193号 SUMMER 目次を見る
Close Up
「食べる」と向き合う 一般病院に新設された歯科の挑戦
目 次
- ≫ 地域に開かれた歯科を目指して
- ≫ 欠かせない地域の歯科医院との連携
- ≫ 歯科の新設で広がったアプローチ
-
≫
多職種連携によるチーム医療の実践に注力する近石病院
「摂食嚥下サポートチーム」に携わる歯科衛生士、管理栄養士の方々に話を伺いました。 - ≫ 「カムカムスワロー」潜入レポート
岐阜県岐阜市 医療法人社団 登豊会
近石病院 歯科・口腔外科
-
法人本部長・歯科医師
近石 壮登※1 -
診療部長・歯科医師
森田 達 -
言語聴覚士
蛭牟田 誠※2
※1 カムカムスワロー 代表
※2 カムカムスワロー マネージャー
2018年の開設以来、一般病院の歯科として積極的に多職種連携に取り組む近石病院の歯科・口腔外科。2022年には嚥下調整食を提供するカフェをオープンし、医療と地域をつなぐ新たな試みがスタートしました。そんな近石病院 歯科・口腔外科の取り組みを紹介します。
地域に開かれた歯科を目指して
<近石壮登 法人本部長>
近年、医科歯科連携の重要性が語られる機会が増えています。しかし実際には、全国で約7,100以上ある一般病院のうち、歯科を標榜する病院は約1,080施設で(厚生労働省「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」)、わずか15%ほどです。
当院においても、歯科・口腔外科が開設されるまでは、入院患者の口腔管理は近隣の歯科医院に歯科訪問診療の形でお願いし、明らかな口腔疾患がある患者さんに限った対応しか行えていませんでした。
当院は主に回復期リハビリテーションに力を入れ、急性期病院からの転院先としても多くの受け入れを行っています。入院患者の大多数は高齢者であり、認知症や脳梗塞後遺症などにより、セルフケアが難しい方が全体の半数を占めています。そうしたことを背景に「感染予防」と「食のサポート」を主軸とした歯科・口腔外科を2018年に新設しました。
感染予防も食のサポートも歯科だけでは完結できず、多職種との連携が欠かせません。特に食のサポートについては、私自身が歯科訪問診療に長年携わってきたこともあり、歯の治療だけで終わりではなく、その先にある「食べる」まで責任をもって向き合いたいという思いから注力しています。
当科で実践する食のサポートの延長として立ち上げたのが、管理栄養士が常駐する認定栄養ケア・ステーションとコミュニティスペースを兼ね備えたカフェ「カムカムスワロー」です。当院に勤務する医療専門職が相談窓口となり、食や栄養を通して地域の方々の健康をサポートし、さらには地域の方たちとの交流の場として活用しています。また、安全に外食を楽しむために、嚥下機能のレベルに合わせて、飲み込みやすいように形態やとろみなどを調整した嚥下調整食も提供しています。
医科の先生や他職種、あるいは地域の方の中には、歯科に困りごとを相談したいと考えている方は意外と多くいらっしゃいます。その一方で、歯科とのつながりがないことで口腔内の状態が良くない高齢者も少なくありません。だからこそ、多職種連携や地域とのつながりを積極的に広げていくことが大切であると考えています。当科では今後もこうした取り組みを通じて、地域の皆さんの健康と生活を支える歯科医療を提供していきたいと考えています。
1963年に開設された近石病院は、岐阜市内の地域中核病院として回復期リハビリテーションに注力している。
診療室で抜歯を行う近石先生。近石病院では外来診療や入院診療の他に訪問診療も積極的に行う。
月に1度開かれる「口腔衛生管理委員会」の様子。多職種連携における業務効率向上のための話し合いが行われる。
欠かせない地域の歯科医院との連携
<森田達 診療部長>
地域から入院される患者さんの中には、当科を受診して初めて歯科治療が必要であることに気がつくケースがあります。その中には口腔の問題で通常の食事を摂ることが難しい方も少なくありません。病院の歯科といえば、口腔外科の印象がありますが、様々な疾患で入院された患者さんに対して、う蝕治療や義歯の調整、口腔衛生管理などの歯科治療や多職種連携による摂食嚥下リハビリテーションを行う歯科も病院にとって重要な存在です。
当科が新設された当初、病棟のスタッフが歯科に何を求めているのか、逆に歯科としてどんなことを望んでいるのか、その意思疎通がなかなか図れない時期がありました。また、それまで口腔衛生管理を担っていたのは看護師でしたが、口腔衛生管理の手技に一貫性がないという課題もありました。
そこで設立したのが「口腔衛生管理委員会」です。この委員会は歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士、看護師で構成され、月に1度の会議では、各病棟での問題点や改善案、それぞれの職種からの要望などを共有しています。当院では、この委員会を中心に、病院全体で口腔衛生管理に取り組んでいます。
もう一つ、食をサポートする観点から立ち上げたのが「摂食嚥下サポートチーム(swallowing support team/「SST」)です。歯科医師、歯科衛生士、看護師、言語聴覚士、管理栄養士で構成され、週に1度のカンファレンスの他、チームで患者さんの食事の様子を観察しながら、嚥下機能の評価、食形態の選択、姿勢や食具など食事の摂取方法の検討を行っています。
さらに、精密検査が必要な患者さんには、嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(VF)を行い、その際にも「SST」の各職種のメンバーが立ち合います。VEでは咽頭や喉頭の動き、食塊の残留の状態などを、VFでは咀嚼から嚥下、また食道での食塊の動きを一連の流れで観察します。2つの検査を組み合わせることで、より精細な検査を目指しています。
当院のようにリハビリテーションに注力する病院にとって課題となっているのが退院後の患者さんのフォローです。入院期間中に歯科治療や口腔衛生管理、摂食嚥下リハビリテーションを徹底したとしても、通常の生活に戻った時に歯科とのつながりがなければ、せっかくの取り組みが活かされません。当院でも歯科訪問診療を行ってはいるものの、退院後はどうしても私たちでは介入できない患者さんが一定数います。その中には誤嚥性肺炎で再入院を繰り返す方もいます。
そこで重要になるのが地域の歯科医院との連携であり、退院後の患者さんの口腔機能管理や摂食嚥下リハビリテーションなどを行ってくださる開業医の先生の力です。
当科でも地道にお声がけをしながら地域の先生方との連携を広げています。口腔衛生管理や摂食嚥下リハビリテーションに積極的に取り組んでくださり、退院後の地域の高齢患者さんの受け入れに関心を持つ先生が全国的に増えてくださると大変ありがたいです。
「摂食嚥下サポートチーム(SST)」では、週に1度カンファレンスを実施し、精密検査結果に基づいた訓練や食形態などに関するディスカッションが行われる。
森田先生とともにVEを行う「SST」のスタッフ。ピンクの制服が歯科衛生士、ターコイズブルーの制服が言語聴覚士。
VFの様子。近石病院ではVEとVFを組み合わせることで、より精細な検査を行っている。
歯科の新設で広がったアプローチ
<蛭牟田誠 言語聴覚士>
当院では歯科・口腔外科が開設される以前は、摂食嚥下障害への対応は主治医と言語聴覚士を中心に行っていました。そこに歯科が加わることで、それまで重篤な摂食嚥下障害患者への対応が中心だったのものが、摂食嚥下障害のリスクがある患者さん全般へと広がりました。患者さんの中には義歯の製作が必要な方や歯科的な問題が原因で飲み込みに支障をきたしている方もおられます。摂食嚥下の領域に歯科の視点が加わることは重要だと感じています。
歯科衛生士とも日頃からさまざまな場面で連携をしています。例えば、直接訓練(食物を使った訓練)を行う際、口腔内の清潔が保たれていないと直接訓練が難しい場合があります。そのような時には最初に口腔ケアを行いますが、中にはこびりついた痰を除去することに時間を費やしてしまうケースもあります。そのため、歯科衛生士に専門的な口腔ケアを行っていただけるだけでも、とても助かっています。
今後も歯科の皆さんとの連携を深めながら、患者さんの健康や生活を支えていきたいと思っています。
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モリタ友の会会員限定記事
- Dental Talk 歯科医師と歯科衛生士が連携して行う歯周外科治療と術後メインテナンス “タキノ歯科流”Er:YAGレーザー活用法
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