現在、日本国内で販売される主要な口腔内スキャナー(IOS)は海外製品が大半を占める中、モリタがついに国内製IOS「Accuios(アクイオス)」の販売を開始しました。開発・製造を担うモリタ製作所では、これまで様々な歯科用機器を手掛けてきましたが、IOSは初の試み。様々な試行錯誤や創意工夫を経て製品化にこぎ着けました。その開発ストーリーや製品特長について、CAD/CAM修復のパイオニアとも言える北道敏行先生と開発担当者による熱いディスカッションの模様をお伝えします。
Accuiosを高く評価する先生と開発に携わった開発者のご紹介
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北道 敏行 先生
兵庫県姫路市 きたみち歯科医院 院長 -
反本 啓介
株式会社モリタ製作所 課長・工学博士 -
田中 剛
株式会社モリタ製作所 主査
IOSの進化の系譜
最初にIOSの進化の歴史について、北道先生からお聞かせください
1985年に「CEREC」システムの一部として、世界で初めて実用的なIOSが発売されましたが、当時は大型で操作も複雑なものでした。その後、急速な発展を遂げ、現在は小型・高速・高精度なデバイスへと進化し、印象材を使わない快適な印象採得が可能になるだけでなく、リアルタイムでの3D画像表示や、スキャンデータを用いたインプラント・矯正治療のデジタルシミュレーションなど、用途が多角化してきました。当院では、2005年に日本で初めて承認された「ブルーカム」の時に使用を開始しました。「ブルーカム」は当院ではまだ現役で動きますが、驚くほど精度が高くて、適合精度という面では、その頃からほぼ完成形に近かったと思います。その後、2013年頃に「CEREC Omnicam(オムニカム)」が発売されました。この「オムニカム」はパウダーフリーでのカラー撮影を実現した画期的な機種で、これにより歯科医療のデジタル化が大幅に加速しました。現在は、より高速・高精度な「Primescan(プライムスキャン)」へと進化を遂げ、さらにはTRIOSシリーズをはじめ他の海外メーカーも参入し、それぞれがしのぎを削っているという状況です。
近年のIOSは撮影装置から次のフェーズへと進化している印象ですね
そうですね。現在、IOSは撮影装置としてほぼ完成されていて、う蝕検知機能などを搭載するタイプも見られるようになりました。今後IOSは、診査診断の入口として活用される時代に入っていくと思います。今まではX線装置が診査診断における第一選択でしたが、これからはX線装置と並んで、IOSのスキャンデータで、患者さんの口腔内全体を診る方向へとシフトしていくでしょう。X線写真だけで経過を診ていた時代から、リアルな3D画像をスーパーインポーズされた状態で診ることで、私たち歯科医師の診断だけではなく、歯科衛生士による口腔管理も大きく変わってきていると感じます。当院では、初診の患者さんの場合、染め出した後にIOSでスキャンすることがすでにルーティンになっています。
ここまでCAD/CAM修復やIOSが活況になると予測されていましたか
いえいえ。正直ここまで急速な広がりは想像していませんでした。ただ、私の場合はもともと機械好きでしたし、スマートフォンやタブレット端末が登場した時点で、歯科にもいずれはデジタル化の時代が来ることは予測していました。当院には、現在IOSやCAD/CAM装置が数十台ほどありますが、その理由として、新製品が発売されると必ず購入して試してみないと気がすまない性分が影響して、どんどん装置が増えていったという経緯があります。
国内製IOS「Accuios(アクイオス)」誕生
このたびモリタから国内製のIOS「Accuios(アクイオス)」(図1)が販売されました
人間工学に基づいた使いやすいデザインで、開口量の小さい患者さんでも、無理なく口腔内をスキャンできる。
とても嬉しいですし、大いに期待しています。ただ、以前から、海外機種がこれだけ参入しているのに、なぜ国内メーカーは傍観しているだけなのかとずっと不思議に感じていました。ですからモリタがとうとう自社製品を販売すると聞いても、それほど驚くことはなくて「とうとうモリタがやってくれたか」という印象でしたね。
モリタ製作所がIOSの開発に携わるようになった経緯について、お聞かせください
私たちモリタ製作所は元々IOSに関する技術ノウハウをまったく持ち合わせていませんでした。ですので、ゼロからのスタートだったわけです。その中でIOSの開発に踏み切った理由として、弊社製品には歯科用CTが以前からラインナップされていますが、CT画像は、光が届かない人体の内部構造まで撮影できる反面、解像度としてはIOSには及ばないという性質があります。一方で、CT画像で得た骨格情報とIOSでスキャンした歯肉・歯列情報をマッチングさせ、インプラントのシミュレーションや、精度の高い矯正治療計画に活用するなど、診断から治療計画、補綴装置製作までのデジタルワークフローを構築することが世界的なトレンドになっています。そこで弊社では、新たに高精度のIOSを自社開発することで、今後主流になると考えられているデジタル機器やサービスと連携した新しい診療に対応し、IOS単体ではなくCT等の他製品の売り上げも伸ばしていこうという計画から、この度のIOS開発がスタートしました。
開発開始から製品化に至るまで、予想以上に時間がかかったと伺いました
実は、国内の技術力をもってすれば比較的簡単に製品化できるだろうと考えていたのですが、とんでもない誤解でした。歯は神経の集合体でもあって、わずかな適合誤差であっても患者さんには敏感に影響を与えるため、非常に高い解像度の画質が必要なことが開発途中で見えてきたのです。そのため、開発に当初予想していた以上の時間が必要となり、販売計画を大幅に見直す必要が出てきました。
IOSとしては後発機種になりますので、シェア獲得のためには新たな特長も必要になってきますね
はい。開発に当たり、まず現在市場で販売されているIOSの特徴をつぶさに調査するところから始めました。実際にそれらを私の口腔内に入れて試してみたりもしました。すると、私たち日本人の口にはスキャン部分のサイズが少し大きいということがわかりました。そこで弊社では、「人にやさしい設計」をメインコンセプトに、患者さんと先生方にとって、痛みや不安が少なく、持ちやすく使い勝手の良いIOSの開発を目指すことにしました。その過程で、北道先生をはじめ、多くの先生方からアドバイスをいただけたことで、時間はかかりましたが最終的に納得のいく製品に仕上がったと自負しています。
私は元々ハンドピースの開発で携わっておりまして、IOS開発チームの立ち上げと同時に、メンバーに加わりました。私としても、装置の大きさに加えて、作動時の音や振動など、若干気になる部分も見られましたので、そうした部分をきめ細かく設計することを目指しました。また、後発機種ですので、より信頼度の高い、日本人が元々持っている感性にマッチするような製品づくりも開発の際の大きなポイントでした。
人にやさしいIOS「Accuios」の特長
「Accuios」の特長について教えていただけますか
IOSの測量原理は「共焦点法」と「三角法」に大別されますが、「Accuios」では共焦点法を採用しています。一般的に共焦点法は品質や精度が高い反面、装置が大型化し、コストも高価になる傾向があります。ただ、弊社としては、歯科用CTで培った高解像度へのこだわりがあり、そのこだわりを優先した結果として共焦点法を選んだわけですが、デメリットの克服については、内製技術を駆使して、光学系、レンズ駆動モータ、電子基板の小型化・軽量化を実現しています。また、共焦点法を採用したIOSは、装置内部でレンズが駆動する音や振動が大きいことが課題でしたが、「Accuios」では独自の静粛な機動機構を採用しているため、患者さんや術者の先生方に与える不快感が軽減されています。
口が小さい方や開口量が少ない方でも最後臼歯遠心部分のスキャンが快適に行え、歯肉などにチップが当たっても痛みを感じにくいように、スキャンチップをラウンド形状にしています(図2)。また、スキャンチップ部分のガラスウィンドウをなくしてオープンタイプにすることで、チップ内側を大臼歯に被せてスキャンできるため、患者さんの開口の負担を軽減することができます(図3)。
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図2 スキャンチップはラウンド形状を採用。開口量の少ない患者さんでも、歯肉に接触した際に痛みを伴わずに遠心部までスキャンが可能 -
図3 先端部分はガラスウィンドウがないオープンタイプなので、大臼歯に被せてスキャンすることができる。
術者側の特長としては、ペングリップしやすい形状や重心バランスにもこだわっています(図4〜6)。さらにクレードルと呼ばれる装置を置くための台座にも様々なギミックが詰まっています(図7)。こうした細部へのこだわりは、弊社がこれまで手がけてきた人間工学に基づいた数々の製品開発のノウハウとして「Accuios」に注ぎ込まれています。
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図4 人間工学に基づき、コンパクトでペングリップしやすい形状を実現。重心位置を中心軸よりもずらした位置に設定することで、スキャンの際に術者の操作が楽で疲れにくい。 -
図5 ペングリップで人差し指を使ってスキャンチップの平らな面を持つようにすると、目視しなくてもカメラの向きがわかる。 -
図6 スキャンチップを180°回転させることで、使用しやすい持ち方でスキャンすることができる。 -
図7 術者のスムーズなピックアップ角度を考慮したクレードル。
また、北道先生からいただいたアドバイスにより、ミラー部分の曇り止め対策として、ヒータ方式ではなくエアブロー方式の機構を独自開発しています。曇り止めまでの待ち時間が少なく、歯面の乾燥状態維持が期待できるので臨床上のメリットも大きいと感じています(図8)。
「Accuios」の設計開発にあたっては、どの程度のスタッフの方が関わっているのでしょう
機械、電気、レンズ、ソフトの全てが社内で初めての取り組みでしたから、部署外のリソースにもお願いしながら、20名以上のスタッフが携わってきました。例えば、電気基板であれば、従来のカメラ用基板ではなく、高速撮影に耐えられるだけの高周波回路という難易度の高い設計が必要でした。また、内蔵されているCPUを冷却するためのファンも通常のサイズだととんでもない大きさになってしまうので、それをいかにコンパクトに収めるかをチーム一丸で意見を出し合いながら設計しました。
設計当初はハンドピース部分の太さが今の2倍近くになっていて、最終的にはコンマ数ミリ単位で部品を削っていくといったことを、全ての部品について繰り返し行っています。
設計開発にあたって、他にどんな部分で苦労されたのでしょう
私はレンズなどの設計をはじめとする光学系の技術者です。「Accuios」にはたくさんの高性能なレンズが使われています。高い精度を出すためには、レンズの表面が決して汚れてはいけませんし、組み立ての際に指紋が付くなどはもっての外です。しかし当時社内には、繊細なレンズを組み込むための設備がありませんでした。そのため、組み立て用の設備を導入して運用するところからスタートしました。最初は、組む際にレンズの接着剤がはみ出したり、所定の位置にレンズをセットするつもりが斜めにずれてしまったりといった初歩的なトラブルがたくさん起こりました。そうした課題を一つひとつ丁寧に解決していく過程が苦労しましたね。製造部門のメンバーと共に試行錯誤しながら、それらを乗り越えることで、安定した品質で高精度の画像を提供できるようになりました。
ハードウェアとしても、これまで社内はもちろん、おそらく国内でも製造ノウハウを持たない装置だったことに加えて、共焦点法を選択したことで、さらに難易度が上がりました。
確かに共焦点法だと、いろんな面でハードルが上がりますよね。
そうなんです。三角法の方が軽く、早く、低コストで作れるので、後発メーカーは三角法で製造することが多いようです。しかし、モリタ製作所としてはこれまで培ってきた高精度の画像生成や処理の技術へのこだわりがありますから、あえて共焦点法を選んだ経緯があります。
そのあたりのモリタ製作所のこだわりは、歯科用CT開発の時と似ていますね。
そうでしょうか(笑)。比較的小さな装置の中で、直径十数ミリほどのレンズを往復しながら数ミリ程度動かす技術は、当初では想像できないような世界で、他社メーカーさんもここでかなり苦労されたと思います。弊社でも、どのような駆動機構を採用し、実用化していくかについては大いに悩みました。検討する際には、似た機構で既に実用化されている製品を参考にするのがセオリーですが、例えば直線的に往復運動を繰り返す機構として、髭剃りや歯科の超音波スケーラーを参考にするという発想もありました。しかし、高速で微細に動かす機構にはすでに多くの実用例がある一方、IOSのレンズ駆動機構の参考になるような、ある程度のスピードでレンズ程度の大きさを数ミリ往復させる製品は他に見当たりませんでした。そこで独自に試作品を製作しシミュレーションを繰り返して、何度もボツにしながら少しずつ前に進めていきました。また、ようやく設計が固まった後も、製造現場から「こんな複雑なものは作れません」というダメ出しを何度も受けました。それをまさに数年単位で行っていく中でプロトタイプが完成したのが、2020年頃だったと思います。当初目指した無振動、無騒音、長寿命のレンズ駆動モーターが完成するまで、まさに苦労の連続でした(図9)。
「Accuios」は、本当に駆動音も静かだし、振動もほとんど感じません。素晴らしいレンズの駆動機構だと思います。
「Accuios」の使用感と将来展望
「Accuios」を実際に使用された感触はいかがでしたでしょうか
私はIOSの性能を評価するポイントとして、スキャンスピードと精度の高さをもっとも重要視しています。「Accuios」はコスト面や作りやすさよりも、スキャン精度の高さを優先して共焦点法を選びましたが、さすがは品質にこだわるモリタだなと思いました。精度面では、現行のハイスペックなIOSに全く引けを取らない高い性能を持っているのではないかと思います。ただ、共焦点法のIOSはピントが合った部分を拾ってスキャンしていくので、対象物とのピントがずれる歯列不正が苦手なんです。しかし、そこはモリタの技術をもって改良してくれると期待しています。持った感じの重量バランスも絶妙で、長時間使っていても疲れにくいと思います。精度に関しては、もう太鼓判を押せるほどのクオリティですので、複雑な内側性窩洞のインレー修復などに特に向いていると思います。内側性窩洞は使用するIOSによって精度に差が出ますから、その点で「Accuios」の性能が十分に発揮できるのではないでしょうか。インレー修復は歯科医院にとって頻度の高い処置でもありますから、長時間使用していて疲れにくいことも私たちにとってはありがたいメリットだと感じます。
お使いのデジタル機器との連携や互換性についてはいかがでしょうか
当院ではモリタのレセコンや画像管理システムを導入していますから、歯科用CTをはじめ、その他のデジタル機器との互換性は良好です。「Accuios」を使用する際にも、新たに患者情報を入力する必要はありません。日々の忙しい臨床の中で大きな時短に繋がりますし、精神的なストレスから解放されます。また、私たちがいちばん困るのが、患者さんを前にしてデジタル機器がうまく作動しないことです。あのときほど焦ることはないですからね。モリタのシステムだとデジタル機器は一元管理されていますし、そうしたトラブルはこれまでほぼ経験したことはありません。
モリタとして今後計画されていることがあればお聞かせください
今後はスキャンした3Dデータを活用するための連携ソフトを開発中です。モリタのプラットフォーム上でIOSやCT画像を組み合わせて、インプラント治療や矯正治療のシミュレーションにシームレスに活用できることを考えています。また、スキャン画像やシミュレーションしたデータをワンクリックで歯科技工所に送信できるような機能拡張も合わせて利用可能です。
北道先生から今後「Accuios」に期待することや、IOS導入を検討されている先生にアドバイスをお願いします
「Accuios」に関して言えば、スキャンスピードがさらに向上することと、ワンショットの撮影範囲(FOV)をより広くしてくれれば、どちらも時短に繋がるので嬉しいですね。また、今後IOSの導入を検討されている先生には、やはり故障時の修理対応やアフターフォローのスピード感など、「Accuios」には国内製品ならではの強みがありますから、今後IOSの導入を考える先生方にとって、有力な選択肢の一つになりうる製品だと思います。
最後に「Accuios」の製品開発に携わったお二人からメッセージをお願いします
技術者としては個人的な意見かもしれませんが、モリタ製作所に入社以来11年間、ずっと「Accuios」に関わってきて、今や我が子のような存在です(笑)。この度、ようやく先生方にお使いいただけることは感無量の思いです。
全てにおいてバランスが良く、完成度の高いIOSが完成したと感じています。まずは多くの先生方にお使いいただいて、いろんなフィードバックをいただけることが今から楽しみです。ぜひ様々なお声をお聞かせいただければ幸いです。