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トルクテック 開発者インタビュー PART.2 トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド

モリタでは、多くの先生方からのご要望に応えるため、2022年10月に『トルクテック5倍速ウルトラミニヘッド』を発売しました。トルクテックシリーズの発売から12年、モリタ製作所のエンジニアたちが長年培ってきた高い技術力とたゆまぬ創意工夫の結果、多くの困難を乗り越えようやく生み出された製品です。
Part.1では『トルクテック5倍速コントラ』について、Part.2では『トルクテック5倍速ウルトラミニヘッド』開発に関するエピソードを開発者の一人であるモリタ製作所 田中仁氏に伺いました。

Part.2
『トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド』開発秘話
“作るなら世界最小を目指して!”

2022年、『トルクテック5倍速コントラ』にコンパクトヘッドタイプの
『ウルトラミニヘッド』が新たにラインナップされましたね

田中:

2010年のトルクテックシリーズ発売と機を同じくして、エアタービンでは『ツインパワータービン ウルトラシリーズ(パワフルマイクロヘッド)』を発売しました。タービンの場合、ヘッドを小さくすると羽根車も小さくなりパワー不足に陥ります。そこで当社では「ダブルインペラー」という新たな機構を採用することで、強力なパワーとコンスタントなトルクを実現し、先生方から高い評価をいただいていました。

ツインパワータービンのダブルインペラーシステム
その後、「5倍速コントラでもヘッドサイズを小さくならないか」という要望が多く聞かれるようになりましたが、その実現にはタービンヘッドの小型化にはない困難な壁がありました。タービンではインペラーサイズを小さくすることでヘッドの小型化を行いますが、5倍速コントラの駆動源はモーターですから、同じ発想でギヤを小さくしてしまうとギヤやベアリングにかかる負荷が大きくなり耐久性に問題が生じます。そこで、ギヤシステムを変えずにベアリングを小型化し、さらに耐久性をプラスしていく必要がありました。

ヘッドの小型化にはタービンにはない難しさがあったわけです
ベアリングにはどんな改良を加えたのでしょう

田中:

通常のベアリングは、ボールが転がるリング状の溝の内側にある内輪と外側の外輪があって、中にボールを等間隔で保持するためのリテーナーと呼ばれる部品があります。ベアリングではリテーナーがもっとも重要で、同時にいちばん破損しやすい部分でもあります。リテーナーの素材には金属を採用することが多いのですが、金属製だと高速回転するとすぐに摩耗してしまうので、『ウルトラミニヘッド』には特殊な樹脂素材を採用しています。樹脂は金属に比べ強度的には劣りますが、非常に軽量なので、高速回転時の摩耗には金属より強いという利点があります。一般的な樹脂は高温になるとすぐに劣化してしまうので、滅菌にはとても弱く、繰り返しオートクレーブ滅菌を行うと強度が低下し破損する恐れがあります。そこで『ウルトラミニヘッド』のリテーナー部分には、耐熱性に加え耐蒸気性も備える特殊な樹脂素材を特別に使用しています。

素材のほかに構造的な改良点があれば教えてください

田中:

ベアリングには「深溝軸受」と「アンギュラ軸受」という2つの構造様式があります。深溝軸受は深い溝の上にボールが乗っていて、リテーナーは片側からボールを保持し、外輪で蓋をしているようなイメージで、従来の5倍速コントラで採用されている様式です。『ウルトラミニヘッド』では、深溝軸受より大きな軸方向負荷も受けられる「アンギュラ軸受」を採用しています。アンギュラ軸受は溝が片側にしかなく、リテーナーがカゴ状になっていて、全周からボールを抱いているイメージです。このアンギュラ軸受を採用することでリテーナーの強度は約2倍に向上し軸ブレの少なさも実現しました。
ベアリングについては、実験や耐久試験を繰り返し行い、約5年の歳月をかけて現在の仕様に落ち着いています。タービンやコントラの心臓部分であると同時に、もっとも破損しやすい部分でもあり、時代とともに技術も常に進化していきますから、『ウルトラミニヘッド』の製品化を実現した2022年以降も、開発は終わることなく続いています。

『ウルトラミニヘッド』では注水方法も改良が加えられていますね

田中:

従来の5倍速コントラは「3点注水」を採用していますが、3点注水の場合、ヘッド内に複雑な管路が必要となり、どうしてもヘッド高が高くなってしまいます。そのため『ウルトラミニヘッド』では「1点注水」を採用しています。ただ、一般的な小型ヘッドに採用されている1点注水だと注水力が単純に3分の1になってしまいます。5倍速コントラの場合、タービンに比べて高負荷で使用されるケースが多く、切削部が発熱すると歯髄に悪影響を及ぼす恐れがありますからバーの冷却は重要です。その機能を確保するために中央部分に注水穴を設け、その両サイドに2つずつ、計4ヵ所のチップエア穴を配置し、中央の注水の流れにチップエアをぶつけることで扇形に注水が広がる「ワイド1点注水」を新たに採用し、バーの根元から先端まで広い範囲を冷却できるようにしています。1点注水では、注水位置がバーから外れやすく、それが原因で切削部が高温になり歯が焦げてしまう危険性もありましたが、「ワイド1点注水」により、注水圧とチップエア圧に左右されない独自の1点注水を実現しています。
(「ワイド1点注水」は現在特許出願中です。)

「ワイド1点注水」の噴霧状態
(左)的確な注水右 (右)不的確な注水
(チップエアなしで撮影。バーの温度上昇により高温になると白くなる示温材料が変色している。)

「ワイド1点注水」ではどんな工夫が施されているのでしょうか

田中:

エアの通り道であるチップエア管路は、通常はその管路が出口まで1本しかありませんが、『ウルトラミニヘッド』では出口のところで1つの管路を4つに分岐してエアを出しています。実物を見てもどこに穴が空いているか分からないほど小さな穴で、ひとつの穴が0.2ミリと髪の毛くらいの細さになっています。これを長年加工に携わったプロが英知を結集して加工しています。製造に携わる方々は社内研修によってスキルアップしており、非常に精密な加工や複雑な組み立て作業を行っています。中でも最終組み立てや製品検査は高いスキルが必要であり数名の限られた人員で行っています。生産性を考えるとあまり良いことではないとは思いますが、世界最小かつ高耐久を目指し続けるためには、そうせざるを得ない部分もあります。
「我が道を行く」ではないですが、精密で複雑な加工や組み立てをあえて選択することで、他には真似できない、オンリーワンの個性になっていくのでないかとも感じています。これまで諸先輩方から引き継いできた知識や技術、そして想いがありますから簡単に妥協することはできません。この『ウルトラミニヘッド』は「作るなら世界最小を!」を合言葉に、開発・製造チームが文字どおり一丸となってさまざまな課題に一つひとつ解決していった結果生まれた製品です。
こうした数々のこだわりによって実現した使い勝手の良さや耐久性の高さをぜひ臨床でご体感いただければと思います。

『トルクテック5倍速コントラ』「スタンダードヘッド」と「ウルトラミニヘッド」ヘッド部分のサイズ比較