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192号 SPRING 目次を見る

Case Report

Bonarc®にて歯槽堤の温存を図り、インプラント治療を行った症例

大阪市中央区 なんばアップル歯科 臨床指導医 林 大智

キーワード:歯槽堤温存術/Hidden X suture/身体的侵襲が少ない治療

目 次

はじめに

インプラント治療において、抜歯後の骨吸収は治療の成否に関わる。抜歯後には水平的には約3.79mm、垂直的には約1.24mmの骨吸収が起きるとされている1)
その後に理想的なインプラントポジションへの埋入を計画すると、フィクスチャーが骨から露出する設計となり、大規模なGBRを必要とするケースも少なくない。また、垂直的な歯槽骨の減少は歯頸線の不揃いによる清掃性の悪化や、下顎のインプラント治療においては下歯槽神経に近接する設計となり、致命的になるケースもある。
それらを回避する目的として、歯槽堤温存術(ARP:Alveolar Ridge Preservation)がある。術式は様々あるが、本症例ではロッド(円柱状)タイプのBonarcを用いた歯槽堤温存術を行った。Bonarcはリン酸オクタカルシウム(OCP)およびコラーゲンからなっており、填入後に新生骨の形成が誘導され、その骨は既存骨と同等の構造をとるとされている。
今回、Bonarcにて骨再生を行った後に下顎大臼歯部にインプラントを埋入したことで下歯槽神経損傷のリスクを回避できた症例を、その臨床実感とともに供覧したい。

症例概要

症例は59歳女性。右下の臼歯に痛みを覚え来院された。右下第二大臼歯は歯内歯周病変を有し、動揺度は3度を呈しており、浮遊している状態であった。根尖付近の歯槽骨は吸収しており、骨吸収の最下点から下歯槽管までの距離は約3mmであった(図13)。
感染根管治療および歯周組織再生療法での歯の保存は難しいと診断し、抜歯を行うこととなった。欠損補綴について説明したところ、インプラント治療を希望された。
インプラント治療に際して、術前にワックスアップを行い、インプラントポジションや術式の検討を行った。理想的なポジションにフィクスチャーを配置すると、骨欠損に対してフィクスチャーが大きく露出することとなり、また、抜歯後即時埋入は下歯槽管との距離の関係から困難であった。さらに、抜歯後に治癒を待ち骨吸収部に対してのGBRも検討したが、下顎第二大臼歯部のGBRは技術的に難易度も高く、可能ならば避けたいと考えた。
そのため、本症例では歯槽堤温存術を行うこととした。骨欠損形態が4壁性であり内側性の窩洞であったことや、後にインプラント治療を予定していたため、インプラント適用の認可が下りているBonarcを本症例において使用することとした。
周囲組織を破壊しないよう丁寧な抜歯および不良肉芽の掻爬を行い(図4)、Bonarcのロッドタイプを1本填入した(図5)。吸水しながら賦形されていくため、抜歯窩の形態に合わせて容易に填入できた(図6)。
その後、Bonarc表面へのプラークの付着を避けるため、コラーゲン性のメンブレンを上部に設置し、Xマットレス縫合を行った。この際、Hidden X sutureという縫合を行っているが、この方法は硬・軟組織の減少量を抑制することが可能となる(図72)
2か月経過時点(図8)では、軟組織の高さも角化歯肉幅も保存されていることが確認できた。また、6か月経過時点でのX線写真より、骨の不透過性が増していることが確認でき(図9)、垂直的にも水平的にも十分な骨の温存ができた。Momenらによるシステマティックレビューにおいては、エビデンスはまだ不十分ではあるものの、ARPによって抜歯後6か月間における残存骨の高さや幅の全体的な変化を最小限に抑える可能性があるとされており、本症例においても組織の温存が達成された3)。このタイミングでインプラントの埋入を計画した。
改めて、理想的なポジションにプランニングを行い、サージカルステントを作成した。切開剥離を行ったところ、Bonarc填入当初は粒型を呈していたが、十分に骨化した骨表面を認めた(図10)。サージカルステントを用いてドリリングを進めたところ、骨の感触としては既存骨と比較すると少し柔らかい感触があったが、埋入後のトルク値としては40Nを獲得できた。4mmのヒーリングアバットメントを装着し、角化歯肉幅をより獲得できるように頰側にフラップを縫合固定した(図11)。
オペ後3か月が経過し、オッセオインテグレーションを確認後、光学印象にてプロビジョナルレストレーションの作製と装着を行った(図12)。舌感や咬合状態などに問題がないことを経過観察し、プロビジョナルレストレーションの情報を踏襲して、ファイナルレストレーションを作製することとした(図13)。通法通り口腔内スキャンを行った後、プロビジョナルレストレーションのみを口腔外にてスキャンし、特に縁下形態をファイナルレストレーションへ反映させた。作製したファイナルレストレーションを装着したが、プロビジョナルレストレーションから形態の変更は行っていないため、調整なしで装着が完了した。補綴装置の頰側には十分な角化歯肉幅が残存していることがわかる。X線写真からは、フィクスチャー最下点から下歯槽管までの十分な距離が獲得できており、埋入位置についても最終補綴装置から逆算して理想的な深度に埋入され、フィクスチャーの周囲骨は減少することなく歯槽硬線もあらわれていることが確認できる(図1416

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