デンタルマガジン91号対談(1997年11月20日発行)
効率的な歯周検査器
の開発と臨床応用
増原 英一 総合歯科医療研究所所長
北海道大学歯学部教授
近年、我が国では高齢社会が進み、歯科医療においても、高齢者対応の診療とともに、そこに至るまでの若年者の早期治療をいかに充実させるかが重要な問題となっている。中でも、今後の歯科医療における最も大きな課題の一つとして、歯周治療の占める割合が大きい。21世紀を目前にして、80歳で20本の歯を残す「8020運動」を実現するためにも、歯周病の克服は必要不可欠なことであると思われる。この度、歯周病の簡便な計測と記録を可能にした歯周検査器「プロービーIII」が開発、上市された。これは、歯周ポケット深さの測定、歯の動揺度、プラーク付着状態の記録などを術者一人で簡単にスピーディに行えるうえ、歯周検査チャートを高速プリントアウトすることにより診療記録も得られる効率的な装置である。そこで今回は、歯周病治療の臨床研究に長年にわたって携わってこられた北海道大学歯学部教授・加藤 熈先生をお迎えし、歯周病治療とその診断の重要性、また「プロービーIII」の臨床応用について報告してこられた貴重なご意見をお伺いした。
増原 今日はお忙しいところをご出席いただきまして、ありがとうございます。
加藤先生は以前から歯周病について色々研究なさっているわけですが、今回新しい歯周検査器「プロービーIII」が発売されましたので、それについて先生が研究されてきたことを一般の臨床の先生方に聞かせていただきたいと思っています。私は、これからの歯科治療は早期治療とか予防とかを目指す方向、つまり若い人に対する診断、治療という分野と高齢者に対する治療処置という専門分野の二極化が進んでいくと思うんです。しかし、特に歯周病に対する取り組みは生涯を通じて重要な問題になってくると思っています。そこで最初に、歯周病治療で診査や診断がいかに重要か、というお話から始めていただきたいと思います。
加藤 一般に歯科治療の欠点として、診査のところを簡単に済ませて、すぐに治療に入ってしまうということがあります。歯周病についても、詳しい診査なしに、また記録をほとんどとらないで治療にすぐ入ってしまいがちです。診査だけで患者を帰すという考えが一般的になっていないというか、患者に悪いのではないかということで、最初からスケーリングなどの治療をしてしまうということですね。医科と同様に最初は診査だけで、治療計画を立ててから治療スタートというふうに、あるいは患者によく説明をしてからスタートする、というようなシステムに切り換える必要があると思っています。
増原 おっしゃる通りで、医科では、CTやMRIなどの検査機器が進歩してきましたが、歯科のほうはその点ではまだまだ遅れていますね。今まではもっぱらレントゲンに頼っていたのですが、今回開発されたプロービーIIIなどは、一つのきっかけになるのではないかと思うんですね。
加藤 そうですね。レントゲン写真とプロービーIIIのデータとをうまく組み合わせて診断し、治療計画を立てるというような形にしていく必要があると思います。初診だけじゃなくて、治療途中においても何回かこの診断装置を使って、術前・術後を比較することが望ましいですね。
増原 そういうことがとても必要なんですが、歯科では記録に残すということはあまりしていないんですね。そういう検査器もありませんでしたし。そういう点で、プロービーIIIは非常に魅力的な面白い装置だと思っているわけです。そこで、今、歯周病の診断システムはどういうふうになっているんですか。
インフォームドコンセントに
役立つ検査チャート
加藤 歯周病の診査の場合、まず歯周病がどのぐらい進んでいるか、破壊の程度みたいなものをまず診断します。そして次に、その原因を調べるという、二つのステップがあります。破壊の程度のほうはレントゲンで骨の状態を見る。それからプロービングでポケットの深さを調べる。さらに動揺度も調べ、この3本立てでかなり破壊の状態がわかります。 次に原因のほうは、レントゲンなどでも原因がある程度は解析できるんですが、特にプラークの様子を記録することでよくわかります。この記録を残すという意味でも、プロービーIIIはとても能率よく行えます。
増原 総合的に診るということを考えると、非常に役立ちそうですね。
加藤 1枚のチャートに破壊の程度と原因が一緒に記録されますので、これとレントゲンがあると歯周病の診断はかなり正確に行えます。どうしても難しい所(根分岐部病変など)は、もう一回手で測って記録紙に書き込むことによって、精密な検査ができると思っています。
増原 今おっしゃったように、このプロービーIIIで検査したデータを基礎にして、それを使ってドクターは患者さんに対して、歯周病のインフォームドコンセントがきちっとできるようになるわけですね。
加藤 インフォームドコンセントには大変役立ちますから、プロービーIIIを使う以上は、ぜひ有効に使ってほしいですね。今までは「ただ悪いですよ」という程度で、患者さんはどの程度悪いのかもわからないわけですから、プロービーIIIのデータを見せるというのは非常に有効です。
増原 それで、プロービーIIIを使って実際に診査する際、忙しいドクターよりも、むしろ衛生士さんにこの装置の使い方や機能を熟知してもらって、診査は衛生士さんに任せれば、という気がするのですが。
衛生士が診査し
ドクターが診断する
加藤 日常の臨床では、医科のほうも先生が自分で検査を直接行っている分野は少ないと思うのですが、歯科のほうも能率化するために、まずはよく訓練した衛生士さんに診査の補助をしてもらって、その後、ドクターが記録紙を見て、レントゲンを加味して、診断するというのがいいと思います。ドクターはデータがおかしい部分に気づくことが大切で、この場合、ドクターがもう一度診査する必要があるという意味からも、訓練期間、とくに卒後研修の時代は自分でやってみる必要はあると思います。しかし、そういう訓練が終わったドクターはむしろ読む力、診断する力を訓練していただいて、実際は衛生士さんにプロービーIIIを使ってもらうと日常の診療では非常に有効だと思います。そういう意味で、衛生士さんの訓練を毎日少しずつ行えば、すぐに能率よく、上手に使えるようになると思います。私共のデータでは大体5回使うと、ベテランの人とかなり近い計測速度になるという結果が出ています。どんな器械でも、毎日使っている人のほうが早く上手になりますから、練習していただくことが大事だと思います。
増原 それは非常に大事なところですね。機能も使い方もわからない状態で使って、うまくいかないと言って投げられても困るわけですね。そこで、この装置の特徴を先生からお話しいただきたいんですが。
加藤 まずはポケットの測定ですが、測るのは手の感覚が非常に大事です。つまり根面を触った感覚というのが大事だと思うんです。プロービーIIIはポケットの中にまず探針を自分の手で挿入して、それから電気的に長さを記録するシステムになっていますので、プロービングといっても深さだけじゃなく根面のザラザラしている感じとか、あるいは根面に溝があるとかも慣れてくればかなり診断できます。測定後に、必要な事項のメモを入れるということで、かなりレベルが高い診断ができると思います。それから保険適用としては1点計測と4点計測と6点計測を最初の段階で選んでおくと、自分で必要なレベルに応じて切り替えができます。その点が非常に便利だと思います。
増原 そこは大事なところですね。それから、プラークの付き方とか、出血のある、なしとか、そういった問題についてはどうですか。
加藤 プラークは基本的には視診というか、染め出してみてフートペダルでデータを入力することで、記録紙に記録されます。出血もプロービングのデータとともに記録できるようになっています。それともう一つは、高齢者になると欠損歯が多くなりますが、ミスがないように欠損歯を飛ばして記録されます。まず欠損歯を一番最初に調べてインプットするわけです。そうするとプロービング時自動的にそこは飛ばして、ちゃんと記録され、さらに現在どの歯を測ってますよと掲示されますので、非常に便利です。ですから、2人分の仕事を1人でやるというか、普通は測定をする人と記録する人と2人必要なわけですが、プロービーIIIだと1人で診査から記録までできます。また、時間的にも短縮されて、従来の3分の2程度の時間で済みます。
増原 診療所の能率が上がり人件費節約にもなりますね。こういう器械が出た機会にもう少し衛生士さんの協力を得て、診療能率を上げることも考えなければいけないですね。
加藤 いい診療をするためにも、訓練をして、衛生士さんのレベルを上げる。ドクターのほうも、保険で必要だから記録するのではなく、データを読むクセをつける必要があると思います。患者さんにデータを読んで説明することは、非常に有効ではないかと思います。
増原 そうですね。こういう新しい装置は使いこなすということが非常に大事ですからね。ところで、歯の動揺度の問題ですが、これは今のところはまだ目視ですか。
加藤 私も動揺度の研究を行っていますが、客観性の高い測定を行うにはどうしても時間がかかります。将来は器械を使って、例えば打診に対する歯の振動を記録し、歯根膜の様子等も含めたデータをプロービーIIIに組み込むという時代も来るかもしれないですが、日常の臨床では手指の感覚と視診で判定しています。プロービーIIIは一応保険対応ということで、手指で測定した動揺度をタッチパネルのスイッチで入力するシステムになっています。
記録したデータを治療に反映する
増原 次に、プロービーIIIは検査と共に、その結果をプリントアウトすることによって記録できるということが大きなメリットのようですが。
加藤 はい。必ず記録が残ります。つい我々は面倒くさくて、測ったけれども、カルテに細かいデータを書かないで終わってしまう。歯周病の臨床ではデータを記録して、それを見て、次の治療を考えることが大事なんですね。今までの歯周治療に限界があるのは、歯周組織が治療によりどういうふうに変化してきたのかのデータがなく、比較できなかったことが大きいんですよ。
増原 歯周病の進行度合いというのは、1ヵ月とかに1回ずつ測っていかなければいけないわけでしょう。
加藤 そうですね。一応初診で診査して、ある程度重症ならレントゲンを撮って、組み合わせて診断し、治療計画を立てて、治療をスタートします。基本的な治療をやっている途中、1ヵ月1回ぐらいは少なくとも簡単な診査を行って、一通りルートプレーニングまで終わったら、もう一度精密検査を行う。私のところは6点計測をやっていますが、問題があるところを次に手術するとか、もう一度ルートプレーニングするとか、適切な対処ができるわけですね。すなわち、どこが悪いかということがよくわかるので、そこの治療を繰り返し行うとかなり改善します。それが今まではデータを取っていないから、どこが本当に悪いところかわからないですし、一通りスケーリングやルートプレーニングをやったら終わりにしてしまう、そしてまた患者が腫れてきたら、あっ、そこが悪かったんだな、ということであわてて切開をするだけですから、つい手遅れになってしまうんですね。
増原 進行を抑制する方法ですね。それが患者にとっては非常に有難いことになりますが。
加藤 プロービーIIIの診査データを活用して、ここは危ないなという所を早めに処置する。そういうことを一般歯科医がみんなでやると、抜歯はずっと減るだろうと思います。
増原 それは素晴しいことすね。ただ、その場合、診査は定期的に受けないとだめでしょうね。
加藤 定期的に来院して適切な処置を行えばポケットが残っている場所も進行が止まって、10年も20年も機能します。患者さんも医者に行く時は診査されるのは当たり前だと思っていますが、何か歯医者さんに行った場合はあまり診査されたことがないので、診査されると逆に変な顔をする患者さんもいるんですよ。患者さんも、例えば診査だけ受けに行くぐらいで歯医者さんに行くようになれば、予防がすごく発達するのではないかと思います。
増原 ただ、時間がかかりますよね。
加藤 ですから、ある程度軽度の人は少ない負担で短時間で検査ができる。重度の人にはもう少しいろいろ詳しくというような形で、歯周病の検査も何段階かに分け、グレードに応じて行う。場合によっては細菌の検査をするとか、より精密な検査も必要になりますね。
これからの歯科診療に
必要な診断機器
増原 そこで、これからの歯周病診断の問題点を具体的に考えた時、細菌の検査も含めて、どういうことが必要になってくるでしょうか。
加藤 そうですね。細菌の検査は医科と一緒になって進歩してきてまして、DNAプローブなどで簡単に調べられるようになりつつありますが、病状が進むとポケットが深く、試料を採る場所も口の中にたくさんあるので、実際的にはなかなか難しいところもあります。もう一つは、どうしてもポケットが治らないところは細菌的な問題もありますが、根面がいろいろな複雑な形をしている、あるいは歯石が場所によって残っているなどの問題があります。そういうものを手術ではなく内視鏡を使って診断できたら、相当有効で無駄な手術もなくなるだろうと思います。診断装置として、今後そういうものを開発することが非常に重要になってくると思っています。
増原 それは非常に重要ですね。例えば仮に臼歯部の根の分岐部などに病巣があるときの治療はどういうふうになるんですか。
加藤 そこを内視鏡で見て、分岐部のところにまだ歯石や汚染しているセメント質が残っていることを診断する。そうしたら、そこへ器具を挿入してきれいにするだけで治るとか、手術が必要とか、GTR法が可能だとか、そういうことが診断できたら相当違うと思いますね。これらの診断により、今までは抜歯だった歯もかなり保存可能になります。歯周病の診断のみでなく、歯根が割れた場合やヒビが入っているのを内視鏡で見ることができれば、歯の保存率も高くなるのではないでしょうか。
増原 これから歯科の診断に必要だと思っておられる器械で、他に何かあれば教えてもらいたいんですが。
加藤 歯科の診断では咬合性外傷も重要なファクターになっていますので、夜中の歯ぎしりをやっているかどうかを診断できる装置ですね。
私は、患者さんが夜中に自分で装置を付けて、筋活動などを自宅で記録し診断する装置を工夫しているんですが、もう一歩というところです。現代人は色々なストレスが多くなって歯ぎしりが増える傾向が強いです。それによって歯周病が進んだり、顎関節症になったり、歯が破折したり、細菌による破壊と同様に、きわめて重要なリスクファクターになる可能性が高いのではないでしょうか。
増原 そうですね。特にインプラントなども歯ぎしりのためにだめになるケースがありますからね。
加藤 そうなんです。歯ぎしりがあるとインプラントはできないと言っていますからね。ですから、そういうものを予防あるいはどの程度あるか最初に診断して、強い人には適切な対処や歯ぎしりを減らす対策をしてから治療を進めるということも、これからの歯科の重要なテーマになるのではないかなと思っています。
増原 最近新しく、色々高分子関係の新材料が出ておりますし、そういったことも絡めて、新しい歯周病の治療方法なども考えなきゃいけないんですね。
加藤 そうですね。咬合と歯冠修復と歯周病との関係も一緒にずーっと見ていかないと、細菌に対する治療だけで歯周病の治療の問題がすべて解決するわけではないですからね。
増原 私の見通しでは、歯冠修復は、高分子材料の進歩で割合早く解決できる時代になってくると思うんですが、歯周病が一番難しい問題として残るのではないかと思うんです。
加藤 そうですね。だんだん高齢社会も進みますし、やはり年齢というのがかなり歯周病のリスク・ファクターとして大きいですからね。
増原 そういう意味で、このプロービーIIIの登場は第一歩ですね。
加藤 そうですね。これからですよ。さらに改良して使いやすくしたり、ほかのデータも組み込めるようになればすごくいいと思います。
増原 先生にぜひご指導いただきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
今日は色々有益なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。