会員登録

191号 WINTER 目次を見る

Clinical Report

柔軟性を併せ持った接着充填材の有効活用術 ~「ボンドフィルSB®II」の特性を活かした臨床~

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 顎顔面機能再建学講座 咬合機能補綴学分野 村口 浩一/南 弘之

PDFダウンロード

キーワード:接着効果を高めるためのワンポイント/CRでは対応が困難な部位への対応

目 次

はじめに

「スーパーボンド」は、矯正歯科用接着材料として1982年に発売された。その歯質への高い接着性と柔軟性を併せ持った特性によって、歯科接着用レジンセメントとして修復物の接着、矯正用ブラケットの装着、動揺歯の暫間固定、外傷歯の破折部接着など歯科診療の多くの場面で使用され続けてきており、発売以降基本組成はそのままに様々な改良が施されてきた。
その中で、「スーパーボンド」の特性を継承しつつ、架橋モノマーと有機質複合フィラーを添加することで、適度な耐摩耗性や研磨性を有する歯科用接着充填材料「ボンドフィルSB」が2011年に発売された。2017年には光重合開始剤を添加することでデュアルキュア化した「ボンドフィルSBプラス」に改良され、光重合型コンポジットレジン(以下:CR)と同じ材料点が請求できるようになった。
さらに2024年には硬化性・操作性・色調適合性を高め、X線造影性が付与された「ボンドフィルSBⅡ」(図1)が登場した。従来品は歯頸部充填と前装冠修理に使用することが多かったが、脱離などのトラブルも少ないことから、今回の改良品である「ボンドフィルSBⅡ」を、補綴分野で遭遇する咬合治療が必要な症例において、咬合高径の回復・調整を目的として使用を開始した。
本材の各種症例への有効活用について材料特性を示しながら紹介する。

  • [写真] ボンドフィルSB®Ⅱ
    図1 2024年2月に発売された「ボンドフィルSB®Ⅱ」

ボンドフィルSB®Ⅱの特性とは

基本組成は「スーパーボンド」をベースに接着充填材として改良されているため、重合反応の発生メカニズムや操作方法(本材は、筆積法のみ)については「スーパーボンド」と同じであり、学術的には「4-META/MMA-TBB系レジン」に属する。
「スーパーボンド」と同じ「キャタリストV」(図2左)と「ボンドフィルSBⅡ」専用の液材(図2中央)を混合した活性化液を調整し、筆積法にて粉材(マルチ、オペーシャス)(図2右)を採取してポリマー玉を形成し、充填操作を行う。歯面に対する前処理材も「スーパーボンド」の前処理材と同じものが使用できる。
「ティースプライマー」(図3左)はエナメル質・象牙質兼用の歯面処理材であり、歯質界面での「4-META/MMA-TBB系レジン」の重合促進効果を併せ持つ水洗不要のセルフエッチングプライマーである。貴金属、各種セラミックス、CAD/CAMレジンなどへの前処理には「M&Cプライマー」(図3右)が使用できる。
ダッペンスタンドとダッペンカップ(図4左)、ディスポチップ(図4右)も「スーパーボンド」の付属品と同じであり、プラスチック製のディスポーザブルタイプであるので、陶製のダッペンディッシュと比較して操作後の片付けが容易である。

  • [写真] 基本組成
    図2 基本組成は「スーパーボンド」の組成をベースに接着充填材として改良されている。
  • [写真] スーパーボンド
    図3 歯質、貴金属、各種セラミックス、CAD/CAMレジンなどへの前処理は「スーパーボンド」と共通である。
  • [写真] 「スーパーボンド」と同じ付属品
    図4 「スーパーボンド」と同じ付属品を使用している。

「スーパーボンド」から引き継いだ特性と付加された機能

「ボンドフィルSBⅡ」は「スーパーボンド」の基本組成とメカニズムを継承していることから、「スーパーボンド」と同等の高い接着性(図5, 6)と硬化後の柔軟性1)を併せ持っており、その一方で「スーパーボンド」にはない機能が付加されている。
①接着性と辺縁封鎖性
「キャタリストV」に含まれている重合開始剤TBBは、少量の酸素や水分の存在が重合を促進するという特徴があり、被着歯面から重合が開始することから、一般的な化学重合型レジンや光重合型レジンにみられる重合収縮による接着界面へのコントラクションギャップが生じにくくなっている(図7)。
②硬化後の柔軟性と追加築盛性
硬化体が柔軟性をもっていることから(図8)、応力がかかる部位に充填しても脱離や破折が少ない。また、MMA系レジンの特性として研磨後の硬化体や摩耗した硬化体の表層への追加築盛が容易で、追加築盛部分の脱離も少ない。
③X線造影性
「ボンドフィルSBⅡ」は粉材に造影性フィラーを配合したことにより象牙質と同等のX線造影性が付与され、髄床底穿孔部の封鎖などの充填部位の確認が必要な症例に有効である(図9)。
④色調適合性
粉材は2種類あり、様々な歯冠色に対応したマルチと遮蔽性を有するオペーシャスにより色調適合性が向上している(図10)。前歯・臼歯・くさび状欠損などマルチ1色で充填できるだけでなく、オペーシャスは前装冠リペアや着色歯にも対応できる。
⑤操作性の向上
液材に対する溶解性の異なる数種のポリマー粒子の配合により、粉液筆積み後の増粘速度が速くなったことで、筆積みで窩洞に充填する際の築盛性が向上している。さらに、充填時のオーバーフィリングや垂れ性も軽減されており、充填材の形態付与が容易になっている(図11)。
⑥硬化待ち時間の短縮
光照射によって硬化時間を短縮することが可能で、形態修正までの待ち時間がコントロールできる。したがって、硬化後の形態修正と研磨が即日に行える(図12)。
以上の特性を踏まえた症例を下記に供覧する。

    • [図] 歯質に対する接着強さ(エナメル質)
    • [図] 歯質に対する接着強さ(象牙質)
    図5, 6 歯質に対する接着強さは「スーパーボンド」と同等である。
  • [写真] 繰り返し衝撃(水中・15万回)後の色素侵入試験結果
    図7 繰り返し衝撃(水中・15万回)後の色素侵入試験結果。他材料との辺縁封鎖性の比較。
  • [写真] 3点曲げ試験
    図8 CRより高い柔軟性を持ち合わせている。
  • [写真] X線写真
    図9 X線造影性が付与されている。
  • [写真] マルチシェードによる色調適合性があり、オペーシャスによる金属遮蔽性も選択できる
    図10 マルチシェードによる色調適合性があり、オペーシャスによる金属遮蔽性も選択できる。
  • [写真] 筆積みでの操作性が向上しており、築盛がしやすくなっている
    図11 筆積みでの操作性が向上しており、築盛がしやすくなっている。
  • [図] 硬化の待ち時間
    図12 硬化待ち時間が短縮され、光照射後3分で形態修正や研磨が可能。LED照射器(光量1,000mW/cm²以上)の場合。 

症例供覧

症例1 歯頸部二次カリエスへの充填
CR充填部辺縁への微小漏洩による二次カリエス症例(図13)。
下顎右側犬歯は鉤歯でCRと歯質の段差部分にプラークが残存しやすかった。経年的な歯質との段差ができにくいという特性に期待して「ボンドフィルSBⅡ」を選択した。
歯頸部窩洞への充填の際には歯肉溝への材料の流れ込みに注意しなければならないが、筆積法での操作性が向上していることから、問題なく充填処置ができた(図14)。
充填後はダイヤモンドバーのファインからエキストラファインにて細かな形態修正を行いつつ表面を研磨し、最終的にはシリコンポイントを使用した。色付きのシリコンポイントは切削粉が研磨面に残ることがあるのでホワイトシリコンポイントのほうが最終研磨には適している。
本症例では、術後に形態修正や研磨時の機械的刺激から微小の歯肉出血は見られたが、歯周組織に炎症など起こすことなく良好な経過を示している。

症例2 咬耗した下顎前歯、切端部への充填
患者は痛みや不快症状は訴えていないが、対合歯が陶材焼付冠であった影響で下顎前歯に咬耗が進んでいる(図15)ことから切端部に「ボンドフィルSBⅡ」の築盛を行った。
咬耗部は新鮮面を一層露出させる程度に切削し、エナメル質に「表面処理材レッド」を、象牙質に「表面処理材グリーン」を塗布・水洗、乾燥後、より高い接着強さを得るために窩洞全体に「ティースプライマー」を塗布した2, 3)
「ボンドフィルSBⅡ」は筆積法での操作性が向上していることから、築盛時に形態付与を容易に行うことができた(図16)。
また複数歯の充填であったが、光照射による硬化時間の短縮が可能となったことで硬化後の咬合調整・形態修正が即日に円滑に行えるようになった。現在術後4か月が経過しているが、一切脱離することなく機能している。

症例3 上顎前歯、切縁を含む隣接面への充填
隅角を含む歯冠破折の症例(図17)。従来の光重合型CR修復では充填と脱離を繰り返していたが、「ボンドフィルSBⅡ」充填後は落ち着いている。色調を合わせることが困難な症例であったが、「マルチ」使用により違和感なく修復できた(図18)。当初の予定では、咬合が落ち着いたのちに補綴装置に置き換える治療計画であったが、4か月間は脱離・破折なく過ごしている。審美的にも問題なく、患者が歯の切削を望まないことから、当面はこのまま経過を見ることとなった。

症例4 下顎犬歯小臼歯、咬頭の形態修正
全顎的に重度の咬耗症例(図19)。ほぼすべての歯が咬耗しているが、自発痛などはなく顎関節症状もみられなかった。テンポラリークラウン・ブリッジへの置換と「ボンドフィルSBⅡ」での暫間的充填による歯冠形態の修正により、全顎的な咬合高径の回復を試みた(図20)。
犬歯・小臼歯部は側方運動時の咬合干渉に注意しながら「ボンドフィルSBⅡ」にて歯冠形態の修正を行った。咬合挙上前後の右側方面観を示す(図21)。臼歯部での咬合が確立しているとはいえ、3か月経過しても前歯・小臼歯部の「ボンドフィルSBⅡ」は脱離・破折していない。咬耗は見られない一方で、表面の滑沢感が増している(図22)。
本症例では、最終的にはほとんどの歯にクラウン・ブリッジによる歯冠補綴を行う予定である。ただ、可能な限り自分の歯を残したいという患者の希望もあるため、下顎右側犬歯・第一小臼歯に関しては「ボンドフィルSBⅡ」充填による歯冠修復のままで経過を見ていくこととしている。

症例5 レジン前装冠を含めた下顎前歯部の形態修正
下顎前歯部はレジン前装冠とCR充填による修復を施されていたが、すべて咬耗しており咬合が低くなったため臼歯部の義歯は人工歯を含めた義歯床部分の破折を繰り返していた(図23, 24)。
咬合高径の回復が必要であり義歯臼歯部咬合面へのレジン添加修理と下顎前歯部への「ボンドフィルSBⅡ」築盛による咬合挙上を試みた(図25)。
咬耗した前装レジン面は一層削合して露出した新鮮面に「M&Cプライマー」4)を塗布したうえで「ボンドフィルSBⅡ」の築盛を行った。
治療計画では新義歯を作製し咬合が安定したのちに下顎前歯部のレジン前装冠を新製予定であるが、「ボンドフィルSBⅡ」と前装レジン面との色調は違和感なく適合しており、3か月経過後も脱離・破折なく変色も見られない(図26)。

  • [写真] 症例1 術前:下顎右側側切歯および犬歯歯頸部の二次カリエス
    図13 症例1 術前:下顎右側側切歯および犬歯歯頸部の二次カリエス
  • [写真] 症例1 充填研磨後の光沢感
    図14 症例1 充填研磨後の光沢感はCRほどでないが、歯磨き摩耗により経時的に艶感がでてくる。
  • [写真] 症例2 術前:咬耗した下顎前歯
    図15 症例2 術前:咬耗した下顎前歯
  • [写真] 症例2 術後:「ボンドフィルSBⅡ」による切端部の形態修正
    図16 症例2 術後:「ボンドフィルSBⅡ」による切端部の形態修正
  • [写真] 症例3 術前:隅角を含む隣接面が破折した上顎中切歯
    図17 症例3 術前:隅角を含む隣接面が破折した上顎中切歯
  • [写真] 症例3 粉材「マルチ」により色調も適合している
    図18 症例3 粉材「マルチ」により色調も適合している。
  • [写真] 症例4 術前:全顎的に重度の咬耗がみられる
    図19 症例4 術前:全顎的に重度の咬耗がみられる。
  • [写真] 症例4 前歯部は「ボンドフィルSBⅡ」で複数回にわけて歯冠長を修正した
    図20 症例4 前歯部は「ボンドフィルSBⅡ」で複数回にわけて歯冠長を修正した。
  • [写真] 症例4 左:咬合挙上前 右:咬合挙上後
    図21 症例4 左:咬合挙上前 右:咬合挙上後。上下の犬歯切縁および第一小臼歯咬合面に「ボンドフィルSBⅡ」を築盛した。(図中矢印部分)
  • [写真] 症例4 術後:3か月経過
    図22 症例4 術後:3か月経過。日々の歯磨きにより経時的に滑沢感が増している。
  • [写真] 症例5 術前:切縁に咬耗がみられる下顎前歯部
    図23 症例5 術前:切縁に咬耗がみられる下顎前歯部
  • [写真] 症例5 術前:前装冠のレジン前装部も咬耗している
    図24 症例5 術前:前装冠のレジン前装部も咬耗している。
  • [写真] 症例5 下顎前歯部への「ボンドフィルSBⅡ」の築盛と、義歯臼歯部は即時重合レジン添加による修理と咬合挙上を行った
    図25 症例5 下顎前歯部への「ボンドフィルSBⅡ」の築盛と、義歯臼歯部は即時重合レジン添加による修理と咬合挙上を行った。
    • [写真] 術後:3か月経過
    • [写真] 術後:3か月経過
    図26 症例5 術後:3か月経過。前装部への追加築盛でも色調は適合している。

上手く使いこなすためのワンポイント

「ボンドフィルSBⅡ」の接着効果を高めるために、以下のことに留意して処置を行っている。
①液材と「キャタリストV」を混ぜた活性化液は3分以内に使用する。活性化液の混合は使用直前に行い、複数歯の処置などの場合は混和後の時間に注意して行う必要がある。
②「ティースプライマー」はセルフエッチングプライマーであるが、「表面処理材レッド」(エナメル質)および「表面処理材グリーン」(象牙質)との併用が接着力向上に有効である。
③充填前に被着歯面に活性化液を塗布することで、濡れ性が増して歯面への充填材のなじみがよくなる。

まとめ

光重合型充填材であるCRは利便性や審美性が高い。一方で、化学重合型の筆積法で使用する「ボンドフィルSBⅡ」のメリットとは何か?
「ボンドフィルSBⅡ」は接着性が高く硬化体に粘靭性を持っている。したがって直接的に咬合力が加わる咬耗部位や、側方咬合圧に起因する張力によって発生する歯頸部の楔状欠損など、通常のCRでは脱離が起こりやすい部位の修復に有効である。
また、今回紹介した症例のように硬化した「ボンドフィルSBⅡ」の充填部位に後日、容易に追加築盛をすることも可能である。
CRでは脱離する症例、上手くいかない症例こそ「ボンドフィルSBⅡ」の柔軟性を持った特性が活きてくると考え日々の臨床で多用している。

参考文献
  • 1) 村原貞昭ほか CAD/CAM ハイブリッドレジン冠の繰り返し衝撃荷重に対する破折抵抗性.接着歯学Vol.35 No.1 2017.
  • 2) 野川博史ほか セルフエッチングプライマー処理したエナメル質に対する4-META/MMA-TBBレジンの接着メカニズム 接着歯学 34 (1), 1-8, 2016.
  • 3) 中村光夫 象牙質接着に対する各種表面処理材とセルフエッチングプライマーの併用効果 接着歯学 35 (2), 33-39, 2017.
  • 4) H Ikeda, et.al. Data on bond strength of methyl methacrylate-based resin cement to dental restorative materials. Data in Brief 33(2020)106426.

目 次

モリタ友の会会員限定記事

他の記事を探す

モリタ友の会

セミナー情報

セミナー検索はこちら

会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能

  • digitalDO internet ONLINE CATALOG
  • Dental Life Design
  • One To One Club
  • pd style

オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。

商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。