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スペースライン 開発者インタビュー PART.2 約四半世紀にわたりスペースラインの顔として牽引してきた『スペースラインイムシア』がついに販売終了

スペースライン発売から60年。ブランドを守り育てる難しさと
「理想のチェアユニットとは何か?」を追求する飽くなきクラフトマンシップ

2024年、スペースラインは発売から60年を迎えました。製造を⼿がける株式会社モリタ製作所では、当時設計開発に携わったスタッフがいない中、スペースラインの特⻑である“⼈が中⼼”の考え⽅や、使い⼼地の良さはいかにして受け継がれ、進化してきたのか。また、設計開発するうえでの難しさややりがいはどんなところで感じられるのか。設計開発に携わる6名のエンジニアにお話を伺いました。

スペースラインの開発を担う
6名のエンジニアたち

  • 由利 正樹
    由利 正樹
    技術開発部 部⻑
  • 大槻 拓也
    大槻 拓也
    技術開発部
    主席開発員
  • 奥村 大
    奥村 大
    技術開発部 課⻑
  • 阪口 修弘
    阪口 修弘
    技術開発部
    設計1グループ 主査
  • 沼田 訓正
    沼田 訓正
    技術開発部
    設計2グループ 係⻑
  • 馬野 峻哉
    馬野 峻哉
    技術開発部
    設計2グループ

Part.2
約四半世紀にわたりスペースラインの顔として牽引してきた
『スペースラインイムシア』がついに販売終了

このほど『スペースラインイムシア』が販売終了になりましたが、『イムシア』に関する思い出やエピソードがあればお聞かせください

阪⼝:

『スペースラインイムシア タイプⅢUP』
『スペースラインイムシア タイプⅢUP』
初めてスペースラインの開発に関わったのが『イムシア』でしたので、思い⼊れはひとしおです。当時はチェアユニットに関して何も知らない状態でしたので、かなり苦労しました。それまではタービンとモーターの回路がそれぞれ1つずつ搭載されているのが普通で、タービン2回路のタイプはありましたが、モーター2回路はありませんでした。ただ、徐々にモーター2回路を要望される先⽣が増え始め、その需要に対応するため、スペースラインでも、急遽もう1つモーター⽤の回路を搭載できる基板を作りました。スピード優先の突貫⼯事でしたが、何とか対応することができました。その他、マイコンを搭載することにより、それまでのスペースラインとは⼀線を画した先進性を持っていました。それまでの使い勝⼿は受け継ぎつつ、より品質も安定し、先⽣⽅にとっては「『イムシア』なら⼤丈夫」という安⼼感が⻑きにわたってヒットを続けてきた理由ではないでしょうか。もちろんこれからは『スペースラインEX』や『スペースラインST』、『スペースラインST BM』といった現⾏機種に良いご評価をいただきたいという気持ちはありますが、「『イムシア』も良かったよね」という声を聞きたいという密かな想いもあります。『イムシア』という名前はなくなってしまいますが、スペースラインの中で⼤きな役割を果たした機種であることに変わりはないと感じています。
『スペースラインイムシア タイプⅢUP』
『スペースラインイムシア タイプⅢUP』

⼤槻:

私は⼊社後早い時期から『イムシア』の開発に携わってきました。私にとって『イムシア』は⾃⾝を技術者として育ててくれた存在と⾔っても過⾔ではありません。その当時、3次元CADを使った成型やプレス⽤の⾦型を⼿配した実績がなかったのですが、『イムシア』の時に最初にチャレンジしたのです。社内にノウハウを持つ⼈がほとんどいない中で、ドキドキしながら⼿配したことを覚えています。『イムシア』が先⽣⽅に⻑く愛されたのは、構造がシンプルでありながら、⾼級感があり、メンテナンスも容易であったことがその理由だと思っています。先⽣⽅も安⼼して使うことができたのではないでしょうか。時代の流れで抗えない部分はあると思いますが、現在のスペースラインは少し機能を盛り込みすぎなところもあって、『イムシア』に⽐べると複雑なイメージです。イムシアの販売終了は残念ですが、シンプルで使い勝⼿の良い部分は、機能を重視した現⾏機種へのアンチテーゼとして定期的に振り返る必要があると感じています。

沼⽥:

初代『イムシア』が登場した時、私は⼊社前でした。それが今⽇に⾄るまで少しずつ改良され、その間、スペースラインのフラッグシップモデルとして、皆さんに親しまれてきたと思います。私は『イムシア タイプⅡ』、『イムシア タイプⅢ』の時に、基板やハーネス等を⼀部担当してきましたが、メインで設計を担当したのは、『イムシア タイプⅢUP』からだったと思います。『スペースライン スピリットV』で培った管路洗浄などの技術を搭載しました。スペースラインをお使いの先⽣⽅のこだわりを実現するために、制御⽅式も⼀新し、さまざまなオプションに対応できる共通のインターフェースを兼ね備えました。また、時代に応じて設定や基板などにも細かく改良を加え、今⽇までずっと進化し続けてきたと思います。⻑期にわたり、モリタ製作所の屋台⾻として⽀えてくれたのは、紛れもなく『イムシア』であり、販売終了になるのは、正直寂しい思いもありますが、今まで培ってきた『イムシア』の機能は、そのまま最新ユニットの『スペースラインSTBM』へと引き継がれていると感じています。


お使いになる先生方に想いを馳せる
追い求めるべき本当の「スペースライン」とは

あらためて、皆さんにとって「スペースライン」とはどんな存在なのでしょう

沼⽥:

⼊社していちばん最初に担当させていただいた機種でもあり、私にとって設計の原点でもあります。スペースラインの設計を通じて、さまざまな技術が求められ、それにた対して学びを深めていくことで、成⻑することができたという思いもあり、まさに「ともにあり続ける存在」であるとも感じています。ご使⽤いただいている先⽣⽅や患者さんにとっても、スペースラインがなくてはならない唯⼀無⼆の存在であり続けられるように、安⼼して最⾼の治療を提供できるチェアユニットを⽬指していきたいと思います。

⾺野:

私にとってスペースラインとは、⾃⾝の設計⼒を⾼めてくれる存在です。これまでお使いいただいている先⽣⽅や、⻑年スペースライン開発に携わってきた先輩⽅のお話から学ぶことがたくさんあり、⽇々勉強だと感じています。

阪⼝:

私は⼊社して40年になりますが、最初の10年は産婦⼈科や⽿⿐科で使⽤する機器をはじめ、医科⽤の診断機器関係に携わってきました。電気回路の設計開発が中⼼で、当時はマイコンを使わずに動作する機構が多かったのですが、その後マイコンを多く採⽤するようになり、制御システム⾃体が⼤きく変化していく過渡期を経験しました。私がスペースラインの開発に携わったのは『イムシア』からです。スペースラインをお使いの先⽣⽅は、⾒る⽬が厳しくて、使い勝⼿が少しでも変わると「前に使っていたものと違う」とすぐ気付かれます。多くの先⽣⽅に受け⼊れていただくことが⼤前提ではありますが、変えるべき部分は勇気を持って変えていく。それが難しさでもあり、やりがいを感じる部分でもあります。

由利:

⼊社後、技術開発部に配属されましたが、もちろん最初はスペースラインについて何も分かりませんでした。その後、設計開発に携わっていく中で、諸先輩や先⽣⽅からいろんなことを教わりながら、徐々に「スペースラインとは何か」を理解するようになっていったと思います。現在は、あらゆる製品を設計する上での「原点」であり、象徴的な存在であり、誇るべき製品だと考えています。

奥村:

最近は、設計業務は若いスタッフに任せて「スペースラインとは何ぞや」という⼤きな括りで考えることが多くなっています。先⽣にとっては楽に使えて利益を産んでくれれば良い。チェアユニットはそのための⼿段であり、「いかに疲れずに診療できるか」という部分で満⾜できれば良いということを伺います。⻭科の先⽣はチェアユニットの前で診療されている時間がいちばん⻑いのは間違いないところでしょう。先⽣⽅にとってチェアユニットは、タクシードライバーにとってのタクシーです。ともに過ごす時間が最も⻑く、⼤切な右腕であり、まさに息の合った相棒です。スペースラインの中でも『フィール21』は、よりこだわりをお持ちの先⽣が多く、その先⽣⽅のお話を伺うたびに、「先⽣⽅の思いをもっと理解して、若いスタッフに共有しなくては」と思いますが、若いスタッフは⾃分のスキルアップに懸命ですから、なかなかそこまで思いが⾄らないことも多いでしょう。そこで、私たちのようなベテランが、先⽣⽅が求めているものが何なのかを理解するために、先⽣⽅だけでなく販社であるモリタの⽅ともコミュニケーションをとっていくなど、スペースラインに関わる多くの⼈との関係を密にしていく必要性を感じます。

スペースライン フィール21タイプN
『スペースライン フィール21タイプN』
⼤槻:

私はおよそ25年にわたってスペースラインの設計開発に携わってきましたが、いまだに「スペースラインとはいったいどんな存在なのだろう」と考えることがあります。私たちというより、「先生方はどんなことを大切に感じながらスペースラインを使ってくださっているのか」ということに想いを馳せることが重要だと感じています。その点では、「これこそがスペースラインです」と自信を持って言えるところまで辿り着けていない気もします。歯科医院で使用する機械となると、治療を行わない私たちにとって100%理解することは難しい部分もあります。ただ、自分の趣味などに置き換えてみると、「道具として持っていて嬉しい」「使っていて楽しくなるようなもの」は確かに存在します。例えば私は自転車の乗ることが趣味なのですが、値段にかかわらず「この自転車は乗っていて気持ち良いな」と感じることはあります。チェアユニットもそれと同じで、先生方が使っていて気持ち良い、治療の際にストレスを感じない、その心地良さを追求していくことが大事なのではないかと思います。そんな究極のチェアユニットこそ私たちが追い求めるべき本当のスペースラインではないか。そんなふうに考えています。

開発者一同の写真