109号 SUMMER 目次を見る
■目 次
■はじめに
ニッケルチタンロータリーファイルは、ステンレスファイルに比べ、柔軟性に優れ、彎曲した根管への追従性が高いため、ロータリーエンジンを用いて根管拡大・形成するのに広く使用されるようになってきている。
一方、ニッケルチタンファイルには破折の問題が常につきまとう。ニッケルチタンファイル用のエンジンも開発されてきているが、基本的にはファイルの操作方法には注意が必要とされている。
この度、新たに発売したニッケルチタンロータリ-ファイル「エンドウェーブ」(図1、2)は、破折のリスクを減らしつつ、切削効率を高めるという画期的なデザインをもつファイルである。
ここにその特性について解説する。
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図1 「エンドウェーブ」アソートキットA(基本セット)。 -
図2 「エンドウェーブ」アソートキットB(狭窄根管用)。
■破折について
ニッケルチタンファイルを臨床で使用する上で最も懸念されることは、ファイルの破折の問題である。ニッケルチタンファイルが破折する主な原因としては、次の要素が考えられる。
1. 根管壁とファイルの接触で生じる摩擦力
ニッケルチタンロータリーファイルを根管内で低速回転させると、根管壁を切削する際に必然的に根管壁との接触で摩擦力が生じる。連続してファイルを機械的に回転させ、一定の速度で根尖方向へ進んでいくには、ファイルと根管壁面の間には、この摩擦力を超える力が必要となる。継続して同じファイルを使用していくと、金属に伸びが生じ、金属疲労限界になれば破折へとつながる。
2. 刃部が根尖方向へ食い込み、回転運動が抑制される際に掛る応力
根管拡大・形成用のファイルは一般的に手用ファイル、ニッケルチタンロータリーファイルとも螺旋形状の刃部である。エンジンで機械的に回転されると、ファイルには根尖方向に引き込まれるようなスクリューイング現象が起こる(図3)。その結果として時にファイルの一部が根管壁面に強く噛み込み固定されることがある一方、エンジンは継続して回転をファイルに与えるため、限界トルクを超えてしまうと破折につながる。
これらの問題を解決するために、「エンドウェーブ」では、次のようなデザインが施されている。
①根管壁との摩擦を軽減するため、3点のカッティングエッジを波状にしたファイル構造をなしている(図4)。
すべてのカッティングエッジは鋭利であるが、刃と刃の間隔が一定でない波状を呈しているため、根管壁に接触する部分と接触しない部分が生じる。これにより根管壁との摩擦力は大幅に軽減される。
②波状形態により根管壁と接触する部分、しない部分を作ることにより、根尖方向へ自然と向かうスクリューイング現象を軽減することにつながる。これをアンチスクリューイングと呼んでいる。
また、「エンドウェーブ」には破折をしにくくするために、最終表面加工にエレクトロポリッシング仕上げが施されている。ニッケルチタンファイルは一般にニッケルチタン鋼材を自動工作機を使い削り出すことにより製作され、金属表面の最終仕上げは一般に機械的研磨処理が行われる。
「エンドウェーブ」の場合は、それに加え電気的研磨処理(エレクトロポリッシング)が施されている(図5、6)。これにより、機械研磨処理では処理しきれない金属表面の微細な粗造面をより一層滑らかにすることができる。
金属表面に微細な粗造面が残っていると、根管壁との摩擦力の増加や表面の微細な傷が応力の集中点となり、破折へのリスクが高まることとなる。エレクトロポリッシング処理を行うことで、そのリスクは軽減される。
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図3 螺旋形状の刃部はネジに近似している。 -
図4 根管壁との接触・非接触部分。 -
図5 機械研磨処理後
粗造面の傷が目立ち、その傷にトルクがかかり、破折のリスクになる。 -
図6 エレクトロポリッシング後
微細で滑らかな表面により、破折の原因となる過度なトルクがかかりにくく耐久性が向上している。
■切削効率について
エンジンを使った根管拡大・形成を考えた場合、手用ファイルをエンジンに装着し回転させることで、効率的に切削ができると考えられるが、ステンレス製の刃部は彎曲した根管への追従性に乏しく、直線的な形成になり穿孔(パーフォレーション)の危険が生じる。
そこで根管追従性に優れたニッケルチタン製ファイルが開発されたが、破折の課題をクリアすべく、様々な形態のものが開発されてきた。加えて切削効率の追求もあり、形状も多様化してきた。
「エンドウェーブ」の刃部デザインは、切削効率が高い鋭利な3点の刃を持つシンプルな三角形を採用している(図7)。回転数も最大600rpmで使用することができるので、切削時間の短縮につながる。これは前述のとおり、ピッチの異なる螺旋形状により、破折につながる過度なトルクを避ける構造により、高速回転が可能となっている。
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図7 断面。どの部位もシンプルな三角形状を呈している。
■その他の特性
「エンドウェーブ」のファイルの先端には徐々に丸みを持つ加工が施され、切削力は維持しながら、最先端部には刃を持たない形状のため狭窄根管での穿通力を発揮し、かつ根尖孔の偏移・破壊(パーフォレーション)が起こりにくくなっている(図8)。さらに、ISOの号数の大きなものやテーパーの太いものであっても、かなり柔軟性に富んでいる(図9)。これは「エンドウェーブ」がリーマーの形状に近く、根管追従性に優れているためである(図10)。
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図8 先端部拡大
先端に向かって徐々に丸みを持つ加工を行っているので、切削力を維持しながら根尖孔の偏移、破壊を防止する。 -
図9 ファイルの柔軟性
太いサイズのファイルでもかなりの柔軟性があり、根管追従性に優れている。(#35/06テーパー) -
図10 ファイルの形状比較
■デンタポートとの組み合わせ
「エンドウェーブ」は、根管長測定機能付き根管拡大装置「デンタポート」(図11)と組み合わせて使用することで、より安全に効率良く根管拡大形成が可能となる。これはデンタポートの特徴であるオートトルクリバース機能(ファイルに過度なトルクがかからないように、設定したトルク値になると自動的に逆回転させる)やオートアピカルスローダウン機能(根尖狭窄部に近づくとファイルの回転数を自動的に低下させる)により、さらなる破折のリスクを減らし安全にファイルを進行させることができるからである。これら安全機構のもと400rpmという高速回転での作業が可能となり、根管拡大形成がより効率的に行える。
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図11 デンタポート
■まとめ
「エンドウェーブ」はロータリーエンジンと共に用いるニッケルチタンファイルの不安材料とされる“破折”のリスクを軽減させることに成功し、また、そのシンプルな三角断面の鋭利な刃部により切削効率も大幅に向上させたロータリーファイルである。
以上より、「エンドウェーブ」は、ニッケルチタンファイルの理想である「超弾性」「切削効率が良い」「エンジンが使用できる」という点を実現し、デンタポートと組み合わせて使用することにより、より高い性能を発揮する理想的なファイルであると言えよう。
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