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歯科医院経営講座190
デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮
- Question
- 当院では、新たなスタッフが入職しても十分に育成できていないのが現状です。時間や費用をかけてスタッフを育成することは大切だと思いますが、どうしても目先の対応に追われてしまい、とにかく慌ただしい中で診療業務を任せるに至っています。あらためて、人材育成の重要性や、今後の取り組み方などについて、ポイントとなる点があれば教えてください。
- Answer
- 歯科医院における人員管理で難しいのは、スタッフの定着を目指すだけでは不十分であり、さまざまな器具器材の用途や名称を覚えることのみならず、薬の違いやカルテの記載事項を理解できるようになるなど、より専門的な知識が必要とされ、人材の育成に関して非常に労力を伴う点があるでしょう。その状況にあっても、経営を安定させ確かな診療を提供するためには、スタッフの育成や教育は欠かせません。職場の中でそれぞれが役割を見出し、スタッフ一人ひとりが少しずつでも役立てる人材となるべく、院内で学ぶべきことを学び、外部研修等によりスキル向上を図る必要があります。
人材育成の取り組みを続ける
昨今は転職をすることの障壁が低くなり、短期間でも離職をすることが多く、人材育成のための継続的な研修等が難しくなってきています。しかし医院の考え方や業務の進め方などを早期に理解してもらうことや、スキルアップにより確かな歯科治療を提供することのほか、定着率アップを狙うためにも採用後の研修の取り組みは重視したいところです。
デンタル・マネジメント・コンサルティングが調査する資料においては、57.3%の歯科医院が院内研修を行っており、外部に派遣して参加する研修においては全体では43.6%が研修を行っています。厚生労働省が調査する「能力開発基本調査(令和4年度)*従業員規模30人以上の企業が対象」においても、職場において指導や教育を行うOJTを実施した事業所の割合が60.2%となっており、職場を離れて受ける外部研修などのOFF-JTを受講した労働者は33.3%という内容です。調査資料は異なりますが、歯科医院はより専門的な知識を要することなどから人材育成の重要性が高く、企業と同じく積極的に研修を実施することや、外部研修を活用しているといえるでしょう。
外部への研修参加は、診療時の代替人員の確保や出張費用の負担が生じることなどから、院内研修と比較すると実施率は低い傾向がありますが、経費計画などにより研修予算を準備し継続的に取り組みを行うことが大切です。
人材育成の計画を立てる
職種ごとにどのような研修を実施するか、あるいは外部研修へ参加する意図や目的、どのようなスキルを身につけるかについては人材育成の実施計画を立てるとよいでしょう。
1年の決算ごと、もしくは4月の新卒者が多く入職する時期などに合わせて、研修内容の選定や参加を予定する研修のピックアップおよび、研修参加予定者の選別を行います。研修費用や旅費等の経費については予算計画を立て、研修の実施や参加によって期待する効果を医院全体で把握するようにします。
院内研修の場合は、診療時間内に行うか別途日程を設定して行うかを定める必要がありますが、できるだけ対象となるスタッフ全員が参加できるように準備を進めるとよいでしょう。
外部研修へ参加した後には、研修で学んだことをレポートとして報告するとともに、スタッフ間で共有を図ることを目指します。主となるスタッフを中心にして、常に院内全体へ学んだ効果が及ぶことを意識した取り組みを進めてください。
歯科医院で研修費とする費用については、収入規模により多少の幅はありますが、全体では収入に対して約0.9%の比率となっています(デンタル・マネジメント・コンサルティング調べ)。院長が参加する学会や研修会などの費用も含まれますので、スタッフが参加する研修等とあわせて、収入全体の1%弱を研修費の目安として計画とするとよいでしょう。
即戦力の活用を図る

事業規模がそれほど大きくない歯科医院にとっては、院内で新人スタッフを育てる人材がいないことが大きな問題点です。働く環境の整備が進む半面、人材育成にかける時間を確保することもまた困難であり、十分にトレーニングを受けていない先輩スタッフが新人スタッフに仕事を教えるという環境が多くなります。
スタッフの定着を図るためには、十分に知識を備えたスタッフが一つひとつ丁寧に業務を教えることが望ましい状態ですが、そのために診療に影響が出るリスクを抱えているのが現状でしょう。
そこで、昨今活用が進んでいるアルムナイ採用を検討することも一つの方法です。アルムナイとは「卒業生」「同窓生」という意味の英語ですが、事業領域においては、過去の退職者を再雇用することによって、即戦力として活用しようとする動きです。歯科医院で検討可能な形としては、正社員として通常業務に携わることのほか、新人スタッフに対するトレーナーとして、短期間契約あるいは短時間勤務により人材の育成を行ってもらうことができます。
歯科医院を退職したスタッフの中には結婚や出産を機に離れた人材が多くいる中で、家計収入の足しに働き始めたいと思うスタッフがいるかもしれません。あるいは、副業を推進する時代にあって、本業の合間の時間を活用して働くことを望むスタッフがいるとすれば、歯科医院側でも業務を限定して雇用することは双方のメリットでもあるといえるでしょう。

- Advice
- 過去における労働経済の分析(2018年版-厚生労働省-)では、「外部研修等のOFF-JTや自己啓発支援への費用支出は、翌年の労働生産性等を向上させる効果が見られる」という報告があります。人材育成に積極的に取り組むことにより、従業員の仕事への向き合い方、モチベーションに大きな影響を及ぼすことを表しているものです。多くの物価が上昇し経費が増加する傾向において、研修費用を計画することやスタッフ育成のための人員を抱えることは非常に難しい状況ですが、数年先を見据えながらスタッフからスタッフへの業務の承継、育成は重要な点として第一に検討したいところです。
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