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ライフステージに応じたフッ化物応用
KEYWORD高齢者へのフッ化物応用/Check-Upシリーズ/これからのフッ化物応用法
これまで特に小児のう蝕予防に有効と考えられてきたフッ化物応用。しかし近年、成人から高齢者を含めた全てのライフステージにおいて、その応用を推進する動きがみられるようになっています。こうした状況の中、歯科医師・歯科衛生士としてどう対応し、普及・啓発に努めていけばよいのでしょうか。フッ化物応用に長年取り組んでおられる荒川浩久先生と、横須賀でご開業の西山和彦先生、西山眞名民先生ご夫妻にお話を伺いました。
子どもから高齢者まで有効なフッ化物応用
図 1根面う蝕
荒川2000年からスタートした「健康日本21」の目標は健康寿命の延伸でした。その1つに「歯の健康」も取り上げられ、高齢になっても活発に咀嚼できることが全身の健康に良い影響をもたらし健康寿命も伸ばせるということが、様々な研究の成果として現れてきました。こうした歯の大切さが見直されている流れを受けて、ようやく2012年に、「歯科口腔保健の推進に関する法律」(略称「歯科口腔保健法」)の基本的事項が定められました。
その「う蝕予防方法の普及計画」の中に、乳幼児期・学齢期・成人期・高齢期の4つのライフステージ全てにおいて、「フッ化物の応用」が示されました。このことは、成人や高齢者にもフッ化物応用が必要で有効であると国が示したということです。これは非常に大きなインパクトがあります。これからますます高齢者にも歯がたくさん残り、根面う蝕(図1図1)や歯周病の増加が予測されますので、成人や高齢者の方にもフッ化物応用を推奨していく必要があるでしょう。
図 1根面う蝕
西山(和)2005年に荒川先生が監修された『歯科衛生士のためのフッ化物応用のすべて』(発行:クインテッセンス出版)には、現在のこうした状況もすっかり書かれています。ライフステージごとの応用もかなり前から準備されていました。ただ、まず私たち臨床医がフッ素に対する基本的な知識とその応用方法を正しく理解できていないと、患者さんに情報提供することができません。ですので、荒川先生をはじめとした大学の先生や研究者から正しい知識を受け取って、それを地域に落とし込んでいく役目を私たちが地道にやっていかなくてはいけないと最近、特に感じています。
西山(眞)私自身もフッ素には興味があっても、今、お話にあった行政の動きを後から知るような状態です。一般の歯科医院や、実際に患者さんと接する歯科衛生士のところまで行き渡るには時間もかかりますし、勉強を続けなければいけないと思っています。ただ、地域で開業していますと、0歳から100歳まで、いろんなライフステージの方がいらっしゃるので、日々臨床の現場でのガイドラインとして荒川先生にいろんな情報や応用方法をご提示いただけて、非常にありがたいと思っています。
荒川一般の方のこうした行政の動きに対する認知度は低く、「健康日本21」の認知度がようやく30%程に上がってきた状況で、「歯科口腔保健法」にいたってはほとんど知られていません。ただ、国が基本的事項を示しましたから、今は各自治体に下りている途中なのだと思います。
フッ化物については、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が出している見解によると、「すべての人々がまず至適にフッ化物濃度を調整した水を飲用する。さらに1日2回、フッ化物配合の歯磨剤を用いて歯磨きをすることを推奨する」とあります。この「すべての人々」というのは実は意味が深くて、「虫歯ゼロの人も子どもも高齢者もすべて」、という意味が含まれています。
アメリカの場合、水道水フロリデーションと1日2回のフッ化物入り歯磨き剤の使用が基本です。さらに、「う蝕リスクの高い人には、この方法と別のフッ化物応用の併用が勧められる」とあります。ですから、水道水フロリデーションとフッ化物入り歯磨き剤は全員必須、それにリスクが普通あるいは高ければ塗布と洗口を重ねるといった具合です。
日本の場合は全身応用がなされていませんから、局所応用を組み合わせていく必要があります。さらに2011年4月、母子健康手帳が改定されて、1歳6ヵ月児と3歳児の記録欄に、新たにフッ化物が入りました。これを見た保護者が歯科医院に来院して、「フッ化物歯面塗布をお願いします」、「フッ化物入り歯磨き剤をどう使ったらいいですか?」といった要望や相談が増えてくるのではないでしょうか。
2011年に静岡県歯科医師会の協力を得て行った調査によると、「フッ化物歯面塗布を行っている」のは83%ですが、高齢者を含めた成人の患者さんでは16%とかなり少なくなってしまいます(図2)。アメリカの場合、日本の2倍以上応用している現実もありますから(表1)、日本もこれからだと思っています。
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図 2年齢別にみたフッ化物歯面塗布の実施状況
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表 1臨床において各う蝕予防手段を受けている患者の割合※本調査は、歯科臨床基盤ネットワーク(DPBRN)を通じた467名の一般臨床歯科医の回答を集計したもので、シーラント、診療室内と家庭でのフッ化物応用、クロルヘキシジン洗口とキシリトールガムの使用または推奨についての質問に対する回答割合である。
「Journal of American Dental Association vol.141(2010年)」より引用改変
年齢別、う蝕リスク別によるフッ化物の応用と効果的な使用法
乳児から3歳まで
荒川乳歯は生後6~8ヵ月頃、下顎乳中切歯から生えてきます。この部分はう蝕リスクはあまり高くないのですが、この時点から歯磨きがスタートします。もっともこの頃はシリコンゴム製のような導入用の歯ブラシを使って、まず磨く習慣をつける程度です。その後萌出してくる上顎乳中切歯は非常にリスクが高いですから、この頃までにはフッ化物応用を始めたほうがよいと思っていますが、開業医の先生のお考えはいかがでしょうか?
西山(眞)ずっと定期検診を受けていただいている患者さんの場合は、「いつから何をしたらよいのか」というのをよく聞かれます。その場合、「上顎乳中切歯が生えたぐらいから哺乳瓶の問題や授乳時のリスクも高まってきますから、歯科医院と連携しながら虫歯予防を始めたほうがいいですよ」というお話をします。実際、この乳児から3歳ぐらいまでの時期は保護者のお子さんへの関心が非常に高いので、いろんな情報提供が始められるよい機会ではないかと捉えています。
西山(和)ご自分の過去の経験をオーバーラップされて、「自分の歯の苦労をこの子たちにはさせたくないです。どうしたらよいですか?」と、最近では出産前から質問してこられます。私たちはその質問に的確に情報提供していかなければなりません。さらに先ほど荒川先生から示していただいたガイドラインのお話を家庭でどのようにできるか? 家庭環境も千差万別ですから、それに合わせて無理のないように情報提供していくことが私たちの仕事になっています。ただ、そのお子さんの歯の人生もこの頃がスタートラインですから、そこをしっかり整えてあげるというのは非常にやりがいもあります。
西山(眞)フッ化物応用に関して言えば、まだ高濃度のものが使えなかったり、飲み込んでしまうリスクがあるので、「Check-Up foam」(図3)はとても重宝しています。保護者の方は、やはり飲み込んでしまうことを気にされる方が多く、「これだったら、ある程度飲み込んでもいいんですよ」とお薦めできる「Check-Up foam」はフッ化物応用の入口として推奨できる歯磨き剤ですね。
荒川フッ化物の3つの局所応用のうち、フッ化物洗口は4歳からと国のガイドラインに示されていますし、塗布も1歳半ぐらいからです。そうすると、それまでは「寝かせ磨き」(図4)しかありません。「寝かせ磨き」だと、口に入れたものは子どもが食べてしまう、飲んでしまうことが前提です。フッ化物の量はフッ化物の濃度と使用量とから計算できます。濃度が高くても使用量が少なければ安全性に問題はないわけです。そういう意味で、歯ブラシ上に準備したフッ化物のフォームはほとんどが空気ですから、こんもり盛り上げてもフッ化物の摂取量は問題になりません(図5)。
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図 3Check-Up foam
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図 4寝かせ磨き
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図 5Check-Up foamはこんもり盛り上げて使用しても大丈夫。
西山(眞)荒川先生に教えていただいたフッ化物洗口液を100ppmに薄めて使う方法も最近試しています。
荒川寝かせ磨きの時に低濃度のフッ化物溶液を用いる「フッ化物液磨き」ですね。
西山(眞)そうです。実際に保護者の方は(お子さんのために)何かしたい時期なので、ただカラ磨きをするのではなく、フッ化物液磨きをご提案すると積極的に採り入れてくださいます。
荒川ライオン歯科材から「フッ化ナトリウム洗口液0.1%【ライオン】」(図6)が発売されていますが、原液だと450ppmなので、フッ化物洗口(図7)として小さいお子さんに使う場合には、同じ量の水を入れて半分の濃度にすれば225ppmです。4歳以上だったらその洗口液で「ブクブクペッ!」でいいですけど、さらに水を多くすれば液磨きとしても使えますよ。
例えば兄妹の場合だと、お兄ちゃんは2分の1に薄めてフッ化物洗口に使って、小さい妹さんには5分の1(100ppm)に薄めて液磨きという方法もあります。濃度と使用する量の関係さえ守ってもらえれば大丈夫です(図8)。
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図 6フッ化ナトリウム洗口液0.1%【ライオン】
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図 7フッ化物洗口
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図 8濃度と使用量の関係に注意する。
西山(和)なるほど、いいアイデアですね。
荒川お子さんが飲み込むことに不安に感じている場合は、保護者の方にどのように説明されていますか?
西山(眞)まず何に心配されているかをお聞きします。フッ化物そのものに抵抗がある方には、「お茶にも入っている天然由来のものですよ」というところからお話しています。フッ化物の量を気にされている方は、少ししかつけていないことも多いので、荒川先生にお示しいただいたガイドラインを参考にしながら、「今はこの時期なので大丈夫ですよ」と言うと、安心してつけていただけます。
荒川「Check-Up foam」開発のコンセプトの1つに、小さい子どもさんや寝たきりの高齢者の方が「飲んでしまってもリスクの低いもの」ということがありました。できるだけ研磨剤のようなものを入れず、少量の使用量で口の中にスーッと泡の中のフッ化物が広がっていくイメージです。濃度は950ppmですが、量を少なくしても口の中で広がってくれるので効果も劣りません。さらに約500回使えますからコストパフォーマンスとしても良好です。
西山(和)私たちにとって非常にありがたい製品ですね。
図 9Check-Up gel バナナ
西山(眞)3歳くらいになると、私たちは主に「Check-Up gelバナナ」(図9図9)をお薦めしています。バナナ味はお子さん方にダントツの人気で、泣いていても、ちょっと舐めさせるだけで黙って味わうぐらいになってしまいます。この時期は歯磨きを嫌がるお子さんが多くて、羽交い締めして歯磨きするという話もまだ聞きますが、そういうことはなるべく避けていただき、どの時間帯でもいいからフッ化物入り歯磨き剤や「Check-Up foam」を採り入れていただくよう指導しています。
「Check-Upシリーズ」(図10)はいろんな味が揃っていてお子さんに人気があるのでとてもお薦めです。
図 9Check-Up gel バナナ
図 10Check-Up シリーズ
3歳から小学生まで
荒川3歳になると定期的(年2回)にフッ化物の歯面塗布を行うことと、ご家庭でのフッ化物入り歯磨き剤を用いたケアを継続します。また、3歳を過ぎると、歯磨きの練習がスタートします。保護者の方がすべての歯を磨いて終わりではなくて、少しずつ練習させることが必要です。今までの「寝かせ磨き」から「立たせ磨き」(図11図11)といって子どもを立たせた状態で保護者が後ろに回って磨いてあげます。子どもが将来自分で歯ブラシ持つ感覚を覚えていくためにも、こうした「立たせ磨き」への変更が必要です。
「Check-Up gelバナナ」は、子どもが自分で磨く際にもフッ化物濃度は500ppmと薄めですから、そうした製品から始めればよいと思います。その場合、最後に保護者が「仕上げ磨き」を行うのが基本です。
4歳になったら「フッ化物洗口」を始めます。実は、日本のフッ化物局所応用の中で一番普及していないのがフッ化物洗口で、3歳から小・中学生ぐらいまでの約8%にすぎません。今後フッ化物洗口に力を入れていく必要があると思いますが、西山先生はいかがお考えですか? 患者さんにフッ化物洗口を薦めておられますか?
図 11立たせ磨き
西山(和)フッ化物洗口は特にお薦めしています。
荒川例えば「フッ化物入り歯磨き剤を使っていれば、フッ化物洗口は必要ないのでは」と言われるようなことはありませんか?
西山(眞)フッ化物洗口をお薦めする場合、まずご家庭での生活リズムをお聞きします。就寝直前にフッ化物入り歯磨き剤を適正に使用する生活リズムであれば歯磨き剤だけでいい場合もありますが、ほとんどの方は、夕食後だいぶ時間が経ってから寝られるので、「就寝の直前にフッ化物洗口を追加すると効果的ですよ」とお薦めすることもあります。
さらに私たちの医院では臼歯が生える頃にサリバテストを実施していますので、そのお子さんのカリエスリスクをお示しして、「なるべくフッ化物でカバーしていきましょう」とご提案すると、「フッ化物でもう少しアップできるなら」と採り入れてくださる方もいらっしゃいます。
西山(和)そのタイミングは保護者の方にフッ化物の有効性を具体的に理解してもらう良い機会ですから、「なぜこの年齢に、就寝前にこの濃度のフッ化物入り製品を使うのか」ということを説明して、「朝までフッ化物が残っている状態が効果的ですよ」といった話をします。そうすると、より理解が深まって、「こうして使えばいいんだ、じゃあフッ化物洗口もやってみます」となる方も多くいらっしゃいます。そうした情報提供によって、フッ化物が有効だと理解していただければ、より使ってもらう機会が増えてくるような印象を受けますね。
西山(眞)さらに4~14歳は永久歯への交換が目まぐるしい時期でもあり、永久歯が萌出してから2〜4年ぐらいの時期は人生を通して「フッ化物の取り込みがとても効果的な時期ですよ」ということを保護者の方にお伝えします。そうすることで、定期的な来院による歯面塗布も継続できますし、さらに「ホームケアもできていないと、歯科医院で塗っているだけではダメですよ」というお話もして、まずは「この時期はちょっと頑張ってみよう」という気持ちになってもらえればと思って取り組んでいます。
西山(和)一番危険なことは、「フッ化物を使ってさえいれば大丈夫」とお考えの保護者の方もいらっしゃいます。そういう方は、「フッ化物を使ったのに虫歯できちゃったじゃないですか」と逆にフッ化物を疑問視して、フッ化物から遠ざかってしまう原因にもなりかねません。やはりまず重要なのはライフサイクルです。早寝早起きして、食事のことも含めて、トータルで見ていかねばなりません。その中でフッ化物を組み合わせて使っていくお話をすると、より効果が出てきますから、患者さんは「こうすればいいんだ」と分かってくださることで、「フッ化物をより正しく使う」方向にはなってくると思います。フッ化物が魔法の薬だと思ってしまうことが、一番いけないことなので、それには気をつけています。
荒川私は、プラークコントロールの新しい概念を患者さんに植えつけていく必要があると思っています。虫歯はプラークの下から始まりますから、プラークがなければ虫歯は起こりません。しかし現代の食生活を考えるとプラークがつくのは当然で、それを100%取ることはできません。私が考えるプラークコントロールの概念は、「まずプラークができるだけつかないような食生活を考える」ことからスタートします。それでもプラークはつきますから、「ついてしまったプラークはできるだけ歯ブラシなどで除去しましょう」というのが次のステップです。ただ、エナメル質の表面には微小欠損があって、除去しきれない部分があります。さらに隣接面や清掃不可能部位と言われる小窩裂溝もあります。ですから、「歯」とはそういうものだと患者さんに認識していただいて、除去しきれなかったプラークの力を弱めるためにフッ化物を使うというのが3つめのステップです。そういうメカニズムを説明して、食生活も、歯磨きも、フッ化物もすべてトータルでやっていく必要があると考えています。
西山(和)これからは早期発見、う蝕を初期の段階で発見はするけれども、食生活をはじめライフスタイルを整えることによって、長期経過観察していく流れになってきています。それから、ブラッシングに頼るだけじゃなくて、やはりトータルでちゃんとう蝕を治していく姿勢が重要だと思います。そういう段階をちょうど小学生ぐらいの交換期の最もリスクの高い時期、一番削ってはいけない時期なので、それを私たちが守ってあげる。「ここが一番大事な時期ですよ」と教えていく。本人には分からなくても保護者の方には分かりますから、ちょうど保護者が同伴する段階で「ここが虫歯ですね、これを治していきましょう。この段階なら治るものなんですよ」と説明していく。しかも「フッ化物を使ったら、より安心ですよ」というところまで指導すると一番効果があるのではないかと思っています。
図 11立たせ磨き
思春期〜成人〜高齢者
荒川続いて12~17歳くらいのいわゆる思春期の患者さんについてはいかがでしょうか?
西山(眞)中学生になると学校生活が急激に忙しくなるので、生活のリズムがガラッと変わってしまいがちです。来院頻度もいきなり減りますし、口腔内の状態も中学生になった途端に悪くなってしまう印象があります。
荒川矯正の患者さんについてはいかがでしょうか?
図 12矯正中の口腔内
西山(眞)矯正に関しては、私たちの医院ではなるべくカリエスリスクの低い時期に低い状態で始めるようにしています。矯正の手段は多様化してきましたので、後回しにできることは後回しにして、矯正装置を付けても大丈夫な状態で、ということが大前提になっています。
フッ化物の使い方としては、矯正中のリスクについて充分説明して、ホームケアでは歯磨き剤だけでなく、より手厚くなるように工夫します。来院時には、ワイヤーが付いた状態でのクリーニングだとどうしても虫歯ができますので、ワイヤーを外した状態で徹底的にクリーニングします。その後、来院する度にフッ化物歯面塗布を行います。以前は通法どおり半年に1度にしていましたが、状態に合わせて少し高濃度のものも間隔を頻繁にしながら塗布しています(図12図12)。
図 12矯正中の口腔内
荒川やはり口腔内に矯正装置がある場合にはフッ化物洗口がお薦めではないかと思いますが、いかがでしょうか?
西山(眞)複雑な矯正装置を装着した状態で、ブラッシングのみでプラークを除去することは困難ですので、フッ化物洗口をお薦めしています。ダブルブラッシングが定着しにくい方でも、就寝前の洗口なら手軽ですし、ある程度行き渡って留まりますので有効ですね。
荒川なるほど、それでは高齢者の場合はいかがですか?
西山(和)現在の高齢者歯科の関心は誤嚥性肺炎をはじめとした口腔ケアに重点が移ってしまって、虫歯の予防は置き去りにされているように感じます。ただ、それは歯の残っていない方々を対象にした評価であって、これからは歯が多く残りますので、歯を健康な状態で残していくためには今までの口腔ケアだけではもの足りないと思います。やはり今後は歯が残っていく方々を対象に考えていくことも重要で、そのためには虫歯と歯周病の予防はあらためて取り組んでいくべき課題になってくるのではないでしょうか。例えば老人保健施設の介護者であっても口腔内のことについて詳しくは知りません。まずその人たちに私たちが教えていかなければならない。それこそ荒川先生が私たちに教えてくださっているのと同じように、今度は私たちが介護者の方々に教える立場なので、そこで正しい知識を勉強しながら実践しているのが現状です。
荒川指導するのは時間もかかりますし、ご苦労もあるかと思いますが…。
西山(和)そうですね。ただ、歯科医療は生活に密着していますから、家庭内や友人同士の話題にも上りやすい。さらに年齢が上がってくると見た目や不便さを感じることも多くなり、「もっと知りたい」という欲求が増してきます。そこでまず介護者の方たちの質問に適切に答えてあげて、さらに「予防するためはどうするか」といったふうに段階を追って関心が高まるようにしています。
これからのフッ化物応用法
荒川日本の歯磨き剤の場合、フッ化物濃度は1000ppmまでと決められていますが、海外では特に「根面う蝕の予防にはフッ化物濃度が高いものが非常に有効」というエビデンスが多く出ています。ISOの基準も1500ppmですから、それが世界標準と考えた方が良いと思います。このあたりは私のような立場の者がもっと国に働きかけていかなくてはいけないと思っています。また、日本人は歯磨き剤を少ししか使いません。これは清潔好きの国民性を反映していますが、フッ化物の効果にとってはマイナスです。さらに、使い終わった後のうがいの量と回数が非常に多い。その気持ちは良く理解できますが、フッ化物の効果を低めることになりますから、洗口の指導も必要です(図13)。口に供給される量はある一定以上必要ですし、多くうがいしてしまうとほとんどがクリアランスされてしまいますから、うがいの量は少なくする指導をこれから徹底していかなくてはいけないと感じています(図14)。少量洗口についてお二人のお考えはいかがですか?
西山(眞)患者さんに少量洗口をお願いしたいときに、「Check-Upシリーズ」だと味が濃くないのでそれが可能なんですね。私たちが試しているイエテボリ法でも、最初は皆さん安価なものを使われますが、「まずこれを使ってみて」と「Check-Upシリーズ」をお薦めすると、手放せなくなる方はたくさんいらっしゃいます。「これだとできます」と言ってくださいますね。
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図 13フッ化物入り歯磨き剤使用後の洗口の方法
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図 14少量洗口
引用文献 : Chesters,R.K.“Effect of oral habits on caries in adolescents.”Caries Res. 1992;26:299.
荒川イエテボリ法というのはフッ化物入り歯磨き剤+フッ化物洗口です。フッ化物入り歯磨き剤を使いながら、最後はフッ化物洗口までするのが狙いなので…。ただ西山(眞)先生がお話しされたように、食後にフッ化物入り歯磨き剤で歯磨きして、寝る前にフッ化物洗口するという使い方でもいいわけです。
西山(和)「Check-Upシリーズ」は1回のうがいで我慢できる味なんです。皆さん、味を取るためにうがいを繰り返してしまうので、味は本当に薄味くらいの方がいいのかもしれません。逆にうがいしてもいいから、「フッ化物洗口をしっかりやってね」と提案しています。ただ、30秒の洗口は意外に長く感じますから、結局口に含んですぐ出すようなことになりかねません。それにはとにかく一緒になって使い方を教えるように指導していかなくてはと感じているところです。
荒川子どもだけでなく思春期から成人・高齢者に対するフッ化物応用が、日本においても有効なう蝕の予防手段の1つであることに変わりはありません。世界とのフッ化物濃度差のハンディを埋めるためにも、フッ化物応用を勧めるだけでなく、少数回・少量洗口の導入も今後いろんなシーンでアピールしていく必要がありますね。本日はありがとうございました。
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