼歯は硬質レジンではちょっと弱いものですから、以前はポーセレンでやっていたんですが、やはりチップしたり、対合歯の問題もあったりするものですから、非常に困っていたんです。今はエステニアを使っていますが、例えば口の中から金属を除去しますと、ピアスで爛れているような耳たぶも治るんです。そのくらい口腔内の合金というのが生体によくないというか、複合汚染の一つの原因だと思うんです。
増原 それは大変重要な問題ですね。
柏田 ええ。接着が今度は非常にやりやすくなっていますし、もう一つ、エステニアというのはセラミックではないですから、例えば、合着前に咬合調整を行っても欠けなくて済むし、外できれいに研磨することもできますから、非常にメリットがあると思います。
増原 熱田先生、補綴の立場からいかがですか。
熱田 そうですね。私自身はまだエステニアについては、臨床例でどうこうというようなところまでは言えないんですが、学会等での色々な発表で見ている限り、従来の硬質レジンをかなり超えたというか、セラミックに近づいたというような印象は持っています。ただ、大臼歯の咬合面などに持ってきたときどうかということになってくると思うんです。
私はレジンに非常に愛着を持っていますし、レジンを歯冠補綴に積極的に利用するという立場ですが、この評価は口の中で最低でも5年ぐらい経過したところで判断すべきだと思います。
今回のものはデータからみて、従来のものよりもかなりよくなっていますから、それぞれの先生が自分の感触で、例えば今まで小臼歯で使っていた人が、じゃ、今度大臼歯に使ってみるというようなことで新しい使い方が開けると思います。そういったステップを乗り越えていかないと普及しないだろうと思います。
柏田 こういう新素材が出たら、弾性率の問題とか、たわみの問題とかをもっと問うような研究、口の中でかむときにどうなのかという研究がもう少しなされるべきだと思います。
増原 全く同感です。これは歯科理工学の先生に本気でやってもらいたいテーマです。つまり、歯冠材料が具備すべき必要にして十分な条件はどうかということですね。もっと力学的とか、エナメル質の実際の物性との対比とか、そういった基本的なことをきちっとやって明示していかなきゃいけないですね。
私が注目しているエステニアのもう一つの利点は、膨張係数がエナメル質のそれに近いことです。これは辺縁封鎖に大きな効果があるとみています。
ところで、従来のポーセレン、あるいはキャスタブルセラミックスには脆さということがあって、肉厚にしなければならないという致命的な欠陥があったわけです。それと相手のエナメル質に対して硬すぎるという問題があって、そのウィークポイントが今度のエステニアでカバーされるんじゃないかと期待しているんです。そういう意味で補綴ではかなり大きな進歩がもたらされるんじゃないかと思うんですよ。
増原 そうですね。これからの歯科医療ではやはり操作が簡単で、能率的だということが大きなファクターになると思います。鋳造だとかポーセレンの焼成というのは、とても手間のかかる作業がありますから、これが全て合成樹脂で間に合うとなれば、歯科医療のシステムも随分変わるのではないでしょうか。
柏田 操作性の面で、エステニアを臨床で使ってみて非常にいいのは、コンタクトが緩くて困るなという時にでも、すぐ追加築盛できることです。そういう点はキャスタブルとか、今までのオールセラミックスのちょっとマネのできないところです。
熱田 今の話に関連したことで言えば、合着時にポーセレンの咬合調整や研磨などを口の中でしますね。それが後でクラックの原因になっていくということがあるんですね。ですから、そのあたりも本当にきちっとシステマティックに仕上げないと、2〜3年後に亀裂が入るということになるんです。
そういうことがレジンならば、手軽に形態修正や研磨をし、もう一回光で硬めてやるということで解決しますからね。
増原 そういう面では操作性が非常に良くなりますね。
熱田 私は昔から歯冠補綴にレジンを使わせてもらっていますが、いつも問題になることは、まず一番に摩耗、次に変色、そして生体に対する為害性ですが、新しいエステニアは、これらをすべてクリアしているようですね。
増原 そうです。それからもう一つ大事な問題は、今までのようにメタルで作ると、どうしてもメタルは長持ちしますから、歯のほうが先にまいってしまうわけです。そうではなくて、歯の寿命を延ばすには、上の修復物がダメになったら、それを容易にやり替える。10年おきぐらいでやり替えてでもいいから、歯を大事に長持ちさせるという意識に変わらなきゃいけないと思うんですが。
熱田 補綴でそういう話になるといつも言われるのは、補綴の場合は非常に技術的な要素が入るというか、製品にムラがあるということです。 ですから、最初から5年持てばいいなんていうつもりで歯医者さんがつくったら、2年も持たないでダメになるだろうという、そういうファクターは確かにあると思うんですね。
柏田 私は接着材を初めとする今の技術をある程度信じています。で、私は患者さんに10年補償しているんです。患者さんにお金を出していただくわけですからね。すぐに壊れるのは患者の不信をかいますから。歯科治療の全てにわたってとハイレベルになってこないと、やはり歯は長く持たないというふうに思います。
熱田 優れた材料を使っても、口腔内全体の状況も見ないといけないし、その材料に適した使い方や形成の仕方もありますからね。
熱田 今の段階でプラスチックだけ、あるいはポーセレンだけでやれるのは限られた症例だということですから、その限られた症例、例えば今まで小臼歯までだったのが、今度はそれを大臼歯に広げていこうということになってくるわけです。その方向では私はいいと思うんですよ。現状では、やはり金属がないと治療できない部分も結構あるんですね。
増原 それは確かです。それが今までの常識なんですが、新材料が出て、それが時代とともに使いこなされて、新しい常識になるんじゃないかと思うんです。その変化があってこそ進歩がありますからね。
柏田 もう一つ、今の常識というのは、現在の人たちの悪い口腔内状態がこれから何世代も続くかというと、これだけ予防が進んでくると、私はもうなくなってくると思うんです。だから、これからは大きな補綴治療はできるだけ少なくしていかなければいけないと思っているんです。
増原 私は補綴とか保存の区別はいらないと思っているんです。新しい歯冠修復時代でいくべきですよ。それも早くから予防していくということが前提ですね。戦後のクラウンブリッジのやり方がエナメル質の過剰削除につながり、歯の寿命を短くしてきたという反省は日本でも必要だろうと思うんですね。今は、まさにそういう意味での転換期だと思いますので、先生方のこれからのご指導を大いに期待しています。
本日は貴重なご意見をいただきまして、ありがとうございました。