「ベラビュー X800」の発売からおよそ9年の時を経て、第2世代としてこのたび上市された「ベラビュー X800+」。“高解像度で低線量”というコンセプトにさらに磨きをかけつつ、「+(プラス)」という名が示す通り、新たな機能が数多く搭載されています。開発にあたり、「ベラビュー X800」を凌ぐ製品を生み出すために、どのような試行錯誤や創意工夫がなされたのか。製品評価に携わられた新井嘉則先生をはじめ、株式会社モリタ製作所の開発メンバーの方々に伺いました。『デンタルマガジン』誌上で紹介しきれなかった内容を加え、拡大版としてお届けいたします。
Veraview X800+の開発を担う5名の開発者たち
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新井 嘉則 先生
日本大学歯学部 歯科放射線学講座
研究特命教授 -
桐村 晋
株式会社モリタ製作所 次長 -
杉原 義人
株式会社モリタ製作所 主査 -
松下 翔
株式会社モリタ製作所 主任 -
田中 遼平
株式会社モリタ製作所 主任
Part.1
「X800」の開発経緯と果たしてきた役割
「X800」の特徴やこれまで果たしてきた役割について、それぞれのお立場から振り返っていただけますか
2007年にパノラマX線装置に歯科用CTの機能を搭載した「ベラビュー 3Df」(ベラビュー X700:以下「X700」)が上市されました(図1)。この製品の販売を機に歯科用CTの普及が大きく広がりました。ただ、「X700」はフラッグシップモデルであるCT専用機「3DX」と比較すると画質が劣るという課題を抱えており、複合機でありながら「3DX」に肉薄する画像を得ることを目指して開発されたのが、2016年にデビューした「ベラビュー X800」(以下:「X800」)でした。「X800」の特徴は大きく3つあると思います。1つ目は、設計をゼロからやり直して、従来装置の2倍以上の剛性を持たせたことです。この剛性を得たことで、CT専用機に肉薄する精度を持つことが可能になったと言っても過言ではありません。
2つ目は、CT撮影に適した水平照射とパノラマ撮影に適した打ち上げ照射を両立させたことです。従来、X線の管球やセンサは非常にデリケートな装置ですから、動かすと位置がずれて、最終的に画像の精度が落ちてしまいます。そのため、センサ類の位置を動かさないことが大前提でした。「X800」ではその常識を覆し、フラットパネルセンサー(以下:フラットパネル)を移動させX線の入射角度を調整することで、アーチファクトの少ない高い解像度を実現しました(図2, 3)。
3つ目の特徴として、ピラー(支柱)の中心位置を変更し、360度撮影を実現しました。あらかじめ決められたサイズのX線室内で360度撮影を実現するために、ピラーの位置を角に移動させ、それによって回転半径を広く取ったのです。ただ、回転半径を広く取るということは重心がアンバランスになることを意味します。この機構についても全てゼロから検証を行い、実現したことが「X800」の独創性をさらに強調する要因になっていると感じます(図4)。
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図1 「ベラビュー 3Df」(ベラビュー X700) -
図2 フラットパネル位置を移動させることで、CT撮影に適した水平照射とパノラマ撮影に適した打ち上げ照射を両立。
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水平入射 -
打ち上げあり -
水平入射 -
打ち上げあり
図3 CT撮影時の水平照射によりアーチファクトの少ない鮮明な画像が得られる。 -
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図4 「X800」では、ピラー(支柱)の中心位置を変更し、360度撮影を可能にした。
「X700」は、もともとパノラマ装置にCT装置の機能を付加するアイデアからスタートしています。一方「X800」では、それとは逆に、CT装置をメインとして、そこにパノラマの機能を追加する発想から開発された製品ですから、とりわけCTの画質や機能には自信を持っています。その実現に際して、高品質な画像を生み出す入口となるセンサ部分については、各部パーツの刷新はもとより、様々な部分に変更を加えるなど、並々ならぬこだわりを持って開発に臨みました。
高画質を求める先生方は「X800」を名指しで購入していただいています。そのことは、先生方が画質へのこだわりを認めていただいている証しですから、開発に携わった一員としてとても嬉しく思います。
そもそも「X800」のライバルは自社の「3DX」なんですよ。そういう製品はこれまであまり例がないのではないでしょうか。
「X800」は全体を支えるベース部分が独特の形状をしているので、いかにしてデザインを保ちつつ剛性を持たせるかというところで、難しい設計だったことを覚えています。
コリメーターはX線の照射野を自在に変更する機構ですが、4軸で薄くすることに加えてフィルターのON・OFF機能など、様々な機構をコンパクトな照射器の中に搭載することも大変でした。
私が「X800」の開発を担当したのは入社2年目の時で、初めての新製品開発だったこともあり、とても印象に残っています。「X800」では、従来機種にはなかった様々な機能が追加されたことから、多くの補正用データを取得する必要があり、設置作業に非常に手間がかかるという課題がありました。設置にかかる時間を短くして、かつ安定した品質の画像が得られるように、そういった作業を自動で行うソフトウェアを開発することが大変でした。
「ベラビュー X800+」の開発経緯と新たに搭載された機能
このたび上市された「ベラビュー X800+」が開発された経緯についてお聞かせください
「X800」は、CTとパノラマの複合機でありながら、ともに専用機のように撮影できる画期的な製品でした。しかし、「3DX」には、まだ一歩及ばない部分があり、まさにそれを克服するために開発されたのが「ベラビュー X800+」(以下:「X800+」)と言えるでしょう。
「『X800』も良い製品だけど、〇〇の部分がもう少し良くなって欲しい」という先生方のお声を聞き逃さず、新たな製品化のヒントにさせていただきました。例えば、「X800+」で新たに搭載された「Endoモード」は、根管治療を行う先生方から、従来の「ハイレゾリューションモード」を超える高画質を求めるお声をいただき、それを反映させた機能となっています。
「X800」の「ハイレゾリューションモード」は特筆すべき特徴ではありましたが、一方で、解像力が上がるとノイズも上昇してしまいます。それは物理的にやむを得ない部分ではありますが、解像力を上げながら、ノイズをいかに抑えるかということに果敢にチャレンジした結果が実を結びましたね。
「X800+」では新たにどのような機能が追加されたのでしょう
機能 ❶計16種類の多彩なFOV(Field of View)を搭載
「X800+」では①φ30×30mm, ②φ60×60mm, ③φ170×50, 80, 145mmという、3つのFOVが新たに搭載されました(図5)。φ30×30mmは、主に根管治療を行う先生方のお声から、φ170mmは、主に矯正治療を行う先生方のお声がヒントになっています。さらに、φ60×60mmは、これまで「3DX」をお使いの先生方のお声を反映しています。φ30×30mmは「Endoモード」と関連して撮影領域を小さくすることで、低線量で1本の歯にフォーカスします。一方、60×60mmは2, 3本など複数本を撮影するのに有効です。
そうですね。さらにφ170mmでは「3DX」をお使いの先生方から、「(3DXと)同じサイズで撮りたい」というご要望にもお応えしたということでしたね。
その通りです。小照射野のFOVは、設計を綿密に組み上げておけば、それほど大変ではありませんでした。一方、φ170mmは、従来のフラットパネルでは撮影できないため、それを最初から開発するところから始まりましたが、それがFOV拡張の中でもっとも大変な工程だったのではないでしょうか。FOVに変更を加えるために新しいフラットパネルを開発する必要がありました。そして、この変更はハード・ソフト面で、様々な改善や調整を伴う難度の高い作業となりました。
数え切れないほど多くの画像を撮影して、環境をいろんなパターンに変化させながら、画像がザラつく原因は何なのか、既存のフラットパネルでは問題がないのに、新しいパネルではなぜかノイズが出る。そうした不具合の原因を特定する目的でテストを繰り返しているうちに、実は感度が良すぎて製品の他の部分から出ているノイズを拾っていた、というような想定外のトラブルもありました。もちろんノイズに対する耐性を上げられるよう調整しながら、それらを1つずつ潰していくステップを毎週ミーティングを重ねながら行っていきました。
最終的な画像を検証すると、周期的な成分が乗っているノイズということが想定されました。フラットパネルはそういった成分も検出してしまうので、CT 画像やパノラマ画像のもととなる投映データにもそうしたノイズ成分が乗っているわけです。そういったノイズの周波数を解析することで定量的に評価ができないか試してみたところ、想定通りにノイズを定量的に評価することができるようになり、製品化の最終段階まで活躍してくれたソフトウェアになりました。
ノイズが軽減された画像は、最終的に先生方がご覧になる画像になりますが、そのプロセスに含まれるノイズには様々な種類があるので、それがフラットパネルの問題なのか、回転制御系やX線発生回路の問題なのかを徹底的に検証していきました。その結果、従来製品を凌ぐ画像性能を実現することができました。
ノイズの原因を1つひとつ潰していく過程では、私たちソフトウェア担当者も、自らソフトウェア開発のための試作機を作ったりしながら検証を進めていきました。その評価を始めたのが2020年頃だったと思いますから、足掛け4,5年ほどはかかっていると思います。
FOVの拡大に伴ってフラットパネルも大きくなりましたが、装置の外装形状は変えない方針でしたので、大型化したセンサーをいかに従来の形状内に収めるかに関して、機械担当として頭を悩ませましたが、フラットパネル以外の部品を再検討し、部品の小型化により納めることに成功しました。
「X800+」が上市されたことで、FOVのラインアップが全て揃ったと言えると思います。その中から、開業時に最低限必要なFOVのモデルを選ぶことができます。そして、これからの長い臨床の中で、さらに大きなFOVが必要になった時に、手軽にバージョンアップができるところが「X800+」最大の利点だと思います。つまり、新たな臨床にチャレンジしようとするタイミングに最も適したFOVをプラスできるということですね。