191号 WINTER 目次を見る
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神奈川県横浜市
医療法人 ひのき歯科
理事長 内田 宏城
デジタル印象採得装置として知られる「iTeroエレメント」は、一度に多くの精密な口腔内データを取得できるため、矯正治療のみならず、さまざまな臨床に用いることが可能です。矯正治療の症例と合わせて、当院での活用例を紹介したいと思います。
最初の症例は歯並びが心配で来院した7歳女児です。口腔内スキャナーによるスキャン画像をもとに、歯並びの状態を親御さんと確認し、今後の変化の予測などを伝えた上で、上下顎前歯の様子を追っていくことになりました(症例1-1)。半年後、上顎前歯の空隙は閉じてきたものの、下顎前歯は多少広がっており、経過観察を続けることになりました(症例1-2)。小児の口腔は成長途中であり、治療開始を見極めるには経過観察が重要です。その手段として、精密に口腔内が再現でき、経時的な記録採取が可能なデジタル印象は有用な資料となります。加えて、模型の管理に悩むことがないため、手軽にデータを蓄積することができます。小児の成長発達に寄り添う診療を行うために、当院では口腔内スキャナーが重要な役割を担っています。
症例1-1 歯並びが心配で来院した7歳女児。「iTeroエレメント口腔内スキャナー」にて口腔内をスキャン。上下顎前歯の空隙を確認。
症例1-2 半年後、上顎前歯の空隙は閉じてきているが、下顎前歯は逆に多少空隙が広がっているのが確認できる。
次の症例は上顎前突を主訴に来院した29歳女性です。iTeroでデジタル印象採得を行ったデータを用いたインビザラインGoの症例です。インビザラインGoの「クリンチェック治療計画」は、患者さんにとって歯牙の移動量がイメージしやすく、矯正治療が専門ではない当院においても、予知性のあるコンサルテーションが展開しやすくなります(症例2-1~2-3)。このシミュレーションをきっかけに、矯正治療を開始する患者さんは少なくありません。
症例2-1 上顎前突を気にして来院した29歳女性。「クリンチェック治療計画」では現在の歯列(白色)と治療後のシミュレーション結果の歯列(青色)とを重ね合わせて比較できる。
症例2-2 右側側方面観。前歯の向きがどのくらい変わるのかを理解しやすい。
症例2-3 同、左側側方面観。
次の症例は肩こりや片頭痛が主訴で来院した26歳の女性です。「iTeroエレメント」の咬合間隙ツールを用いて対合歯列間のバイトバランスを確認すると、右側最後臼歯および左側前歯部の咬合が強いことがわかりました(症例3-1)。咬合紙を用いた咬み合わせの検査とは違い、咬合間隙ツールではバイトのバランスが可視化されるため、治療に対する患者さんの理解が深まるとともに、治療の正当性を客観的に説明できるようになります。この症例では微細なバイト調整を行い、治療後には肩こりや片頭痛が軽減されました(症例3-2)。
症例3-1 肩こりや片頭痛を主訴に来院した26歳女性。上下顎ともに右側最後臼歯および左側前歯部の咬合が強いことが分かる。
症例3-2 咬合調整後。バイトのバランスの偏りがなくなったことが分かる。
口腔内スキャナーを使ってスキャンしている様子。スキャンスピードが早く精度も高いため、治療時間の短縮に寄与している。
スキャンした口腔内データは、即座に現在の状況や治療の進捗を患者さんに伝えることができる。
最後に紹介するのは、インプラントに関する定説に不正確な要素が含まれる可能性を示唆した症例です。10数年前に₁および₇にインプラントを埋入した70歳女性で、長年、通院されている方です。上顎中切歯切縁の垂直的位置関係を比較すると、左右で非対称となっており、低位であった₁にコンポジットレジン(以下:CR)を盛り足して経過を追いました(症例4-1)。半年後、添加したCRが破損したために来院。新たにスキャンしたところ、₁および₇のバイトが変化し ているように見えました(症例4-2)。そこでタイム・ラプス機能を使って半年前のデータと重ね合わせたところ、やはり₁が低位であり、他の歯牙の移動は確認できませんでした(症例4-3,4-4)。当初、インプラントは骨と結合するために動かないとする定説通り、隣在歯が挺出しているものと考えていました。しかし、半年スパンで口腔内データを比較すると、上下顎のインプラントが少しずつ圧下していることがわかりました(症例4-5)。
症例4-1 定期メインテナンスで通院する70歳女性。10数年前に₁ および₇にインプラントを埋入し、同時期に補綴も行っている。上顎中切歯切縁の垂直的位置関係が左右で揃わなくなったため、₁の切縁部分にCRを盛り足して経過を追った。
症例4-2 半年後、₁および₇のバイトが明らかに変化しているように見える。
症例4-3 実際に変化しているのかを評価するためにタイム・ラプス機能を使って、半年前の口腔内データと重ね合わせた。
症例4-4 上顎口蓋側面観。₁の切縁の変化はもちろんだが、口蓋側のみバイトが0.05~0.2mmの範囲で沈み込んでおり、他の歯牙の移動はまったくないことが確認できる。
症例4-5 下顎舌側面観。インプラントを埋入している₇のバイトのみ、0.05~0.2mmの範囲でバイトが落ちていることが分かる。インプラントは動かないという定説が誤っていたのではないかと考察できる。すなわち、上下顎ともインプラントは半年で少しずつ圧下していた。
口腔内のスキャンデータを定期的に記録することは、従来、見過ごしていたかもしれない口腔内の変化を見つけられる可能性を高めます。また、こうしたデータの蓄積は、歯科医院にとっても患者さんにとっても貴重な財産になるだけでなく、新たなエビデンスの構築にも寄与するものと思います。
矯正治療のための装置としてのみ捉えられがちな「iTeroエレメント」ですが、多くの症例に有用なツールであると考え、今回、当院での活用事例をご紹介いたしました。先生方の日常臨床のご参考になれば幸いです。
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