193号 SUMMER 目次を見る
Dental Talk
プロダクトデザイナーに聞く。チェアユニットに必要とされるデザイン性とは Signoが40年にわたって愛される理由
目 次
- ≫ 40年にわたってブランドが続いてきたことへの驚き
- ≫ デザインはただ格好良ければ良いというものではない
- ≫ いかに空間と調和させるかが近年のデザインのトレンド
- ≫ デザインの良し悪しを見極めるポイント
- ≫ 長く愛されるブランドとは
- ≫ 今後チェアユニットに求められるデザインについて

40年にわたってブランドが続いてきたことへの驚き
青羽 貴重な機会をいただき、ありがとうございます。最初にSignoシリーズのこれまでの歩みをご覧いただいて、いかがでしたか。
倉本 Signoというブランドが40年も続いていることに、とても驚きを覚えました。通常はマーケティングやブランディングなどの兼ね合いから、新しいシリーズを展開したくなるものですが、そこを耐えて長年続けてこられたことにも感銘を受けました。デザインのテイストは時代に合わせて変化させながらも、構造設計の基本思想は変わっていないところも素晴らしいと思います。ところで、昇降の仕組みやシートのリクライニングなどが変化しているのは、ユーザーの声を取り入れているということでしょうか。
日比野 はい。シートを倒していくとバックレストが徐々にずれて頭の位置が変わってしまいます。それを抑えるためにバックレストとシートが連動して可動することで、できるだけ体に沿うように工夫しています。
倉本 ああ、確かに。歯科医院に行くたびに「何とかならないのかな」と思っていました。Signoでは背ズレを抑えるよう工夫されているのですね。
日比野 患者さんは、1時間以上治療されることもありますので、ストレスを和らげるのは重要なポイントです。そのため、シートは疲れにくい構成で設計されています。
倉本 歯の治療は緊張しますからね。
青羽 高齢の患者さんなどから「疲れてしまう」といった声をいただくことがありました。そこで「Premium Seat」をオプションとして追加しました。
倉本 クリニックに置かれるベンチや椅子のデザインを手がける場合、抗菌仕様の生地やすぐ拭き取りできる素材などの条件が入ってきて、その中で高級感やデザイン性を表現するのは難しいんですよね。そこをSigno Tシリーズではシートの色や素材、ステッチなどに工夫を凝らしていて、上手にグレード感を出しておられると思います。
佐藤 「Premium Seat」については、すでに「ラグジュアリーシート」という別のオプションがあったため、そこに新たな要素を加えるにあたり、多くの試行錯誤がありました。また、いくらデザインが良くても量産できなければ“絵に描いた餅”になってしまいます。常にデザイナーと製造現場との板挟みのような状態でした。
倉本 僕もインハウス時代、その折衝がいちばん大変でした。設計担当の方とお互いにアイデアを出し合い、毎日ディスカッションを行うのですが、Signo Tシリーズでは、それを海外のSTUDIO F・A・PORSCHE(以下:ポルシェデザイン)とされたというのも大変なことだったと思います。
佐藤 この数年でWeb会議が普及しましたので、以前に比べれば負担はかなり少なくなったと思います。
倉本 言葉や習慣の違いもありますから、苦労されたのではないですか。
日比野 通訳を介すため、ある程度の意思疎通は可能なのですが、直接の会話ではないので、確かに難しい部分はありますね。
倉本 デザインは細かなニュアンスが大事になりますから、日本語なら表現できても英語にするとうまく伝わらないといったことはありませんでしたか。
青羽 確かにそのような経験はありました。お互いにヒートアップしてくると通訳の方も困ってしまって「今の言葉を翻訳しても大丈夫ですか」と質問されることもありました。ただ、言葉にしにくい部分が実はいちばん大事だったりするので、重要な場面ではポルシェデザイン側が足を運んで来日してくれました。来日期間は1か月ほどにわたります。その間私たちと同じ制服を着て、それこそ寝食を共にしてコミュニケーションを取りました。
倉本 1か月ですか。それは大変でしたね。
日比野 でもそうして長く付き合っていくうちに、言葉では伝わらなくてもお互いの気心や考えていることが少しずつ理解できるようになったと感じます。
倉本 Signoシリーズのようにデザイン性を追求した製品を開発する場合、設計担当者とデザイナーの密度の濃いコミュニケーションは欠かせないと思います。そのコミュニケーションがうまくいくほど、良い製品になることを僕も過去に何度も経験しました。
デザインはただ格好良ければ良いというものではない
日比野 デザイナーとして譲れない部分はどんなところにあるのでしょう。
倉本 大きく分けて2つあります。1つはユーザビリティ。もう1つは、ブランドとしての人格を達成するための質の高さとでも言えば良いのでしょうか。ただ格好良ければ良いというものではありません。デザインはそのブランドの個性を表現するものです。それを「デザイン言語」と表現することもありますが、まさにある意味言葉なんです。格好良さや可愛らしさ、美しさなど、デザインのテイストとしてはいくらでも表現できるので、それをどういうキャラクターで表現するか。クライアントとのディスカッションの際、それを僕たちは俳優さんに例えることもよくあります。「この製品の格好良い感じは〇〇さんのイメージでいきましょうか?それとも、もう少し若い〇〇さんの方がいいですかね」みたいな感じです(笑)。そうやってクライアントが製品に対して持っているイメージをできるだけ聞き出して理解しないと、僕たちがどれだけ自信満々で提案しても、なかなかうまくいかないことがよくありました。
青羽 ご自身がデザインした製品は発売後、いつまでも気になるものなのでしょうか。私たち設計担当者からすると、新製品の発売後はいつもドキドキして落ち着かないのですが…。
倉本 僕もありますよ。市場からの声だったり、デザイナーとして「もう少しこうしておけば良かったな」と思うポイントもあります。それをできるだけフィードバックして、次の製品に活かそうと考えますね。
青羽 やはりデザイナーの方も私たちと同じなんですね。
倉本 特に家具などの場合、家電製品などに比べて販売する期間も長いので、少し売り上げが下がってくると「どこかテコ入れしましょうか」と市場の声を聞きながら、変化を加えることもあります。
青羽 私たちはメーカーとして、新しい製品を使っていただきたいと思っていますが、一方で長く使っていただきたいという気持ちもあって、難しいところです。
倉本 どうしても機能の進化はありますからね。私もそこでよく悩むことがあります。
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