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患者満足って…?
株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター伊藤 純子
最近あちらこちらで、病院や医院が応対マナー向上、CS(患者満足)向上に取り組んでいるという話を耳にします。私自身、ある大きな病院のマナーインストラクター育成の依頼をうけ、その関係でいくつかの病院の応対マナー調査をさせて頂きました。
その調査では、患者の立場として病院に電話をかけ、いくつかの質問をしたり、実際にその病院に出向き、来院者として受付の方の応対やスタッフが患者様の案内誘導をする様子を観察しました。その調査では、基準となるチェック項目があり、当てはまるかどうかをチェックする方法と気づいたことをすべて書き留めるという方法で行いました。
基準となる項目とは、例えば、「受付では、スタッフから挨拶はありましたか?」「おつりや預かった金額の確認復唱はありましたか?」「スタッフの言葉遣いは応対に相応しい言葉遣いでしたか?」...などといった項目です。
確かに、ある程度のマニュアル教育をしている医院・病院ではこのような項目はできているようにも思えます。
しかし、たとえそれらのチェック項目はできているとしても、気になったことがありました。
例えば、患者様におつりを渡すときに片手渡しで、目線は別の方向を見ている。「お大事に...」と言葉では言いながら、顔は真顔で手元に気が取られている。「○○さん、検査がありますので、○番の前でお待ち下さい」といいながら、まだ言葉は終わっていないにもかかわらず、身体はすでに患者様に背中を向けて立ち去ろうとしている。など、決められた言葉は言っていたとしても、そのときの表情・目線・態度は、まさに“心ここにあらず”といった事務的な印象を受けました。
話は変わりますが、つい先日、私の娘が目の手術を受けることになり、紹介をされた病院に何回か通いました。職業柄とはいえ、わが子のことです。まさに患者の立場、家族の立場でドクターや看護師、受付の方と接することになりました。
診察が終わり、後から診察室に入ると、ドクターが娘と話しこんでいるところでした。
「(手術で)切れば治るのは早いけど、1週間は眼帯やな。切るのがいややったら、時間をかけて薬で治すけど、絶対に治まるかどうかはわからんな。旅行に行くんやったら、その前に治したら安心して行けるんとちゃうかなあ~、どうする?」。
そして、母親である私には、今の症状と手術をする場合としない場合について説明をして下さいました。もちろん私に対してはきちんと“ですます調”でした。ドクターも看護師の方も怖がりの娘の心境、夏休みの予定との兼ね合いなど、とても親身に相談に乗って下さいました。
結局二度にわたって手術を受けたのですが、手術中も怖がりで痛がりの娘を気遣って、まったく関係のない、おしゃれの話や旅行のことなど話しかけて気を紛らわそうとして下さるなど、痛みをこらえて声も出ない娘にも、その心遣いは伝わってきたそうです。
数日して通院し帰る時、(手術のときの)看護師さんに廊下ですれ違いました。すると「頑張ったね」「順調に治ってきているよ。良かったね」と笑顔で声を掛けてくださいました。
さらに毎回、会計の受付に行くのですが、いつも目にとまる受付の方がいます。どの患者さんにも満面の笑顔で応対し、処方箋、おつりなどすべての受け渡しにおいても、両手でとても丁寧に言葉を添えて笑顔で渡しているのです。
さらに、相手が見ていようが見ていまいが、きちんと「お大事に」と言葉を添えて笑顔で見送っているのです。何よりも私が感動したのは、どの患者さんと話すときでも、その笑顔は心からのように見えたことです。医療という仕事を楽しんでいる、誇りを持っているようにも感じられました。
患者の立場で病院を訪れたときに完治させてもらうことは、もちろん満足ですが、そこに至るまでの、ドクターや看護師、受付スタッフの方との言葉のやり取り、そのときの掛けられた言葉、表情の親身さが何よりも患者満足につながりました。つまり一人一人の言動に思いやり、ホスピタリティ精神があるかどうかに尽きると痛感したのです。
この経験を通して、私が仕事で携わっている病院の取り組みについて考えてみました。一番大切なことは、マニュアルを徹底することや、毎月違ったスローガンを掲げることだけではないと実感しました。もちろん決して無駄なことではないですが、その前に徹底しなければならないことがあると思うのです。大きな病院なので、それぞれの分業化された仕事になるのは仕方がないのですが、担当の仕事にだけ従事するのではなく、どの仕事であっても(医療事務担当、配膳担当など)一人一人が医療に携わるものとしての自覚をしっかりと持つことが大切です。
その上で相手の立場に立って考え、行動すること、表現することが必要だと思うのです。その意識がなかったり、薄らいでしまうと、どんなにマニュアルで言葉を徹底したとしても、口では、「お大事に」という言葉を言いながら、次の人のカルテを見ている...というような“心ここにあらず”という事務的な応対になる危険性があるのです。
もちろん、その病院のスタッフ全員が医療に携わるものとしても自覚がなかったわけではありませんでした。中には忙しさに追われてつい忘れてしまい、事務的になってしまっていたという方や、気持ちはあるけれども表現力が伴っていない方もいらっしゃいました。
どんなにベテランのスタッフがそろっているとしても、時には患者様の目線でのチェックを受けることは、必要なようですね。
現在、その病院では、初心に戻り、リーダーを中心として、医療に携わるものとしての自覚を再確認し、患者様の立場、目線に立った言動を考える研修会を実施し、それらを表現することができるよう、トレーニングを始めたところです。
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