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第3回 (116号)

歯周・予防の採算性を考える

デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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116

歯科医院経営講座

THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

21世紀の歯科医院経営~歯周・予防の採算性を考える~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

先に行われた衆議院総選挙では、「郵政民営化」一本に絞って選挙運動を繰り広げた小泉自民党の圧勝で幕を閉じた。獲得議席数は、実に衆議院の議席数の3分の2にも上る。このことは、憲法改正以外のどのような法案も、いくら参議院で否決されてふたたび衆議院に戻ってきたとしても、衆議院で承認され通過してしまうことを意味する。いわば、小泉純一郎首相の半独裁政治が確立したといっても過言ではない。
小泉首相は、来年9月の任期を迎えた後は退陣すると公言しているが、そのため、この一年間で加速度的にさまざまな改革を打ち出してくる可能性は高い。任期満了後に上がってくる「ポスト小泉」の選定にも、小泉改革路線を確実に踏襲しようとする人材を登用することは確実であろうし、「何でも通る」状況を維持しようと、任期いっぱいの4年後まで衆議院を解散しないという目論見も出てきている。
そうした中で早速、診療報酬を2~5%引き下げるという方針が出てきた。また、この方針を具体的に検討する部署が、これまでは厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会が行ってきたが、2006年度からは首相直轄機関の経済財政諮問会議での検討に委ねられることになる。保険財政の破綻を目の前にして、医療という分野を競争社会へと導き、徹底的な効率化によって乗り切ろうという明らかな意図が感じられる。
経済財政諮問会議といえば、小泉首相を議長としてトヨタ自動車(株)の奥田碩会長やウシオ電機(株)の牛尾治朗会長など経済界のメンバーが多く含まれ、経済界の視点から政策を議論するという目的で作られた機関である。郵政民営化法案の基本方針取りまとめや法案の提出は、この諮問機関で行われた。医療、福祉・保育、教育等の分野における規制改革もここで議論されている。
2006年度は、2年ごとに改定される診療報酬見直しの年でもあるが、2004年の改定時には、小泉首相の診療報酬引き下げの指示に対し、関係議員や省庁の反発により据え置かれた背景があるだけに、来年度の改定では思いきった引き下げ率が提示されることは免れないのではないか。
2~5%の引き下げ率は、診療報酬全体の総枠によるものであるため、個々の治療行為に対してどのような配分が検討されるかは明らかではない。しかし、政策全体が予防へとシフトし、国民の健康に対する関心も高まりつつある中で、生活習慣病を抑制する予防は保険でカバーしたとしても、機能回復を目的とする補綴治療については保険から外されるという事態は避けられないのではないか。
したがって、P継診やP総診などの歯のメンテナンスに対する行為については比較的高い点数を維持する一方で、補綴などの治療行為については大きく点数を下げられる可能性が残る。総枠で引き下げるということであるから、メンテナンスについては現状維持のままか、仮に引き上げられるとそれを補うだけの大きな引き下げ率が、補綴に降りかかってくることになる。

診療報酬のインセンティブ化

また、厚生労働省が行う検討事項の中で、診療にかかった各々の費用についての明細を患者に渡す医療機関には、診療報酬を加算するなどの優遇措置を採ろうという動きが出始めている。
総合病院や医科の診療所においては、初診料や検査料、処置や投薬料といった項目それぞれに対しいくらかかり、よって患者負担はそのうちのいくらですという明細を手渡すところは多いが、歯科診療所の場合、特に院長一人、歯科衛生士一人、歯科助手と受付は兼任で一人などの小規模の歯科医院では、まだまだその体制が整っているとは言いがたい。
窓口現金を管理するレジから打ち出されるレシートを手渡されるところはまだましな方で、受付が現金箱を前に電卓でおつりを計算して渡すところなどでは、レシートさえ出ないところもある。
患者への明細書の提供は、診療行為を透明化することにより、不正請求や請求のミスなどを防ごうとする狙いもあるようだが、このことも、かかる医療費を何とかして抑えていこうとする行政の動きが大きく反映される内容のものである。
これまで、患者に対してレシートや明細の提供行為が遅れてきた感がある医療業界ではあるが、新たに対応しようとすれば設備投資を要することになる。設備を整えた病院や診療所に対して何らかの見返りを検討しているとはいえ、はじめに資金が必要になることは間違いないことであろう。
このことだけを単純に見れば、新たな設備投資にも十分に耐えうる資金力があって、ある一定規模で運営を持続できる診療所だけが恩恵を受けるという図式が成り立つ。いずれにしても、経営効率をいかにあげることができるかが、今後の勝負の分かれ目になるのではないか。

表1

規模拡大の発想で採算確保を

保険診療報酬の引き下げや、予防に重きを置こうとしている行政の動きに対応して、診療所レベルでは今後、歯周・予防の診療体制にどう取り組むかということが問題になってくる。現実には、予防に重点をおいた診療方針に転換できずにいる歯科医院が多くを占める中で、採算性という視点からどう対応すればよいかを考えてみたい。
はじめに考えたいのは、現在の設備、人員のままで、既存のチェアのうち1台を歯科衛生士の歯周・予防に特化した場合にどうなるかということである。
表1は、チェアを4台設置している歯科医院で、従業員は、歯科衛生士1名、歯科助手2名、受付1名の計4名が在籍している場合の収入、原価、および経費を表した損益計算書である。
表左端の損益計算は、予防への対策を施す前の診療方針、すなわちチェアを歯科衛生士専用で使用する以前の収支状況を示したものである。
保険・自費・雑収入を合わせた収入合計57,600,000円に対し、材料薬品費と外注技工料を合わせた収入原価は8,985,600円、給与賃金や地代家賃等の経費合計は33,638,400円であるとすると、所得金額は14,976,000円(収入の26%)となる。なお、収入に対する各科目の構成比は、弊社で毎年行っている「歯科医院の経営指標~歯科医院収支アンケート調査報告書~」による協力歯科医院全体の平均値に基づいている。
表右側に移って、「45万円」「70万円」「90万円」とあるのは、歯科衛生士が専用でチェアを使用した場合の、1カ月あたりの衛生指導による収入規模を示している。その場合の所得金額を見ると、それぞれ「7,197,460円」「10,107,460円」「12,435,460円」となり、非常に採算性が悪くなることがわかる。
原因としては、チェア1台を衛生指導専用に使用することで、チェア1台あたりの収入が大きく落ち込むことである。
対策前の保険収入47,520,000円は、チェア1台あたりの収入金額で考えると11,880,000円、自費収入9,620,000円については、チェア1台あたりの収入金額は2,405,000円となる。
保険・自費のチェア1台あたりの収入を合計した14,285,000円が、歯科衛生士にチェアを1台渡すことでなくなってしまう計算になる。
そこで、仮に衛生指導でびっしりと予約患者を取り、歯科衛生士が朝から晩まで精一杯頑張って月90万円の収入を上げたとしても、収入減少分を補うことができずに差額の3,485,000円が減少することとなる。収入全体で見ると実に6.1%の減少率である。
なお、材料薬品費は、現状の7.7%の材料薬品費が必要なくなるかわりに、衛生指導用の材料薬品費として3.0%を計上している。したがって、衛生指導収入45万円の場合、チェア1台当たり材料薬品費の減少額は
14,285,000×7.7%-5,400,000×3.0%=937,945円となる。
外注技工料については、衛生指導を行った場合には技工料を必要としない。したがって、チェア1台分の技工料が必要なくなるため、14,285,000円×7.9%=1,128,515円を減少額として計算している。
給与賃金の960,000円の増額については、歯科衛生士が衛生指導業務に専念することによって生ずる助手業務の手不足のために、月額約8万円のパート歯科助手を採用したとして計算に入れている。
以上のシミュレーションによる衛生指導の採算性の悪さから、考え方を変えて、現状の診療方針や診療効率はそのままに、衛生指導用にチェアを1台増設した場合を考えてみたいと思う。
表2は、表1と同じく左端には現在の診療方針における損益計算を示している。チェアは4台、歯科衛生士1名、歯科助手2名、受付1名と、設備、人員ともに同じである。この条件に、歯科衛生士を1名、パート歯科助手1名を増員し、歯科衛生士の専用チェアを1台増設した場合の損益状況はどう変化するかというシミュレーションを右側に行っている。こちらも表1と同じく、歯科衛生士が衛生指導により、月額「45万円」「70万円」の収入を上げた場合の損益計算を表示している。
前提条件として、新たに雇用する歯科衛生士の月額給与は20万円、賞与は給与月額の2カ月分、パート歯科助手は表1と同じく月額8万円を支給し、雇用保険や健康保険等の社会保険料およびその他福利厚生費用として給与賃金の9.5%を経費に計上する。
チェアの購入には、借入金利2.5%の条件で600万円を借り入れ、チェア本体および内装を改装するための内装関連費用等も賄う金額として考える。材料薬品費は「45万円」「70万円」ともに収入金額の3.0%を増加分として計上している。
では、「45万円」「70万円」それぞれについて、変化した収支状況を見てみたいと思うが、歯科衛生士が月額45万円の衛生指導料収入を上げた場合、現在の収入合計57,600,000円に衛生指導料5,400,000円が増額され、63,000,000円が新たな収入合計となる。
材料薬品費162,000円が増加した分の収入原価は9,147,600円、給与賃金、減価償却費等の経費増加分の経費合計額は38,483,400円となり、差引所得金額は15,369,000円になると考えられる。月額「70万円」の衛生指導料収入があったと考えた場合も同じように計算し、材料薬品費については252,000円となるが、差引所得金額は18,279,000円と大きく増額することになる。
衛生指導料収入で月額70万円をあげた場合には、収入全体では57,600,000円から66,000,000円へと14.6%増加するとともに、所得金額についてはさらに大きく、22.1%の増加が見込めることが考えられる。

表2

積極的な展開が採算性を上げる

以上の二つのシミュレーションから言えることは、今後、歯科衛生士による衛生指導に力を入れて、歯周・予防の診療方針を中心に据えようと方針転換をする場合には、思い切って人員を増やし、設備を増設して規模を大きくした方が採算を確保できるということである。
新たな人件費の支出や借入等を回避するために消極的に対応しようとするのではなく、積極的に展開していく方が採算性を上げ、経営の安全性も上がっていくということが言えるのではないか。
歯周・予防は患者単価が低いとはいえ、患者が定期的に来院してくることが安定的な経営をもたらす。ある程度患者が定着してくれば、数カ月先の予約が入ることは間違いないし、そのことによってどのぐらいの収入が見込めるかという予測が立てやすくなることが大きい。患者の意識も高まりつつある今、積極的な展開が必要なときではないだろうか。

院長・スタッフ・患者の意識改革を図る

歯周・予防の診療方針を成功させるためには、院長の意識改革が重要であるし、患者とのかかわり方も改めて考えていかなければならない。院長が、スタッフをどのような存在として考えるのかによって、スタッフの働き方が大きく異なってくるともいえる。院長から全幅の信頼を得て、それぞれの専門分野において自分の力を存分に発揮できる環境であれば、スタッフにとってこれほど恵まれた環境はない。
モチベーションを高く維持できることが、院長からのさらなる信頼を得、患者さんから感謝の言葉をたくさんもらい、スタッフとの良好な職場関係を築くことに気がつけば、スタッフは決して自分から辞めると言い出すことはないはずである。例外的に、歯科助手であった人材が、歯科衛生士の資格取得へとステップアップを目指して退職するぐらいではないか。そういった人材は、資格取得後に再雇用する土壌さえ築いておけば、喜んで戻ってきてくれるはずである。
患者とのかかわり方においても、歯が悪くなって来院した患者さんに対して、ただ単に治療をして終わるのではなく、日頃からの歯周病予防の重要性や、歯が健康であることが、どれほど体全体の健康にとって大きな影響を持つのかということなどを、どんどん積極的に患者に対して発信していくことが大切なのではないか。
これまで、歯科医師が治療をするために必要なものとして持っていた情報でも、日頃から歯を予防するために、患者みずからが必要とする、あるいは行える情報もたくさん含まれているのではないかと思う。
患者自身も高い関心を持って自分の歯の状態と向き合いながら、患者レベルでは解決できない専門的なことについては、歯科医師の判断を仰ぐという関係が好ましいのではないか。そのためにも患者は、歯科医院からたくさんの情報をもらえることを期待しているのである。

収入規模別に考える経営方針

歯科医院の収入規模はさまざまであるため、今後行っていくことができる内容もまた異なってくる。それぞれの状況によって取るべき対策というものがどのようなものかを考えてみると、次のようなことがいえるのではないか。
まず、収入規模4,000万円未満の小規模歯科医院にとっては、患者との徹底した人間関係を築くことが求められる。一人でも多くの患者さんに来院してもらい、収入の増加を最優先に掲げることが必要になる。そうした中で所得を少しずつでも確保して、歯周・予防の設備投資への準備を行うことが求められるのではないか。
今では大きな医療法人になっているある歯科医院も、収入規模がそれほど多くない時期を通ってきている。そういった時期に常に念頭においてきたことの一つに、来院してきた患者さんは絶対に離さない。何としてでも自分の医院に通ってもらうように働きかけたという。このような気概とも言うべき強い気持ちで患者に接することは、患者に安心感を与え、この先生を信じてみようという気持ちにさせる力があるのではないかと思う。
収入4,000万円から8,000万円未満の中規模歯科医院に求められることは、医院の絶対的な強みとなる技術を習得することではないか。特に5,000万円~7,000万円規模の歯科医院では、採算性の問題にしても、従業員のマネジメントの問題にしても非常に難しい規模にある。ある程度の収入を確保できる反面、給与賃金や法定福利費等の人件費などが大きくなりがちで、所得の確保が難しい面がある。
したがって、経営の安定に向けた対策の一つとして、患者自身が評価できる内容での技術向上を目指すことが大切ではないか。根管治療は非常に大切な分野ではあるけれども、患者の目からはどうしても上手なのかそうでないのかの評価ができない。インプラントや矯正のように、自然な感覚でめるようになった、歯並びが見違えるようにきれいになり自信が持てたといった、患者の日常生活において目に見えて効果のわかるものにも力を入れていく必要がある。そのことが医院の強みとなり、また、患者が医院をどのような歯科医院として見ているかという評判を形成するポイントにもなるのではないか。
最後に、収入8,000万円以上の大規模歯科医院にあっては、自医院の診療方針に合致する患者を囲い込んでいくことが、経営を効率化させる上で重要なことではないか。歯周・予防の診療システムが確立している中で、方針に従わない患者がいることでそのシステムが機能しなくなる危険性がある。そういった非効率的な流れを防ぐためにも、自医院はどういう診療方針を取るのかを明確にするだけでなく、その方針を患者にわかりやすく徹底して説明して行くことが大切だと思う。規模が大きいから経営が安定したという時代は過ぎたと思う。
現在の行政の動きを見ていると、どのように考えても保険診療の収入の落ち込みを回避することはできないのではないか。だとすれば、その流れの中でいかに効率のよい採算性を確立するか、と同時に採算性を追及するためには患者にしっかりとついてきてもらわなければならず、そのために患者とどう接していくかを定める時期にあると思う。

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