はじめに

 接着による歯質と修復物の一体化が歯質を補強し、歯の延命に貢献し得るという考えに基づき接着技術を追究し、その結果リン酸エステル系接着性モノマー『MDP』を開発、そして、これを配合した接着性レジンセメント「パナビアEX」、さらに操作性と象牙質接着性を高めた「パナビア21」を上市してきた。  一方、これまでの臨床研究から歯の長期保存のためには接着に加えてフッ素によって歯質強化し、二次齲蝕を抑制することの重要性も唱えられてきている。  そこで、「パナビアEX」、「パナビア21」で培われた接着技術をさらに向上させると同時に、フッ素徐放機能も付与し、今後一層の歯科医療の発展を担える新しい接着性レジンセメントとして「パナビア フルオロセメント」を開発した。

パナビア フルオロセメントの特徴



「パナビア フルオロセメント」は接着セメント(図1)、接着プライマー<EDプライマー>(図2)、金属接着性プライマー<アロイプライマー> (図3) 、および空気遮断材<オキシガード2> (図4) 、より構成され、以下の特徴を有している。 1. フッ素徐放機能
 接着セメントにはクラレが独自に開発した『特殊処理フッ化ナトリウム』を配合しフッ素徐放機能を付与している(図5)。  歯科用途においてフッ素源の一つとしてフッ化ナトリウム(NaF)が広く使用されているが、NaFはフッ素溶出性能は優れているものの、これをレジン材料に配合した場合はその溶出に伴う理工学特性の低下が免れ得なかった。このフッ化ナトリウムの高フッ素供給性能とレジンの劣化という二律背反する現象をクリアする技術として、NaFの『特殊処理』技術を開発した。これにより本来の高接着性、高物性を損なうこと無くフッ素を高度に放出することが可能となった。  歯質中のフッ素濃度が3000ppmを超えるとDMFS(一人平均齲蝕歯面数)が低下するとの報告があるが1)、「パナビア フルオロセメント」で合着すると、接着面から30μmの深さにわたり3000ppm以上のフッ素が取り込まれ、そのフッ素供給量はグラスアイオノマー(系)セメントに匹敵する (図6)。  さらに、「パナビア フルオロセメント」でインレー合着した歯を細菌培養型人工齲蝕装置でインキュベート後、顕微X線写真を撮影し観察したところ、窩壁に沿って脱灰抵抗層が観察され、齲蝕試験に対し歯質の耐酸性が向上していることが報告されている2)。 2. 生体親和性
 レジン系材料が登場した当初は、レジン成分が歯髄刺激を惹起するものと考えられていたが、その後の研究により歯髄刺激の主たる原因は、接着不良による辺縁漏洩、ギャップの生成であることが報告されており、条件さえ整えばレジン材料を直接歯髄に応用しても為害作用が小さいことが報告されている3,4)。  EDプライマーを導入し象牙質接着性を高めた「パナビア21」も病理試験、臨床試験で歯髄刺激性が低く、安全性・機能とも優れていることが確認されている5)。  EDプライマーはリン酸エステル系モノマー『MDP』、親水性モノマー『HEMA』、サリチル酸誘導体『5-NMSA』、および重合促進剤を含有するpH3の水溶液で、スミヤー層を溶解しながら歯質に浸透し歯質接着性を高めるセルフエッチングプライマーである。  「パナビア フルオロセメント」はこのEDプライマーを使用する歯質接着システムを継承すると同時に、接着セメントの硬化性を高めた結果 (図7、8) に示すように歯質に対する接着性を向上している。修復物に対しても高い接着性を有しており (図9、10) 、 これらの特性は生体親和性の一層の向上に寄与しているものと考えている。 3. デュアルキュア
 「パナビア フルオロセメント」は光重合機能を付与しデュアルキュア化を達成している。『高感度光重合触媒』を配合しているため、マージンがシャープに硬化し、仕上がりが良好であるとともに耐摩耗性に優れる(図11)。 一方、深部の接着セメントはEDプライマーに配合している重合促進剤の作用により硬化が促進され、確実な化学硬化が進行する(図12)。  光照射を行わない場合はマージン部に空気遮断材オキシガードUを塗布する。オキシガードUにも重合促進剤を配合しており、化学重合によるマージン部の硬化を高める作用がある。 なお、オペーク色は光硬化深度が低いため、オキシガードUで化学硬化させる必要がある。

適用症例



 「パナビア フルオロセメント」は一般合着はもちろんのこと、とりわけ高い接着強度および材料強度が要求される審美修復物の合着、あるいは接着ブリッジ、接着スプリントでその機能はいかんなく発揮され、適用範囲は(図13)に示すように多岐にわたる。

使用手順



基本使用方法を以下に紹介する。詳細は製品の取り扱い説明書をご覧いただきたい。
1. 修復物被着面の処理
 メタル表面はサンドブラスト処理を行い、貴金属合金の場合はアロイプライマーを塗布する。  ポーセレン、エステニア、コンポジットレジン硬化物の場合は、材料に応じてサンドブラスト、リン酸処理を行った後、クリアフィルポーセレンボンドでシラン処理を行う。シラン処理はクリアフィルライナーボンドUΣプライマーとアクティベーターの混和液でも行うことができる。
2. 窩洞(支台歯)の処理
窩洞、支台歯全面にEDプライマーを塗布し、60秒間放置後、エアーブローで乾燥する。 EDプライマーの液溜りは接着セメントの硬化を不必要に加速するため、余剰分を確実に除去しておく。根管内、偶角部などは綿花等で過剰なEDプライマーを拭き取る等の処置が必要である。  なお、支台が貴金属の場合はEDプライマー塗布に先立ちアロイプライマーを塗布しておく。
3. 接着セメントの準備
 シリンジからAペーストとBペーストを同回転量取り出し、20秒間均一になるまで練和する。光重合機能を有しているので使用しない間は遮光板で保護しておく。  Bペーストにはブラウン、ホワイト、オペークの3色あるので、治療用途に合わせた色調選択ができる。
4. 合着、余剰ペーストの除去
 EDプライマーを塗布していない修復物側にペーストを塗布し、窩洞に圧接する。その後、余剰ペーストを除去する。デンタルライトにより硬化が早まる場合があるので速やかに処置を行う。
5. 接着セメントの硬化
 光照射が行える場合は歯科用可視光線照射器にて一部位につき20秒間照射しセメントラインを硬化させる。化学重合で硬化する場合はオキシガードUを塗布し、3分後水洗除去する。

リン酸/ADゲルによる象牙質前処理



 象牙質面に対し、リン酸/ADゲル処理を行うと(図14)、表層のスミヤー層、有機成分が除去され粗造化した新鮮な象牙質面が露出する。この面に接着材を圧接すると象牙質と一体化したレジンタグが100μm以上にわたり形成し、接着強さ、耐久性が向上する6,7,8)。  象牙質表面が変質あるいは仮着材等が付着し接着阻害が懸念される場合、漏斗状根管へのメタルコアの合着のように象牙質に対し特に高い接着力が要求される場合に本方法は有効である。

まとめ



 「パナビアフルオロセメント」は、高接着とフッ素徐放の両立を達成し、操作性も高めた接着性レジンセメントである。  再発予防に対する認識が高まりつつある今日、この高機能を兼ね備えた新しいセメントが今日からの治療のお役に立てられるものと期待している。



参考文献
1) DePaola,P.F. et al.: A pilot study of the relationship between caries experience and surface enamel fluoride in man. Archs oral Biol., 20:859-864,1975.
2) 糸田俊之、田中浩三、西岡秀樹、鳥井康弘、井上 清:フッ素徐放機能を有する新規接着性レジンセメントに関する研究−人工二次齲蝕の抑制について−、日歯保存誌 41春季特別号:96,1998.
3) 柏田聰明、今井洋子、比嘉隆夫、安保祐子、牧野洋子、神田明美:レジンによる歯髄刺激の臨床的検討、接着歯学、7:145,1989.
4) 尾上直樹:接着性レジン修復システムの直接覆髄法への応用に関する研究、日歯保存誌37(2):429-466,1994.
5) 青木 聡、大澤美香、宇佐美浩昭、清野栄治、杉山節子、市野亮治、細川伊平、高瀬保晶、石川達也:新規接着性レジンセメント(パナビア21)の歯髄反応に関する研究(第1報)ヒト生活歯窩洞の場合、日歯保存誌37(3):963-973,1994.
6)柏田聰明:ジェルタイプ次亜塩素酸ナトリウムの歯面処理剤の研究:歯材器 10,Special Issue 17,7-10,1991.
7)藤田栄伸,高田由紀,加藤丈晴,近藤康弘,鈴木一臣,山下敦:象牙質の被着面処理が接着性レジンとの接着強さに及ぼす影響―特に有機質溶解剤の効果について―:接着歯学 8(3):227-235,1990.
8)小玉尚伸:象牙質接着に関する研究−象牙質表面処理が接着性レジンの接着性に与える影響について−、接着歯学 15(1):1-20,1997.


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