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第66回(173号)

クレームとペイシェントハラスメントへの対応

株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター 伊藤 純子

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クレームとペイシェントハラスメントへの対応

株式会社ロングアイランド 接遇マナーインストラクター伊藤 純子

近年“ハラスメント”という言葉をよく耳にするようになりました。
ハラスメントとは相手に対して行われる“嫌がらせ”のことで、傷つける行為、苦痛を与える行為、不利益を与える行為などはハラスメントに該当します。またクレームという言葉もありますね。クレームとは、商品やサービスに意見や不満を持つ顧客が、それを提供した企業(医療機関など)に対して問題点を指摘したり、苦情を述べたり、損害賠償を要求したりする行為、またはその内容のことです。
具体的には、購入した商品に欠陥がある、接客者の応対が横柄で気分を害した、などがクレームとしてあげられます。これらの事例は顧客の正当な要求であり、商品やサービスを提供した側の落ち度である場合がほとんどです。また接客態度に対する苦情を受けた場合は顧客の言い分をしっかりと聴いたうえで、応対をした当人はもちろんのこと、その上司が丁寧に詫び、今後の応対を改善する約束をすることが必要でしょう。きちんと誠意が伝わる対応をすれば、たいていのクレームは収まります。さらに顧客からのクレームには、提供側の改善課題が含まれていることがあり、改めて商品を点検したり、応対を見直すことで、同様のクレームをなくすことができ、顧客満足度を上げるきっかけともなります。
先日ある歯科のスタッフに聞いたクレームの事例です。長年通っている患者さんから、痛みがあるので見てほしいと電話が入ったのですが、スタッフは予約表を見ながら「〇日はいっぱいです。△日もいっぱいです」と返答したところ、「痛いのになぜ診てくれないの!」と憤慨されたそうです。この事例はペイシェントハラスメントではありません。返答の仕方、対応の仕方を工夫すれば避けられる事例です。例えば、とりあえず来ていただき、他の患者さんの合間をみて痛みをとる応急処置だけをして、その後予約をとっていただき、改めて治療をするというのが医療としてのあるべき対応でしょう。「〇〇さん、こんにちは。今日はどうされましたか?」と名前を言葉にし、痛みの状態をしっかりと聴き取り、「この時間なら少しお待ちいただくかもしれませんが、診させていただけると思いますので、いかがでしょうか」と予約を調整している努力を見せることが大事です。そのためには朝から終了時まで隙間なく予約を詰めるのではなく、急患を受け入れたり、治療が長引いたための調整の時間を取っておくなどの工夫が必要でしょう。うちはすべて予約制です!の一点張りでは、取れるべき新患や既存の患者さんを逃しているかもしれませんね。

もう1つの事例は、スピットンを消毒する薬剤がチェアに飛び散っていたようで、そのチェアに座った患者さんの衣服にシミが付いたので、衣類を弁償して欲しいという訴えでした。院長が対応してお詫びし、クリーニング代を出す提案をしましたが、クリーニングでも取れない、大切な服なのにどうしてくれるんだ、とお怒りでしたので、同様の商品をお買い上げいただき、その代金をお支払いするという再提案をしたそうです。それでも「同じものはもう売っていない。大切なモノなんだ!」と、さらなる要求があり、もめたそうです。
医院としても精いっぱいの対応をしたと思いますが、その後その患者さんは来院しなかったとのことです。後に他の医院から聞いた話では、その患者さんは他の複数の医院でも同様のクレームを出していて、出入り禁止にしている医院もあったそうです。
これは悪質なクレームの事例であり、ペイシェントハラスメントと言えるでしょう。
“被せものの色が合わない、差し歯がしっくりこないからと言って何度も作り直させた挙句、納得がいかないから治療費を払いたくない”と言い出す、“スタッフにセクハラまがいの言動を繰り返す”など、常識に欠けていると思われる行為は医院にとって頭を抱える問題です。しかし、一つひとつ検証していくと、中には、説明不足であった、初期対応が悪かった、などが発端となってこじれ、クレームやハラスメントに至っているケースもあります。
このように対応の仕方によって回避できるものがある一方で、わずかではありますが、意図的に不当な要求や嫌がらせをすることを目的としている場合もあります。
まず原因はどこにあるのか、最初の説明は患者さんの理解が得られるものであったか、さらにクレームを受けた際、一次対応はきちんとなされていたのかを振り返ることが重要です。
そのうえで、医院側に落ち度がなければ、理不尽な要求にこたえることなく、毅然とした態度で臨むことが必要でしょう。昔と違い、患者さんの意識も変わってきていて、権利を強く主張するようになりました。そのような時代において、このようなクレーム、ペイシェントハラスメントに発展させないよう、インフォームドコンセントやカウンセリングの仕方、医療スタッフとしての患者接遇の在り方を見直してみてはいかがでしょうか。

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