デンタルマガジン94号対談(1998年10月1日発行)


歯科医療新時代への好発進
パナビア フルオロセメントの登場と効用


増原 英一 総合歯科医療研究所所長
柏田 聰明 東京都開業



近年、わが国では高齢化の進行に伴い、歯の健康をいかに長期間にわたって維持し続けるかが重要な課題となっている。「8020運動」を実現するためにも、若年期からの予防と、治療歯の2次齲蝕の抑制は、これからの歯科医療にとって必要不可欠なものであろう。最近では、接着材の進歩により、歯質と修復物の一体化は一段と向上しているが、一方で、フッ素による歯質強化と2次齲蝕の抑制の重要性も言われている。この度、クラレ社から上市された接着性レジンセメント「パナビア フルオロセメント」は、従来のパナビア21で証明された接着機能をより向上させると共に、フッ素徐放性とデュアルキュア機能をもたせることにより、2次齲蝕の発生を最小限に阻止する治療の実現を可能にしている。今回は長年にわたって歯科修復治療の分野で常に新しい試みをされてきた柏田聰明先生をお迎えし、「パナビア フルオロセメント」の特徴と臨床応用について、明るい見通しをお伺いした。

増原 今日は、お忙しいところをご出席いただきまして、ありがとうございます。ご承知のように、齲蝕予防にフッ素の効果を応用した製品として、以前からクラレではフッ素徐放性の「ティースメイトF」がありましたが、これは樹脂そのものが柔らかく、セメントとしては使いにくい面がありました。今回新たに開発された「パナビア フルオロセメント」は、全く新しいフッ素徐放性の接着性レジンセメントです。この新材料の性能について、また正しい使い方について、柏田先生から詳しくお話しいただきたいと思っています。  実は今まで接着性セメントにフッ素化合物をプラスすることが難しかったのですが、「パナビア フルオロセメント」は本格的なフッ素徐放性の接着性レジンセメントとして新開発されたわけです。そこで、これの臨床テストを実施してこられました柏田先生から、直接にどんな効果があるのか、お聞きしたいのですが。



確実な封鎖とフッ素の効果で
2次カリエスを防ぐ



柏田 増原先生が最初に接着ということを考えられてから、ここ十何年、接着材は飛躍的に発達して、素晴らしく良くなったと思うのですが、どんなに優れた接着材を使っていても、必ずしも確実に2次齲蝕が防げるというところまでは、まだ到達していないのが現状だと思います。2次齲蝕を防ぐためには、接着性材料で確実な封鎖をするということが大前提ですが、実際の臨床の場では唾液や血液などの汚染によって接着力や耐久性が損なわれる等の色々な問題が出てくると思うんです。  そんな時、フッ素を含有していて徐放するセメントがあれば、かなり有効なんだ、ということなんですね。今まで、封鎖がきちっとできた上にフッ素を徐放するというものはなかったと思います。だから、これはもう世界に誇れると言ってもいいぐらい、素晴らしいのではないかなと、私は思っています。

増原 それは素晴らしいことですね。それで、先生はどういうふうに研究を進められたのですか。

柏田 歯の表面を削った象牙質にフルオロセメントでレジン片を合着します。8カ月おきまして、どのぐらい歯質中にフッ素が取り込まれているのか、そして、取り込まれたフッ素が本当に耐酸性層をつくって、酸に溶けないのかどうかという実験をしました。特にその場合に、ADゲル法と言っていますが、エッチングして、スミヤー層を取って、さらに次亜塩素酸ナトリウムで有機質を溶かすような象牙質表面処理方法をやりますと、フルオロセメントのレジンタグが歯質の中に入ります。そのレジンタグからもフッ素が徐放するという形でフッ素が取り込まれて、耐酸性層ができるというわけで、期待していた以上の結果を得ました。

増原 フッ素徐放性セメントについては、今までグラスアイオノマーセメントやコンポマー等に頼っていたわけですが、今度、クラレでは新しいメカニズムで特殊処理を施したフッ化ナトリウムを配合されたため、フッ素がかなりよく出てくるような組成のものができたと聞いていますが。

柏田 合着時の問題として、フッ素徐放のことだけ考えるならば、今までグラスアイオノマーセメントがいいと言われてきたんですが、アメリカやヨーロッパの研究では、グラスアイオノマーを使用してもマージン部から2次カリエスになることがあるということが言われています。私はそれは当然のことだと思うんです。それは、封鎖をきちっとした上で徐放性フッ素が出なければダメなのに、確実にシールができないで、フッ素だけを徐放しても、確実に2次カリエスを防ぐのは無理だと思うんです。

増原 そうなんですね。確実にシールすることが第一要件ですからね。

柏田 フルオロセメントではかなり確実にシールすることができますから、まずきちっとした接着で細菌が入ってこないように防御する。次に万が一細菌が入ってきても、今度はフッ素が徐放されてフルオロアパタイトをつくって歯質を守るというような二重の防御機構が必要だと思うんです。

増原 一度治療した歯は二度とカリエスを再発しないような治療ができるようになるわけですね。

柏田 ええ。正に先生が以前から言われていたことが、今、現実になってきたと思うんです。ですから、そういう面ではフルオロセメントというのは、パナビアを一新したと言っていいぐらい変わったと私は考えております。

増原 パナビアの接着性は素晴しいものですが、今回のフルオロセメントはデュアルキュアにしたことによって、接着性能はどう変化しましたか。



デュアルキュアで
マージンを確実に封鎖



柏田 パナビア本来の接着性や理工学的性質はそのまま維持されていますし、マージンの封鎖性などはデュアルキュア型になったことによって、より確実になりました。高感度光重合触媒を採用しているため、光照射によってマージンがシャープに硬化しますし、光の届きにくい場所でも化学重合で確実に硬化しますから安心ですね。

増原 いつの時代でも、虫歯予防というのは非常に大きなテーマです。ドイツでは、18歳までは健康保険の診療の中に虫歯予防とフッ素処理が入っていますが、18歳以後にカリエスができたり、あるいは歯を失っても政府は保証してくれなくなったんです。つまり、18歳以後は自分でセルフケアしなさい、という時代になってきたんです。そういう意味で、先生がおっしゃるように、フッ素徐放性のいい接着性セメントができたということで、フッ素できちっと齲オ予防ができるようになるということは非常に大きな進歩になるわけですね。21世紀への好発進になると思います。

柏田 ええ。日本の統計でも、成人になってから冠を入れている人の耐用年数を見ても、相変わらず今の保険制度でやって10年未満、良くて7〜8年ぐらいが平均的なものだと思うんです。そういう面から考えていくと、これからはほとんど外れない、万一外れても、今までのように歯が2次カリエスでダメにならない、というような治療をしなければなりませんね。

増原 つまり、歯のほうに耐酸性を確実に付与しておくということですね。

柏田 お年寄りになって、高血圧のクスリ等を飲んだりしますと、副作用で唾液が出なくなってくる。そうすると、再石灰化がなかなかできなくなってくる。ですから、今後は老人性の根面カリエスというのは圧倒的に増えてくるということが考えられるんです。そういう場合にも、歯の表面の有機質をADゲルで確実に取って、EDプライマーを塗って、ティースメイトF-1でコーティングしますと、耐酸性層が確実にできるんだということがはっきりしてきました。最近の稲葉先生の研究ですと、次亜塩素酸ナトリウム10%で2分間歯の表面処理をするだけで、唾液の中のカルシウムとリン酸イオンによって再石灰化が向上する。そのときにフッ素が微量にでもあると、さらに再石灰化が向上すると報告しています。もう一歩進めて、根面にフッ素徐放性レジンのコーティング層をつくり、さらに、その上の歯冠部を形成し、フルオロセメントでインレーやクラウンを合着すると、歯質全面をフッ素徐放性レジンでコーティングすることになり、まず2次カリエスは起こらないのではないかなと思います。

増原 そうすると理想的な形でフッ素が使えるというわけですね。

柏田 成人の場合、フッ素含有の材料でうがいしたり、塗ったり、あとは錠剤を飲んだり、歯みがきに使ったりということがありますが、安定してフッ素が入るとは限らないようです。ですから、本当にこういう二重、三重の防御機構があるようなもので再発予防を考えていきますと、増原先生が「8020」のために接着をと前から言われていたんですが、これが本当に生きてくる時代が来たと私は思っています。

増原 そうですね。私も以前からフッ素による洗口法とか、あるいは塗布ということを実験した経験がありますが、この方法は最初はいいんですが、すぐそれが元へ戻ってしまうわけです。フッ素は長期的に作用しなければ、本当にエナメルもデンティンもフッ素化されないですから、そういう意味ではやはりフッ素徐放性セメントが一番有効だということになりますね。

柏田 そうですね。特にいま日本では、水道水にフッ素を入れられませんから、歯を耐酸性にするという意味においてはフッ素入りの接着材がその役目を多少なりとも果たしていくのではないかなと思っているんです。私たちが修復治療をする時、全て再発しないようにやっているのに、現実は再発が多いということは、やはりどこか今までの治療法に問題があったと思うんです。ですから今後の方向として、ひとつは、口腔内環境を整えるために細菌をターゲットにして発症しないよう予防・管理する。もうひとつは、外から細菌が入らないように封鎖すること、積極的にフッ素を利用して酸が来ても大丈夫なんだという歯にしてしまうという、2つの方法を一緒に進めてゆく治療ができるようになってきたと思うんです。

増原 それが今度いよいよ可能になったということで、非常に大きな進歩になるだろうと思います。ところで先生は、このフルオロセメントを実際の臨床ではこういう使い方、あるいはこういうことに使いたいという、いろいろな夢をお持ちだと思うんですが。



あらゆる症例に応用可能な
接着性セメント



柏田 ほとんどの症例に使えますが、接着性セメントとしての理工学的な性質から考えますと、私共では8年間に4,800症例位のメタルフリーのポーセレンインレー、ポーセレンジャケット、最近では「エステニア」を使用していますが、割れた症例というのはごくまれです。そういうことになってきますと、フルオロセメントはパナビア21の特性にデュアルキュアとフッ素というものが加味されたわけですから、接着ではすべての面で使えるのではないかというような感じを持っています。

増原 先生の診療所では補綴物はすべてメタルフリーですか。

柏田 はい。ブリッジ以外は金属を使うということは避けていくべきだと思っています。メタルフリーだから割れるなどということはちょっと考えられないです。形成などに注意は必要ですが、ほとんど破折などの問題が極端に少なくなったと言っていいと思うんです。

増原 次はオールプラスチックス時代をつくり出していかなければいけないですね。

柏田  これからの時代はメタルフリーにしていかなければいけないと思います。口の中に色とりどりの金属が入っているというのは、溶けだすし、やはりいいことではないと思います。私共では、補綴物はほとんどのものを10年間保証していますが、まず割れたとか、欠けたのはまれです。

増原 7月12日に日本接着歯学会のシンポジウムで、支台築造法の技術改革をしなければいけないという問題がありました。私もメタルポストを入れてあった継続歯の根が片っ端から割れて、自分自身の歯を失った苦い経験を持っていますから切実です。これからフルオロセメントを利用して、もっと安全になることを期待したいですね。

柏田  大臼歯だと金属ポストとコアレジンの分割築造で、それをパナビア21でくっつけてきました。そうすると、歯の動きを吸収するというか、動きをレジンが吸収する形になります。レジンのほうが柔らかいですから、歯が割れないんです。増原先生も昔からメタルポストをセメントで固定するのはよくないとおっしゃっていたけれども、まさに先生の言われるとおりに実現してきたように思います。

増原 特に食べ物を食べているときに衝撃で割れますから、そういう意味では衝撃を吸収緩和する材料というのは非常に重要なんです。そういう考え方をこれからもっと導入しなければいけないですね。

柏田  ですから、築造体の考え方が、今までのリン酸亜鉛セメントでやってきた嵌合力を使ってやるという考え方や、築造体を接着するだけの考え方はもうダメだと思います。

増原 それから、シンポジウムのとき、柏田先生のADゲルの効果が非常に強調されていたんです。要するに象牙質の中に細かくレジンが入り込んでいますから、非常に有効だという話が出ていたんですが、ADゲルを使った後、フルオロセメントを使うと、象牙質のフッ素化が進むようですね。

柏田  小玉先生が報告していますが、有機質をとってアパタイトだけになった象牙質の中に打ち込まれたレジンは、アパタイトに0.5μmぐらいの樹脂含浸層をつくる。そのため、接着力が飛躍的に向上しますし、打ち込まれたレジンからフッ素が歯質の中に入りやすくなりますから、フルオロセメントの効果というのは抜群に良くなってくるのではないかなと思うんです。

増原 歯髄刺激についてはいかがですか。

柏田  10年ぐらい前にレジンで直接覆髄ということを発表したときには受け入れられなかったんですが、今はほとんど世界的にも、レジンに歯髄刺激性はないという考え方に大体一致してきたように思うんです。それは今度の新しいフルオロセメントでも同じです。

増原 それから、デュアルキュア型になったことで、使用上の変化はありませんか。光照射すると接着面から固まりますから、接着性の向上が大きい効果ですね。

柏田  はい。光重合でシャープに硬化しますし、オキシガード処理を省略できますから、マージン部がガチッと硬化するようになりましたし、操作時間も短縮されました。セメントが変わってしまったのではないかと思うぐらい、非常に良くなったと思います。



デュアルキュアとフッ素徐放で
歯質の変色を抑制する



増原 それと、フルオロセメントを使う場合に、従来、例えばインレーでも、クラウンでも、辺縁にセメントが出ますね。そのときに、歯との色調の適合性ということが言われるんですが、その点はいかがですか。

柏田  そうですね。色調は、前のパナビア21のときにはちょっと出しづらかったですが、今度は、例えばブラウン色を使用することにより、歯と補綴物の境目もきれいに仕上がります。  また、シャープに硬化する上に、タグが打ち込まれていますから、シールが確実にできます。さらにフッ素が出ますから、歯質の色も変わっていかないんです。前歯のところで、歯肉が下がったところの歯の色の変色がかなり抑えられるということに、つい先日気がついたんです。  私はマージンはADゲル法でやるんですが、そうすると、その中にタグが打ち込まれますね。タグが入って接着した場合にはシールが確実なんです。実験でも色素の侵入がほとんど見えないぐらい接着してくるんです。その上に、今度はフッ素が徐放されて、その部分の耐酸性が増してきますから、カリエスみたいに粗造になったりしづらいんです。象牙質の場合だと、pH6.2以下と、わずかなことでカリエスになります。そうすると、そのところは変色してきたんですが、接着材が打ち込まれることによって、変色ということがかなり少なくなったということです。

増原 それはいいですね。それで、辺縁がきちっと硬化するということは、マージンの耐摩耗性も向上するのではないかと思うんですが。

柏田 そう思います。インレーなどの場合は、やはり耐摩耗性の問題はとても大きいと思うんです。光硬化により、硬化特性が飛躍的に向上しましたから、表面性状も改善されました。そういう面では光照射で非常によくなりました。



簡便な操作性で
安定した接着性を発揮



増原 操作性はいかがですか。

柏田 Aペースト・Bペースト共に回転式のシングルタイプのシリンジになりましたので、出す量が一定にできることになってきた上に、Bペーストの変更だけで色調の選択が可能になりましたから無駄がなくなりました。また、少しぐらい量が狂っても、光で安定して硬化させることができるようになりました。これはすごい改良だと思うんです。

増原 それと、EDプライマーの効果と操作性はいかがですか。これは歯面を接着に適した性状に改質すると共に、重合促進剤を含有していますから、セメントを接着界面から硬化させる重要な役割を持っていますが。

柏田 臨床家の人たちに、プライマーをこう塗りなさいとか、ここは塗ってはいけないんだなど、いろいろな制限があるものは使いづらいんですね。そういう面では、今回の改良でEDプライマーは歯質、レジン、メタルと全面に塗布する方法になりましたので、接着が向上するようになり、非常に使いやすくなったのではないかなと思います。

増原 このフルオロセメントを使用するとき注意したい重要なポイントは、このセメントのベースが嫌気性レジンであるため、練和したペーストでも空気に触れている間は硬化しないことです。一見硬化しないように見えてもインレー、クラウンを歯面に圧接すると、直ちに硬化します。またマージン部に溢出したペーストは柔らかいうちに拭きとり、調整してから光照射して硬化させると、きれいなマージンに仕上がり、非常に能率的です。

柏田 ユーザーの方々も、実際にお使いになると、皆さん、非常に使いやすいと言われるのではないかなと、それくらい画期的に変わったという感じがいたします。

増原 使い慣れると、ほとんど問題点がないみたいですね。

柏田 フルオロセメントができたことで、いろいろの可能性が出てきたと思うんです。あまりいいことを言いすぎているみたいに聞こえてしまうと困るのですが、再発予防がかなり確実にできるようになった画期的接着セメントだと思います。ですから、昔のパナビアしか知らない方はぜひ一度使ってみていただきたいと思います。

増原 これは、ぜひとも普及していく必要がありますね。日本が世界に誇れる新製品がまた一つできたのではないでしょうか。

柏田 そうだと思います。増原先生が種を蒔いたのが、実ってきたということではないでしょうか。

増原 いやいや、そんなことはないですが、夢が一つ一つかなえられれば結構な話ですから。  それにつけても残念なのは、いまだに特に補綴関係の人はインレー、クラウンの接着というと、リン酸亜鉛セメントでしょう。それを何としても今度のフルオロセメントに置き換えてほしいですね。

柏田 本当にそう思います。例えば口腔内の細菌によって問題が起きてくる。咬合力によって壊れてくる。その二つの要素が非常に大事だと思うんですが、リン酸亜鉛セメントだとマージンのところから2次カリエスになったり、外れていくわけです。フルオロセメントを使ってやるとそういうことはかなり起こりづらくなりましたし、歯質だけはどんなことをしても守れるというところがはっきりしてきたのではないかと思います。細菌に対しては細菌が入らないシールをすること、そして、入ってきたら耐酸性のフルオロアパタイトで抵抗するということです。咬合力に対しては、接着力によって、割れない、外れない、そういうものでなければいけないと思っています。

増原 そうですね。これからもいろいろ新しい応用法を臨床家に教えていただきたいと思います。柏田先生の臨床的研究はいつも素晴らしいので、敬服しています。今日は貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。