111号 SPRING 目次を見る
■目 次
■予防歯科トータルシステムP・CSとは
予防歯科トータルシステム「P・CS」は、モリタが提案するトータル的な予防歯科システムである。「P・CS」とは、Professional Prophylactic・Preven tiveClean Systemの略語で、図1に説明している通り、Prophylactic・Preventive(広く口腔の予防)がプロの歯科医療従事者(歯科医師、歯科衛生士)によって支えられたシステムである。
その中でも、プロによる処置であるPro Careと患者さんが自ら行うSelf Careとに大きく分けられる。口腔の2大疾患である齲蝕と歯周病については、原因菌によりバイオフィルムが形成され、十分な口腔の健康管理を行うには、プロの手に委ねなければならないとされている。また、歯科医院の態勢も口腔内に疾患がある患者さんを受け入れ、治療を行う処置から、積極的に病気にならないための予防処置を取り入れ、歯科医療従事者と患者さんが二人三脚で予防に取り組む歯科医院が増えている。そのために、歯科医院への来院者は疾患がない人を含み、患者さんではなくクライアントと呼ぶようになってきている。
図1 P・CSのシンボルマーク
■予防歯科処置を成功させるためには
それでは、歯科医院として、予防処置を成功させるためには、一体、どのような条件を揃える必要があるのかを以下のように、項目を挙げてみた。
- 1. 歯科衛生士が自分のチェアーを有し、自覚を持って予防処置を行う。
- 2. クライアントの継続的な口腔内データの管理システムが整っている。
- 3. 痛みや侵襲が少なく、快適な歯面のクリーニングの器材とテクニックが揃っていること。
- 4. 口腔内の細菌検査や唾液検査システムがあること。
- 5. クライアントが自ら効果的に行えるオーラルケア器材が充実している。
- 6. 特に、歯科衛生士が技術や知識をスキルアップできるソフトやトレーニングの場があること。
- 7. 予防歯科を中心にしても歯科医院の経営が成り立つこと。
- 8. クライアントが来院しやすい環境が整っていること。
以上、8項目を挙げてみたが、全ての項目が互いに関係しているために、成功するには全てがうまく関連する必要がある。
それでは、各項目について、考え方と準備器材について、紹介する。
1. 歯科衛生士が自分のチェアーを有し、自覚を持って予防処置を行う。
予防処置については、歯科衛生士の力が大きな鍵になることは、どの先生方も認められることであると思うが、予防に専念し、患者さんと信頼のあるコミュニケーションを持つためには、歯科衛生士が自らのチェアーを有し、クライアントと一緒になって、クライアントの口腔管理を行っていく必要がある。治療が中心であれば、歯科衛生士の仕事は治療の前後の口腔内清掃処置であり、あくまでもアシスタント的な立場でよかったが、病気にならないための予防処置であれば、処置の主体が歯科衛生士になってくる。
歯科衛生士専用チェアーの「デントハイジェイア」(図2、3)は、歯科衛生士が一人で処置を行い、管理し易い環境を提供することを目的に開発されたチェアーで、歯科衛生士が使用するもの以外には装備されていない。また、予防処置であるので、通常の治療とはクライアントに異なる環境を感じてもらうために、快適さを重視したデザインになっている。
歯科衛生士が自分のチェアーを有することは、自らが作業する環境作りを行い、クライアントとコミュニケーションを深め、日に何人のクライアントの処置をしてクライアントがどの割合で再来院するかなど、歯科衛生士としての自覚を促すことにもなる。そして、クライアントの満足度や数、再来院の割合などが結果として表れてくる。
図2 デントハイジェイア-
図3 デントハイジェイアの使用
2. クライアントの継続的な口腔内データの管理システムが整っている。
口腔内の疾患は、口腔内の常在菌により生じるものであり、口腔内の環境は、日々、変化する。口腔内を継続的で健康な状態に保つためには、継続的にクライアントの口腔内の実態を管理する必要がある。クライアント個々人の口腔内データの蓄積、管理、プロの判断と説明、そして処置があり、口腔内の健康は守られクライアントと術者との信頼関係も深まっていく。
レセプトコンピュータ「DOC-5J・オーラルフロンティア」(図4)は、レセプトコンピュータと管理ソフトが一体になっているため、カルテ入力と、患者の口腔内の現状、口腔内細菌、唾液緩衝能、など必要なクライアントデータが同時に入力、管理できる。
クライアントの1歯毎のデータを入力、管理ができるので、継続的にクライアントの詳しいデータ管理が行える。データ入力を電子カルテと共に入力が行えることは、時間の節約と入力間違いを減らすこともできる。また、患者さんに説明できるソフトも充実している(図5)。
図4 DOC-5 J・オーラルフロンティア-
図5 患者説明ソフト
3. 痛みや侵襲が少なく、快適な歯面のクリーニングの器材とテクニックが揃っていること。
バイオフィルムの除去には、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)が必要であることは広く認識されるようになったが、器材としては何を使い、どのように行えば良いのかは、まだまだ十分に伝わっていない。
Mechanical(機械的に)という言葉が使われているために、大きな力で徹底的に清掃するというイメージがあり、歯質に侵襲を与えていることも少なくない。Mechanical(機械的に)の意味は、バイオフィルムが機械的に破壊されなければならないという認識を持ってもらうために使われているものである。
モリタでは、PMTC用の研磨材料としては、P・クリーンポリッシングペースト(図6)を用意した。基本的には、フッ化物(950ppm)と知覚過敏抑制剤入りの「P・クリーンポリッシングペーストFDファイン」を使用するが、研磨後に漂白処置などを行う場合には、フッ化物が含有されていない「P・クリーンポリッシングペーストファイン」を、また、歯面の汚れを落とす場合は、「P・クリーンポリッシングペーストスーパーコース」で粗研磨し、ファインで最終研磨を行う。
研磨器具としては、研磨部位に応じて使い分けできる「P・クリーンプロフィカップ」、「P・クリーンプロフィポイント」、「P・クリーンプロフィブラシ」(図7、8)、P・クリーンの専用減速コントラ「P・クリーンプロフィコントラ」(図9)を用意している。
歯間部の研磨時には、歯間乳頭などを傷つけないような適した器具がなく、術者による歯間ブラシやフロスの使用を推奨してきたが、新発売されたエアースケーラー「エアーソルフィー」に取り付けて使用する「ブラシチップ」(図10)が便利である。ブラシチップを歯間部に挿入し、エアー振動で清掃を行う(図11)ために、歯間部で、何度も前後、上下に動かす必要がないために、歯間乳頭などを傷つけずに容易に清掃することが可能になった。
歯面研磨システムP・クリーンシステムは、歯科衛生士が一人で短時間に処置が行えることを基本的なコンセプトにしているために、ポリッシングペーストは、研磨時は飛び散りにくく、研磨後は水で流しやすいという相反する特性(図12、13)を付与した。また、リングカップ「P・クリーンペーストリング」(図14)、「P・クリーンプロフィスタンド」(図15)、口腔内の臼歯部などの視野を広げた開口器「ワイドビューアー」(図16)なども揃えた。
PMTCが機械的な除菌であれば、化学的な除菌である3DSに使用するリテーナーを製作するミニスターS(図17)がある。そして、「P・クリーンクリスタルジェル」には、細菌の増殖を抑制する0 . 0 5 % 塩酸クロルヘキシジン、0.05%イソプロピルメチルフェノール、フッ化物(950ppm)が含有されており、ブラッシング時に使用するスペアミント味の研磨剤入りとオレンジ味の研磨剤無しの2種類(図18)を揃えている。
図6 P・クリーンポリッシングペースト-
図7 P・クリーンプロフィカップ、プロフィポイント、プロフィブラシ、プロフィポイントブラシ
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図8 P・クリーンプロフィカップ、ポイント、ブラシの使用部位一覧表
図9 P・クリーンプロフィーコントラ
図10 エアーソルフィーとブラシチップ(径はSSS、別売品としてSSがある)
図11 ブラシチップが歯間に入ったところ
図12 飛び散りにくい
図13 水洗しやすい
図14 P・クリーン ペースト リング
図15 P・クリーンプロフィスタンド
図16 ワイドビューアーを口腔内に装着
図17 ミニスターS
図18 P・クリーンクリスタルジェル
4. 口腔内の細菌検査や唾液検査システムがあること。
口腔内では常に脱灰と再石灰化が繰り返されていると言われている。ミュータンス菌が産生する酸によりエナメル質が脱灰し、唾液には酸性を中性に戻す緩衝能があり、pHの改善によって口腔内で再石灰化が行われるとされている。
「CAT21テスト」(図19)は、歯面のプラークを採り、培養することで、齲蝕の危険性を判定する。また、CAT21バフ(図20)は、唾液がプラークの産生した酸を中性に戻す緩衝能を調べる検査材料である。プラークが歯を脱灰する歯に対するアタック力を検査するのがCAT21テストで、プラークのアタックに対して唾液がそれを緩衝するデフェンス力を検査するのがCAT21バフである。
「チェックバフカリエスリスクチェッカー」(図21)はCAT21バフと同様に唾液の緩衝能を検査する器械であるが、pH値が数字で表されるために判断がし易く、クライアントに対しても説明が容易である。唾液の分泌量、pH値での緩衝能の判定が行える(図22)。
検査を行うことで、クライアントの口腔内環境の実態がわかるだけでなく、クライアントが自らの口腔に対して認識を高めるという利点もある。
図19 CAT21テスト
図20 CAT21バフ
図21 チェックバフカリエスリスクチェッカー
図22 緩衝能の評価一覧表
5. クライアントが自ら効果的に行えるオーラルケア器材が充実している。
たとえ、プロの術者がクライアントの口腔内を十分に清掃したとしても、常にクライアント自らセルフケアを行わないと、口腔内の継続的な健康を維持できない。各クライアントの口腔内は、それぞれ特徴があり、そのクライアントに合わせた口腔衛生指導が必要であり、清掃ツールも画一的なものでは十分な予防措置が行えない。
クライアントが使用するセルフケア用「P・クリーンオーラルケアセット」(図23)は、歯ブラシ、歯間ブラシ、フロス、フッ化物入りツースペーストなどでキット化されたものである。口腔ケアに必要と思われるものは揃えているが、クライアントの口腔状態に合わせて他に清掃ツールを追加しなければならない場合もある。
デンタルガム「ポスカム」(図24)は、特定保健用食品として厚生労働省に許可を得ている。「ポスカム」は、馬鈴薯から抽出されたリン酸オリゴ糖カルシウムPOs-Caが配合されたガムで、唾液内のリン酸とカルシウムの比率をエナメル質と同じ比率にすることで、歯質の再石灰化を促進させ、プラーク内のpHを酸性から中性に戻す効果もある(図25)。ガムを噛むことで、口腔内環境を積極的に改善させることも必要なことである。
図23 P・クリーンオーラルケアセット
図24 ポスカム
図25 ポスカムの効果
6. 特に歯科衛生士が技術や知識をスキルアップできるソフトやトレーニングの場があること。
前項までに、予防処置を成功させるための環境作りや、器具、ツールについて述べてきたが、やはり、一番重要なことは、歯科衛生士が歯科衛生士として自覚を持ち、予防処置を行う技術と知識を高めて、クライアントから信頼を得るということである。
また、歯科衛生士が作業時間を管理し、歯科医院の経営にどれだけ寄与できているかの認識を持っていることも重要である。なぜなら、歯科医院内で、収入を得られる仕事をしているのが、歯科医師と歯科衛生士しかいない。歯科衛生士がそれ以外の仕事をするということは、経営面から考えると非常に非効率なことであると言える。歯科衛生士として自分が費やしている時間と医院の収入の関係を理解して仕事に従事しているか否かで、医院内の自分の価値が変わってくる。今回のProfessionalの意味は、自ら稼ぐという意味も含まれているのではないだろうか。
モリタでは、予防処置のトータル的な研修会から、歯科衛生士として身に付けなければならない技術、知識のスキルアップのためのトレーニングコースを実施(図26)している。今後も内容を充実し、継続的に実施していく予定である。
図26 歯科衛生士セミナー
7. 予防歯科を中心にしても歯科医院の経営が成り立つこと。
最近、患者の減少は深刻な問題になりつつある。しかし、予防システムを導入して成功を収めている歯科医院では、クライアントの数が多く、困っているという話も聞く。
予防歯科システムの基本的な考え方を図式にした(図27)。歯科医院での処置を予防処置と治療とに明確に分けている。予防処置の場合は予防処置のみを行い、治療によって疾患がなくなった後も、予防処置の分野に移り、定期的にプロの管理下で予防処置を受け、健康な口腔内環境を保っていく。もし、なにかの理由で疾患が見つかれば、治療分野で治療を受け、その後はまた、予防の分野に移るということになる。
予防処置は、定期的な清掃が必要であるため、クライアントが定期的に来院する必要がある。その結果、クライアントとのコミュニケーションも良くなりクライアントのデンタルIQも高まり、自由診療比率も高まるという結果になる。
また、歯科衛生士が、効率よく時間管理を行って経営に寄与することも収入増の要素になる。予防歯科システムが確立できれば、定期的に一定の収入が確保できるのではないだろうか。
モリタとしては、予防歯科システム導入による成功例を挙げた経営セミナーも実施している。
図27 予防処置と治療の関係の模式図
8. クライアントが来院しやすい環境が整っていること。
一度、歯を削るという治療を受けた患者さんは、少なくとも、歯科医院の中で視覚、聴覚、嗅覚で思い出し、少なからず恐怖心を呼び起こしてしまう。そのためにも予防処置の際は恐怖心を与えるものを避け、快適さを得てもらうことが重要なポイントになる。治療を受けた患者さんだけでなく、治療を受けたことがない人にとっても歯科医院はあまり行きたくない場所の一つと言われてきた。
口腔内を健康な状態に保つためにはバイオフィルムの除去が必要で、それも多くはプロの手によって清掃されなければならないということがわかっている以上、歯科医院での予防処置は必要なことは言うまでもない。予防処置が、痛みや侵襲もなく、快適であれば、少しずつ歯科医院のイメージも変わってくる。また、足を運ぶ人数、回数も増えてくる。クライアントの来院回数を増やすために、歯科医院で癒させる雰囲気作りや、グッズも必要になってくる(図28)。癒し系の器材の追加も今後進めていく予定である。
図28 「ティートリーオイル」と自動噴霧装置「ティートリーオートスプレー」ティートリーオイルはフトモモ科植物TeaTreeの葉から蒸留したエッセンシャルオイルで、癒し効果に加え、優れた除菌力と高い消臭効果を有する。
■最後に
現在、様々なPMTCの器材が紹介され、販売されている。また、「予防が必要なのはわかっているけれど…」という話もよく聞く。その反面、「予防を取り入れ、優秀な歯科衛生士のおかげでクライアントが非常に増えている」という話も聞く。モリタが今回、P・CSという予防歯科トータルシステムを提案したのは、予防の重要性はわかっているが、取り入れることを躊躇されている先生方に、単に予防処置のための一手段であるPMTC、あるいはPTCの器材を準備しただけでは、あまり意味がないと考えたからである。
歯科衛生士が使用するチェアー、患者さんのデータ管理ができるソフトから患者さんが使うグッズまで、一貫して取り揃え、スタッフのトレーニングや予防を中心としたセミナーなどシステムで先生方に紹介することで、いわゆる増患対策にも繋がればと考えた。その結果、DMFTの改善、国民のQOLの向上への一歩になることを信じている。モリタは、これからもより良い製品の開発を進め、このシステムに加えていきたいと考えている。
■2004 モリタが推奨するシステム関連器材
近年、医療に対するニーズが移り変わっています。
21世紀の医療では、末長く、QOL(Quality of Life)を高める健康づくりへの関心が強まっており、歯科医療においても口腔内の健康維持を目指す予防歯科が注目されています。
モリタでは、プロが支える予防歯科を総合的にサポートするシステムを構築しました。
- プロ(歯科医師・歯科衛生士)によるPMTC・3DSを含んだ、侵襲や痛みが少なく快適で確実な予防処置(Prophylactic・Preventive Clean)のトータルシステムです。
環境整備と自覚
デ-タ管理
検査システムの構築
器材の準備と適切な使用
セルフケアへのツールの準備
スキルアップ プログラムの実施
予防処置での経営の確立
定期的な来院を導く環境づくり
●掲載いたしましたシステム関連器材の標準価格は、巻末の222ページをご覧ください。
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