129号 SUMMER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 1. クリアフィルSAルーティングの特長
- ≫ 2. CRインレー合着への応用
- ≫ 3. メタルインレー合着への応用
- ≫ 4. ファイバーコア装着への応用
- ≫ 5. 臨床応用上の注意点
- ≫ 終わりに
■はじめに
接着歯学の進展と共に歯冠修復に用いられる合着・接着材には多種多様な製品が登場しており、レジンセメントの分野においてもパナビアやスーパーボンドといった純粋なレジンセメントとは別にグラスアイオノマー系レジンセメント(RMGIC)が登場し、その簡便性から多くの臨床家に愛用されている。その一方で、レジンセメントは高い接着性と耐久性という特長をもつにもかかわらず、操作が複雑であることやコストが高いことから臨床の現場で使用される割合は決して高くないのが現状である。
そこでRMGICの簡便な操作性とレジンセメントの接着性や強度を両立させ、広く日常診療に対応できるレジンセメントとして開発され市販されているのが、セルフアドヒーシブ型接着性レジンセメント「クリアフィルSAルーティング」(図1:クラレメディカル社)である。
図1 クリアフィルSAルーティング
■1. クリアフィルSAルーティングの特長
クリアフィルS Aルーティングは「使いやすさ」「わかりやすさ」を追及したセルフアドヒーシブ型ルーティングセメントであり、世界最高水準の接着性モノマーMDPを高濃度で配合した、プライマーによる前処理不要の接着材である。
表1に示すように、採取量の調整が可能なダブルシリンジを採用し、ペーストタイプであるための操作が容易である。また、化学重合・光重合可能なデュアルキュア型であるため操作時間が長く、合着直後に数秒の光照射で余剰セメントは半硬化するため、余剰セメントの除去が極めて容易にかつ完全に行える。これは極めて重要な長所であり、術者のストレスや患者の苦痛をほとんど解消したといっても過言ではない。さらにSAルーティングはMDPが高濃度に配合されているため歯質(エナメル質および象牙質)、金属(貴金属、卑金属)、硬質レジン、セラミックス(ジルコニア、アルミナ)に対して各種プライマー前処理なしで良好な接着性(10~30Mpa)を示す(表2)。
表1 クリアフィルSAルーティングの特長-
表2 クリアフィルSAルーティングの物性
■2. CRインレー合着への応用
私の所属する岡山大学病院むし歯科では、平成20年2月より主に接着修復臨床にSAルーティングを応用しており、1年以上を経過した50症例(内訳CRインレー9症例、メタルインレー12症例、硬質レジンジャケット冠10症例、硬質レジン前装冠10症例、ファイバーコア装置その他)において全く脱落などの事故がなく、生活歯において特に装着時に知覚過敏を生じないという、表1以外の長所が確認できている。
ここでは、私の臨床例の中から、まずCRインレー(クラレメディカル社)をSAルーティングを用いて装着したケースを紹介したい。
図2に、右上第1大臼歯メタルインレーの脱離で審美インレーを希望して他院より紹介された患者(33歳、女性)の口腔内写真を示す。妊娠中であり、できるだけ歯質切削を避けて無麻酔で形成してほしいとの希望もあり、う蝕検知液で赤染される部位を可及的に削除した結果、窩底の一部が歯髄に近接したため(図3~5)、クリアフィルトライエスボンド(クラレメディカル社)を一層塗布光照射した後、クリアフィルマジェスティLV(クラレメディカル社)を用いてレジンコーティングを象牙質窩底に施した(図6~8)。ワンステップシステムのトライエスボンドおよびフロアブルレジンのマジェスティLVによるレジンコーティング法は極めてシンプルかつスムーズに行える上に歯髄保護にも極めて有益である。
仮封はレジン系仮封材では次回来院時に除去が困難なため、水硬性セメントで行い(図9)、技工部にてコンポジットレジンインレーであるCRインレーを用いてMOⅡ級CRインレーを製作し(図10)、次回来院時に口腔内に試適し咬合調整を行う(図11、12)。CRインレーは強度が充分であるが、セラミックインレーでは試適時には破折を生じないような配慮が必要である。
SAルーティングのペーストを練和した後、インレーを装着、約5秒間光照射を行い、余剰ペーストを半硬化させる(図13~16)。余剰ペーストを除去した後、フロスを用いて隣接面のペーストを除去するが、驚くほどスムーズかつ容易である(図17)。
再度光を照射(LEDで約20秒間)して最終硬化させ、仕上げ研磨を行う(図18~21)。
図2 右上第1大臼歯メタルインレー脱離、仮封。-
図3 仮封材除去。 -
図4 カリエスディテクターを用い、赤染された部分を削除。 -
図5 歯髄に近接した部位が見られる。
図6 クリアフィルトライエスボンドの塗布。-
図7 クリアフィルマジェスティLVを窩底に一層塗布。 -
図8 光照射後。(レジンコーティング) -
図9 水硬性セメントによる仮封。
図10 CRインレーの製作。-
図11 仮封材除去、試適前。 -
図12 CRインレーの試適。 -
図13 SAルーティングのペースト採取。
図14 CRインレー被着面へ練和したSAルーティングを塗布。-
図15 CRインレーを装着。 -
図16 余剰ペースト除去のための仮重合、約5秒間の光照射。 -
図17 フロスで隣接面の余剰ペーストの除去。浮上り防止のためフロスを抜く方向には注意が必要。 -
図18 咬合面より光照射。 -
図19 より確実な重合のため、照射部位を変えて光照射。 -
図20 最終硬化、仕上げ研磨後、咬合面観。 -
図21 頬側面観。
■3. メタルインレー合着への応用
メタルインレーやメタルクラウンなど光を透過しないケースでは5分間圧接して化学重合させる。被膜厚さも19μmであり、インレー体の浮き上がりもなく適合も良好である。
次の症例は、右上第2小臼歯金インレー脱離症例(50歳女性)である。MOD窩洞形成後、技工部でメタルインレーを製作し、試適咬合調整を行った。
SAルーティングにて合着後、まず5秒間の光照射を行い、半硬化した余剰ペーストを除去し、仕上げ研磨を行う(図22~30)。
このようにSAルーティングを用いることで極めてスムーズな接着修復が完了することは術者にも患者にも極めて大きなメリットである(図31~34)。
図22 メタルインレーの製作。-
図23 SAルーティングを等量採取、練和準備。 -
図24 右上第2小臼歯、装着前。 -
図25 咬合面観。
図26 SAルーティングのペースト練和。-
図27 ペーストをメタルインレーに塗布。 -
図28 メタルインレー装着後、余剰ペースト除去のための仮照射。 -
図29 最終硬化後、仕上げ研磨。
図30 咬合面観。-
図31 左下第2大臼歯、装着前。 -
図32 メタルアンレー製作。 -
図33 アンレー装着。 -
図34 余剰ペースト除去後、最終硬化。
■4. ファイバーコア装着への応用
近年、メタルコアに代わり注目を集めているのがファイバーコアである。SAルーティングはデュアルキュア型であり強度も十分であることから、ファイバーコアの装着にも好都合である(図35~37)。
-
図35 窩洞形成。 -
図36 ファイバーコア、CRインレー製作。 -
図37 ファイバーコア、CRインレー装着。
■5. 臨床応用上の注意点
SAルーティングは、このようにインレーから多数歯のブリッジの合着まで前処置なしで幅広く使用できる。しかしながら、MDPの効果を最大限に発揮させるために、唾液や血液、仮着材の残留物など、被着面の接着阻害因子を完全に除去する必要がある。
また、光照射は加圧下(手圧や咬合圧)で行わないと浮き上がる可能性がある。さらに余剰ペースト除去後には必ず十分に再照射する必要がある。
■終わりに
術者のストレスを限りなく減少させ、患者の術後の知覚過敏も解消した上でパナビアやスーパーボンドに匹敵する接着強さを発揮するSAルーティングは、これからの接着材料の方向性を示すキーマテリアルといえよう。
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