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第75回 (188号)

スタッフの給与を検討する際に考慮すべきポイント

デンタル・マネジメント・コンサルティング 門田 亮

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歯科医院経営講座188

デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮

Question
正社員スタッフやパート・アルバイトスタッフの給与を検討する際に、周辺の水準を考慮することのほか、最低賃金制度等にも気を配る必要があるということですが、月給や時給はどれぐらいが必要なのか、今後どう推移していくかなど、給与を設定する上で気をつけなければならない点などがあれば教えてください。
Answer
歯科医院にとって、スタッフの給与水準を安定して維持し続けることは非常に深刻な問題です。とはいえ、物価上昇に伴う賃金の上昇機運は避けられないことですし、今後も継続して人材を確保する上では、長期的に対応するべき課題であると思います。人件費は歯科医院の経費の中で最も大きいものであるため、できるだけ抑制をするに越したことはありませんが、その意識が強くなりすぎると優秀な人材を確保する機会を失うと同時に、定められた法律にも抵触していたという事態にもなりかねません。今ある歯科医院の状況が、世間の中でどのような位置に存在しているかを常に確認することが大切です。
最低賃金の大きな引き上げ

厚生労働省は毎年10月に新たな最低賃金を発表することになっており、令和5年度も10月1日を発効日として発表が行われました。
金額は時間額で表され、全国加重平均および都道府県別の金額が公表されます。令和5年度の全国加重平均額は1,004円となり、本年度はじめて1,000円を超える水準となりました。
令和4年度の961円から比較しますと、比率にして約4.5%引き上げられたことになります。
過去5年間の推移をみますと、平成30年度874円、令和元年度901円(約3.1%)、令和2年度902円( 約0.1%)、令和3年度930円( 約3.1%)、令和4年度961円(約3.3%)、令和5年度1,004円(約4.5%)とこれまでほぼ約3%前半の引上げ率だったものが、令和5年度には約4.5%と大幅な上昇となりました。
令和4年度から5年度にかけての賃金増加額は43円ですが、1ヵ月の平均所定労働時間を173時間とすると、ひと月に換算した場合の昇給額は7,439円となります。
歯科医院において、この水準以下の昇給が続くとすれば、いずれ最低賃金を割り込むことになります。

  • *カッコ内の数値は前年度からの引上げ率
  • * 令和元年度から令和2年度の引上げ率が小さいのは新型コロナウイルスによる影響がある
最低賃金が上がることの影響

大阪府を例に引上げ率を基に考えてみますと、大阪府の令和5年度の最低賃金は1,064円となりました。前年度の最低賃金が1,023円だったため増加額は41円、引上げ率では4.0%です。1ヵ月の所定労働時間を173時間とすると、ひと月の給与額は184,072円になります。新規採用時の給与額を仮に200,000円としている場合、最低賃金の引上げ率4.0%で計算すると2年後には199,092円となり、最低賃金額が新規採用時の給与額に迫ることになるのです。
引上げ率は、東京や大阪などの都心部から離れるか、あるいは隣接する都道府県ほど高い傾向にあり、引上げ率の高い上位県は佐賀県(5.5%)、島根県(5.5%)、山形県(5.4%)、鳥取県(5.4%)となっています。なお、引上げ額上位県も同じく佐賀県(+47円)、島根県(+47円)、山形県(+46円)、鳥取県(+46円)となります。
歯科医院においても独自にいくらかの昇給を行っているとすれば、すぐに最低賃金が給与を上回ることはありませんが、少なくとも新規採用時の給与額の設定については、最低賃金を上回るかどうか、何年後に給与の見直しをする必要があるかを意識しておく必要があります。
基準となる賃金は、「毎月支払われる基本的な賃金」となっています。残業が発生した場合や休日に出勤した場合などにのみ支払われる割増賃金、欠勤すると控除される精皆勤手当のほか、通勤手当や家族手当は含まれないことに注意しなければなりません。

パートタイム・有期雇用労働法への意識

正社員で雇用すると人件費が高騰するのではないかとの理由から、パートやアルバイトでの雇用形態を活用する歯科医院もあると思います。正社員と比較した場合、一般的にはひと月の労働時間は短く、またリーダーや主任といったスタッフをまとめる責任のある立場からは離れた職務を担当することから、正社員の給与を時給に換算した額よりも低い金額、たとえば最低賃金に近い時給額を設定していることがあるのではないかと思います。
この場合は、正社員とパート・アルバイトの間に明確な職務の違いがあることから、合理的な差として受け入れられますが、時給の違いや処遇の違いについてスタッフから尋ねられたときに十分な説明をせず、「パートだから時給が低いのは当然」という対応をすることは控えなければなりません。通勤手当については、職務の違いによる金額の違いが生じることが少ない手当のため、正社員には満額の通勤手当を支給し、パート・アルバイトスタッフには歯科医院から一定の距離に応じて支給・不支給とすることが認められなかったという事例があります。
正社員だから給与が高く、パートだから給与が低いという認識では合理的ではないと判断される可能性がありますから、正社員とパートとの職務の違いについては明確に整理しておく必要がありますし、同じくパート・アルバイトの時給に関しても最低賃金が適用されますので、正社員との給与差をつける場合には、それを下回らないように設定しなければなりません。

Advice
賃金制度や労務環境を整えることは、単純に費用の点からのみ考えるとコスト上昇を招くため、経営者でもある歯科医院の院長の立場からすると頭の痛い問題かもしれません。しかし、今やあらゆる情報が行き渡り、労働者自身が他との比較や条件検索を容易にできる状況において、必要な労務環境が整っていないことは、人材確保が一層難しくなる要素となり医院経営にとってデメリットになりかねません。診療を行う上での最低必要人員を割り出し、労務環境を整えて優秀な人材の確保を進め、労働生産性を限りなく高める取り組みが大切になると思います。

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