112号 SUMMER 目次を見る
■目次
■はじめに
岡歯科医院では、約10年前より現在の形態での唾液テストを行っている。一般的な予防メニューではある程度の予防はできるが、高いレベルでの予防を行うためには、個人のリスクを知り、それに合わせた予防メニューが必要となるからである。
患者への唾液テストの紹介は時間が許す限り、初診時に口腔内写真、レントゲン写真の説明と共に行うようにしている。
患者さんの口腔への意識が高まっている時に説明すると、受け入れられやすいように思われる(図1)。
唾液テストでは
- ・唾液量
- ・緩衝能
- ・SM
- ・LB
- ・プラークの蓄積量
- ・飲食の回数(普段の食事内容や回数を問診)
- ・フッ素の使用状況
- ・DMFT
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図1 唾液テスト紹介のためのパンフレット -
図2 唾液テストのためのセット
チェアやカウンセリング室などでも検査できるように、コンパクトにまとめている。 -
図3 唾液の採取
パラフィンガムの予備咬みを1分間行った後、5分間の刺激唾液を採取する。
■Checkbufの導入
唾液緩衝能試験においては、従来、試験紙に唾液を滴下し、変色の度合いで判定する方法(以下比色法とする)を行っていたが、最近になりCheckbufを導入した(図4、5)。
Checkbufは堀場製作所製のpHメーターで、当院ではCheckbufの導入に際し、2003年1月から2003年5月までの間に唾液検査の承諾が得られた患者206人において、比色法とCheckbufを両方施行して、その結果を比較した。
その結果、比色法では唾液の滴下量が「一滴」とされており、人によって量がまちまちであったのに加え(図6)、当院では滴下量が多めの傾向があり、リスクが甘い目に判定されていた。
その判定においては、特に境界域の色の場合は人の目で判定するため、人により結果が異なっている場合もあった(図7)。
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図4 堀場製作所製pHメーターCheckbuf -
図5 Checkbufキット -
図6 滴下する量は人によりまちまち。
Dr.Douglas Bratthallの著書「カリエスリスクの判定のてびき」より抜粋 -
図7 比色による方法では人により判定が異なることもある。
■Checkbufの特徴
Checkbufでは、当初滴下する酸に色がついておらず、唾液と酸がうまく混和されているかわかりにくいことがあったが、赤色をつけた酸に変更になり、判りやすくなった(図8)。
また粘稠性の唾液の場合、手による振盪ではうまく混和しきれないことがあったが、振盪器の導入により、検査した人の手技や主観により左右されることのない、正確で安定した結果を得られるようになった(図9)。
検査時間は比色法では滴下して5分後に判定であったが、Checkbufでは唾液滴下後に酸を滴下し、振盪して約30秒で判定できる(図10~13)。
コストは比色法では一回700円程度であったが、Checkbufでは一回200円程度と、導入しやすくなっている。
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図8 Checkbufの酸唾液との混和が確認しやすいように、色がつけられている。 -
図9 唾液と酸をむらなく混和するための、振盪器。30秒で混和できる。 -
図10 唾液緩衝能の測定方法(1)
唾液を0.25mL滴下する。唾液のpHが表示される。 -
図11 唾液緩衝能の測定方法(2)
酸を滴下する。振盪させ、約30秒で判定。 -
図12 混和が終了したところ。 -
図13
■Checkbufを使用した唾液の検討
2003年1月22日から5月7日まで当院のスタッフ12名(女性、24才~50才)の唾液pHおよび緩衝能の調査を堀場pHメーターCheckbufを用いて行った。測定は毎週水曜日午後1時前後昼食前に行った。
大多数の者は安定したpHおよび緩衝能を示したが、数名安定しない者がいた。
症例1 pHが安定している症例(図14)
緩衝能の高い人においては日による変動は少なく、また体調や服薬などに影響されない人が多かった(12名中7名)。
症例2 唾液量が少なくpHが安定しない症例(図15)
唾液量が少なく、緩衝能が低い人においては、体調に変化がなくても、日により、変動を示した。
症例3 体調によりpHが影響をうける症例(図16)
12人のうち、一人だけ、体調の悪いときに緩衝能が下がる者がいた。
症例4 妊娠症例(1)(図17)
妊娠中の者は、低い緩衝能を示した。また、日により変動が激しかった。非妊娠時の緩衝能は高く、比色法で即青を示していた。
緩衝能は出産後約3カ月で元の状態に戻った。
妊娠は緩衝能に影響を与えると思われた。
症例5 妊娠症例(2)(図18)
非妊娠時はほぼ安定した緩衝能を示していたが、妊娠2カ月目ぐらいより唾液緩衝能が下がり始めた。
通常妊娠に気づく時期には既に緩衝能は下がっている可能性が示唆された。
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図14 症例1 緩衝能が安定している症例 -
図15 症例2 唾液量が少なく緩衝能が安定しない症例 -
図16 症例3 体調により緩衝能が影響をうける症例 -
図17 症例4 妊娠症例(1) -
図18 症例5 妊娠症例(2)
■今回の検討により得られた知見
<妊娠の影響>
妊娠中の唾液緩衝能に関しては、非常に低下することがわかったので、妊娠中および妊娠後に来院するリコール患者では、リコールの度に緩衝能のみテストを行い、出産後に緩衝能が回復しているかどうかも確かめるようにしている。
妊娠中の女性に関しては、ほぼ全員に唾液緩衝能の低下を認めた(図19)。
唾液の緩衝能は主に重炭酸塩の濃度に依存しているが、その濃度は主に唾液分泌速度に依存している。しかし、妊娠期には唾液分泌量は多いにも関わらず、緩衝能が大きく下がることから、分泌速度以外の要素が重炭酸塩の濃度に影響を与えている可能性が示唆された。(女性ホルモンによる影響の可能性)
<日による変動>
特に緩衝能の低い人の場合、日によりかなり大きな変動を示すので、一度きりのテストでそのリスクを判定するのは難しいと思われる。
<他リスクとの連動/予防の徹底>
緩衝能の低い人には、唾液分泌量の少ない人が多い(図20、21)。唾液分泌量、緩衝能、細菌の数は独立したリスク因子ではなく、互いに連動している可能性がある(図22、23)。分泌速度が遅ければ、重炭酸塩の濃度が低くなって緩衝能は下がる。また唾液量が少ないと、嚥下により口腔内から排除される細菌が少なくなり、唾液がもつ殺菌効果なども十分に発揮されず、口腔内の細菌量は増える。緩衝能の低い患者ではリスクが数倍になっている可能性がある。したがって、徹底した予防が必要になってくる(図24、25)。
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図19 妊娠患者における緩衝能 -
図20 平成16年4月15日現在までに岡歯科医院にて唾液テストを施行した患者(2814人)を唾液緩衝能別にグループ分けした。大部分の人は緩衝能に問題はなかったが、約1/4の人に緩衝能の低下を認めた。 -
図21 緩衝能別唾液分泌量の比較
唾液緩衝能が低い群ほど、唾液分泌量の減少傾向がみられた。 -
図22 緩衝能別SM量の比較
唾液緩衝能が低い群ほど、SM量の増加傾向がみられた。 -
図23 緩衝能別LB量の比較
唾液緩衝能が低い群ほど、LB量の増加傾向がみられた。 -
図24 生物学的なプラーク仮説とう蝕の予防 -
図25 生物学的なプラーク仮説とう蝕の予防(唾液分泌低下患者)
■唾液検査結果の臨床へのフィードバック
唾液テストの結果は次の来院時に担当の衛生士より必ず説明をおこない、その人に合わせた予防手段を提案している。
説明は結果のみではなく、唾液による脱灰・再石灰化のメカニズムやそれぞれの予防手段がどのように影響するかをパソコン画面を用いて説明している。結果および総合評価はプリントして患者さんにも手渡している(図26、27)。
妊娠中の患者さんに対しては、緩衝能が低下している時期は、細菌数なども一時的に増加している可能性があるので、患者自身の口腔の健康およびミュータンス菌の母子感染のことなど説明し、予防法を説明するようにしている(図28)。
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図26 唾液テスト結果を説明する際に患者さんに手渡す用紙。
この患者は唾液緩衝能が低く、SMも多い。結果のみでなく、個々に合わせた予防法を提案している。 -
図27 唾液テストの結果は、パソコンを用いて詳しく、しかしわかりやすいように説明している。 -
図28 妊娠中の患者さんなど唾液緩衝能のみを定期的に測定する際には、Checkbuf付属の用紙を使用している。
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