156号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ CAT21FastとBufの特徴
- ≫ 唾液検査を行う目的
- ≫ 唾液検査導入成功のための原則
- ≫ 唾液検査を行う際の注意点
- ≫ 結果の説明方法
- ≫ 症例
- ≫ まとめ
はじめに
当院では、10数年前から様々な種類の唾液検査キットを日常臨床の中で用い、応用してきた。一方で、一般臨床医が日常臨床で唾液検査を行い、それを活用するのは一般に敷居が高そうなイメージがあるように思う。筆者が講師を務めている予防歯科セミナー(モリタ友の会後援「開業医のための予防歯科セミナー」)では、受講生の先生方や歯科衛生士からもそのような声を聞くことが多い。確かに従来の唾液検査キットは、操作が煩雑であったり、試料を外注に出すために結果判定に時間がかかったり、またキット自体が高価であったりと、一般臨床医が気軽に導入するには難があった。株式会社モリタが発売するCAT21FastとBufはこれらの課題にバランスよく対応している商品である。
本唾液検査キットの特徴を表1にあげる。表1に示したように、本唾液検査キットは、簡便性、低コストといった開業医が求める条件を満たしている。
今回から2回にわたって、私どもが日常臨床の中でどのようにCAT21FastとBufを活用し、予防歯科を実践しているかを紹介させていただく。
CAT21FastとBufの特徴
CAT21FastとBufはチェアサイドで簡単にう蝕の活動性と唾液の緩衝能、分泌量を調べることができる唾液検査キットである。従来のう蝕活動性試験は、培養に時間を要したり、試料を外注に出す手間がかかるのが欠点であった。このCAT21Fastは患者から採取した唾液をチェアサイドで20分間培養するだけで、結果判定ができるのが特徴である(図1-1〜1-5)。
唾液緩衝能を調べるCAT21Bufは、培養時間が不要で唾液を試薬に溶かすと、すぐに結果が出る(図2-1〜2-4)。
これらCAT21FastとBufは、検査結果を色調で判定するため、患者の視覚に訴えることができ、解り易い(図3)。また、操作が簡単で特別な技能は一切必要としないため術者の技術に左右されず、安定した結果が得られる。
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CAT21Fast
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CAT21Buf
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表1 CAT21FastとBufの特徴
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図1-1 唾液の採取。ガムを噛み刺激時唾液を吐き出して、唾液を採取する。
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図1-2 テストチューブに唾液を注ぐ。
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図1-3 テストチューブ内の試薬と唾液をよく混ぜる。
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図1-4 20分間培養する。なお、培養器(CAT21インキュベーターミニN/モリタ)を使用せず、患者の体温でも培養が可能である。
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図1-5 培養後の試料を判定色見本と比べる。
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図2-1 唾液分泌量を測定する。
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図2-2 CAT21Fastと同様、テストチューブに唾液を注ぐ。
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図2-3 テストチューブ内の試薬と唾液をよく混ぜる。
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図2-4 試料を判定色見本と比べる(CAT21Bufは培養は不要である)。
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図3 CAT21FastとBufの判定色見本。視覚的でわかりやすい。
唾液検査を行う目的
予防歯科実践の際に最も重要なことは、患者が定期的かつ継続的に通院することである。小児から若年者では口腔内にう蝕が全くない患者が増加しているものの、表2にあげたように中高年者の大多数は、口腔内に多くの修復物があり、失活歯や欠損歯も多く、歯周病を併発しているのが現状である。
そのため、私達一般臨床医が行う予防歯科の目的は、新たなう蝕を作らないことはもちろんのこと、二次う蝕の予防に加えて歯周病のコントロールと再発防止が中心とならざるを得ない。そのためには、患者自身による日常的なセルフケアはもちろんのこと、歯科医院における定期的なプロフェッショナルケアが必須となる(図4)。
患者にセルフケアとプロフェッショナルケアの必要性を理解してもらい、それを継続的に実践してもらうモチベーションを与えるのに唾液検査は極めて有効である。
唾液検査導入成功のための原則
唾液検査を導入する際に考慮すべき原則として最重要なのは、対象患者を絞るということである。導入初期にはつい多くの患者に唾液検査を実施したくなってしまうが、時間とコストがかかるばかりか医院の目的意識が薄くなるため、継続が難しくなることが多い。まずは、医院の診療方針に照らしあわせて、メンテナンスが必須で継続的に通院してもらいたい患者に絞るのが重要と私達は考えている。
例を表3にあげる。当院と今まで筆者らが関わらせていただいた多数の医院の統計から、目安としてひと月の総来院患者の多くとも3割を上限にし、導入初期は1〜2割でも十分であるというのが私達の結論である。
一方で唾液検査を行わないほうがよい患者もいる。極度に神経質であったり、口腔内への関心が著しく低く、応急処置のみを求めるような患者がそれにあたる。
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表2 中高年者の口腔内の特徴
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図4 患者にホームケアとプロフェッショナルケアの両立の必要性を理解してもらう。
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表3 唾液検査の対象となる患者の例
唾液検査を行う際の注意点
唾液検査を行う場合、初診時には原則行わない方がよい。初診時、患者は極度に緊張していることが多く、交感神経優位の状況では唾液分泌量が減少するからである。また、唾液検査の必要性を患者に理解してもらうにはある程度の説明時間が必要なので、通院を重ねながら何回かに分けて少しずつ説明していくのが良いと思われる。
実際に唾液検査を実施する際には、個室があれば個室で、個室がなければなるべく周りが気にならない端のユニットで行うとよい。カウンセリングルームがあれば、そこでもよい。手順を説明した後は、患者を一人にする(図5)。患者の横で見守っていてはいけない。ガムを噛んで唾液を吐きだす様子を他人に見られるのは恥ずかしいものである。また、周囲でタービンなどの音がしていると否応なしに緊張してしまい、その結果、唾液の分泌量が減ることになる。
以上の理由から唾液検査を行う際は、なるべく個室もしくは静かな環境で患者を一人にして、唾液サンプルを採取するのが良い。
結果の説明方法
一連の検査が終わったら、直ちに結果の説明を行わないのがポイントになる。CAT21FastとBufで調べられるのは、う蝕の活動性と唾液の緩衝能と分泌量である。う蝕の発生因子(図6)にもあるとおり、う蝕の発生にはCAT21FastとBufで検査するリスク因子に加えて、食生活、砂糖の摂取頻度、口腔衛生習慣などが深く関係している。これらのことを踏まえて、唾液検査の結果とともに患者のリスク因子を明らかにすることが必要である。
そのため、次に行うことは患者への問診である。問診では主に患者の生活習慣、口腔衛生習慣、嗜好特に砂糖を含む飲食物の摂取頻度などを中心に行う。これにより、カイスの輪の「食生活習慣」の部分のリスクが明らかとなり、CAT21FastとBufの結果と合わせて、患者のう蝕のリスク因子を明らかにすることができる。
以上の情報を整理して、カイスの輪にあてはめながら患者のリスク因子と唾液検査の結果を説明する。
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図5 患者がガムを噛んで唾液を吐き出しているときは、周りに人がいないようにする。
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図6 う蝕の発生因子 〜カイスの輪〜。
症例
症例:59歳(初診時)男性
主訴:前歯が取れた
既往歴:特記事項無し
診断名:1冠脱離C、成人性歯周炎治療:他院にて昔、装着した1のセラモメタルクラウンの脱離が主訴で2008年6月に来院した(図7-1)。脱離した部位の歯根に特に問題はなかったために再装着をした後、全顎的に軽度の歯肉の発赤と歯石の付着を認めた。そのため、患者に歯周治療の必要性と定期的なメンテナンスの必要性を説明したところ、同意が得られたために歯周基本治療を行った。
歯周基本治療を進めていくと、患者は歯周病の予防はもちろん、う蝕の予防にも関心があるようであった。患者の話をよく聞いてみると、小さい頃からう蝕に悩まされ、治療を繰り返しても今回のような二次う蝕による修復物の脱離に悩まされているとのことだった。そのため、唾液検査によるう蝕のリスク判定を提案してみたところ、強く希望したためにCAT21FastとBufによる唾液検査を行った。その結果を図8に示す。う蝕活動性試験の結果は安全域、唾液緩衝能が注意域、唾液分泌量は問題がなかった。
<結果の説明方法>の項で述べたとおり、この患者にも生活習慣、口腔衛生習慣、嗜好特に砂糖を含む飲食物の摂取頻度などを中心に問診を行った。
その問診結果を表4に示す。結果にもある通り、この患者の「食生活習慣」の部分のリスクとして、歯磨き回数、歯磨剤の不使用、砂糖の摂取頻度の3つがあることが判明した。CAT21FastとBufの結果とこの問診結果をカイスの輪に当てはめると図9になる。これによりこの患者のう蝕のリスク因子が明らかとなった。この患者の場合、唾液の緩衝能とセルフケア、砂糖の摂取頻度に問題があることがわかる。
その後、患者に唾液検査の結果説明とそれを踏まえた対処法を説明した。具体的には、唾液緩衝能が低いことに対しては、摂食時の咀嚼回数を増やすようアドバイスをし、セルフケアに関してはまずは朝夕食後の1日2回のブラッシングから始めて徐々に回数を増やし、毎食後1日3回のブラッシングを行うようにしてもらった。また、歯磨剤をあまり使用していなかったので、現在の歯磨剤の中には多くの薬用成分が含まれていることを説明し、納得したうえで毎回、使用してもらうようにした(図10)。
もともと健康意識が高い患者だったので、口腔内への関心も徐々に高くなり、歯周治療後は年に2回のメンテナンスと年に1〜2回のPMTCを行うようになった。その後、5が歯根破折により抜歯となりインプラントによる補綴を行ったが、大きな問題もなく経過は良好である(図7-2)
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図7-1 初診時(2008年6月)のパノラマX線写真。
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図7-2 最近(2015年9月)のパノラマX線写真。
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図8 唾液検査結果。
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表4 問診から得られた患者の食生活・生活習慣におけるリスク
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図9 CAT21FastとBufの結果と患者の問診から得られた結果をカイスの輪にあてはる。
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図10 患者の口腔内とリスクに応じた口腔ケアグッズと歯磨剤を処方する。
まとめ
今回、CAT21FastとBufを日常臨床に取り入れていく際のポイントと注意点を紹介させていただいた。繰り返しになるが、唾液検査を行う際に重要なのは、対象患者を絞ることである。医院の診療方針に基づき、継続してメンテナンスに来院してもらいたい患者群を明確にし、セルフケアの質の向上と安定した継続、定期的な来院とプロフェッショナルケアを受け続けてもらうことが重要となる。
冒頭でも述べた通り、私達が日常臨床で予防歯科を行う際には、う蝕と歯周病のリスクを管理し、二次う蝕や歯周病の再発を防止するのが中心にならざるをえない。もちろん、小児や若年者のバージンティースを守ることも大切である。これらを日常臨床の中で実践していくには、患者のモチベーションを高めることが必須となる。従来、行ってきた口腔衛生指導に唾液検査を加えることで、効果的に患者のモチベーションを高めることが可能になった。
次回の応用編では、唾液検査を用いて患者にう蝕や歯周病の正しい知識を伝授し、さらにモチベーションを高める方法を紹介させていただく予定である。
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