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シグノシリーズ 開発者インタビュー PART.2 ポルシェデザインとの初めてのコラボで実現したチェアユニット「Signo TREFFERT(トレファート)」が与えた衝撃

チェアユニットにおけるデザイン性の高さが示すもの
「Signoシリーズ」が40年にわたって愛され続ける理由とは

モリタ東京製作所が製造するチェアユニット「Signoシリーズ」が発売から40周年を迎えました。
競争が激しいチェアユニット市場で、デザイン性に活路を見出し、さまざまな創意工夫に取り組んできた設計開発スタッフたち。そのエンジニアたちの取り組みについてのインタビューを三部構成でご紹介します。

第二弾

ポルシェデザインとの
初めてのコラボで実現したチェアユニット
「Signo TREFFERT(トレファート)」が与えた衝撃

  • 金子 孝士
    金子 孝士
    株式会社モリタ
    東京製作所
    技術開発部 部長
  • 釜口 昌平
    釜口 昌平
    株式会社モリタ
    東京製作所
    技術開発部 次長

インタビュー前半
ポルシェデザインと初めてのコラボレーションがスタート

金子さんがチェアユニットの設計開発に関わるようになった経緯をお聞かせください

金子:

私は入社後すぐにチェアユニットの開発部隊に配属され、以降、一貫してチェアユニットの設計開発に従事してきました。私が入社した当時、ちょうど「LX-1」の発売前でしたので、新人ではありましたが開発にも少し関わったことがあります。それから「Signoシリーズ」との長い付き合いが始まりました。「LX-1」以降、「LX-1 TYPE Ⅱ」や「LX-1 TYPE CORE」、「LX-1 TYPE HM」などのモデルチェンジにも携わりました。その後、技工製品の開発を行うなど、チェアユニットの開発から少し離れた時期もありましたが、2004年販売の「トレファート」の際には設計開発メンバーの一人として招集され、その設計開発に深く関わっています。

「トレファート」開発にあたって、初めてポルシェデザインにデザインを依頼することになりました

金子:

「Signo LX-1 TYPE HM」
「Signo LX-1 TYPE HM」
「LX-1」や「Gシリーズ」の途中まで、チェアユニットのデザインは国内のデザイン会社に依頼していました。担当のデザイナーは、これまでさまざまな経験を積んできた方でしたので、日本の歯科環境もある程度分かっていますし、これまでの経緯も十分理解してくれていました。ですから、モデルチェンジを依頼する際には、お互いにいわゆる“あうんの呼吸”で進められるという安心感がありました。
その後、新型チェアユニットの開発にあたり、ポルシェデザインにデザインを依頼することになったのですが、彼らがなぜオファーを受けてくれたかというと、これまで歯科用チェアユニットのデザインの経験がなかったことから、大いに興味を持ってくれたことが理由だったようです。
ポルシェデザインは、最初に綿密な市場調査を行ったうえでデザインにかかるスタイルでしたが、歯科の知識がほとんどなかったうえ、日本とヨーロッパの国事情が違うところもあって、最初はかなり難航したようです。そこで、当時弊社の最新機種だった、「Signo LX-1 TYPE HM」の実機をポルシェデザインの事務所があるオーストリアに送って、詳しく検証してもらうことにしました。
「Signo LX-1 TYPE HM」
「Signo LX-1 TYPE HM」

わざわざチェアユニットの実機をオーストリアに送られたのですね

金子:

金子 孝士
金子 孝士
当時の弊社営業部のトップや管理メンバーも現地に赴き、使い方の説明などを行って、デザインを本格的にスタートしてもらいました。ポルシェデザイン側も、独自に現地の歯科医院に取材に行き、疑問点などを解消していたようです。その後、ラフスケッチが送られてきて、ポルシェデザインが提案する新型チェアユニットの全貌が少しずつ明らかになっていきました。それを詳しく見ると、当時の私たちの常識では考えられないような発想や、他にもサイズ感が日本人に合わないなどの問題が明らかになってきました。当初ポルシェデザイン側には、これまで手がけたことのない未知の分野で新たなインパクトを出したいとか、個性的なデザインを印象付けたいという意図があったようです。
新型チェアユニット「トレファート」の設計開発では、私は若手開発メンバーの一人でしたので、ポルシェデザインの提案を受けて、そのデザインを評価、検証して、実用化に向けて設計に落とし込めるかどうかという作業に従事していました。
金子 孝士
金子 孝士

釜口:

釜口 昌平
釜口 昌平
私が入社したのは「トレファート」がちょうど発売するタイミングでしたので、開発にはほとんど関わっていません。配属先もチェアユニットの設計開発部門ではなく、主に技工製品の開発部門でした。ただ、その後、チェアユニットに装備する製品の開発部門に配属されて、オペレーティングライト「ルナビューEL」の開発に携わりました。その後「ルナビューEL」は「トレファート」以降、弊社が販売するすべてのチェアユニットに搭載されましたから、そういう意味では「トレファート」や「Gシリーズ」、さらに現行製品の「Tシリーズ」にも関わっています。オペレーティングライトの光源にLEDを採用したのは、国内メーカーとして「ルナビューEL」が初めての取り組みでした。
釜口 昌平
釜口 昌平
LEDオペレーティングライト「ルナビューELⅡ」(「ルナビューEL」の後継機種)
LEDオペレーティングライト「ルナビューELⅡ」
(「ルナビューEL」の後継機種)

では、釜口さんはポルシェデザインとのやりとりはなかったということですか

釜口:

私は全く経験がないんです。「ルナビューEL」は、ポルシェデザインではなく、「LX-1」などをデザインした以前のデザイン会社によるデザインでしたので…。


ポルシェデザインの頑強なまでのデザインへのこだわり

ポルシェデザインによる「トレファート」のデザイン画を見た時の印象はいかがでしたか

金子:

ポルシェデザインによるデザイン画をもとに解説する金子氏。
ポルシェデザインによるデザイン画をもとに解説する金子氏。
「LX-1 TYPE HM」をベースにデザインされましたから、外観はどことなく「LX-1」に似た部分はありました。ただ、実際に製品開発者として、そのデザイン画を再現し、商品化していく立場からすると、「これまでの経験上、私たちならまずやらないな」と思える要素がたくさんありました。当初開発陣としては、デザイナーとのやり取りも含めて、折衝はかなり難航しました。実現が困難ということで、デザイン変更を依頼したことも何度となくあります。ただ、ポルシェデザイン側も「そちらのボス(社長)がOKしているのだから」ということで、なかなか折れてくれません。ただ、最終的には、デザイン画から若干の違いは見られますが、彼らが描くイメージに近い形で再現できたと思っています。
ポルシェデザインによるデザイン画をもとに解説する金子氏。
ポルシェデザインによるデザイン画をもとに解説する金子氏。

これまでの製品とポルシェデザインの違いはどんなところにあるのでしょう

金子:

「Signo TREFFERT(トレファート)」シートの色づかいや太いライトポール、メタリック塗装のボディなど、当時のチェアユニットでは見られなかった要素が取り入れられている。
「Signo TREFFERT(トレファート)」
シートの色づかいや太いライトポール、メタリック塗装のボディなど、当時のチェアユニットでは見られなかった要素が取り入れられている。
まず驚いたのが、ライトポールの太さですね。今までは40φというサイズでほとんどのメーカーが統一していて、40φに対応するアダプターなどの周辺機器も発売されていましたから、この変更にはかなり驚きましたね。さらに、メタリック塗装による外装も初めての試みでした。シート部分を除くほぼすべての部品にメタリック加工を施すというもので、当時の国内の歯科の常識では考えられないことでした。当時、メタリック加工のような金属光沢は、治療時の痛みや冷たい器具のイメージを連想させるということで、日本の歯科医院では敬遠されていました。それをポルシェデザイン側から「金属感のある塗装で仕上げて欲しい」との依頼がありました。最終的には、金属に似た塗装加工を施して要望に従いましたが、当時の私たちにしてみれば「こんな加工をして本当に大丈夫なのか」と気が気ではありませんでした。
「Signo TREFFERT(トレファート)」シートの色づかいや太いライトポール、メタリック塗装のボディなど、当時のチェアユニットでは見られなかった要素が取り入れられている。
「Signo TREFFERT(トレファート)」
シートの色づかいや太いライトポール、メタリック塗装のボディなど、当時のチェアユニットでは見られなかった要素が取り入れられている。

ポルシェデザインのこだわりは国内のデザイン会社とは大きく違っていたのでしょうか

金子:

もうそれは比較になりませんでした。「実現が困難なのでデザインを変更して欲しい」という私たちの依頼に対して、当時来日していたポルシェデザインの担当者は、顔を真っ赤にして反論してきました。「変更する、しない」という判断に関しては、いつもお互いにヒートアップし、議論は長時間に及ぶことが多かったですね。ポルシェデザインはこだわりが強いので、なかなか簡単にはまとまりません。これが国内のデザイン会社との折衝であれば、当然クライアントは私たちですし、歯科に関するノウハウは私たちの方が熟知していますから、ある程度こちらの言い分を考慮してくれます。でもポルシェデザインはそんなことはまったく意に介しません。鋳物やプラスチック、板金だったり素材や部品によって製法はさまざまで、美しい造形が作れる成形方法や、無理のないR(丸み)の出し方、エッジの出し方というものが決められています。ポルシェデザインの要求は、「これは○RじゃないとNGです」「隙間は○mm以内に収めるように」などと細部に至るまで何度もチェックされ、簡単にはOKを出してくれませんでした。したがって、私たちは何度も修正を行いましたし、要求に応えるために正直かなり無理を強いられたこともありましたね。

「トレファート」でこれまでと大きく変わった部分は具体的にどんなところでしょう

金子:

それまでは座面用のシートというと、職人が手で貼っていく方法が多かったのですが、「トレファート」では、当時はあまり見られなかったエンボス調のシートを採用しました。表面はツルッとしているのですが、表面にポツポツの突起(ディンプル)が入っていて、かなり薄い素材です。これを職人の手作業で貼るのは難しいということで、新たにシート自体を一体で成形できる業社探しから始めました。さらに、「トレファート」では背中の部分のシートにスリットのような溝がデザインとして入っていて、これを実現するためには型押し成形が必要になり、それを可能にするシートも新たに開発しています。また、「トレファート」は、ご覧の通り座面や背板がかなり薄いデザインになっています。シートのクッションもそれに合わせて薄く、それでいて座り心地を良くするために、これまでのクッション材を見直して低反発のクッション材を新たに採用するなどの工夫を行っています。
加えて、トレーテーブルにもポルシェデザインならではのこだわりが詰まっています。具体的には、透明感を出すために透明樹脂を使用しているのですが、それだけでは裏側まで透けてしまいますから、裏側から塗装を施しています。これによって奥行きを感じる透明感を再現し、デザイン性をさらに高めています。この仕様はテーブルホルダーやアシスタントホルダーも同様です。スピットンは同じく透明な塗装ですが、こちらはガラス製です。こうしたデザイン面でのこだわりも「トレファート」で初めて採用しています。

  • エンボス調のシートを採用。表面に突起(ディンプル)が施されている。
    エンボス調のシートを採用。
    表面に突起(ディンプル)が施されている。
  • スピットンはガラス製でスケルトン仕様を採用。うがいの際に回転させることができた。
    スピットンはガラス製でスケルトン仕様を採用。
    うがいの際に回転させることができた。
  • シートには低反発素材を採用。
    シートには低反発素材を採用。
  • トレーテーブルには透明樹脂を使用。裏側から塗装することで奥行きを感じる透明感を再現し、デザイン性を高めている。
    トレーテーブルには透明樹脂を使用。
    裏側から塗装することで奥行きを感じる透明感を再現し、デザイン性を高めている。