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Adverl SH 開発者インタビュー PART.1 臨床でもっと使っていただくために 高パルス・高出力化とコンパクト性を両立

2011年発売の「Erwin AdvErL EVO」から13年。その後、課題や要望などさまざまなインプットを可能な限り受け止め、次世代の歯科用レーザーとしてふさわしい仕様や機能を備えた「Adverl SH」がついに誕生しました。ここに至るまでの数々の創意工夫や試行錯誤について、製品開発を担当したお二人に伺いました。

Part.1
臨床でもっと使っていただくために
高パルス・高出力化とコンパクト性を両立

待望の新製品「Adverl SH」(以下:アドベールSH)が発売となりました。
開発担当者としての感想からお聞かせください

濵田:

まず「Erwin AdvErL EVO」(以下:アドベールEVO)の後継機種をどのような仕様にしていくのか、とスタートの時点からかなり時間をかけて検討を行いました。お使いいただく先生方や販社であるモリタの担当者の方からいただいたご要望やご意見を可能な限り実現させたい。それが構想時からの大きなモチベーションとなり、実現に向けた取り組みを粘り強く進めることができました。その結果、このアドベールSHは、ベテランのユーザーの方にはもちろん、レーザー初心者の先生方にも“導入したその日から迷うことなくお使いいただけます”と自信を持って言える製品になったと感じています。

勝田:

難産だった赤ちゃんがやっと生まれた感じです(笑)。レーザー製品の開発・製造部門・品質技術部など、いろんな部隊が関わってここまで作り上げることができたので、まさにチームの総合力を結集した結果生まれた製品と言えます。

  • 濵田 和典
    株式会社モリタ製作所
    第一研究開発部 治療機器開発3グループ 濵田 和典
  • 勝田 直樹
    株式会社モリタ製作所
    第一研究開発部 治療機器開発3グループ 勝田 直樹

アドベールSHの開発にはどれだけの人たちが関わってきたのでしょう

濵田:

まさに第一研究開発部が全員総出で関わってきた印象でした。

勝田:

まさに総出でしたね。製品評価では若手社員に頑張ってもらいましたし、組み立てやすさを追求するために生産技術部や製造部からも数名来ていただき、実際に組んでみて「この部分が組みにくいから改良してほしい」と設計変更を依頼するなどのやり取りが何度もありました。さらに、品質技術部と開発部が頻繁に連携を取りながら、市場で満足していただける品質確保を目指して、チーム全員で作り上げたという言葉がふさわしいと感じます。

モリタ製作所では新製品開発のたびにチームを結成されるのでしょうか

勝田:

各部門から関わる担当者が割り当てられて、そのメンバーでミーティングを重ねながら作り上げていくイメージです。生産間近になってくるとさらにいろんな部門が関わってきますので、打ち合わせの頻度は増えてきます。

濵田:

試作の初期段階では開発部で設計して必要な部材を調達し、それを部内で一度組んでみて評価するという流れなのですが、フェーズが進んでくると他の部署のスタッフにも協力してもらいながらだんだん規模を拡大していく感じですね。

では、最初の試作品は第一研究開発部の皆さんだけで仕上げるということですか

勝田:

私たちは開発試作と呼んでいますが、ある程度のところまで私たち開発メンバーで組んでみて評価します。

濵田:

評価については、メカ屋、電気屋、光学屋、それぞれのグループで行いますので、それに見合った数の試作品が必要になります。ですから試作品に関わるスタッフも大勢いますよ。

勝田:

図1 ピンク色の細長い棒のようなものがEr:YAGレーザーのロッド体。
図1 ピンク色の細長い棒のようなものがEr:YAGレーザーのロッド体。
レーザー機器でもっとも重要な発振器の研究開発は、最初2, 3人からスタートします。私たちはメカ屋ですが、それ以外に電気屋、光学屋からそれぞれ1, 2人が招集されます。発振器の中にある共振器は、フラッシュランプを発光させてEr:YAGレーザーのロッド(図1)から出るレーザー光を増幅させる機構になっています。そのランプを光らせるための電源を設計しているメンバーもいますし、どういう共振器構成にすれば効率良くレーザー光を発振できるかを検証するメンバーもいます。
図1 ピンク色の細長い棒のようなものがEr:YAGレーザーのロッド体。
図1 ピンク色の細長い棒のようなものがEr:YAGレーザーのロッド体。

濵田:

いくらコンパクトで性能が良くても組めなければ意味がありませんから、チャンピオンデータではなく、製造現場で組めるところまで設計段階から落とし込むという作業もあります。あとはメンテナンス上の問題ですね。フラッシュランプは消耗品で、消耗すれば交換する必要があります。それをストレスなく交換できるように検証を行っています。

勝田:

“狙った通りの性能が出せた”というだけで終わってしまうのではなく、とくにアドベールSHでは、組み立てやすさ、メンテナンス性の向上などを意識した設計変更を発売間際まで行ってきました。

アドベールSHの開発でもっとも大変だったのはどの部分でしょう

勝田:

いちばん大変だったのは発振器の部分です。まずはレーザーの種となる蛍光を発生させ、それをレーザーとして効率よく増幅させるという基本性能を担保することが第一でした。次に、最初のデザイン画を実際に製品の形状にしていくという段階で、サイズ感を含めてうまくその中にパッケージングしていくという作業が大変でしたね。

濵田:

これまでアドベール EVOでは、硬組織や軟組織、歯周組織など幅広い適応症例を持ち、低侵襲で患者さんに優しい治療を実現するデバイスとして高い評価をいただいてきたと感じています。しかし一方で、処置に時間がかかり、とくにエナメル質などの硬組織がなかなか効率的に切削できないという課題を抱えていました。その課題を克服するため高パルス化・出力範囲の拡大やHard/Softの2モードを搭載するなどの性能向上を実現し、且つできる限りコンパクトに収めたいというところのバランスを保つのはとても大変でした。切削効率のアップだけを考えれば高パルスに対応する大容量の電源を備えれば可能ですが、そうすると機器自体のサイズが大きくなってしまいます。それでは私たちが目指す“コンパクトで使い勝手が良いものに改良して臨床でもっと使っていただきたい”という想いから離れてしまうのです。

では、どのようにして高パルス化と小型軽量化を両立させることができたのですか?

勝田:

図2 右がアドベールSHの発振器。アドベールEVO(左)と比べて大幅な小型化を実現。
図2 右がアドベールSHの発振器。アドベールEVO(左)と比べて大幅な小型化を実現。
発振器に内蔵されている共振器を小型化、高効率化できたというところがいちばん大きいと思います。それは、発振効率を向上させることで、装置内部の電源や冷却機構を小さくすることができるからです。

濵田:

確かにそこに今回の開発の多くが集約されていると感じます。ノウハウもたくさんあるので具体的には解説できないのが残念ですが、発振器の中の構造はアドベール EVOからはガラッと変えています(図2)

図2 右がアドベールSHの発振器。アドベールEVO(左)と比べて大幅な小型化を実現。
図2 右がアドベールSHの発振器。アドベールEVO(左)と比べて大幅な小型化を実現。

アドベール EVOの発振器の発想では高パルス&コンパクト化は実現できなかったということでしょうか

濵田:

できなかったと思います。ボディをもっと大きくすれば可能だとは思いますが、その部分でのせめぎ合いでした。そこは何度も設計の見直しを図ってトライ&エラーをひたすら繰り返しました。

高パルスになることで、臨床的にはどんなメリットがあるのでしょう

勝田:

図3 同じ手技速度で切開した場合の豚下顎骨切開痕を比較。(術者:東京医科歯科大学 水谷幸嗣先生)
図3 同じ手技速度で切開した場合の豚下顎骨切開痕を比較。(術者:東京医科歯科大学 水谷幸嗣先生)
硬組織では切削時間が大幅に短縮されました。一方、軟組織では切開速度が短縮されると同時に、切開時の引っかかりも軽減され創面もアドベール EVOに比べて滑らかでキレイに仕上がります。このことは治癒期間の短縮にも繋がり痛みの軽減にも寄与すると考えられます。

濵田:

これまでアドベール EVOの時に評価をくださっていた先生方にも豚の顎骨を使って実際に試していただき、使用感に関して高い評価をいただくことができました(図3)。さらに、先生方のそうした使用感を裏付ける検証も大学や研究機関に協力を仰いで、エビデンスの構築も行っています(図4, 5)

図3 同じ手技速度で切開した場合の豚下顎骨切開痕を比較。(術者:東京医科歯科大学 水谷幸嗣先生)
図3 同じ手技速度で切開した場合の豚下顎骨切開痕を比較。(術者:東京医科歯科大学 水谷幸嗣先生)

  • 切削量比較(mm2)
    図4 硬組織切削に関する裏付け評価結果
    アドベールSHはアドベールEVOと比較して約1.5倍の切削量を実現。
  • 切削量比較(S)
    図5 軟組織切開に関する裏付け評価結果
    使用感を大幅に向上させながら切開時間は半減。

高パルス化を実現する過程で特筆すべきエピソードはありますか

濵田:

私自身が使用して検証するだけでなく、臨床家の先生に弊社までお越しいただき実際に使用感を試していただいて、アドベール EVOと比較して切削や切開の具合はどうか、新しい術式や今まで難しかった手技の簡易化が可能かどうかなどを伺いながら検証していきました。一般的にEr:YAGレーザーは熱影響が少ないという特徴があり、そのデメリットとして止血性能が低いことがこれまで言われてきました。しかし、アドベールSHではアドベール EVOの最大で2倍のパルス設定ができるため、例えば高パルスで連続波に近い照射が可能であれば止血性能も上がるのではないかという期待がありました。そこでブタの血液を使って試してみたところ、アドベール EVOよりも止血性能がかなり高くなっていることが分かりました。ところが、業者から購入したブタの血液には凝固を防止するヘパリンなどの成分が含まれているので、実際の血液とは条件が違うことが分かりました。そこで、実際の臨床現場で先生方に評価していただいたうえで、あらためて止血効果が期待できるとのコメントをいただくことができました。これまでEr:YAGレーザーの弱点とされていた部分も今回の高パルス化実現によって克服したいという思いはあります。

勝田:

そうですね。アドベールSHは、これまで止血効果を目的としてレーザーをお使いの先生方にも受け入れていただきやすくなるのではないかと感じています。

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