
チェアユニットにおけるデザイン性の高さが示すもの
「Signoシリーズ」が40年にわたって愛され続ける理由とは
モリタ東京製作所が製造するチェアユニット「Signoシリーズ」が発売から40周年を迎えました。
競争が激しいチェアユニット市場で、デザイン性に活路を見出し、さまざまな創意工夫に取り組んできた設計開発スタッフたち。そのエンジニアたちの取り組みについてのインタビューを三部構成でご紹介します。
「Signoシリーズ」誕生の秘密と進化の系譜
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中山 真一
株式会社モリタ 東京製作所
代表取締役社長 -
田村 俊文
株式会社モリタ 東京製作所 取締役
製造企画本部長 /生産技術本部長
インタビュー後半
初のポルシェデザインとのコラボ「Signo TREFFERT(トレファート)」
その後、2004年に初めてポルシェデザインとタッグを組んだ「Signo TREFEERT(トレファート)」が誕生します
「Signo TREFFERT(トレファート)」のデビューも衝撃的でしたね。「LX-1」はその後「LX-1 TYPEⅡ」、「LX-1 TYPE CORE」、「LX-1 TYPE HM」と進化を重ねながら長らく人気を博してきました。その後「TYPE HM」を販売しながら、併売で「トレファート」が新たに販売されました。当時「Signo シリーズ」は「LX-1」とは別の系譜の「G(GRAND)シリーズ」も展開していましたから、ラインナップがどんどん増えて共存しているような状態でした。
「Signo LX-1」シリーズ
進化の系譜-
「LX-1 TYPEⅡ」
1996年〜1998年 -
「LX-1 TYPE CORE」
1998年〜2001年 -
「LX-1 TYPE HM」
2000年〜2005年
「Signo G(GRAND)」シリーズ
進化の系譜-
「GRANDⅡ」
1993年〜1997年 -
「GR」
1997年〜2001年(中央) -
「TYPE G30」
2000年〜2023年
「LX-1」は、私が思うに初代「Signo」から依頼してきたデザイナーの集大成だったと思います。その後「Gシリーズ」もデザインしてくれましたが、「LX-1」のような衝撃や新鮮さがだんだん薄れてきたように感じていました。そこで弊社では、次の新型チェアユニットは新たなデザイン会社に依頼することに決め、それも世界に通用するようなデザインを求めて、海外の有名自動車会社のデザインを手がけるデザイン会社を水面下で検討することになりました。その中で白羽の矢が立ったのが「Porsche Design Studio」(現STUDIO F・A・PORSCHE 以下:ポルシェデザイン)です。なぜポルシェデザインだったかというと、当時ポルシェデザインと同じオーストリアに本社を構えるハンドピースメーカー「W&H(W&H Dentalwerk Bürmoos)社」と弊社が懇意にしていて、そのW&H社から紹介いただいたことがきっかけです。
世界のポルシェデザインということで、私たちも少し見構えていたところがありました。まずデザインを依頼するにあたって、弊社で詳細なチェアユニットに関する仕様書を作って事前にポルシェデザイン側に見てもらいました。装備や躯体内に必要な部品のほか、背板の高さは何cm〜何cmまで動く必要があって、角度は何度まで可動しないといけないとか、ユニットとチェアの位置関係や収めるべきサイズなどについて、事細かに書いたのですが、最終的にはこちらが大幅に譲歩しなければならなくなりました。もちろん、どうしても譲れない部分は守ってもらいましたが、ポルシェデザインは見た目だけではなく、「こういう製法でやってほしい」とか「材料には〇〇を使って欲しい」など、製造や使用する材料にもこだわりを持って提案してこられました。
ポルシェデザインとは、具体的にどんなやりとりがあったのでしょう
しかし、試作品ができていくうちに「やっぱりLX-1とは違う」と感じるようになっていきました。直線と円だけでデザインされていて、とにかくシンプルでスタイリッシュなんですよ。余分なものが一切取り除かれた感じと言えばいいでしょうか。具体的な形になっていくに従って「全然違うデザインだったね」と後で分かったというのが正直な感想でした。
ポルシェデザインの斬新さや細部にまで至るこだわり
ポルシェデザインは、それまで歯科用のチェアユニットを手がけた経験はあったのでしょうか
いえ。彼らにとって初めての経験だったそうです。ですから、事前にかなり入念なリサーチを行ったうえでデザインに落とし込んできたようで、そういう面ではかなり歯科臨床に即した提案だったと思います。歯科に関して完全なノウハウは持っていなくても、「こういう見せ方にしたい」という要望に対して「こうすればできるのではないか」といった提案は、多方面でありました。
例えばスケルトンでオレンジ色のスピットンは、当初その斬新さには本当に驚きました。トレーテーブルも鮮やかなオレンジやブルー、パープル色でスケルトン仕様でした。トレーの裏面からその色を塗って、その上に別の色を塗って透明部分が浮き出るようなイメージでデザインされていました。途中で見ているとよく分からないのですが、できあがりを見ると最初にイメージしたようになっているんですよね。「やっぱりすごいな」ととても感動しました。
ポルシェデザインとのやり取りの中で苦労された点はどんなところでしょう
ポルシェデザインのデザイナーと弊社技術者がぶつかったのは、ハウジング部分の構造やデザインについてだったと思います。当時弊社のチェアユニットのハウジング部分のほとんどはジャバラ構造だったんです。それをポルシェデザイン側が「チェアとユニットが同じように垂直に昇降する構造にできないか」という提案があり、技術担当者はそれでかなり苦労したと思います。
私は電気系で、いわば中身の部分を担当していたので、あまりポルシェデザインとぶつかることはありませんでした。ただ、「エッジはこういうふうに」とか「ラインはこの幅で」など逐一指示されている技術担当者を横目で見て「これは大変だな」といつも感じていましたね。
トレーテーブルの操作パネルはかなり苦労したんだよね。
はい。それまで操作パネルは平面に配置されているのが普通でした。ところが「トレファート」の操作パネルは少しR(丸み)が付いているので、通常の基板の設置方法では対応できなくて、その上に別のスイッチ部品を置いてうまく工夫しました。「スイッチ一つひとつの押し加減も均一にして欲しい」など、細かな要望がたくさんあって、その対応には頭を悩ませました。
「Signo Tシリーズ」の誕生
「トレファート」の後、現行機種である「Signo Tシリーズ」が同じポルシェデザインによるデザインで製品化されましたね
「トレファート」に続く新機種も引き続きポルシェデザインに依頼することは早くから決まっていました。そこでポルシェデザイン側と何度か打ち合わせしていく中で、「Gシリーズ」に変わる新たなシリーズを展開しようという話でまとまりました。「Gシリーズ」ではグレード別に機種展開はしていたのですが、デザイン性に一貫性がなく、シリーズとしての統一感も今ひとつアピールできていなかったんですね。そこで、ポルシェデザイン側から、グレードは違ってもデザインに統一感を持たせた「Tシリーズ」を新たに提案してもらったわけです。その際に、「『トレファート』と並んでも違和感のないデザインで」ということは弊社からお願いしました。「トレファート」をお使いの先生は当時たくさんおられましたし、その隣に新たに「Tシリーズ」が置かれても馴染むようにして欲しかったんです。もっともポルシェデザインとしても、そのあたりは想定されていたようです。
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「Signo T500」
2018年〜 -
「Signo T300」
2019年〜 -
「Signo T100」
2022年〜
「Signoシリーズ」が40年にわたって進化を続けてきた理由
「Signoシリーズ」は発売40周年を迎え、モリタのチェアユニットでは60周年を迎えた「スペースライン」に続くブランドとして成長しました。お二人は40年続いてきた理由をどのようにお考えですか
「Signoシリーズ」は、まさに私たちモリタ東京製作所の看板シリーズです。ただ、誕生した当初は正直ここまで長く続くブランドになると思っていませんでしたし、明確なブランディング戦略を持っていたわけではありませんでした。それが、こうして40年にわたって続けてこられたのは、ひとえにお使いになる先生方の評価によって、いわば「Signoシリーズ」をここまでのブランドに育てていただいたおかげと感謝しております。もちろん、ポルシェデザインをはじめとしたデザイン会社の力、そしてそれを懸命に形にしてきた弊社スタッフの努力の賜物であることも忘れてはなりません。
まったく同感です。初代「Signo」が高い評価をいただけたことを皮切りに、「LX-1」「トレファート」と時流に合わせてタイミング良く新製品を投入することができました。それが現在の「Signo Tシリーズ」へと脈々と受け継がれていると感じています。
今後の抱負も含めて、メッセージをお願いします
先述のようにユーザーの先生方に育てていただいた「Signo」ブランドですから、引き続きご満足いただけるチェアユニットとして大事に育てていきたいと思っています。一方、「Signoシリーズ」に匹敵する新たなシリーズを今後模索していく必要性も大いに感じています。先生方のご意見はもちろん、弊社開発メンバーや販社であるモリタの意見も取り入れながら、新たなモノづくりを展開していければと考えています。
「Signoシリーズ」を今後50年、60年と続けていきたいという思いはもちろんありますが、「Signo」だけに固執するのではなく、新たなブランドを生み出すことができれば良いとも考えています。私は現在技術者の立場にはありませんが、現役の技術スタッフは若手を含め全員が上を目指して取り組んでくれているので、それを全面的にバックアップしていければと思っています。
