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第89回(196号)

“奥歯の処置が苦手な患者さん”へのやさしい対応

株式会社ロングアイランド 接遇講師 伊藤 純子

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ASSISTANT ASSISTANT

“奥歯の処置が苦手な患者さん”へのやさしい対応

株式会社ロングアイランド 接遇講師伊藤 純子

先日、ある歯科医院のスタッフからこんな質問を受けました。「嘔吐反射などで奥歯に器具が触れるのを嫌がる患者さんには、どう対応すれば良いですか?」。歯科医院では決して珍しくないご相談です。
口を開けた途端に「オエッ」となってしまう方、涙目になりながら頑張ってくださる方。スタッフもつい焦ってしまいますが、嘔吐反射は“その人の弱さ”ではなく、誰にでも起こり得る自然な防御反応です。例えば、予期せぬタイミングで誰かに頰をつつかれたら、思わず体が反応してしまいますよね。それと同じように、何をされるのか分からない状態で口の奥を触られると、身体が反射的に「守ろう」と動いてしまうのです。ですから、嘔吐反射のある患者さんに限らず、どの患者さんに対しても、「我慢してもらう」「慣れてもらう」のではなく、“安心して構えられる状況”をつくることが最も大切です。そのための鍵となるのが、“事前の説明”と“声かけ”です。

①受付・問診時のひと声で、安心を先に届ける

最初の接点である受付や問診時の会話は、患者さんの安心感を大きく左右します。例えば、こんな声かけが効果的です。「奥の方を触ると気持ち悪くなりやすいことはありますか?」「もしそういうことがあれば、体勢を変えたり工夫もできますので教えてくださいね」。このひと声で、患者さんは「この歯科医院では理解してもらえる」と感じます。それだけで治療への抵抗感が和らぎ、信頼関係の第一歩になります。この質問は問診票に載せておくことで、より確実に情報が得られるでしょう。情報が得られたら、カルテや申し送りに必ず記載し、次に関わるスタッフに共有しておきましょう。

②チェアユニットに座ってからの“予告”が反射を防ぐ

治療の前、チェアで緊張している患者さんに対しては、次のような声かけが有効です。「少し奥の方を触りますが、苦しくなったらすぐ合図してくださいね」「鼻でゆっくり吸って、口から細く吐くと楽になりますよ」。このような事前の“予告”がとても効果的です。「次に何をされるか分からない」状態こそが嘔吐反射の引き金になるため、たとえ数秒の作業でも“これから何をするか”を伝えることで、患者さんは心の準備を整えることができます。
注意してほしいのは、声かけと動作を同時にしないことです。声かけはしているものの、言葉と同時に器具が口に触れている場面を目にすることがあります。これでは患者さんの心構えができず、びっくりしてしまいます。声をかけて相手の反応を確認してから(わずか 0.5 秒ほどの間です)動作に移りましょう。また、頭の角度や姿勢の調整は歯科医師や歯科衛生士が判断して行いますが、アシスタントが「もう少し背版を起こしますね」などと優しく説明を添えるだけでも、患者さんの安心感は格段に違ってきます。

③処置中は“進行が分かる声かけ”を

治療が始まると、患者さんはどうしても受け身になります。そのとき大切なのは、“今どうなっているか”をこまめに伝えることです。「今はお掃除をしています。あと少しで終わりますね」「ゆっくり呼吸できていますか?とても上手ですよ」。このように状況を実況しながら声をかけると、患者さんは安心して呼吸を続けられます。反対に、「我慢して」「ちょっとだけ頑張って」「吐かないで」といった言葉は、無意識に“プレッシャー”として伝わるため避けたい表現です。一人ひとりのペースに合わせ、“頑張っていることを認める言葉”を選ぶことが、信頼を育てる第一歩です。

④専門的な工夫を支える“観察と報告”

もちろん、嘔吐反射を起こしにくくするための器具の使い方や材料選択など、歯科医師や歯科衛生士による専門的な対応もあります。それらを考慮したうえで、さらにアシスタントに求められるのは「患者さんの様子をよく観察し、変化を伝えること」です。「少し苦しそうに見えます」「呼吸が浅くなっています」といった小さな気づきを歯科医師にすぐに伝えることで、治療全体の安心感が高まります。つまり、“専門的な工夫を支えるコミュニケーション”こそが、私たちの重要な役割なのです。

⑤処置後のフォローと申し送りで信頼を深める

処置が終わった後のひとことも、患者さんの印象を左右します。「今日は奥歯の処置もよく頑張ってくださいました」「無理せず合図を出してくださって助かりました」。このように、患者さん自身の協力を認める言葉で締めくくることで、「次もこの歯科医院なら大丈夫」と思ってもらえます。
また、カルテには「嘔吐反射あり・半座位・鼻呼吸誘導有効」などのメモを残し、スタッフ間で情報を共有しておくと、次回もスムーズに対応できます。嘔吐反射のある患者さんへの対応は、技術よりも「声のかけ方」と「安心の積み重ね」が肝心です。“どうすればこの人が少しでも楽に受けられるか”を考える姿勢が、医院全体の温かさや安心感につながります。つまり、嘔吐反射のある患者さんに限らず、すべての患者さんに対しても、これらの対応や声かけを心がけていくことで、安心感を得ることができるのです。
患者さんが「この歯科医院なら大丈夫」と思える場所であること。それは、スタッフ一人ひとりの心配りから生まれるものです。

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