高知県開業  古味 信次


 レーザーは、今日あらゆる分野において応用されている。そもそも、レーザーの可能性はアインシュタインによって予測され、それから半世紀たった1960年、メイマンによるルビーレーザーの発振成功によって、実用化が始まった。

 医療の分野においては、翌1961年、眼科領域において応用され、今日では誰もが知る治療となっている。今日医科領域においては、レーザーのもつ熱作用ではなく、光化学作用の応用により、ガンの治療に威力を発揮していることも注目されている。

 さて歯科領域においては、1964年、ゴールドマンによる抜去歯牙への照射実験以来、硬組織への応用実験がなされてきたが、レーザーの熱作用による歯髄への影響や硬組織のクラック発生などで、満足のいく結果は得られなかった。しかし、軟組織への応用は蒸散、焼灼による止血効果や、治癒の良さが注目され、1980年代半ばから、再び歯科領域における研究がなされるようになった。口腔内は解剖学的特性から、硬組織、軟組織がいりくんでおり、粘膜は薄く、レーザーの熱作用や浸達性の考慮が必要とされる。

 炭酸ガスレーザーは千数百度の高熱になり、熱のコントロールが難しく、Nd : YAGレーザーはその波長特性としての浸達性により、深部組織への熱の影響が問題になってくる。 Nd : YAGレーザーは歯科におけるレーザーの普及に大変貢献したが、その操作においてテクニックを要することや透過性の問題などで、最近はあまり誌面を賑わすことが少なくなっているように思われる。しかし、止血や疼痛の緩和においては優れた効果があり、日本での予防歯科領域におけるレーザーとしては草分け的な存在である。

 歯の硬組織におけるレーザーの応用は、炭酸ガスレーザーとEr : YAG(エルビウムヤグ)レーザーが議論の対象となっている。

 炭酸ガスレーザーは、歯の硬組織に照射したとき、ブラウン運動をおこし蒸散することによって硬組織の除去ができるが、高熱を生じるためクラックができたり炭化層ができること、歯髄に対しての熱影響が問題になっている。

 Er : YAGレーザーは、1988年に紹介されたレーザーで、水に大変吸収が良く、炭酸ガスレーザーの実に十倍の吸収があるといわれている。歯牙硬組織に照射したとき、硬組織内にある水を蒸散させ組織をばらばらにすることによって硬組織の崩壊をおこす。そのため発熱が非常に少ないのが特徴で、光削合とも呼ばれる。

 Er : YAGレーザーで現在実用化されているものとしては、カボ社のキーレーザー、私がロスアンゼルスで講習を受けたプリメアー社のEr : YAGレーザー、モリタ社のEr : YAGレーザー「アーウィン」の3機種がある。
 前者は非接触型で、焦点を合わせる照射方式のためコントロールテクニックが必要となる。
 後二者は接触型で、エネルギーの減少なく照射できる。上記の三者を比べてみると、照射時のチップが優れているのはアーウィンではないかと思う。

 私はEr : YAGレーザーを1996年9月より使用してきたが、硬組織、軟組織、歯周組織にも応用できることから、多くの良い結果を得られたのでここに紹介させていただく。 硬組織




 何といっても、このレーザーは硬組織に応用できるということが他のレーザーとの最も大きな違いであり、5級窩洞においては、既存の方法に勝るとも劣らないと思う。

 従来の回転切削器具での切削では歯肉を傷つけることが多く、出血させることにより充填が困難になってしまうということがあったが、レーザーで行うことにより、そのような危険性は少なく、容易に硬組織の除去ができる。

 このとき、歯肉に対して垂直に照射すると出血することがあるので、歯肉縁における照射では、歯軸方向に照射すると出血がなく形成が行える。

 エナメル質においては、エナメル小柱の走行に沿って照射できると、非常に良く切削できるが、走行に垂直になると、なかなか上手く切削できないことがある。そのときは、起始点のような窩洞を形成し、そこから広げるように照射するとよい。

 このように硬組織の形成ができるといっても、インレー窩洞やクラウン形成はできないが、形成充填においてはすべてが可能である。

 大きな特徴はスメアー層がなくエッチングが不要であるということである。最近では、高出力でデフォーカス照射を併用して効率の良い方法も行っている。




小帯の切除、歯肉切除、口内炎等に応用できる。また、歯周疾患に対する応用は歯周ポケットへの照射によるポケット内の滅菌、歯石の除去に応用できる。

 炭酸ガスレーザーを経験された方は、その止血効果に満足できないかも知れないが、粘膜下組織への影響を考えたとき、きわめて安全に処置できることでは、このレーザーが優れていると思う。

 ポケット内の照射においても、400ミクロンチップを使用することにより、深部まで到達することができる。

 メラニン色素沈着に対しては、フェノールの応用やCO2レーザーの応用が報告されているが、アーウィンでも簡単に歯肉を無麻酔下に除去することができる。

 歯肉の色素沈着において、メタルコアを装着して補綴処置を行ったとき、歯肉に黒褐色の沈着がおきることを経験することがあるが、このようなケースにも応用してみた。その原因として銀合金の削片の関与が考えられ、歯肉をメラニン色素沈着症のときよりも深い層で除去することになり、浸潤麻酔下で行っている。

 アーウィンの場合、歯肉を削ぐように取れるので、除去した歯肉片に黒い層があるのを確認できる。CO2レーザーの場合は歯肉を蒸散するため、黒いところが出たときは、その塊を何らかの手用器具で除去することが必要になる。



 硬組織・軟組織に応用していく中で、硬軟両組織の絡む歯根端切除の症例に応用してみた。

 このレーザーは発熱が非常に少なく硬組織を除去できることから、骨組織の除去、歯根端切除、そして滅菌効果を期待した病巣への照射を行った。

 既存の方法とは異なり、除去と同時に滅菌できることにより、術後の疼痛腫脹が少ないように思われる。歯根端切除後の歯根吸収の不安はあるが、吸収についてはその際の発熱が関与しているようであるから、発熱なく切除できるアーウィンの場合、良い予後が得られると思う。今のところ、私の経験では吸収はおきていない。
症例1 5級のレジン充填

69歳 女性
 歯頸部の磨耗およびカリエスが気になり来院。無麻酔下 下顎右側45 の歯頸部を600ミクロン80度チップ215mJ、10PPSで窩洞 形成を行った。歯肉縁下の形成においては歯軸にできるだけ平行に照射した。縁下の窩洞の際にはセルビカールマトリックスを使用することによって、上手くレジン充填がおこなえる。


症例1-1

症例1-2

症例1-3

症例1-4

症例1-5
 
症 例 2 歯周炎急性発作
55歳 女性
下顎右側2 3 の歯肉腫脹と疼痛を訴え来院。浸潤麻酔下で400ミクロン細径チップ60mJ、10PPSでポケット内縁の歯肉を掻破するように照射した。出血は多かった。その他の歯周ポケットはポケット内の洗浄をするように照射した。1週間後に3 の近心に歯石の付着があるものの著しい改善がみられた。

症例2-1

症例2-2

症例2-3
症例3 歯肉切除
47歳 男性
腎透析患者で歯肉の腫脹を訴え来院。まず上顎右側4 5 の歯間乳頭部の歯肉増殖を、無麻酔下400ミクロン細径チップ60mJ、10PPSで切除した。出血はするが問題になるような出血はなかった。同様に他の歯肉増殖も何度かにわけて切除した。気をつけたのは透析当日は切除しないようにアポイントすることであった。約3カ月後の状態で右側下顎臼歯部は抜歯している。再発なく経過している。

症例3-1

症例3-2

症例3-3

症例3-4

症例3-5

症例3-6
症例4  メラニン色素沈着除去
28歳 男性
下顎の歯肉が黒いことを気にして来院。無麻酔下600ミクロン80度チップ70mJ、10PPSで、最初無注水下で黒い部分をマーキングするように照射した後、白くなった部分をのけるようにして照射して、最後に注水下で黒いと思う部分に照射した。1週間後にはきれいに治癒している。「照射中はチクチクして少し痛かった。次の日はしみるような気がしたが、3日目からは何ともなかった」とのことである。

症例4-1

症例4-2

症例4-3

症例4-4
   
症例5 歯肉着色除去
28歳 女性
上顎右側2 の歯肉が黒くなっていることを訴え来院。浸潤麻酔下400ミクロン細径チップ90mJ、10PPSにて遠心歯間乳頭歯肉切除、近心歯間乳頭歯肉はCO2レーザー3W連続波にて蒸散した。上顎右側1 2 歯面にはフルオロイドゲルを塗りCO2レーザーの誤射を防いだ。アーウィンでは削ぐように歯肉を取れるので、除去した歯肉に黒い沈着物があるのが確認できる。2週間後、歯肉退縮はみられず着色はなくなっている。

症例5-1

症例5-2

症例5-3

症例5-4

症例5-5
 
症例6 歯根端切除
53歳 女性
上顎右側2 根尖部の疼痛を訴え来院。浸潤麻酔下歯肉切開を行い、600ミクロン80度チップ215mJ、10PPS注水下で骨開窓し、根尖部の病変を骨から剥離した後、歯根端部を同じエネルギーで切除し、病変を一塊として除去した。骨面にはデフォーカスで照射した。1週間後、痛みなく経過した。術後の疼痛はほとんどなかった。7カ月後、骨の回復がみられる。

症例6-1

症例6-2

症例6-3

症例6-4

症例6-5

症例6-6

症例6-7

症例6-8

症例6-9

症例6-10

症例6-11

症例6-12



このように、私は2年あまりアーウィンを使用してきたが、このレーザーは透過性を心配することなく、極めて安全に臨床応用することができ、応用範囲の多いことを経験してきた。
 この2年の間には、充填用のレジンの接着力向上、コラーゲン製品の出現などと関連商品の目覚ましい発展があり、今後ますます臨床応用が広がるものと思う。

 今後とも、いろいろな先生方のアドバイスをいただき、より良い臨床応用につなげたいと思っている。

参考文献
1)古森孝英、横山恵以子、他:CO2レーザーによる歯肉メラニン色素沈着除去に関する検討,日口診誌,8:347〜351,1996.
2)石川成美、伊東邦彦、古川良俊、他:歯冠補綴物の周囲にみられる着色の原因性に関する検討 第1報 臨床例および実験例の分析,補綴誌,30:199〜206,1986.
3)山本肇 編著:歯科領域のレーザーのわかる本,医学情報社,1989.
4)松本光吉 編:歯科用レーザーの臨床-臨床基本編-,医歯薬出版,1994.
5)松本光吉 編:歯科用レーザーの臨床-疾患対応編-,医歯薬出版,1995.