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  • 「歯科漂白材ピレーネ」の臨床活用の実際
  • 歯科用漂白材「ピレーネ」の臨床応用
  • PYRENEES「ピレーネ」がめざすもの

歯科用漂白材「ピレーネ」の臨床応用・東京歯科大学保存修復学講座 加藤純二・西新井デンタルクリニック(東京都足立区) 守矢佳世子・橋本歯科医院(埼玉県さいたま市) 関本智信・篠木歯科医院(埼玉県川口市) 篠木毅・東京歯科大学保存修復学講座 平井義人


はじめに

この度、オフィスホワイトニング用として二酸化チタン含有低濃度過酸化水素水の漂白材ピレーネ<三菱ガス化学社製造・モリタ社発売>を使用する機会があったので、その特長と使用方法を紹介したい。
現在、歯の漂白には、オフィスホワイトニング法とホームホワイトニング法の二つの方法がある。
わが国では、オフィスホワイトニング材として松風ハイライト<(株)松風>、ホームホワイトニング材として松風ハイライト・シェードアップ<同>、ナイトホワイトエクセル< Discus Dental社> 、オパールエッセンス<Ultradent社>の4種類が認可を受けている。また、認可されていない数々の外国製品もある。
オフィスホワイトニング材には、基本的に20〜35%の高濃度過酸化水素水が使用されている。そのメカニズムとして、過酸化水素水から発生されるハイドロキシラジカルによって漂白効果が生じるといわれる。
これら高濃度の過酸化水素水を含む漂白材は漂白効果が高いものの、漂白された歯質は本来の様相とは異なりスリガラス状の人工的な白さを呈する場合が多く、歯の光沢感は得られない。
また高濃度の過酸化水素水を使用しているため術前に歯肉や口唇および眼のプロテクトが不可欠であり、またエナメル質の薄い歯頸部付近では知覚過敏などの不快症状が出やすいとも言われている。


そのようなことから、現在の漂白治療の流れは、10〜20%の過酸化尿素を主体としたホームホワイトニング法に移りつつある。
ホームホワイトニング法はマウスピース状のトレーを使用するため、オフィスホワイトニング法に比べ歯肉に対する為害作用は少なく、知覚過敏の発生も少ない。しかし、色調の変化はオフィスホワイトニング法には及ばない。
また、毎日数時間のトレー装着を数週間にわたって継続する必要があり、最終的には患者さんの使用頻度に依存するため、効果の差が大きい。
さて、この度(株)モリタ社から発売される漂白材ピレーネ<製造元:(株)三菱ガス化学>は、オフィスホワイトニング材としてはわが国で二番目に認可を受けた製品である。
この製品の特長は、消毒用オキシドールと同じ3.5%という低濃度過酸化水素水ながら、配合されている二酸化チタンが光触媒として働くことにより、漂白材として機能することである。
このため口腔内で安全に使用することができ、また他のオフィスホワイトニング用(pH3〜5)に比べて溶液のpHは6と中性に近く、歯質に与える影響は少ない。ピレーネの漂白効果は、過酸化水素水に加え二酸化チタンからも発生するハイドロキシラジカルによるが、二酸化チタンの反応のためには青色系の光照射が必要となる。
詳しい製品の紹介は次項に譲るとして、実際の使用方法、使用感を述べる。

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症例

症例1 主訴:下顎の前歯と上顎犬歯の黄色味をとりたい。25歳女性。
漂白術前と漂白術後
症例2 主訴:歯全体を白くしたい。34歳男性。
漂白術前と漂白術後
症例3 主訴:歯の色彩を明るくしたい。38歳女性。
漂白術前と漂白術後
漂白2回目術前と漂白2回目術後
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ピレーネの使用の際の特長および問題点

ピレーネを実際に使用した感想は、とにかく簡便だということである。はじめに述べたように、過酸化水素水の濃度は消毒薬と同程度であり、口唇や歯肉の保護のための専用プロテクトなどの必要がなく、術前準備がかなり短縮できる。漂白材自体も過酸化水素水と二酸化チタン粉末を混ぜるだけなので、すぐ処置に入ることができる。
また、術中の漂白材の歯肉への漏洩や術後の知覚過敏に神経を尖らせる必要もなく、術者も患者さんも安心して漂白に臨むことができる。この安心感は従来の漂白材では全く考えられなかったことである。


また、肝心の漂白効果であるが、測色計を使った最近の研究によれば、松風ハイライト<(株)松風>とほぼ同程度との結果が出ている。ただし、ハイライトのようなスリガラス様の白さとは異なり、透明感と自然な光沢感が出る仕上がりになる。これはハイライトの薬液がpH4.0と酸性であるのに対し、ピレーネはpH6.0と中性であることに起因すると思われる。したがって、透けない紙のような白さになるというイメージでこの漂白材を使用しない方がよい。
この漂白材の働きは歯が本来持っていた固有の白さを引き出すものである。したがって、PMTCの延長線上で使用するとその効果が最大限に引き出せると思われる。
また、初回の漂白後、1週間後に再度同様な処置を繰り返すと、さらに漂白効果が上がる。治験の報告では、1週間毎の3回の漂白を推奨し、最終漂白後24週間の観察では、後戻りはほとんどないと報告されている。
一方、この漂白材は使用する光源によって、漂白の速度および漂白効果が異なってくる。この漂白材の光吸収域は、405nm付近に一番高い吸収特性があり、420nm付近の波長まで吸収される。したがって、光重合レジン用の光源を用い
る際は、できるだけ高い出力をもち、420nm以下の波長を出せるものが望ましい。
症例2、3では高出力ハロゲン光源<クラレ社製:出力(1.4W/cm2 )>を使用しており、漂白時間が短縮されている。ただし、高出力光源は本来短時間の照射を想定して設計されているため、高温になりやすく連続照射できる時間は限られている。したがって、症例2では通常の出力(0.6〜0.8W/cm2 )の照射器を併用して使用している。
このように、本漂白材は光の強さで反応速度が変わるため、使用する光源によって、照射時間が変わる。したがって、多数歯の場合は数回に分けて漂白したほうがいい場合もあると思われる。

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まとめ

二酸化チタン含有低濃度過酸化水素漂白材ピレーネを使用した。この漂白材は、安全に、簡単に口腔内で使用できることが最大の特長である。
また、その漂白効果は、被験歯が本来持っていた固有の白さを引き出し、そこに光沢感が加わる。したがって、この漂白材の特長と効果を熟知して使用すれば、この漂白材は、我々の日々の歯科治療において大きなプラスアルァとなるに違いない。