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第44回(151号)

“伝えた”イコール“理解した”??

株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター 伊藤 純子

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“伝えた”イコール“理解した”??

株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター伊藤 純子

皆さんはインフォームドコンセントという言葉をご存知ですか?
インフォームドコンセントについて、以前セミナーの受講者に質問したことがあります。参加者の中でこの言葉を知っている方は半分ぐらい、意味を理解している方は3分の1ぐらいであったと記憶しています。医療に携わるものとして、患者と接するものとして、せめて言葉の意味を理解しておいてほしいと思い、説明をしました。
インフォームドコンセントとは《説明、同意》という意味ですが、医師が患者に対して、治療前に病状の説明を明確にし、これから始める治療の内容について「なぜこの治療が必要なのか」「どれぐらいの期間が掛かるのか」「この治療をすることによる効果はどういったものなのか」「副作用」「治療に掛かる費用」などを分かりやすく説明し、その上で患者から同意を得ることを言います。
これは治療に際して患者さんの意志を最大限に尊重するためです。医学に対して知識が無くても患者さんが自分の状態を認識し、自身で判断決定するためにインフォームドコンセントはあります。ここ10年はこの考え方も定着し、様々な医療機関で意識して取り組まれています。
しかし、このインフォームドコンセントは医療機関と患者さんとの認識が少々違うこともあるようです。私が過去治療を受けた経験では、医療機関は患者さんから同意を得るためにのみ行っているようで、患者側からすると一通りの説明はしてもらったものの、自身の状態をしっかりと理解するまでには至らず、不安を抱えたまま治療が進んでいたということもありました。
今、私はある病気で入院治療を受けているのですが、もちろん治療に際して医師から、治療の必要性、治療期間、治療による効果と副作用など、詳しく説明を受けました。なかなか難しい内容で、図や資料などを準備し、例え話なども入れながら説明してくれました。そのときは分かったつもりになったのですが、また時間が経つと分からないことが出てきたりして、家族にうまく説明できなかったこともありました。2回目の説明では家族が同席したのですが、先生はいきなり説明を始めるのではなく、私にこう尋ねました。「いま○○さんは、ご自身の病気をどのように理解していますか?どんな状況だと思いますか?」と。
私が理解している範囲を伝えると、それに対する不足部分や勘違いしている点、不安に感じている点を汲み取ってさらに具体的に説明をして下さったので、とても納得し理解できたことはもちろんですが、何よりも私の不安を一番重視して安心できるように配慮し、「長い治療は辛いですよね。でもこの方法が、今一番効果が期待できるのですから、あとすこし一緒にがんばっていきましょう!また不安なことが出てきたらいつでも言ってください。大丈夫ですか?」と温かい言葉を掛けて下さいました。
一生懸命分かりやすい言葉で丁寧に説明している先生はたくさんいらっしゃると思います。しかし、必ずしも“説明したから相手が理解している”、“説明を理解しているから前向きに取り組める”とは限らないと思うのです。“分かりました”といっていても、勘違いしている場合もあるかも知れませんし、思い込んでいる場合もあるでしょう。“伝えた”というのは、相手が正しく理解して初めて“伝わった”ということなのです。

そこで、この先生は私がどう理解しているかを質問されたのです。そうすることで、より正しい理解に導こうとされました。さらに不安と感じている点に焦点を当て、より詳しく説明することで不安を少しでも取り除こうとしてくれたのだと思います。伝えることに一生懸命になるのではなく、患者さんがどう感じているかという患者目線に立ったインフォームドコンセントだと思いました。
インフォームドコンセントを実施することは、医療を提供する側の努力義務を行うことで、「説明した」「聞いていない」ということがないように、医療側を守るために行うとの考えも聞いたことがありますが、本質的な意味は、患者側が自身の症状を理解し、完治、改善に向けて前向きに取り組めるようにするための行為だと思うのです。
そのためには、単に“説明した”だけで満足するのではなく、患者さんはきちんと理解したのか、それをベストの方法として前向きに取り組もうとしているのか、伴う不安は何なのかを患者さんからしっかりとヒアリングして意識合わせをし、一緒にがんばって治療していこうという気持ちを起こさせること、さらに最初の一回限りではなく、治療中の進捗状況などについてもフォローしていくことまでをあらわすのだと思います。
このような考え方で患者さんと接していくことが、ひいては医師やスタッフを信頼し、《選ばれる病院、医院》にも必ずつながっていくはずです。
近年は「医療もサービス業よ!」という言葉が普通に言われるようになってきました。選ばれる医院になるために患者さんに媚びたり、過剰なサービスをする前に、まず医療の基本理念であるホスピタリティ(思いやり、優しさ)をもち、「患者さんの立場に立つ」ことが一番の近道かと改めて実感しました。
皆さんも、仕事現場において様々なことを患者さんに伝える場面があると思います。ぜひ治療以外の説明でも、一方的に伝えるだけでなく、「相手はちゃんと理解しているかな?不安な点が無いかな?」と患者さんの視点に立った言葉がけ、説明を工夫することで患者さんが医院、スタッフへの信頼を深めてくれることを目指してください。

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