以上に加え、『THE MASK』では、スマイルラインおよびスマイル時の歯と歯肉の露出度で構成されるリップ(口唇)関連の情報も合わせて提供できるようになっている。船木,樺山(1997)の分類統計によると、スマイルラインは4種類に分類され、それぞれの好感度と発現率は、図2に示す通りである。『THE MASK』ではこれらのうち、好感度と発現率を総合判定して分類Bの形状を採用している。またスマイル時の歯と歯肉の露出度は3種類に分類され、それぞれの好感度と発現率は図3に示す通りである。『THE MASK』では3種類すべての露出状況が再現できる。これらは、『THE MASK』における機能と審美の融合というコンセプトをさらに補完するものである(図2) (図3) 。
開発した『THE MASK』の特徴を列挙すると次の通りである。
1)メジャリング・フレームを患者の正中及び両瞳孔線に合わせるだけで確実に顔貌の傾きを咬合器へトランスファできる。
2)ワンロック・ジョイントにより、簡便にフェイスボウ・トランスファが行なえる。
3)リップを用いれば、患者の歯肉と歯の見えかたをラボヘ伝達できる。
4)スタディモデルをトランスファすれば患者への術前説明にも非常に有効である。
5)基本セットではツインホビー及び、デンタルホビーFFに対応する。
6)ホビーL用トランスファーテーブル(別売品)を用いればパナホビーL、デンタルホビーLにも対応する。
『THE MASK』の構成パーツを写真で示す。
・チェアーサイドセット
■チェアーサイド
写真1 前方基準点の印記:
フェイスボウ・トラスファに先立ち、上顎右側中切歯切縁から上方43mmの位置に前方基準点を印記する。
写真2 フェイスボウの取り付け:
バイトフォークにモデリングコンパウンドを巻き付け、50℃前後の湯に浸けて軟化した後、口腔内で軽く噛ませて上顎歯列の圧痕を印記する。その後にバイトフォークを口腔外に取り出しモデリングコンパウンドを水冷し硬化させる。フェイスボウ弓部にUPが上になるようにトラスファーポストを連結し、イヤピースを患者の外聴道に挿入し固定する。
写真3ワンロック・ジョイントの連結:
バイトフォークの柄の切り込みにワンロット・ジョイントのバイトフォーク固定ネジを連結する。
写真4ワンロック・ジョイントの固定:
リファレンス・ポインタの先端を前方基準点に合わせた状態でワンロック・ジョイントのスクィーザを締め込む。
写真5メジャリング・フレームの調節−(1):
メジャリング・フレームの上下調節ネジ(シルバー)を緩め、患者の正面から見た時に水平線が患者の両瞳孔とほぼ同じ高さになるように固定する。
写真6メジャリング・フレームの調節−(2):
メジャリング・フレームの左右傾斜調節ネジ(ゴールド)を緩め、患者の正面より患者の両瞳孔及び顔貌の正中に重なるように水平線及び垂直線を調節しロックする。この時、患者の正面から操作し、顔貌と同じ高さに術者の目の高さがくるように留意する。左右瞳孔を水平線に合わせると正中が傾く場合は、正中を優先させる方が審美的な補綴物が得られ易い。
写真7フェイスボウの撤去:
全てのネジがロックされたら、顆頭間距離調節用のネジ(上部−白色)を緩めてアームを左右に広げフェイスボウを撤去する。
写真8 ラボへの伝達−(1):
固定ネジ(シルバー)を緩め、トランスファーポストからフェイスボウの弓部を分離する。
写真9 ラボへの伝達−(2):
トランスファーポストの上部ネジ(シルバー)を緩めメジャリング・フレームを取り外す。この時、ゴールドのネジ部は触らないように注意する。
写真10 ラボへの伝達−(3):
このトランスファーポストにトランスバース ホリゾンタル アキシス、水平基準面、正中の傾き、咬合平面など全ての情報がインプットされている。技工室へ情報を伝達するには、この部分だけを送付すればよい。
■ラボサイド
写真11 患者情報のインプット−(1):
咬合器からインサイザル・ポール、インサイザル・テーブルを撤去し、トランスファーテーブルに差し替える。
写真12 患者情報のインプット−(2):
下顎フレームのマウンティング・リング用の後方のボスの上にバーチカル・ストッパーをセットする。
写真13 患者情報のインプット−(3):
咬合器の上顎フレームを開けた状態に保ったまま、トランスファーテーブルの最下部のネジにトランスファーポストを連結する。
写真14 患者情報のインプット−(4):
バイトフォークの下にキャストサポートを介在させて上顎模型をバイトフォークの圧痕に噛み込ませる。
写真15 患者情報のインプット−(5):
正中の傾きを咬合器に入力するためにマスク固定ピンをスリーブに連結し、根元まで納まった位置でネジ留めする。
写真16 患者情報のインプット−(6):
トランスファーポストのメジャリング・フレームが連結してあった最上部に、スリーブの根元をピッタリと適合させネジ留めする。この時、上顎模型の基底部に固定ピン維持部が接触する場合は模型をトリミングする。
写真17 患者情報のインプット−(7):
これで上顎模型のマウントの準備が完了した。マスク固定ピンの維持部がどこにも接触していないことを確認する。
写真18 患者情報のインプット−(8):
石膏を練和し上顎模型とマスク固定ピンを同時に固着する。
写真19 患者情報のインプット−(9):
上顎フレームをバーチカル・ストッパーに接触するまで閉じこみ、石膏の硬化を待つ。
写真20 患者情報のインプット−(10):
石膏が硬化したら、トランスファーポストのスリーブ固定用ネジを緩めてバイトフォーク、及びトランスファーテーブルを撤去する。スリーブも緩めて抜きとる。外しておいたインサイザル・ポールとインサイザル・テーブルをもとに戻す。
写真21 通法に従って下顎模型をマウントする。
写真22 補綴物の咬合面を形成する時は咬合器に機能運動を行なわせ、それに良く調和するように配慮する
写真23 審美的な部分(正中及び咬合平面等)を付与する際はインサイザル・ポールを一時撤去する。なお、ツインホビー及びデンタルホビーFF咬合器にはストッパーがついているので、この状態でもバーチカルは復位できるから心配はいらない。
写真24 アーティキュレータ・ベース(咬合器置台)を用いると作業机に座った状態で審美性の確認が出来る。
写真25 マスクのセット(1):
マスクの内側にはマスク固定ピンに適合するスリーブが埋め込まれている。
写真26 マスクのセット(2):
上顎模型の前上方に埋め込まれているマスク固定ピンに、マスク内側のスリーブを適合させる。
写真27 マスクの効用:
わずか1〜2°の正中の傾きでも、長いスパンで表現されるので確実な修正が可能となる。
写真28 リップの効用:
付属のリップを用いスマイル時の歯牙、歯肉の露出状態を再現する。これにより患者の顔貌に近似した状態がラボサイドで確認できる。
以上の説明から明らかなように、『THE MASK』を導入することにより、咬合関係の機能の再現は従来通りに行う一方で、患者の正中および咬合平面など審美的に重要な患者の顔貌データを参考にしつつ、正中面と調和するように補綴物を製作することが可能となった。
これにより補綴物製作を担当する技工士とこれを患者の口腔内に装着する歯科医との間に起こり得るトラブルの発生を未然に防止することができる。
トランスバース ホリゾンタルアキシスの伝達に関しては、通法のフェイスボウ・トランスファ術式を遵守しているので機能面でのエラーは発生しない。これにより審美と機能の両立をはかることができる。さらに作業中各パーツの着脱がワンロック・ジョイントなどによりきわめて容易に行えることもこのシステムの比類ない特徴であろう。コンサルテーションを行なう時に、スタディモデルないしファイナル シミュレーションモデルを咬合器に装着し、マスクおよびリップをセットした状態でデモンストレーションすれば、患者の理解が深まることは云うまでもない。
審美と機能の両立は患者、歯科医、技工士にとって切なる希求であり、時代の潮流といえる。『THE MASK』はまさに21世紀に向けて開発された審美と機能の両立を図るためのフェイスボウ・システムといえよう。