192号 SPRING 目次を見る
キーワード:海外研修/軟組織のマネージメント/SPIインプラント
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Dr. Otto Zuhrによる研修内容
- ≫ 症例概要
- ≫ 最後に
はじめに
前号では、SPIインプラント工場見学とDr. Grunderの研修内容についてお話させていただいた。この旅では、グレンヘン(スイス)研修に加え、ミュンヘン(ドイツ)にてご開業のDr. Otto Zuhr, Dr. Marc Hürzelerのオフィスにも足を運び、2日間の研修を受けた。今回は、Dr. Otto Zuhrによる歯周形成外科に関する研修内容の報告と、その中で行われたFGG実習を実際の臨床に落とし込み、SPIインプラントを使用した症例を提示する(図1, 2)。
図1 Dr. Otto Zuhr, Dr. Marc Hürzelerを囲んだ集合写真。Hürzeler/Zuhr Academyにて。
図2 全員の手技を丁寧にチェックしてくださり、アドバイスをいただくことができた。
Dr. Otto Zuhrによる研修内容
講義はおもに軟組織のマネージメントに関する内容であった。特に印象深かった項目として、結合組織採取時に口腔外で上皮を切除する方法は、移植片の角化を誘発する能力が高く、周囲組織との色調が合わないことがあるため、審美部位の根面被覆では移植片を裏返して用いることや、single incision techniqueでの組織採取を推奨していること。根面被覆の術式においては、tunneling法とcoronally advanced flapの双方を習得する必要があるとし、tunneling法は乳頭部に瘢痕が残らないが、歯肉退縮幅が大きい場合は、coronally advanced flapが必要であると述べられていた。さらに、口蓋側フラップの減張法であるpeninsula flapが紹介され、エビデンスに基づいた多数の根面被覆症例や複雑な乳頭再建について学ぶことができた。
豚実習では、インプラント周囲の遊離歯肉移植術(以下:FGG)を用いた角化粘膜の獲得方法について学んだ。インプラント周囲の角化粘膜が不足している場合は、症例に応じてFGGを行う必要がある。しかし、部分層弁を用いた移植床の形成により、同部の軟組織の厚みは必然的に薄くなる。インプラント周囲には、天然歯と同様にsupracrestal tissue attachmentを維持するための軟組織の厚みが必要であるため、FGG後に十分な厚みの角化粘膜をインプラントショルダー部に獲得する方法として、Dr. Ottoは以下の方法を推奨している(図3)。部分層弁を用いた移植床を形成する際、Zoneごとに部分層の深さを調整している。Zone1:軟組織の厚みをインプラント周囲に保存するため表層で切開する。
Zone2:可動粘膜(弾性繊維)が移植床側に残らないように深い位置で形成する。
Zone3:移植片を根尖側で骨膜縫合するための軟組織の厚みを移植床側に保存する。
続いて口蓋からの移植片採取だが、口蓋に対し平行にメスを挿入することは不可能なため、まずは浅い切開を口蓋に加え、そこからメスを30°, 60°, 90°と徐々に寝かせながら角度を変えることによって、口蓋に対して平行にメスを挿入する方法をとっている(図4)。
さらに、移植片をインプラント頰側に位置付けした際、インプラントショルダー部の軟組織の厚みを十分に獲得するため、移植片の断面がコニカル形状となるよう移植片の歯冠側は厚く(2mm)、根尖側にすすめるに従い薄くなるように形成していく。最終的には移植片が動かないように受容床に縫合し固定する。
図3 Zone1~3に関する説明。移植床の粘膜の厚みを部位によって適切に変えている。
図4 移植片を採取する際のメスの挿入角度の設定(Dr. Otto直筆の絵)
症例概要
患者は71歳女性。#46, #47が欠損しており、義歯を使用していたが違和感が強く、食事がしにくいという主訴で来院された。十分なインフォームドコンセントをもとに、#46に対するインプラント治療を行った。
治療経過:欠損部に直径4.0mm、長さ9.5mmのインプラント(SPI,ELEMENT, RC, INICELL)を1回法にて埋入した。埋入トルクは30Ncmであり、十分な初期固定を得ることができた(図5~8)。
2か月の免荷期間の後、インプラント頰側の角化粘膜が不足していたためFGGを行った。断面がコニカル形状となるように移植片を口蓋から採取し、厚い部分を歯冠側に配置した。また移植片に対する血液供給を考慮し、移植床との間に死腔ができないよう移植片を緊密に縫合し固定した(図9~12)。
軟組織の治癒を待ち、インプラント頰側に十分な厚みと幅の角化粘膜を獲得できたことを確認し、最終補綴装置を装着した。現在、清掃性に問題はなく、良好に経過している(図13, 14)。
図5 術前から角化粘膜が不足している。
図6 インプラントを埋入するための骨量は十分であった。
図7 FGGを最初から予定していたため、頰側寄りの歯槽頂切開を行い、既存の角化粘膜をなるべく舌側に寄せている。
図8 適切な位置にインプラントを埋入し縫合した。
図9 軟組織は良好に治癒している。
図10 インプラント頰側は角化粘膜が不足している。
図11 移植床を形成し、口蓋から採取した角化粘膜を移植した。インプラント周囲の十分な軟組織の厚みと角化粘膜幅を獲得できている。
図12 治癒期間中に頰側の可動粘膜が歯冠側に移動してこないように、移植片の根尖側は骨膜としっかり縫合し、歯周パックで保護した。
図13 FGG2週間経過時点。移植片はきれいに生着し、角化粘膜がインプラント周囲に獲得されている。
図14 最終補綴装置装着後、清掃性は良好に保たれている。(#45治療中)
最後に
今回、Dr. Otto Zuhrのコースを通して、軟組織の扱いに対する非常に緻密で繊細な手技と、文献に裏付けされた術式の選択を知ることができ、大変有意義な海外研修となった。また全国から集まった多くの熱意ある先生方と知り合うことができたことは、大きな財産である。
この場をお借りして、このコースを実現してくださった(株)モリタとTHOMMEN Medical社の多大なる協力に深く感謝申し上げる。
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