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第84回(197号)

第三者承継を検討する際に留意すべきポイント

デンタル・マネジメント・コンサルティング 門田 亮

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歯科医院経営講座197

デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮

Question
医院承継について、現在、院内には後を任せられる承継者がいないため、第三者に売却することを考えています。身内や勤務医ではない第三者へ売却する際の注意事項や、承継者がいない場合に、他に対処できる方法などがあればご教示ください。
Answer
歯科医院の売却に際しては、売却先の有無により、かかる期間が大きく異なります。売却先を探すところから始めるとすれば、当然売却する方は高く売りたいと思いますし、購入する側は安く購入したいという思いから、交渉の席に着くまでに、相当の時間を要することも考えておかなければなりません。したがって、売却することを決める、あるいは売却の意思を第三者に伝えた後、売却先が決まるまでの間には、過去3~5年間程度の経営状況を整理し、医院の現状を把握することを進めてください。医院収入や所得の推移、あるいは患者数や患者層の推移のほか、保有する設備や備品の耐用年数の確認、および現有スタッフの給与の変遷と、現時点で退職金がどの程度になるかなども把握します。
売却額の確認と今後の計画

歯科医院の売却額の試算、見積りを行うには、決算書等を参考にして評価を進めることになります。なかなかご自身で数字を見て金額を算出することは難しく、顧問税理士へ今後の意向に関する相談や情報提供を行い、次のような点について確認を進めます。
① 医院が保有する資産の売却による収入と、売却益にかかる各種税金等
② 営業権(いわゆる「のれん代」)の算出とその評価
③ 精算金の確認(保険積立金、仮払金、スタッフ退職金など)
同時に、売却後の生活に対する必要収入をベースに、売却後の手取りとして、どの程度が必要かを考えておく必要があります。希望する金額と実際の評価額の間に大きなズレが有る場合は、売却を決定するまでに対応策を検討しておかなければなりません。一つは、歯科医院の価値を上げる、あるいは維持するために、患者さんの獲得に努め、全力で収入の確保を進める必要があります。
一方で、経費の削減も必要ですが、院長が管理する経費、スタッフでも心がけることができる経費(水道光熱費、通信費、消耗品費、事務用品費)に分けて、経費削減の意識を高めるようにしてください。
つまり、来たるべき売却の時に備え、購入したいと思われるような歯科医院になるよう、経営体質の強化に取り組むようにします。

スタッフの処遇の確認

歯科医院の売却にあたり第一に考えるべきことは、スタッフの処遇です。スタッフにとっては、働く環境が変わることの不安は相当に大きいものです。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査によると、契約社員やパートタイム労働者、派遣労働者など、雇用条件が不安定な立場ほど、雇用の安定性に対する不安が高く、派遣労働者においては54.7%という高い比率で、不安やストレスを抱えているという調査結果が出ています。したがって、売却を行う際には、現有スタッフの継続的な雇用は確約されるのか否か、売却先から新たにスタッフが派遣されてくるのか否かなどを確認します。考え方が異なる経営者が歯科医院を経営していくわけですから、新たな雇用条件の確認が必要です。就業規則、給与規定、さらには退職金規定なども確認を進めるようにし、現在の雇用条件は維持されるのか、あるいは変わる部分はどういった点か、などを整理します。
雇用条件によっては、退職を申し出てくるスタッフもいるため、事前に全スタッフを集めて説明会を行うようにします。売却に至る経緯や売却先の情報などを伝える内容ですが、売却の理由については、スタッフがこれからも積極的に頑張ることができる環境づくりや雇用の継続性を期待していることなど、前向きな気持ちになれる要素を正しく伝えるよう心がけてください。

患者さんへの告知と配慮
売却に備えて価値を高めよう

歯科医院の売却によって、通院する患者さんも不安を抱くことになります。院長との関わりが大きいほど、院長を信頼して通院する患者さんの割合が多いことから、院長が変わっても、今と変わらない診療環境が保たれることを伝え、患者さんが離れないように最善を尽くすようにします。
患者さんへの告知時期としては、早すぎると早期に患者さんが離れてしまうリスクがありますし、直前すぎると患者さんの混乱が収拾しない中で売却を迎えることになりますので、売却前3か月程度を目処としてください。告知方法は、院内掲示を行うことで、現在通院している患者さんを中心に告知することができ、診療時には院長が直接患者さんに説明をすることが可能です。患者さんへの対応方法やスタッフの対応にバラつきが出ないように、あらかじめ院内で意識を合わせるミーティングを行うようにしてください。
理想的には売却前の一定期間について、現院長と新たに院長になる歯科医師が一緒に診療を行い、患者さんへの紹介、診療内容の引継ぎ、スタッフとのコミュニケーションなどを図れるとよいでしょう。売却により離れてしまう患者さんがいることはやむを得ませんが、最終的な売却評価にも関わることですので、影響を極力最小限に抑えることを目指してください。

売却に備えて価値を高めよう
Advice
最後に、売却先も承継先もないという状況への対処ですが、院長の所得のみを考えると、診療ができなくなるまで医院経営を継続する方が、今すぐに売却するよりも大きい金額を得る可能性が高くなります。つまり、できるだけ診療を継続しつつ、収入および患者さんの確保に力を注ぎ、少しでも長く診療を行う方が経済的には有利になると思われます。ただし、体力の衰えや設備機器の老朽化により、やむなく診療から退かなければならない場面に直面することでもありますので、この先10年間は診療を行えるとして、5年後でも売却価値を維持できるように、スタッフ主体の診療体制への切り替えを進めてください。勤務医がいれば、院長担当から勤務医担当に徐々に振り替えたり、歯科衛生士がいれば、メインテナンス重視の診療体制を敷いたりするなど、今より少し収入が減少したとしても、細く長く診療収入を得られる体制を整えることが最善です。安定的な収入が得られる経営体質であれば、この先5年後でも十分に第三者へ売却できる可能性が残りますから、今は売却先が見つからなくとも、長期にわたり売却候補先を探すということも検討してください。

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