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192号 SPRING 目次を見る

Field Report

筋肉主導の正しい顎位を測定する歯科用下顎運動測定器

京都市西京区 佐々木歯科医院 佐々木 継泰

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  • [写真] 京都市西京区 佐々木歯科医院 佐々木 継泰
    京都市西京区
    佐々木歯科医院
    佐々木 継泰

すべての人は、「顎位に問題があり症状のある人」、「症状はないが顎位のずれている人」、「健全な人」の3つに分けられると山下敦先生(岡山大学名誉教授)は述べておられます。私が咬み合わせに関心を抱くようになったのは、その3つを正確に見分けられる歯科医師でありたいと思ったことがきっかけです。
歯科用下顎運動測定器「K7 エバリュエーションシステム」(以下:「K7」)は、モリタでの池田正人先生、高松尚史先生の生理的下顎安静位についてのセミナーを受講してから活用するようになりました。矯正治療にも応用でき、徳永哲彦先生(福岡県宗像市開業)が「K7」を活用してすばらしい症例を提示されているのを見て、徳永先生に教えを乞うため宗像市まで通い、現在に至ります。
「K7」は、下顎の開閉口運動路や開閉口スピード、咀嚼筋の筋電位、あるべき生理的顎位などをデータとして見ることができるので、正確な診断が可能になります。それでは「K7」を用いた症例を見ていきましょう。
症例1(図16)は、40代女性で、疲れると顎がだるくなり、奥歯が浮いたように感じるという主訴でした。食いしばりがあり、下顎が左に偏位しているように見えました。
歯の嵌合状態によって引き起こされる習慣性咬合位の変化に筋群と顎関節は追随しています。また、神経筋機構に制御された咀嚼筋が下顎運動を起こします。そこで当院では低周波治療器「マイオモニターJ5」で筋緊張を除いて求めたニューロマスキュラーポジション (以下:NMP)にて咬合再構成しています。
「K7」では左右的偏位は見られず、NMPから水平的に2.3mm後退していました。見た目だけだと、下顎が左に偏位しているから右に戻さないといけないと判断してしまいます。しかし、筋肉に視点を置くと、この症例は下顎の左右的位置を変えてはいけないケースということが分かります。これは「マイオモニターJ5」と「K7」を使用することで初めて分かる根拠と言えるでしょう。不可逆的治療の前に、まず新しい顎位が正しいかをオーソシス(スプリント)で確認しました。主訴が改善したので、下顎を前方に誘導、歯列を移動させることで両側Ⅰ級を目指して矯正治療に入りました。しかし、治療の過程で左側をⅠ級にすることが難しいと判断し、右側はⅠ級、左側はⅡ級のままで終了しました。側方運動の際に臼歯部が干渉しないように、グループファンクションは付与しました。顔貌を見ると初診時に比べて下顎が前に出ることで穏やかな顔つきに変わり、過蓋咬合が改善しました。患者さんは、顎のだるさが取れたことでとても喜んでおられました。
「K7」は、術前・術中・術後に測定を行います。自分の狙った通りの位置に下顎を誘導できていることが大切です。

  • [写真] 症例1-1
    図1 症例1-1 40代女性。疲れると右上奥歯が浮いたような感じがするという主訴で来院。下顎が左に偏位しているように見える。
  • [写真] 症例1-2
    図2 症例1-2 顔貌所見より下顎は左に偏位しているように見えるが、「K7」scan5にて測定したところ、下顎位に左右的偏位はなく、2.3mm後退しているのみであった。
  • [写真] 症例1-3
    図3 症例1-3 動的治療開始時
  • [写真] 症例1-4
    図4 症例1-4 術後「K7」Scan5。完全ではないが、術前より生理的な顎位に近づけることができた。
  • [写真]
    図5 症例1-5 ₆₅₄₄₅₆ をオクルーザルべニアにして、緊密な咬頭嵌合を付与して治療終了。
  • [写真] 術後の状態
    図6 術後の状態

[写真] 佐々木歯科医院のスタッフ 症例2(図712)は、高校時代から慢性的な顎のだるさを自覚し、6年間他院で矯正治療をされていたが、改善されなかった20代男性です。一見してとても整った歯並びをされています。「マイオモニターJ5」と「K7」で診断したところ、1.3mm下顎が後方にずれていました。診断した結果から左右のズレはほとんど見られませんが、右側がほとんど咬めておらず、8ミクロンの咬合紙がスルッと抜けてしまいました。咬み合わせが安定せず、イライラがつのって食いしばって顎がだるいとのこと。IPRをして上顎前歯を口蓋側に入れたことで上下前歯の早期接触を起こし、下顎が後方に後退したものと考えました。下顎を生理的位置に戻し、上顎前歯の幅径をコンポジットレジンで回復しました。少しオーバージェットの大きい状態での終了となりましたが、患者さんは長年の悩みから解放され、大変喜んでくださいました。
成人の場合、骨の成長が望めないため、治療にどうしても限界が生じます。そこで今後は、小児の顎骨の成長をメインで診ていきたいと考え、現在勉強中です。歯列を拡大し舌位を改善することで、気道を広げることも期待できますから、airwayにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

  • [写真] 症例2-1
    図7 症例2-1 20代男性。慢性的な顎のだるさが主訴で当院を受診。前医にて矯正治療の既往があった。
  • [写真] 症例2-2
    図8 症例2-2 「K7」scan5にて測定したところ、1.3mm下顎が後方にずれていることが分かった。
  • [写真] 症例2-3
    図9 症例2-3 まずオーソシス(スプリント)を使って、顎のだるさが改善するかを確認した後、矯正治療に進めた。
  • [写真] 症例2-4
    図10 症例2-4 治療終了時。IPRされた上顎前歯はコンポジットレジンで歯冠幅径を回復した。
  • [写真] 症例2-5
    図11 症例2-5 術後「K7」scan5。ニューロマスキュラーポジションを獲得できている。
  • [写真] 症例2-6
    図12 症例2-6 術後。口角の左上がりが改善し、ほうれい線も目立たなくなった。顎のだるさも改善した。

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