114号 SPRING 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ ホワイトコートとは
- ≫ ホワイトコートの対象は?
- ≫ ホワイトコート使用のテクニックとコツ
- ≫ まとめ
■はじめに
審美的歯面コート材「ホワイトコートTM(クラレメディカル)」が発売されてから数カ月が経つ。すでに臨床で使用している歯科医も多いことであろう。新しいカテゴリーの製品であることから、歯科医としての取り組み方に戸惑ったり、患者への説明に苦労したり、あるいは非常にうまく日常臨床に組み入れたりと様々な状況が推察される。
今回は、ホワイトコートの基本コンセプトを再確認するとともに様々な症例における臨床テクニックについて述べる。
今や2兆円を超す市場規模を持つといわれる美容業界の中で、約半分の規模を占めるスキンケアおよびメイクアップ化粧品業界において、その化粧品の数や種類は数えきれないほどになっている。話題の最新コスメあるいはお気に入りのスターやタレントと同じ化粧品を購入すれば、いつでもさらに「美しくなる」ためのメイクアップができる。そして今では目の色までもカラーコンタクトにより簡単に変えることができ、自分の顔のほとんど全てをカラーコーディネートすることが可能になってきた。
しかし唯一、一般の人が自分の希望通りのカラーに変えることのできない部分が顔の中にある、それが歯の色である。いくら自分の歯をハリウッドスターのようにあるいは新庄選手のようにしたいと思っても、自分で白い歯にメイクアップすることはできない。
(株)クラレが2004年に行った働く女性を対象にしたアンケート調査によれば、歯の色に自信のない女性が7割を超え、白い歯を手に入れることができれば、いまより積極的になれ、そして明るい性格になれると答えた人が3割近くもいた。この結果から、特に歯科疾患がない人の中にも、歯の色調をメイクアップに合わせてみたい、あるいはただ単に「白い歯になってみたい」、と希望する人が多いことが考えられる。今後、女性の心理面も含めたメイクアップの最後の対象は、「歯の色調改善」である。もちろん男性もその対象外ではまったくない。
歯科医としては、患者が希望する色の改善ということに限れば(もちろん歯の形態、歯肉との調和なども重要であるが)ラミネートベニヤあるいはメタルボンドからオールセラミッククラウンなどの歯冠補綴物により比較的容易に対応が可能である。しかし、患者の立場になれば金銭的そして肉体的な負担は大きく、誰でも簡単に行えるものではない。
最近では歯の色調改善法としてホワイトニングが広く一般的に行われるようになったが、歯冠修復と比較すれば歯質へのダメージは少ないものの、時間的負担そして最終的な色の調整がむずかしいという欠点がある。
「白い歯になってみたい」と思う一般の人にとって、いわゆる審美歯科治療は金銭的、肉体的負担が多くややハードルが高い。日常のメイクアップのように自分で歯の色を変えることはできないまでも、もう少し気軽にへヤーサロンやネイルサロンにひと月に一度通う感覚で一時的にでも白い歯を体験してみたいという思いは必ずあるはずである。
■ホワイトコートとは
昨年11月、「日本デンタルショー2004」で発表された審美的歯面コート材「ホワイトコート」は、いわゆる「歯のマニキュア」ともいえる材料であり、「白い歯になってみたい」という人の希望に応えることのできる製品である。これまでに歯のマニキュアとして数多くの商品が市販されてきたが、その審美性や耐久性は全く異なる新しいカテゴリーそしてコンセプトの製品である。
ホワイトコートは、未切削エナメル質への接着を目的として新たに開発された「セルフエッチングプライマー」、審美的な色調改善を目的とした専用フロアブルレジン「ベースコート」そして重合後の表層未重合層がほとんどない最終仕上げ用表面滑沢材である「トップコート」の3つで構成されている(図1)。
ホワイトコートは、約1~3カ月効果が持続するといわれているが、除去が比較的容易であることも特徴の一つである。これまでの接着修復材は、とにかく一度接着したら取れないようにすることを目的としていたが、ホワイトコートはエナメル質表層にほとんど損傷を与えることなく除去できるので、繰り返し使用が可能である。
図1-1 Polymer-Based Dental Tooth Coating Material「ホワイトコートTM」。
■ホワイトコートの対象は?
自分の歯の色を気にして歯科医院を訪れる人のほとんどは、患者自身も、そして歯科医が見ても不良充填物や不良補綴物など明らかに口腔内に問題がある。このような患者に対しては、最良の歯科医療を施すのが歯科医師としての努めであろう。
しかし、先ほどのアンケート調査にもあるように、一般の人の中には、歯にトラブルのない人でも白い歯への願望を強く持っている人は多い。「白い歯」を希望しながら、これまで歯科医院に訪れることを躊躇っていた人、さらに今の自分の白い歯をさらに白くしてみたい人、ホワイトコートの一番の対象はこのような人たちであろう。
「白い歯」を希望する人たちは、口腔への関心も高いはずである。ホワイトコートの基本コンセプトは、ただ歯を白くするだけでなく、定期的に歯科医院を訪れる習慣を持ってもらうことである。口腔内の定期診査による口腔健康への関心の維持、ホワイトコートを用いた歯面コートによる歯質保護、そして歯の美白による生活面における心理的効果。これらを定期的に行うことで人々の口腔内に対する健康意識の向上が得られるであろう。
もちろん、結婚式やパーティーへの参加、あるいはビジネスシーンなどにおける一時的な応用、場合によっては不良修復物を一時的に隠すようなこともできる。あるいは、審美歯科治療への動機付けに使用する歯科医もいることであろう。しかし、基本的には定期的に歯科医院を訪れる習慣を一般の人にも持ってもらう、ということを念頭においた使用でありたい。
■ホワイトコート使用のテクニックとコツ
Ⅰ ホワイトコートの基本術式
はじめにホワイトコートの基本的な術式について症例写真をもとに説明する。コンポジットレジン修復と同様に、接着操作そしてホワイトコートの塗布に若干の慣れが必要である。
1. カラープランニング(図2-1~2-4)
コスメティックカラー3色またはナチュラルカラー3色から選択する。選択したベースコートを未処理エナメル質表層に塗布し色調の確認を行う。光重合を行った場合には、スケーラーで除去する。
2. 歯面清掃(図2-5)
接着阻害となるプラーク等の汚染物質、また嗜好品などによる着色物を確実に除去する。未切削エナメル質表層にセルフエッチングプライマーを確実に作用させるために重要な操作である。ラバーカップと研磨材でエナメル質表面を丁寧に研磨する。
3. プライマー塗布(図2-6~2-10)
エナメル質表面にプライマーを専用のディスポーザブルブラシにより塗布する。各操作を確実にするために1~2歯ずつ行う。平坦面にプライマーを塗布するため、未処理の部分がないよう何度か繰り返して塗布を行う。特に切縁付近のプライミングが不足がちなので注意して行う。また歯肉溝あるいは隣接面にプライマーが流れ込まないように注意する。
プライマーを十分に作用させた後、乾燥を行う。切縁側にバキュームチップを置き、吸引しながらはじめマイルドエアーでプライマーをエアーブローした後、やや強めのエアーブローを行い確実に乾燥させる。
4. ベースコート1層目塗布(図2-11~2-13)
カラープランニングで選択したベースコートレジンを専用ディスポーザブルブラシにて薄く一層塗布する。
ブラシのしなりを利用して歯頸部から切縁に向かって動かし歯面全体にムラなく塗布する。切縁部分に厚みが出ないよう、また隣接面にベースコートが流れ込まないよう注意する。
ベースコートは塗布時ブラシの跡がつくが、レベリング効果(塗布後塗りムラが均一化する効果)によりすぐに消失するので、塗布面を何度も触らないようにする。均一に1層目のベースコートが塗布できたら光照射を行う。
5. 光照射(図2-14)
ベースコート表面に触れないようにできるだけ照射器チップ先端を近付け、チップ先端とベースコート面が平行になるようにして光照射を行う。光照射器は、十分に光強度があるもの(450mW/cm2以上)を使用する。
6. ベースコート2層目塗布(図2-14~2-17)
1層目と同様に歯頸部から切縁方向にブラシを動かし、2層目のベースコートを塗布する。ベースコートの遮蔽効果は比較的高いので、厚くなりすぎないようにする。また1層目よりベースコートの流れがやや悪くなるので歯面の解剖学的形態が損なわれないように注意する。隣接面あるいは歯頸部にはみ出したベースコートは、探針などで除去しておく。2層目のベースコートが塗布できたら光照射を行う。
7. 未重合層の除去(図2-18~2-20)
ガーゼあるいはアルコール綿球を用い、光照射後のベースコート表面にある未重合層を必ずしっかりと拭い取る。
光照射後、ベースコート表面に存在する未重合層は、この後に塗布するトップコートの重合を阻害することから十分に除去する必要がある。また、未重合層を拭き取ることによってベースコートの表面の光沢は消失するが、次のステップのトップコートの処置によって光沢を回復させることができる。
8. トップコート塗布(図2-21~2-23)
新しいディスポーザブルブラシによりベースコート表面にトップコートを塗布する。ブラシにトップコートを少量採り、ブラシのしなりを利用し、隣接面に付着しないよう注意しながら歯肉側から切縁方向にブラシを動かし薄く塗布する。トップコートを厚くし過ぎると、硬化後に変色する場合があるので、できる限り薄く塗布するように心掛けるとよい。
9. 光重合(図2-24)
ベースコートと同様に照射器チップ先端の位置と方向に注意しながら十分に光照射を行う。
LED照射器やプラズマアーク照射器の中にはトップコートを硬化することができない光照射器もあるので、事前にトップコートが十分硬化することを確認しておく必要がある。
10. 未重合層の除去(図2-25~2-27)
光重合後、トップコート表面をアルコール綿球で拭い、わずかに存在する表面未重合層を除去する。
図2-1 術前:犬歯の色調がやや黄色味を帯び、両側中切歯や側切歯と不調和である。-
図2-2 カラープランニング:シェードガイドで色調を確認しながらコスメティックカラー3色またはナチュラルカラー3色の中から選択する。 -
図2-3 ベースコート。 -
図2-4 選択したベースコートを未処理エナメル質表層にブラシで試し塗りし色調の最終決定を行う。必要に応じて光照射を行い、ベースコートを重合させる。なお光重合を行った場合には、スケーラーで除去する。
図2-5 歯面清掃:接着阻害となるプラーク等の汚染物質、また嗜好品などによる唇側の着色などを研磨材とラバーカップあるいはブラシにより除去するとともに歯面清掃を行う。未切削エナメル質表層にセルフエッチングプライマーを確実に作用させるために重要な操作である。-
図2-6 セルフエッチングプライマー。 -
図2-7 プライマー塗布:エナメル質表面にディスポーザブルブラシによりセルフエッチングプライマーを塗布する。各操作を確実にするために1~2歯ずつ行う。 -
図2-8 プライマー塗布:平坦面にプライマーを塗布するため、未処理の部分がないよう何度か繰り返して塗布を行う。特に切縁付近のプライミングが不足しないように注意して行う。 -
図2-9 ブラシのしなりを利用し、歯頸部および隣接面付近のプライミングを行う。歯肉溝あるいは隣接面にプライマーが流れ込まないように注意する。
図2-10 プライマーの乾燥:プライマーを十分に作用させた後、乾燥を行う。切縁側にバキュームチップを置き、プライマーが口腔内に飛散しないよう吸引しながら、はじめマイルドエアーそしてやや強めのエアーブローの順で確実に乾燥させる。
図2-11 ベースコート1層目塗布:カラープランニングで選択したベースコートを専用ディスポーザブルブラシに少量採り、ブラシのしなりを利用し薄く一層塗布する。ブラシは歯頸部から切縁に向かって動かし歯面全体にムラなく塗布する。-
図2-12 切縁部分には厚みが出ないよう特に注意する。 -
図2-13 隅角付近の塗布の際には、隣接面にベースコートが流れ込まないよう、また隣接歯にベースコートが付着しないよう注意する。ブラシの跡はレベリング効果によりすぐに消失するので、塗布面を何度も触らないようにする。 -
図2-14 ベースコート1層目塗布後の光照射:ベースコート表面に触れないようにできるだけ照射器チップ先端を近付け、チップ先端とベースコート面が平行になるようにして光照射を行う。
図2-15 ベースコート2層目塗布:1層目と同様に歯頸部から切縁方向にブラシを動かす。ベースコートの遮蔽効果は比較的高いので、厚くなりすぎないようにする。レベリング効果が得られにくくなるが、歯面の解剖学的形態が損なわれないよう注意する。-
図2-16 切縁部分に厚みが出ないようブラシを動かす。また全体的に塗布面が厚くならないよう気を付ける。なお隣接面あるいは歯頸部にはみ出したベースコートは、探針などで除去しておく。 -
図2-17 光照射:チップ先端とベースコート面が平行になるようにして光照射を行う。照射時間は十分にとる。 -
図2-18 光照射後:光沢感があるがベースコート表面には未重合層が存在する。 -
図2-19 ベースコート表面の未重合層除去:ガーゼを用い光照射後のベースコート表面にある未重合層をしっかりと拭い取る。 -
図2-20 未重合層除去後:表面から光沢感がなくなっているのがわかる。 -
図2-21 トップコート。 -
図2-22 トップコートの塗布:新しいディスポーザブルブラシにトップコートを少量採りトップコートを塗布する。ブラシのしなりを利用しながら薄く塗布する。 -
図2-23 隣接面や歯肉に付着しないよう注意しながら、歯肉側から切縁方向にブラシを動かす。トップコートの塗布後、十分に光照射を行う。 -
図2-24 光照射後:トップコートによる光沢感が明瞭である。 -
図2-25 トップコート表面の未重合層除去 光重合後トップコート表面をアルコール綿球で拭い、わずかに存在する表面未重合層を除去する。 -
図2-26 術後:トップコート表面の未重合層を除去後も表面には光沢感が残っている。 -
図2-27 術後:上顎前歯6本の処置が終了。 -
図2-28 術前。 -
図2-29 術後:犬歯の色調が改善されている。 -
図2-30 術前。 -
図2-31 術後:両側犬歯の色調が変わり、術前(図2-1)に見られた口元のやや暗い感じが改善されている。
Ⅱ 「ホワイトコート」後の注意
ホワイトコート処置直後は、着色性の強い嗜好品および食品(喫煙、コーヒー、紅茶、赤ワイン、カレーなど)の摂取をできれば2~3日控えてもらう。歯磨きに関しては、通常通り歯ブラシとデンタルフロスの使用が可能である。
ホワイトコートの接着耐久性は、実験的には3カ月以上といわれている。しかし、処置後3カ月間放置するのではなく、その間に少なくとも1回以上のリコールが必要である。
当教室による3カ月間の短期臨床結果では、切縁側や歯肉側のホワイトコート塗布面に辺縁破折が1カ月以内に認められた。この破折部マージンは、ブラッシングによる摩耗で移行的になり、本人が不快感を訴えない場合もあるが、当教室の見解としては、審美性を維持するために約1カ月に一度のリコールを推奨している。
Ⅲ ベースコートの塗布法
1. ディスポーザブルブラシによる塗布
ベースコート塗布の基本は薄塗り2回である。歯が本来持つ凹凸を全て潰してしまうと人工的な感じを与え非常に不自然である。
1)べースコートをディスポーザブルブラシ先端に適量採取後、歯の中央部にまずベースコートを置き、ブラシをしならせブラシ先端を広げるようにして歯頸側にブラシを動かし、そこから切縁側に向かい塗布する。いきなり歯頸側から始めるとベースコートが歯肉に付着することがある。
塗布は歯面を3部位に分け中央部から始める。レベリング効果があるので何度も触らないようにする。同様にベースコートをディスポーザブルブラシ先端に適量採取後、隣接歯に付着しないように注意しながら近心あるいは遠心側の塗布を行う。1層目は薄く塗布するところがポイントである。なお、歯肉に付着した場合には、光照射前に探針などで除去する(図3-1~3-5)。
2)2層目を1層目と同様に塗布するが、レベリング効果は低くなるのでムラにならないようにベースコートの採取量に注意する。細かい部分の修正にはホワイトコートバニッシャー(探針側)や探針が便利である(図3-6)。
2. ホワイトコートバニッシャーによる塗布
ホワイトコートバニッシャーによるベースコートの塗布には注意が必要である。ベースコートが厚くなりすぎないように気を付けることと、レベリング効果があるので何度も表面を触らないことである。
1)ホワイトコートバニッシャー(丸面)にベースコートを適量採取し、歯の中央部に置く(図4-1)。そこから円を描くようにしベースコートを広げる(図4-2)。
2)ホワイトコートバニッシャー(探針側)を用い、辺縁隅角から隣接面にかけて細部の修正を行う(図4-3)。
図3-1 歯面を3部位に分け中央部からベースコートの塗布を始める。べースコートをディスポーザブルブラシ先端に適量採取後、歯の中央部に置く。-
図3-2 ブラシをしならせブラシ先端を広げるようにして歯頸側にブラシを動かす。 -
図3-3 ブラシをしならせたまま、そこから切縁側に向かい塗布する。レベリング効果があるので何度も触らないようにする。 -
図3-4 ベースコートを同様にディスポーザブルブラシ先端に適量採取後、隣接歯に付着しないように注意しながら近心部の塗布を行う。
図3-5 次いで遠心側の塗布を行う。1層目は薄く塗布する。-
図3-6 歯頸部付近の細かい修正などは、ホワイトコートバニッシャーの探針側を用いて行う。 -
図4-1 ホワイトコートバニッシャー(丸面の尖った方)にベースコートを適量採取し、歯の中央部に置く。 -
図4-2 円を描くようにしベースコートを広げる。 -
図4-3 探針側を用い、辺縁隅角から隣接面にかけて細部の修正を行う。
Ⅳ「ホワイトコート」の除去
ホワイトコートの除去は、手用鎌形スケーラーで行う。辺縁にスケーラーを引っかけるようにし除去を行うと比較的容易にできる。はじめに歯頸側にスケーラーをあてスケーリングの要領で削除を行う。細かく残った部分に関しては超音波スケーラーを用いるとよい。仕上げには、スケーリング後と同様にポリッシングを行う(図5-1)
図5-1 ホワイトコートの除去には、手用鎌形スケーラーを用いる。辺縁にスケーラーを引っかけるようにしホワイトコートの除去を行う。細かく残った部分は超音波スケーラーを用い、仕上げにはスケーリング後と同様にポリッシングを行う。
Ⅴ 各種症例別の使用法
1)唇側面の凹凸が強い症例(図6-1)
やや暗い感じがする口元である。術前状態を見ると全体にやや黄色味がかった色調である。中切歯を拡大すると唇側面に凹凸が少し強いのがわかる。
この症例のように、エナメル質表面の非常に細かい凹凸が強い場合、ベースコート1層目塗布後に凹んだ部分が残ると、2層目塗布後に、凸部分にベースコートがうまく塗布できず縦方向の筋が目立つようになる。1層目塗布の際に、この凹んだ部分を埋めるようにベースコートを塗布する(図6-1~6-6)。
2)色調不適合な修復物がある症例①(図7-1)
前歯部隣接面にコンポジットレジン修復とセラミック修復が施されている。コンポジットレジンは辺縁部にやや着色が見られ、歯間乳頭付近が暗く見える。また右側側切歯のセラミック修復は表面の光沢感が消失している。
この症例のような場合は、はじめにセラミック修復物にシラン処理を施す。まず歯面研磨後に修復物の表面をリン酸エッチングし水洗乾燥をする。
修復物表面にシラン処理(ポーセレンアクティベーターとプライマーを1滴ずつ混和したものを歯質を含め塗布)を行い、軽くエアーブローし余剰分を除去する。その後の処置は同じである(図7-1~7-4)。
3)色調不適合な修復物がある症例②(図8-1)
エナメル質が薄く象牙質が透けているような歯においては、コンポジットレジン修復の際の色調選択が非常に困難である。本症例のように大きな3級修復では色調不適合となることが多い。このような症例にホワイトコートを使用する場合は、ディスポーザブルブラシとホワイトコートバニッシャーを併用しベースコートを塗布する。はじめに、オペークシェード(OA2)をディスポーザブルブラシで一層薄く塗布する。このときは完全に下地は隠れないが決して厚塗りにしない。光照射後、さらにオペークシェードを薄く塗布する。オペークシェードの薄塗り2回でも下地の色は隠れないことがあるが、オペークシェードを厚塗りにすることはしない。光照射後、ホワイトコートバニッシャーによりコスメティックカラー(A1)を塗布する。本症例では、コンポジットレジン修復がされていた中切歯と犬歯にはホワイトコートバニッシャーで(図4-1~4-3)、修復物のなかった側切歯にはディスポーザブルブラシでベースコートを塗布した(図8-1~8-4)。
4)金属修復物がある症例(図9-1)
臼歯部の2級スライスインレーやMODなどは、笑ったときに隣接面の金属色が口元から見え、そのことを歯科医院で訴える人が少なくない。このような症例において、一時的にでも金属色を遮蔽する方法として、ホワイトコートは有効である。
特に第二小臼歯や第一大臼歯などの場合、金属は口元からわずかに見えるだけなので、多少金属色を隠すためにベースコートを厚塗りにしても、あまり不自然になることは少ない。
なお、プライマー塗布前に金属表面には金属接着性プライマー(アロイプライマー)処理を行う(図9-1~9-8)。
図6-1 術前:口元がやや暗い感じがする。-
図6-2 術前:全体にやや黄色味がかった色調である。 -
図6-3 術前拡大:中切歯唇側面は、やや凹凸が強い。 -
図6-4 術後:口元が明るくなる。
図6-5 術後:ベースコート(OB 0)でホワイトコートを施す。下顎前歯と比較すると色調が改善されているのがわかる。-
図6-6 術後拡大:唇側の凹凸面がホワイトコートで滑沢な面になっているが不自然な感じはしない。 -
図7-1 術前:歯頸部付近の隣接面にコンポジットレジン修復、右側側切歯はセラミッククラウンによる修復が施されている。歯間乳頭付近が暗く見える。 -
図7-2 術前拡大:セラミッククラウンは光沢が消失している。中切歯遠心のコンポッジットレジン修復物の辺縁にはやや褐線が認められる。犬歯はやや黄色味がかった色調である。 -
図7-3 術後:全体に明るくなり、特に歯間乳頭付近の暗さが消えた。 -
図7-4 術後拡大:セラミッククラウンには光沢があり、また中切歯遠心に見られた褐線は消失している。犬歯も色調が改善されているのがわかる。
図8-1 術前:エナメル質が薄く象牙質が透けて全体的に黄色味が強い。さらにそれぞれの歯の色調が異なり口元が暗く感じる。-
図8-2 術前拡大:中切歯遠心側の3級コンポジットレジン充填の色調が不適合である。 -
図8-3 術後拡大:犬歯から犬歯までの6本にホワイトコートを行った。はじめに、OA2をディスポーザブルブラシで薄く二層塗布後A1を塗布した。中切歯と犬歯はホワイトコートバーニッシュ、側切歯にはディスポーザブルブラシでA1を塗布した。 -
図8-4 術後:ホワイトコートにより歯質に不調和だったコンポジットレジン充填が隠れ、また個々の歯の色のばらつきも解消されたことで口元の感じが明るくなった。歯質の解剖学的形態もあまり変わっていない。
図9-1 術前:笑ったときに左側上下顎第一大臼歯近心のゴールドインレーが見える。-
図9-2 術前拡大。 -
図9-3 術前頬側面観:近心および遠心隣接面を含むMOD ゴールドアンレー。 -
図9-4 金属表面に金属接着性プライマー:アロイプライマーを塗布する。自然乾燥後、プライマーを金属と歯質に塗布する。 -
図9-5 ベースコート(オペーク)を1層塗布し光照射を行う。さらに薄く1~2層塗布し光照射を行う。 -
図9-6 カラープランニングで選択したベースコートをホワイトコートバニッシャー(探針側)でやや厚塗りに塗布し光照射を行う。あとはトップコートによる仕上げまで通法通りに行う。 -
図9-7 近心の金属がホワイトコートにより遮蔽されている。 -
図9-8 笑ったときに金属が見えない。
■まとめ
ホワイトコートは、ただ歯を白くするだけでなく、口腔健康への関心の維持、ホワイトコートの歯面コートによる歯質保護、そして歯の美白による精神的効果に期待し、定期的に歯科医院を訪れる習慣を持ってもらうための新しい材料である。
そして、ホワイトコートの本来の効用は、「日本人特有の黄色味がかった歯の色を白くそしてツヤと輝きのある歯にする」ことであると考える。すなわちビタシェードでA2やA3の歯をA1やB1にし、そして表面にツヤと輝きを与える。不自然で人工的な白さではなく、自然な白さに仕上げることを目標に使用するべき材料であろう。
そして、その応用として考えられるものに、1)色調不調和な歯列の色調改善、2)金属色の遮蔽、3)変色歯の色調改善などがあり、これらはあくまでもホワイトコートの主目的ではないことから、多少不自然な仕上がりになることも知っておくべきである。
ホワイトコートは、決して適合や色調不良な修復物を隠すことが目的の材料ではない。あくまでもこれらは応用的な使用方法である。
さらに、ホワイトコートをこれまでのダイレクトレジンベニア修復の延長として考えるべきではない。レジンベニア修復に取って代わるものという開発コンセプトではないことから、物性や審美性には劣るのが現状であり、ベニア修復と比較すれば明らかに耐久性や審美性に不満が残り臨床に取り入れることは難しくなる。
しかし、歯科医がこのホワイトコートを今までの歯科には存在しなかった全く新しいコンセプトの材料としてとらえることができれば、そのニーズは格段に広がるであろう。
ホワイトコートは、歯科医療からはかけ離れているが、歯科医師だけが行うことのできる処置である。
口腔内の様々な悩みのある患者に対し歯科に関する技術を提供するのが歯科医師の努めであるが、健康保険では病気に対する処置しかカバーされないことから、審美的なことよりも機能的なことに重点が置かれ限界がある。
多くの歯科医師は、悪いところをなおすことに専念しているが、美しいものをさらに美しくすることにも目を向けるべきではないだろうか?
- 1) 大森かをる、秋本尚武、髙水正明、桃井保子:「新規審美修復材の操作性に関する検討と臨床術式について」、歯科審美16, 325-328, 2004.
- 2) 秋本尚武、大森かをる:「患者の満足度を上げる審美的歯面コート法(歯のマニキュア)のテクニック」、ここまでできるコンポジットレジンを使った審美修復、歯界展望104, 730-737, 2004.
- 3) 大森かをる、桃井保子:新・臨床に役立つすぐれモノ「ホワイトコート」、デンタルダイヤモンド30, 136-139, 2005.
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