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第80回(193号)

パートスタッフの意識をあげるために

デンタル・マネジメント・コンサルティング 門田 亮

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歯科医院経営講座188

デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮

Question
当院は、パートやアルバイトで働くスタッフが多くを占めています。年間の収入によって家計に影響があるため、毎年、スタッフ間同士で勤務調整を行っている姿があります。現在、年収の壁に関する議論が行われていますが、国が検討していること以外にも、各家庭によって異なる要件があるようで、どことなくスタッフが消極的な印象を受けています。どういったことが影響しているのか、また、パートスタッフの意識を上げるために、今後どういうことを考えていけばよいでしょうか。
Answer
年収の壁はいくつかあり、税金の壁(103万円)、社会保険料の壁(106万円、130万円)など、国の制度に基づく年収の壁がある一方、あまり取り上げられることがない年収の壁として、配偶者の扶養でいることによる手当の壁などがあります。企業が独自に設定する家族手当の存在です。実際、パートスタッフの中には、税金や社会保険の壁と併せて、家族手当の要件を考慮した働き方をする人がいます。国がコントロールし得ない条件によって、スタッフの今後の働き方に変化が生じることにも意識をしておくことが必要です。
家族手当などの企業が支給する手当とは

家族手当は企業が独自に設定する手当ですが、家族手当の制度がある企業の割合は全体の74.5%となっています。そのうちの71.8%、つまり全体からすると53.5%の企業では配偶者に対して家族手当を支給している状況です(人事院:令和6年職種別民間給与実態調査より)。
さらに、そのうちの約9割の企業では、家族手当を支給する際の要件として、収入の壁の水準である103万円、130万円、150万円など、配偶者の収入によって制限を設けながら、家族手当を支給している実態があるのです。
同調査によると、配偶者のみに支給される家族手当の平均は月額約12,320円、年間にすると約15万円弱が支給されている状況です。
つまり、歯科医院でパートとして働くスタッフの約半数は、収入をある一定の水準に抑えることによって、配偶者の企業からも家族手当を支給されている家庭だと考えることができます。
したがって、今後政府が進める年収の壁の議論により、税金の壁や社会保険の壁の範囲が拡がると同時に、企業から支給される家族手当の要件が、企業ごとにどう変わるかによっても、パートスタッフの働き方に対する意識は変わってくるといえるでしょう。

年収の壁を越えて働くことの影響

年収の壁が引き上げられることによって税金等の非課税範囲が拡がるとしても、企業から家族手当を受けている家族にとっては、勤務時間を増やして手取りを増やすことは、配偶者でいることで、もらえているものがもらえなくなるため、働くパートスタッフにとってはあまり効果がないものかもしれません。
一方で、今後最低賃金の引き上げが続いていくとすると、今と同じ勤務時間でも給料は5%、10%と上がっていくことになります。政府は、最低賃金の上昇とともに、年収の壁の引き上げを協議しているところですが、引き上げの水準によっては、今と同じように時間調整をしながら働くことに変わりはありません。しかし、むしろ給与単価の上昇をきっかけに、年収の壁を越えて働ける職場づくりがあってもよいと思います。社会保険料を納めるようになれば、将来の年金額が増えることにもつながりますし、企業から支給される家族手当を辞退してなお、手取りが増える給与水準まで一気に勤務時間を増やす体制を検討しておくことも必要だと思います。
年末に給与支給累計額を気にして出勤調整をするよりも、毎月それぞれが勤務できる時間まで存分に働ける方が現在も将来的にもメリットが感じられるでしょう。そうした環境づくりを提案することは、人員確保や経営安定化に向けた、今後の院長の重要な舵取りの一つとなります。

経営効率を考えた人員計画

それでもなお、スタッフが勤務する時間や日数を年収の壁の範囲内で納めようとする可能性は十分にあります。年収の壁がどう決定するかは今後の議論によりますが、それによってスタッフの行動に変化が生じるでしょう。一般の企業でも、初任給を大幅に引き上げる動きが出ていますが、厚生労働省が発表する毎年の最低賃金も、今後も上がっていく傾向にあるとすれば、歯科医院の人件費が上がっていくことは避けられない状況です。
年収の壁がある中で、パートスタッフの給与単価が上がれば働く時間は短くなることから、同じ労働力を維持するためには雇用人数を増やす必要があります。それに対応するには、今後は効率を考えた業務の取り組み方を検討することが大変重要です。
私どもが行う調査資料の中に、経営効率を分析したものがありますが、スタッフ一人が、医院の月間収入にどれぐらい寄与しているかを見た値は平均131万9,644円となっています。これは常勤スタッフ1、非常勤スタッフ0.5とした合計数で、医院の月間収入を割った値ですが、自医院の位置を相対的に知るために簡単に計算して比較できる数値です。歯科医師、歯科技工士は業務スタッフの位置づけからは外れるため除外して計算していますが、平均約132万円の値に対して、最大値509万6,588円から最小値39万4,093円まで実に約12倍以上の経営効率の開きが出ています。自医院で計算してみた場合に、どれぐらいの金額になるか、また平均並みの効率を維持するためには、スタッフの人数や業務内容をどれぐらい変えていく必要があるかがわかると思います。

Advice
スタッフを取り巻く環境が変化することに対して、今後の歯科医院の方向性を検討するには、スタッフと話し合う場を設けることが大切です。現状のスタッフのままで積極的な取り組みを行い、収入を上げることに力を注ぐことは効率を上げる大きな対策です。一方、業務内容を精査し、徹底して無駄を省くことによって、利益の確保に全医院で取り組もうとすることも、スタッフのモチベーションを向上させることにつながります。歯科医院経営においては、賃金単価が上がり、それに伴う人件費が上昇することへの危機感もありますが、現業務への取り組み方を徹底して見直し、一人ひとりが明確な目標をもって生産性を上げられる職場づくりを目指してください。

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