MSコートは、5%メタクリル酸メチル(MMA)−p−スチレンスルホン酸(SSA)共重合体(MSポリマー)の水系エマルジョン(A液)と、2.1%シュウ酸(B液)からなる。

A液にはMSポリマーが水に溶解せずに微粒子状で分散しており、歯質のハイドロキシアパタイトと反応してポリマー粒子が凝集し、表面に層状に沈着することで歯質と接着した高分子被膜を露出象牙質面に形成する(図7)

象牙細管開口部には十分なハイドロキシアパタイトが存在しないため、何らかの方法でA液と反応するカルシウムイオンを供給する必要がある。

MSコートでは、B液であるシュウ酸が象牙質表面を脱灰して生じたカルシウムイオンとA液が反応するため、象牙細管開口部にもポリマープラグの生成が期待できる。さらに、シュウ酸は象牙細管壁にシュウ酸カルシウムを沈殿させて、細管の狭窄を補助する。

MSコートはA液とB液を等量混合するだけですぐに使用でき、非常に使用法が簡便である(図8)。また、処理液はモノマーや重合開始剤などを含有しないため安全性が高く、歯質表面を着色せず、流動性の良い無臭の液体である。

図7 MSコートによる象牙細管封鎖のメカニズム。
図8 MSコート(A液、B液)



処理液の作成は、A液とB液をプラスチックダッペンに等量混合し、付属の綿球で数秒間攪拌するだけである(図8)

清掃した患部歯面に綿球で30秒間擦りながら塗布し、20〜30秒後に緩やかなエアーで約10秒間乾燥させてゲル状のポリマーを被膜化する(図9〜12)

余剰成分は水洗にて除去する。今回のリニューアルにともない、新たにフェルト製のアプリケータが追加された。

歯肉縁下や歯間部などの綿球では擦りにくい部位への使用に適している。綿球で薬液を塗布した後、薬液を染み込ませたフェルト先端部や側面を用いて患部を擦りながらコーティングする。

軽度の象牙質知覚過敏症の場合には即効性に効果があらわれるが、不十分な場合には再度繰り返す。

上記のように炎症による歯髄神経の過敏化の関与が大きい場合には、外来からの刺激が遮断され、歯髄神経の反応性が正常に復帰するまでにある程度の期間を要する(図6)

したがって、処置直後に完全に症状が消失しなくても、次第に症状が寛解していく場合も少なくない。

歯質に対する前処理を必要とするボンディング材などで被覆する方法も効果的であるが、脱落した場合には症状が悪化する可能性があり、さらに歯肉縁付近や歯肉縁下の知覚過敏部位に対しては操作が困難である。

その点、MSコートは扱いやすく、多数歯に発症している場合にも使用しやすい。


図9 象牙質表面の開口した象牙細管。


図10 綿球にて擦りながら塗布する。歯肉縁下などの塗布しにくい部位には、付属のアプリケータを用いる。

図11 MSコート塗布後の象牙質表面。
図12 MSコート塗布後の象牙細管の縦断面。



象牙質知覚過敏症の治療を行った部位に対して、患者の希望により治療後にレジン充填等を行うこともある。

象牙質知覚過敏症の好発部位である歯頸部は、もともとレジンの接着力を十分には発揮しにくい部位なので、注意が必要である。

象牙質知覚過敏症の治療に用いられる薬剤の多くは、レジンボンディング材の接着強さを低下させる。

MSコートの被膜は約2〜3μmであり、シリコンポイントによる研磨では不十分であるが、ホワイトポイントを用いて研磨すれば表面の被膜のみ除去することができる。

スーパーボンドC&Bの接着強さ低下への対応としては、同様にホワイトポイントで研磨しても良いが、表面処理剤グリーンで30秒間歯面処理を行う、あるいは同液で10秒間軽く擦りながら処理することで、従来の接着強さを得ることができる。



象牙質知覚過敏症に対処するにあたり、常に最も効果的な治療材料を選択することも重要であるが、生活習慣指導とプラークコントロールを軽視すると、せっかくの効果的な材料もその効果を十分に発揮できない(図2)

象牙質知覚過敏症に対しては、象牙質/歯髄複合体として露出象牙質をとらえ、生活指導や予防も考慮に入れて総括的に対処することが必要である。

参考文献
1) 山本寛,須田英明:象牙質知覚過敏と歯髄処置の分岐点.日本歯科評論,642:83〜99,1996.
2) 山本寛,引地朱美:象牙質知覚過敏症.歯界展望 別冊/Newエンドドンティックス,51〜64,1999.
3) 石幡浩志,松本宏之,砂川光宏,米田栄吉,須田英明,堀内博:象牙質知覚過敏症に対する知覚抑制材“MSコートィ”の臨床評価.日歯保存誌,41:1180〜1186,1998.
4) 塚田甲:象牙質知覚過敏症のメカニズム.デンタルダイヤモンド,14:72〜76,1989.
5) 山本寛,須田英明:象牙質知覚過敏症.歯界展望,89:147〜160,1997.