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歯科と医科、2つの視点から見た医科歯科連携の重要性と今後求められる歯科の役割について

京都光華女子大学短期大学部 歯科衛生学科 助教 尾形 祐己 

目 次

  • [写真] 京都光華女子大学短期大学部 歯科衛生学科 助教 尾形 祐己 
    京都光華女子大学短期大学部
    歯科衛生学科
    助教 尾形 祐己

歯科衛生士、看護師、保健師という3つの資格を持ち、現在は歯科衛生士を目指す学生教育に携わる尾形祐己先生。歯科と医科の視点を持つことで得た気づきや多職種連携を推進するうえで重要とされる歯科の役割、それをもとにした具体的な取り組みについて、お話を伺いました。

歯科衛生士を目指した理由

もともと私は文系で、人のためになる仕事がしたいと考えていました。そんなとき、高校の先生から、医師や歯科医師以外の医療系の仕事なら文系でも受験可能だと聞き、「それなら自分にもできることがあるかもしれない」と思ったことがきっかけです。
たまたま読んでいた受験雑誌に東京医科歯科大学(現 東京科学大学)歯学部に口腔保健学科が新設されたという情報が載っていて、大阪を出て東京に行ってみたいという憧れもあって、進学を決めました。
ただ、当時の歯科衛生士に対する私の知識は「歯科医院で働いている人」という程度の認識で、実際の業務内容はそれほど理解していませんでした。入学式を終え、クラスで男子学生が私一人だと分かったときには本当に驚きました。
しかし、入学してしまえば、一つ上の2期生には男性の先輩がいましたし、学ぶということにおいて男女の違いを意識することはありませんでした。在学中に、男性の先輩と一緒にオープンキャンパスの手伝いをするなど、「男性でも歯科衛生士になれるんです」というアピール活動は意識的に行っていて、私の2年後輩の5期生からは少しずつ男性の入学者も増えてきました。

卒業後、大阪の歯科医院に就職

大学卒業後に大阪に戻ったのは、祖父の介護が理由です。祖父が人工透析に通っていた病院に近い歯科医院を選び、歯科衛生士としてのキャリアをスタートしました。世の中では珍しいとされる男性歯科衛生士を患者さんが受け入れてくださるのか、最初は少し不安でしたが、真摯に対応していると患者さんは何も言わずに付いてきてくださいましたし、結局、大切なのは「人となり」なのだと気づきました。
介助が必要な患者さんが来院された時など、男性の力が役に立つこともありますし、男性でも活躍できる場はあるということを身をもって感じました。

  • [写真] 京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科
    2024年4月に開設された京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科。尾形先生は開設と同時に着任し、これまでの経験を生かした授業を展開している。
  • [写真] 併設の京都光華女子大学
    併設の京都光華女子大学と連携し、多職種連携教育を実施。他の専門職を目指す学生との相互理解を深めることができるのも本学の特長の一つ。
  • [写真] 5号館のインフォメーション
    歯科衛生学科は5号館にあり、実際の歯科臨床さながらの実習設備や学びを深めるための充実した施設が揃っている。

大阪市立大学の看護学科に編入

東京医科歯科大学での学生時代、大学病院の小児病棟で看護助手としてアルバイトをしていて、そのときからいずれは「看護師の資格を取得しよう」と考えていました。大学病院では命に関わる病気の子どももたくさん入院していたのですが、看護師たちは忙しく、なかなか口の中までケアが行き届きません。食事の介助一つとっても、同じ敷地にある歯学部では「口のサイズに合わせた食器を選ぶことの重要性」などについて勉強しているのに、医科で実現できていることは少なく、衝撃を受けたのです。
小児病棟には歯科衛生士の恩師がボランティアとして来ていたのですが、あるとき、口腔内の状態がとても悪かった子どものケアを行って、状態がみるみる改善していく様子を目の当たりにしたことがありました。
もちろん、複合的な理由もあったとは思いますが、「歯科衛生士の仕事ってすごいんだな」とあらためて実感しました。それなら、口腔ケアを看護師が行えば良いと思われるかもしれませんが、当時は看護師の中で歯科への関心がまだ薄かった時代で、看護学部には歯科の授業もほとんどありませんでした。「看護師はなぜ口腔ケアをしてくれないの?」と批判するのは簡単ですが、それは健全ではありません。
こうしたほうが良いと思うことを伝えたり、「なぜできていないのか、どうすればできるようになるのか」を相手と話し合うためには、まずは相手を知ることが必要だと思い、大阪市立大学の看護学科に編入することにしたのです。

看護を学んで得た新たな気づき

[写真] 尾形先生 看護では保清を大切にしていて、口腔ケアは患者さんの身体を清潔にする業務の一つと捉えられています。しかし、歯科衛生士はう蝕や歯周病を予防するために口腔ケアを行ったり、歯磨きの大切さを訴えたりしています。もともとの考え方のスタートが違うんです。
看護師免許を取得した後は、東京医科歯科大学医学部附属病院と大阪急性期・総合医療センターの小児病棟で勤務しましたが、そこでは、保護者の付き添いがない場合、夕食後に歯磨きをしようと子どもに働きかける人がいないことに気づきました。看護師も、子どもたち全員が歯磨きするところを見ているわけにもいかず、かといって一人でさせるわけにもいきません。そこで、子どもたちを一か所に集め、歯磨きする時間を設けるようにしました。
同僚の看護師たちには、臼歯部の磨き方や、口を大きく開けると逆に臼歯部が磨きにくくなることなど、歯科衛生士学校時代に使った顎模型を使って歯磨きのポイントを伝えました。子どもたちの口の中を見てう蝕になりかけていることが分かれば、病棟の医師に伝えて院内の歯科への紹介状を書いてもらい、受診を促したこともあります。
その他、手術を受ける子どもたちのために口腔ケアの重要性やその方法を伝えるパンフレットを作成したり、それを保護者に渡して指導を行ったこともありました。歯磨きを徹底させることで子どもたちが風邪を引きにくくなったという実感もあったので、看護計画を立てる際にも必ず歯磨きを加えていました。
また、入院中の子どもたちは、ゲーム三昧になったり、好きな時間にお菓子を食べるなどして、生活の質が落ちてしまうことが多いので、「何かを食べたり飲んだりした後は歯を磨きましょう」と繰り返し伝えるなど、生活の質をできるだけ維持し、カリエスリスクを下げるよう努めていました。
子どもの口臭から虐待を見つけたこともあります。それは代理ミュンヒハウゼン症候群を患った保護者による虐待だったのですが、子どもに食事をさせた後、薬を服用させ、嘔吐させていたのです。口腔内は生活の影響が出やすいので、日頃から口腔内をチェックすることがいかに大切かということも周囲のメンバーに伝えられたと思います。

私のベースは常に歯科衛生士

看護師として働いているときも、私のベースは常に歯科衛生士にありました。ですから、歯科の学会や講習会には必ず参加していましたし、専門誌を読んで情報収集にも励んでいました。看護師は、認定や専門など、キャリアの仕組みがきちんと整っていましたので、キャリアのことを考えるとそのまま看護師として働くほうが良かったかもしれません。ただ、「私のベースは歯科衛生士なんだ」という軸がブレることはありませんでした。
人は病気にならないと病院へは行きませんから、看護師は病気になった子どもを待つことしかできません。しかし、歯科衛生士は状態を改善するだけでなく、良い状態を維持することもできるし、0歳の赤ちゃんから100歳のお年寄りまで、すべての年代の人をカバーできる。すべての人にアプローチできるのも、予防に関わることができるのも、歯科衛生士だけなんです。これが私が歯科衛生士に軸足を置くいちばんの理由です。

  • [写真] 臨床歯科実習室
    臨床歯科実習室。案内表示の横には精巧な歯の模型がさりげなく飾られている。
  • [写真] 臨床歯科実習室
    臨床歯科実習室には歯科用ユニット13台(Signo G20)とX線診断装置(Veraview IC5 HD+、maxiXタイプ2R)を設置。歯科衛生士教育に必要な実習を臨床現場さながらに行う。
  • [写真] 授業を行う尾形先生
    アクティブラーニングを取り入れた主体性を育む授業が充実。授業では、学生のコミュニケーション能力を伸ばすことも意識している。

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