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第13回 (126号)

仕事効率を上げ患者満足を高める

デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

歯科医院経営講座126

21世紀の歯科医院経営~仕事効率を上げ患者満足を高める~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

スタッフルームを大幅に改装、整理するという歯科医院を続けて訪問した。
両医院ともに院長曰く、
「こんなところに置いていては相応しくない大切なものから、まったく取っておく必要のない古い雑誌類まで、物置のごとく雑多に置かれていることに大変驚きました」。
確かにそれら荷物を見渡してみると、積み上げられたダンボールや、ファイルの束、あるいは古くなった書籍等がいつまでも置かれている。
スタッフルームは、単にスタッフが食事、着替えだけに使用するだけでなく、インターネットなどの情報収集を行う場となったり、限られたスペースゆえに業者等との打ち合わせの場に使用されたりすることがある。
そのため、常に整理整頓がされていることが理想ではあるが、開業後の年数が経過し、スタッフの数が増え、患者さんが増えてカルテが多くなり、取引業者との書類が積み上がってくると、スタッフルームが倉庫として使われていることもしばしば見受けられる。

業務の流れを改善する

このように、もともとスタッフのためにと準備したスタッフルームが倉庫化する要因として、歯科医院は非常に雑多な業務が多いということがある。
受付担当の仕事一つを取ってみても、患者さんの対応からカルテの取り出し、金銭の授受、アポイントの確認というさまざまな業務がある中で、その間には、さらにデータの転記や確認用ファイルの作成等、実に細かい仕事が含まれている。その結果、多くの管理用資料や確認用ファイルが積み上がることになり、それらの置き場としてスタッフルームをということになる。
スタッフ採用時の面接に携わることもしばしばあるが、「歯科医院というのは非常に作業量が多く、特に患者さんが多く来院する時間帯には、目が回るほどの忙しさですよ。体力も必要になってきますが頑張れますか?」というようなことを、応募者に確認することがある。
多くは「大丈夫です」ということで採用の運びとなるが、いざ業務に就いてみると、あまりの業務量の多さについていけず、自信をなくしてしまうスタッフも多い。
しかし、それは医院の体制が、日常の業務を忙しくしているということも考えておく必要がある。
製造工場で言えば、工程の一つ一つに無駄がないか、その工程一つに何分かかっているのか、そのため、現在の工程数では最大いくらまで製品が作れるのか、ということを徹底して分析をする。そして、共用できるものは共用し、省略できる工程は徹底的に省いて、より少ない工程で同じ製品を製造しようとする。
歯科医院の現場と、製造現場を同じようには比較できないが、歯科医院で発生する細かな業務一つにしても、徹底的に整理していくことで、チェックが働く体制に変わり、ミスも少なくなる。
また、時間的余裕が生まれるために、患者さんに対して、余裕を持って接することができるようになる。なかなか、業務の仕組みを変えることや、従来のやり方を変えるべく、スタッフが企画、提案を院長に対して行うところまで進まないのが現状であるが、どこかで改善していかなければならない問題でもある。

仕事への余裕から温かな対応が生まれる

仕事に余裕が生まれ、落ち着いて全体を見渡しながら仕事ができるようになると、患者さんに一声かける声のトーンも柔らかなものになるし、笑顔も自然な表情が出せるようになる。
患者さんは何か温かな雰囲気をその医院から感じられるようになり、歯医者さんへ通うことが苦痛ではなくなるかもしれない。それが、患者満足度を向上させることに大きく関係してくるのではないか。
特に、患者さんの要求に応えられないようなときに、余裕の有無が対応の違いとなって表れる。
例えば、患者さんの次回予約を取る場合、希望の日時がうまく空いていれば問題はないが、どうしても予定が合わず、なかなか決まらない場合がある。
そうしたときに、しっかりと患者さんの話を聞きながら、できる限り希望に近づけることができるか、あるいは、次は次は、と言って、医院の都合最優先でアポイントを決めてしまうかは、その担当者の業務レベルにもよるが、仕事の流れに余裕があるか否かが大きな要素となる。
たとえ、受付担当者の対応がぞんざいであっても、目の前で患者さんが面と向かってクレームを言ってくることは少ない。
しかし、傍から見ていると、意外と患者さんは戸惑った表情や、不快感を含んだような表情をしていることがある。ただ、余裕のない受付担当者は、仕事の処理に追われてしまい、患者さんの表情を見ることはない。
このレベルまでなると、受付担当者が本当に受付に相応しいかという問題に発展するが、仕事の効率という点に着目して考えると、理想的な流れへと変えていくためには、どこかで思い切った業務改善を図らなければならない。同じ内容のことをあちらにもこちらにも書いてはいないか。無駄な資料作成はしていないかを見直す必要がある。つまり、仕事の仕組みを考えていく必要がある。

収入が上がる瞬間には業務改善も影響している

ここまで、受付に焦点を当ててきたが、何も業務の改善や仕事の仕組みが必要なのは、受付のみとは限らない。
歯科助手業務も非常に煩雑な仕事が多いし、歯科医師、歯科衛生士にしても、一人でも多くの患者さんを診るためには、患者情報の受け渡しを効率的に行わなければならないし、双方がどのように患者さんに関わっているかが一目で分かる工夫が必要である。
院長は院内の業務の監督者として、あらゆる確認、チェックを行うわけだが、そうした管理業務にしても、診療と並行して行うとなると大変である。さらにはスタッフの労務に関する問題や、経営状況の把握等、ありとあらゆる問題に対して、どのように対処していくかが大きく問われるところである。
院内での業務整理が行われていくと、ある時点で収入水準が上がる瞬間がある。レセプト枚数平均が300枚だった医院が、あるとき400枚に上がる、あるいは自費収入が月額200万円の医院が、400万円をコンスタントに上げられるようになるなど、医院収入が次の段階へと上がっていくのである。
当然そこには、院長の熱心な勉強の成果や、技術研鑽といったことが影響していることはいうまでもないことだが、院内の改善努力といった要素も大変大きく関与しているものである。
効率化が図られたために、患者さんと話をする時間が長くなり、それだけ診療に関する理解が進む。そうすると、患者さんの歯への関心が高まり、積極的に自費治療を受けようとあらゆる説明を聞いてくれるようになる。
そして、患者さん一人の単価が上がったために、これまでと同じ患者数でも収入が2割増になったといったことが起こってくる。

スタッフの人数と効率のバランスをどう取るか

落ち着いた気持ちで患者さんに接し、温かい対応ができるためには、ある程度の人員の確保も必要である。いつもぎりぎりの人数で診療にあたっていては、スタッフの体力的、精神的な面もすぐに破綻をきたしてしまうだろう。そして、採用してもすぐに辞めてしまうスタッフが出てきてしまうことになる。
かといって、たくさん採用すれば、人件費がかさむため経営的な破綻を招いてしまう。人件費のバランスを取ることは非常に難しく、かつ流動的であるため、なかなか理想のかたちを維持することは難しい。
平均的な数値で言えば、収入に対する給与賃金比率は20%までに抑えておきたいところである。
一方、前号でも触れたが、弊社が毎年行う歯科医院の経営指標(収支アンケート調査)において、スタッフ一人当たりの月額収入という指標を発表しているが、これを見ると平均月額収入119万円である。
たとえば、月額平均医業収入が470万円(収支アンケートに調査における月額平均医業収入額)の歯科医院で考えてみる。
給与賃金比率20%とすると、月額給与賃金合計は94万円、一方、スタッフ一人当たり月額収入が119万円であるから、470万円÷119万円=4名となる。
そうするとスタッフ一人当たりの給与賃金比率は約23.5万円である。賞与分を控除すると月額給与賃金額は約19万円となる。
この考え方でいくと、470万円の平均的な収入がある歯科医院では、月額給与19万円のスタッフを4名採用して経営をすると効率がよいということになる。
したがって、給与賃金比率はそのままにしてスタッフを多く採用しようとすれば、一人当たりの給与水準を下げる必要があるし、反対にスタッフ一人の給与水準を上げるのであれば、その分スタッフ数を減らして業務効率を図る必要がある。少人数で最大限の効率を追求しようとすればこの体制となる。
スタッフの人数を増やして、一人にかかる負担を減らす代わりに、給与水準を低く保つよう管理を行っていくか、あるいは、スタッフの人数は増やさない代わりに、一人にかかる給与水準を上げ、効率化を徹底して図るかは院長の経営方針によって大きく変わる。
保険診療主体か自費診療主体かによって、来院する患者数や、診療にかかる時間等が異なるため、上記前提は一概には言えない。しかし、収入水準が上がるというのも、現状のスタッフによって改善できるところは改善をし、効率化できるところは徹底的に効率化することによって実現できるところである。
同じスタッフ数で収入が上がるので、昇給や賞与等にも反映できるようになれば、スタッフ一人当たりの給与水準も高くなっていくということである。
いずれにせよ歯科医院の収支構造からすると、よほど効率的に業務を行っていかないと、経営の安定化を図ることが難しいことは確かである。
院長の方針として業務の効率化を徹底してスタッフに浸透させ、整然とした診療体制を目指したい。気持ちのゆとりや、仕事への落ち着いた取り組みから、患者さんに対する温かい対応は生まれてくるのではないだろうか。

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