132号 SPRING 目次を見る
目 次
はじめに
 近年、本邦においては他の先進国同様、高齢者人口の著しい増加が報告されている。歯科の分野においてはこの増加に伴い、高齢者のみならず歯周病、露出歯根面のう蝕、特に冷水による露出歯根面の知覚過敏などが頻繁に見られるようになっている。
							知覚過敏に関しては、適切な口腔清掃指導の後、第一義的には知覚過敏抑制剤を含有するような歯磨剤を指導し、第二義的には、よりアクティブにレジン系のコーティング材塗布を行う治療へと移行することとなる。
							以前より、レジンボンディング材開発の分野において、世界のパイオニアであるサンメディカル社により、このレジンボンディング材開発の技術を応用してシーリング・レジンコーティング材が開発され、モリタ社によって市販されてきたが、最近、さらに知覚過敏抑制効果を向上させたコーティング材が改良開発され、ハイブリッドコートⅡとして販売されることとなった。
							本クリニカルレポートでは、このハイブリッドコートⅡの諸性能と臨床応用について概説を試みる。
						
1. ハイブリッドコートⅡの構成と臨床使用手順
ハイブリッドコートⅡは、ワンボトルの液成分とキャタリストを含有するコートスポンジ、コートブラシよりなる。
							液成分には、機能性モノマーでジカルボン酸である4-META、ベースレジンであるBis-GMA、その他にモノメタクリル酸エステル、水、アセトン、および光重合触媒が含有されている。コートスポンジ、コートブラシには重合触媒である芳香族アミン、芳香族スルフィン酸塩が含ませてある。
							使用法としては、窩洞形成あるいは露出根面のブラシなどによる清掃の後、必要とあれば粘膜面にワセリンを塗布して保護する。
							清掃面を乾燥の後、液成分を1~3滴付属のV型ダッペンに採取し、コートスポンジ、あるいはコートブラシで1、2秒撹拌した後、そのスポンジ、ブラシでレジン液を歯面に塗布する。その際、歯面には比較的多めに塗布しなければならない。
							10~20秒間そのまま放置し、次いで、弱いエアーブローを5秒ほど行い、さらに強いエアーブローを5秒ほど行う。
							その後、通法に従って光照射を10秒行い硬化させる。
							ボンディング材として使用する際には、その後コンポジットレジンによる充塡へと移る。コーティング材として使用する際には、硬化したレジン表面を堅く絞ったアルコール綿球で拭い、未重合層を除去する。支台歯形成の際には、その使用法はコーティング材の使用に準じる。
2. ハイブリッドコートⅡの諸性能
ハイブリッドコートⅡの歯質に対する接着性能は、通常のレジンボンディング材に比べて比較的低く、リン酸エッチング処理を施したエナメル質に対して4MPa以上、無処理の象牙質に対して5MPa以上を示している。
							また象牙質の細管封鎖性は75%以上を示し、封鎖効果が高い。
							ハイブリッドコートⅡの歯質との接合界面の様相をFE-SEM観察した。
							新鮮抜去上顎第一大臼歯口蓋根の、明らかに口腔内に露出していたと思われる歯頸部近くの根面に塗布したハイブリッドコートⅡと歯質の接合界面にアルゴンイオンエッチングを施したものを図1に示す。
							中央がセメント質、その下が象牙質、セメント質のすぐ上の部分が硬化したハイブリッドコートⅡである。図2に、セメント質とハイブリッドコートⅡの界面の強拡大像を示す。
							セメント質最表層にはレジン-セメント質ハイブリッド層が約0.5μmの厚さで観察される。接合欠陥は全く認められず強固な接合状態がうかがえる。
							図3には、正常象牙質との接合界面を示す。
							下が象牙質、中央が硬化したハイブリッドコートⅡ、上部が硬化したサンメディカル社のファンタジスタコンポジットレジンである。
							図4に、界面の強拡大像を示す。
							象牙質最表層にはさらに薄いレジン-象牙質ハイブリッド層が見られ、強固な接合が見られる。
							図5には、う蝕象牙質第2層(CAD)と硬化したハイブリッドコートⅡとの接合界面を示す。
							やはり接合は強固で、その強拡大像を見てみると(図6)、象牙質最表層には薄いレジン-象牙質ハイブリッド層が見られる。
							図7に、リン酸処理を行っていないエナメル質との接合界面を示す。
							下がエナメル質、中央が硬化したハイブリッドコートⅡ、上が硬化したファンタジスタコンポジットレジンである。
							リン酸処理を行っていないにも拘らず、接合は強固で、図8の強拡大像に示されるようにエナメル質最表層はハイブリッドコートⅡに含まれる酸性の機能性モノマーにより微妙にエッチングされている。
							図9には、サンメディカル社のファンタジスタコンポジットレジン硬化物のSEM像を示す。
							5μm以下の細かいガラスフィラーと同社特有のTMPTフィラーが認められ、高密度にフィラーが充塡されていることが明らかとなった。
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 図1 ハイブリッドコートⅡの歯質との接合界面のSEM像(x400)。中央がセメント質、その下が象牙質、セメント質のすぐ上の部分が硬化したハイブリッドコートⅡ。
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 図2 セメント質とハイブリッドコートⅡの界面の強拡大像(x20,000)。セメント質最表層にはレジン−セメント質ハイブリッド層が約0.5μmの厚さで観察される。
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 図3 ハイブリッドコートⅡと正常象牙質との接合界面のSEM像(x5,000)。下が象牙質、中央が硬化したハイブリッドコートⅡ、上部が硬化したファンタジスタコンポジットレジン。
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 図4 ハイブリッドコートⅡと正常象牙質との接合界面の強拡大像(x20,000)。象牙質最表層にはさらに薄いレジン−象牙質ハイブリッド層が見られ、強固な接合が見られる。
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 図5 う蝕象牙質第2層(CAD)と硬化したハイブリッドコートⅡとの接合界面のSEM像(x5,000)。下が象牙質、中央が硬化したハイブリッドコートⅡ、上部が硬化したファンタジスタコンポジットレジン。
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 図6 う蝕象牙質第2層(CAD)と硬化したハイブリッドコートⅡとの接合界面の強拡大像(x20,000)。接合は強固で、象牙質最表層には薄いレジン−象牙質ハイブリッド層が見られる。
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 図7 リン酸処理を行っていないエナメル質と硬化したハイブリッドコートⅡとの接合界面のSEM像(x5,000)。下がエナメル質、中央が硬化したハイブリッドコートⅡ、上が硬化したファンタジスタコンポジットレジン。
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 図8 リン酸処理を行っていないエナメル質と硬化したハイブリッドコートⅡとの接合界面の強拡大像(x20,000)。接合は強固で、エナメル質最表層はハイブリッドコートⅡに含まれる酸性の機能性モノマーにより微妙にエッチングされている。
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 図9 サンメディカル社のファンタジスタコンポジットレジン硬化物のSEM像(x8,000)。5μm以下の細かいガラスフィラーと同社特有のTMPTフィラーが認められ、高密度にフィラーが充塡されている。
3. ハイブリッドコートⅡの臨床例
 図10~14に、露出根面の知覚過敏にハイブリッドコートⅡを応用した臨床例を示す。
							本症例は、上顎右小臼歯頰側部の露出根面の知覚過敏症に応用したところ、術後ただちに症状は消退した。
							図15~22に、コンポジットレジン修復のボンディング材としてハイブリッドコートⅡ、修復材としてファンタジスタコンポジットレジンを用いた臨床例を示す。
							本症例は、上顎右犬歯歯頸部の旧レジン修復の二次う蝕、および軽度の知覚過敏を示す小臼歯歯頸部クサビ状欠損の修復に応用したところ、術後ただちに症状は消退し、さらに審美的な修復が完成した。
						
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 図10 上顎右小臼歯頰側部の露出根面の知覚過敏症の術前。
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 図11 小さなブラシなどにより歯面清掃。
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 図12 コートブラシによるハイブリッドコートⅡの塗布。そのまま10~20秒放置し、エアーブロー。
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 図13 光照射。10秒以上行う。
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 図14 堅く絞ったアルコール綿球で硬化したハイブリッドコートⅡ表面を拭い、未重合層を除去。
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 図15 上顎右犬歯歯頸部の旧レジン修復の二次う蝕、および軽度の知覚過敏を示す小臼歯歯頸部クサビ状欠損の術前。
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 図16 窩洞完成。
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 図17 コートブラシによるハイブリッドコートⅡの塗布。
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 図18 コートスポンジによるハイブリッドコートⅡの塗布。そのまま10~20秒放置し、エアーブロー。
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 図19 光照射。10秒以上行う。
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 図20 ファンタジスタコンポジットレジンの塡入(A4)。
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 図21 光照射。20秒以上行う。
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 図22 通法に従って仕上げ研磨し完成する。
まとめ
 本クリニカルレポートに示すように、ハイブリッドコートⅡは極めて有効な知覚過敏抑制効果を示し、さらに、術前に知覚過敏を有するようなう蝕および実質欠損のコンポジットレジンによる修復に用いられた場合、術後の臨床的不快症状を有効に抑制することが明らかとなった。
							これらの事実は、SEM像などによって明らかなように、ハイブリッドコートⅡが有する緊密な歯質接着性能や、象牙細管封鎖性によるものと考えられ、ハイブリッドコートⅡが日々の臨床で多用され、国民の口腔健康の増進に役立つことを願って稿を閉じる。
						
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