107号 WINTER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ デンタポートの構成要素
- ≫ デンタポートルートZX
- ≫ デンタポートトライオートZX
- ≫ デンタポートトライオートZXの改良点
- ≫ デンタポートトライオートZXの臨床応用
- ≫ ニッケルチタンファイルの使用法
- ≫ おわりに
■はじめに
ここ何年かは、トライオートZXにつけたニッケルチタンファイルでほとんどの根管形成を行っている。手指で形成するよりも、早く楽に、はるかにきれいな根管形成ができるからである。
穿通が困難な部位では手用の細いステンレスKファイルを用いることもあるが、登場する機会はだいぶ減少した。
トライオートZXは、3つのオート機構を持つ世界的にみても非常に先進的な器械であったが、今回さらにそれを発展させたデンタポート(図1)を開発した。
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図1 デンタポート全体像
■デンタポートの構成要素
デンタポートは、構成要素(モジュール)を組み合わせることによって多機能な作業ができるように考案された総合的歯内療法器具である(図2)。
現段階では、デンターポートはルートZXモジュール、トライオートZXモジュール、カバー(電池ボックス)、各種電極、フートスイッチ、充電器などから構成される。
ルートZXモジュールは、電気的根管長測定の機能を内蔵していると同時に他のモジュールを制御し、各種の表示をする機能がある。
ルートZXモジュールは、電池ボックス、ファイルホルダー、対極をセットすることによりデンタポートルートZXとなり、ルートZXとして用いることができる(図3)。
また、ルートZXモジュールにカバーの替わりにトライオートZXモジュール、ハンドピース、対極、フートスイッチ(オプション)をセットすることにより、トライオートZXとしての機能を発揮する(図4~6)。
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図2 デンタポートの構成要素 -
図3 デンタポートルートZX -
図4 カバーの取り外し -
図5 デンタポートトライオートZXの組立 -
図6 デンタポートトライオートZX
A:ルートZXモジュール、B:ハンドピース
C:対極、D:フートスイッチ(オプション)
■デンタポートルートZX
ルートZXモジュール(A)にカバー(B)をセットする(図3-1)。電池ボックスには、単3乾電池3個を入れる。対極とファイルホルダーのついたコードをコネクターに挿入する(図3-2)。
この状態でパワースイッチを入れると、電気的根管長測定関連の表示がメーターパネルに現れる(図3-3)。
これで、従来のルートZXと全く同じように用いることができる。
■デンタポートトライオートZX
Aを押しながらB方向にカバーをずらすとカバーがはずれる(図4)。今度は、図5-1のBのトライオートZXモジュールを図5-2の矢印の方向に挿入し、組み上げる(図5-2)。Dにハンドピースのコードを、Cにはフートスイッチのコードを接続する(図5-3)。
組み上げが正しければ、パワースイッチを入れると、ルートZXモジュールには図6-Aのように表示される。
ハンドピース(図6-B)のコードの分岐には対極(図6-C)をセットする。図6-Dはフートスイッチである。
この状態でトライオートZXとして用いることができる。
■デンタポートトライオートZXの改良点
1. メーター表示(図7)
(1)根管長測定のメーター値が読み取りやすくなった。
(2)回転数がデジタルでリアルタイム表示されるようになった。
(3)トルクの大きさ・変動がリアルタイムでメーターに表示される。
(4)他の設定も表示される。
2. 回転数が50~800rpmの範囲で変えられるようになった
ルートZXモジュール下部のセレクトスイッチ(図8)を何度か押して回転数の表示(図7-A)が点滅したところで、セットボタンを押すと1回押すごとに50、100、150、200、250、300、400、800と回転数のデジタル表示が変化する(図9)。そのまま、作業を開始すると、その回転数が記憶される。
通常、ProFile、Orifice Shaperでは毎分300回転、GT rotary では毎分250回転程度が適当である。
ゆっくり回っているように見えても手指で形成するよりはずっと早いので、遅めの回転数の方がニッケルチタンファイルが折れにくく安全である。
3. トルクリミットの大きさの変更が簡単になった(図10)
トルクリミットは、セレクトボタンを何度か押してトルクドットが点滅したところで、セットボタンを押すと1回押すごとにトルクドットが下に動く(下の方がトルクが大きくなる、11段階)。このようにして、オートトルクリバース機構が開始するトルクリミットの大きさを変更する。
トライオートZXのオートトルクリバース機構とは、あまり大きなトルクがファイルに加わるとファイルを折る危険があるので、過剰なトルクが生じたときにファイルを逆回転させ食い込みから開放させる機構であった。
トルクリミットが大きいとオートトルクリバース機構が働きにくくなる。すなわち、ファイルは強く回転し、作業効率はよいが細いファイルでは破折の危険がある。
逆にトルクリミットが小さいとオートトルクリバース機構がすぐに働く。すなわち、ファイルはすぐに逆回転するので、全然切れないが細いファイルでも破折の危険が少ない。そこで、最初は低めのトルクリミットでしばらく練習し、慣れてきたら強めのトルクで作業したほうが能率がよい。
トルクの大きさはメーターパネルにリアルタイムで表示される(図11)ので、手に感じるトルクの大きさとメーター値との関係を早く関連づけられるようにし、自分の術式に合った作業時のトルクの大きさを覚えるようにする。
4. 根尖狭窄部に近づくと徐々に回転数が低下する、オート・アピカル・スローダウンモードが新たに設けられた(図12)
オート・アピカル・スローダウンモードとは、ファイルが根尖狭窄部に近づくにつれて、モーターの回転数が自動的に低下する機構である。この機構により、根尖狭窄部付近では根管が急激に彎曲することがあるが、そのような部位でもより安全に根管形成できる。また、この機構は任意にオン・オフできる。付加設定機能を用いてセットする。
5. フートスイッチが付けられたので、オートスタートが働きにくいときに用いると有効である(図13)
感染根管治療における根管上部の形成、ガッタパーチャを除去しているときなど、根管内が乾燥しているときには測定電流が流れないので、オートスタート機構が働かない。すなわち、モーターが回りださない。
このようなときに、トライオートZXではマニュアルモードで使っている人が多かったが、マニュアルモードではオートトルクリバース機構が働かないので、ファイルが食い込み抜けなくなることがあった。
フートスイッチがあると、モーターが回転しないときには、フートスイッチを踏めば回転が開始する(図13-A、B)。
また、ファイルにファイル電極がセットしてあれば、ファイルが根尖方向に進んで、電気的根管長測定できるようになる(根管内で測定電流が流れ出す)と、各種のオート機構が自動的に作動する(根管長測定のメーター値が表示される、図13-C)ようになるので、そうなったときはもうフートスイッチを踏む必要はない。
《注意》マニュアルモードにすると、モーターを回りっぱなしにすることができるが、回転を止めるにはセットボタンを押すか電源ボタンを押さなくてはならないので使いにくい。フートスイッチを用いたほうがはるかに使いやすい。マニュアルモードにするには、セットボタンを押しながらモードボタンを押す。
6. オートアピカルリバースかオートアピカルストップのどちらかを選べるようになった(図7-G)
根尖狭窄部でファイルを固定したいときには、オートアピカルストップを用いるが、こうすると根尖狭窄部でファイルがロックして抜けなくなることがあるので、通常はオートアピカルリバースで用いたほうがよい。
7. ハンドピースが小型軽量化された(図14)
トライオートZXと比較し、ハンドピースは小型・軽量になった。
8. 一回の充電で、連続約2時間動作することができる(図16:トライオートZXの約2倍以上)
週に1~2回トライオートZXモジュールの右側面にあるプラグに充電器のコードを接続し、充電する(図15)。
安全のため、充電中はデンタポートトライオートZXは作動しない。約1時間で充電は完了する。
9. 回転数・トルクリミットなどを変更した設定を3種類記憶させ、呼び出すことができる
要するに、多種の設定を術者の好みにより、より細かく設定することができるようになったのが大きな改良点である。
《注意》オートクレーブ滅菌できるのは、ハンドピースでは図16のAの部分のみである。Bの部分にはモーターなどの電子部品が入っているので、オートクレーブすると壊れてしまう。その他、オートクレーブできるのは、対極だけである。他のものは、アルコールで清拭する。
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図7 メーターパネルの表示(デンタポートトライオートZXとして動作時)
A:回転数、B:トルクリミットドット、C:トルク値、D:電気的根管長測定のメーター値、E:ブザー音量、F:バッテリー残量、G:アピカルリバース・アピカルストップ切り替え、H:オート・アピカル・スローダウンモード、I:オート(通常動作)、マニュアルモード切り替え、J:アピカルドット、K:モード(メモリー)、L:モーターが反転するまでの停止時間 -
図8 ルートZXモジュールのスイッチ類
パワースイッチの他、各種設定をするスイッチが配置されている。 -
図9 回転数の表示
A:毎分250回転
B:毎分300回転 -
図10 トルクリミットドット
A:小さなトルクリミット
B:大きなトルクリミット -
図11 トルクの大きさの表示
A:ファイルに小さなトルクが生じているとき。
B:ファイルに大きなトルクが生じているとき。
ファイル先端の位置を表す根管長測定のメーター値も同時に表示されている -
図12 オート・アピカル・スローダウンモードの時は矢印のようにslow downと表示される。
A:電気的根管長測定のメーター値2.0では毎分300回転である。
B:電気的根管長測定のメーター値1.0を越すと毎分150回転になった。 -
図13 フートスイッチ(オプション)
A:フートスイッチを踏んでいる。
B:フートスイッチを踏んだときの表示。まだ電気的根管長測定のための測定電流が根管内に流れていないので、電気的根管長測定のメーター値が表示されていない。
C:根管内に測定電流が流れるようになると、電気的根管長測定のメーター値が表示される14 ので、フートスイッチから足を離す。 -
図14 ハンドピースの比較
A:トライオートZX
B:デンタポートトライオートZX -
図15 このように充電器をトライオートZXモジュールに接続し、充電器のACプラグをコンセントに接続して充電する。 -
図16 デンタポートトライオートZXのハンドピース
AとBの2つの部分に分かれる。Bの部分には電子部品が入っているのでこの部分はオートクレーブ滅菌はできない。A+Bの状態でオートクレーブ滅菌すると故障してしまう。
■デンタポートトライオートZXの臨床応用
デンタポートトライオートZXでは、ニッケルチタンファイルで安全かつ手早く根管形成できるように最大限の配慮をして開発しているのであるが、それでもニッケルチタンファイルは折れやすいので、かなり抜去歯根管模型などで練習(図17)してから臨床応用しなくてはならない。
何でも自動化され、ただ何の考えもなく使用しても誰でも最初から上手にニッケルチタンファイルで根管形成できるように勘違いされやすいが、ファイルの破折を絶対に起こさないようになるにはかなりの修練を要する。
実際には修練によって、トルクの大きさに応じてハンドピースを上下動させることによって、最高の効率で最も安全に作業することが可能になる。
破折の危険があるにもかかわらず、ニッケルチタンファイルを用いるのは、ニッケルチタンファイルでは最善の根管形成ができるからである(図18)。
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図17 練習用模型。めんどうでも、このように電気的根管長測定できる模型を作って練習するとよい。
A:フィルムケースのフタを削って歯と対極を貫通させる。歯は動きやすいので即時重合レジンで固定する。
B:フィルムケース内には食塩水を満たしフタをする。対極を排唾管クリップではさんで、デンタポートトライオートZXを用いる。 -
図18 このような彎曲に沿った根管形成はニッケルチタンファイルでしかできない。
■ニッケルチタンファイルの使用法
現在では、図19のような方法で3種のニッケルチタンファイルを使い分けてクラウンダウン法で根管形成している。
①Orifice Shaper (図20)で根管口~根管中央部を形成する。
②ProFile(図21)で根尖1/3の形成をする。穿通できなかったときは、手指で#10のKファイルを用いて根尖狭窄部まで穿通する。
③GT rotary (図22)で根尖部1/3の形態修正・仕上げを行う。
臨床例を図23~25に示す。
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図19 図の左から右の順序で、3種のニッケルチタンファイルを使い分ける。 -
図20 Orifice Shaper
通常は#2~4の3種を用いる。Taperは0.06~0.08(ISOの規格の3~4倍)であり、全長は19mmである。 -
図21 ProFile -
図22 GT rotary
Taperは0.06~0.10(ISOの規格の3~5倍)で、先端の直径は全て0.2mmである。根管の太さに合わせて用いる。通常は#2と#3を用いることが多い。 -
図23 左上第2小臼歯
B、Cは角度を変えて撮影した2枚の術後のX線写真。 -
図24 左上第1小臼歯
Bは術後のX線写真。 -
図25 右上第1大臼歯
Aは術前、B、Cは術後の2枚のX線写真。
■おわりに
日本では、諸外国と比較するとまだまだニッケルチタンファイルの使用率が低い。
デンターポートによって、より多くの歯科医がニッケルチタンファイルに習熟して、手早く確実なエンドを身に付けることを切望している。
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