121号 SUMMER 目次を見る
■目 次
■はじめに
近年のインプラント治療は受診者の願望の高まりから、機能性に加え、審美性も求められるようになってきた。
このような中でインプラント治療を成功させるための最も基本的な条件としては、インプラントが補綴的に適正な位置に埋入されているということがあげられる。そのためには、サージカルテンプレートを使用し埋入することが確実な方法である。具体的には、歯科医師からの診査、診断の情報をもとに歯科技工士が診断用WAX-UP(セットアップモデル)を行い、これをもとにインプラントの補綴的に適正な埋入位置をわりだし、サージカルテンプレートを製作する。
また診断用WAX-UPはこの他にも、最終修復物のゴール像として治療計画の立案や、受診者への説明用など重要な役割がある。
本稿はSPIシステムの技工の連載第1回目として、技工術式を中心にSPI(Swiss Precision Implant)システムを応用するための診断用WAX-UPとサージカルテンプレートの一般的な製作方法について図説を中心に紹介する。
■審美性を獲得するためのインプラント埋入位置の基本
審美的インプラント修復の達成には、歯肉歯頸線を含む歯肉形態が歯冠形態とともに歯列内で調和していることが条件となる(図1)。この条件を満たすためにはインプラントが必ず歯列内に埋入されていなければならない(図2、3)。また埋入方向は抜歯窩舌側骨壁に沿った方向とする(図4)。埋入深さは予測する唇側(頬側)歯頸線より約2mm根尖側に設定する(図5)。
図1 骨標本での天然歯列。インプラント修復の目標とするところであり、埋入位置設定の参考となる。-
図2 前歯部では両隣接歯の唇側歯頸部を結ぶ仮想ラインをガイドとしてその舌側にインプラントを埋入する。決してラインをオーバーして埋入してはならない。 -
図3 臼歯部においても同じく歯列内に位置させる。審美的インプラント修復のための条件として、すべての部位において埋入位置は歯列内でなければならない。 -
図4 中央が正しい埋入方向であり、抜歯窩舌側骨壁に沿った方向とし、唇側骨板には触れない方向とする。また上部構造製作においてはストレートアバットメントの使用が理想的となる。 -
図5 歯肉歯槽粘膜の厚さと生物学的幅径に加えてインプラントの鏡面研磨面の幅を考慮した位置に設定する。インプラント頂を予測する歯肉歯頸線より約2mm根尖側に設定する。
■診断用WAX-UPとサージカルテンプレートの基本製作法
全顎の診断用模型を咬合器に付着する。この時ボーンマッピングにより骨形態を印記したい場合は、先に分割復位式の診断用模型を製作してから咬合器付着する。
歯科医師から受診者の願望やパノラマX線写真など総合的な情報の提供をうけ、補綴的視点から最終修復物について歯科医師と相談する。これをもとに歯科技工士が診断用WAX-UPし、最終修復物のゴール像を決定する(図6、7)。
次に分割復位式にした診断用模型の診断用WAX-UP歯冠の近遠心的中央部を頬舌的に分割する(図8、9)。
歯科医師がボーンマッピングした数値をもとに模型断面に骨形態を描記する。そして診断用WAX-UPで決めた頬側歯頸線の位置を保つために必要なインプラント頬側縁上粘膜の高さと幅を、インプラント唇・頬側縁上粘膜の高さと幅の生物学的比率の概念(H:W=1:1.5)に基づき算出する(図10)。この数値と描記された骨形態及び診断用WAX-UPの歯軸方向を参考にしてインプラントの埋入位置、方向、深さを決定する(図11~14)。
決定した埋入位置の中心をサベーヤーで決めた埋入方向に、SPIシステムで最初に使用するベクトパイロットドリルφ2.0を使いドリリングする(図15、16)。サベーヤーとベクトパイロットドリルを使用し、ベクトパイロットドリル用ガイドスリーブを模型にWAXで固定する(図17)。分離材を塗布後、即重レジン(オーソクリスタル)のクリアーを築盛する(図18)。カーバイドバーで形態を整え、ペーパーコーンにワセリンをつけ研磨、完成する(図19~22)。
図6 全顎の診断用模型を制作し咬合器に付着する。-
図7 天然歯の近遠心的幅径などを参考に歯列、歯頸線が調和するように診断用WAX-UPする。これが最終修復物のゴール像となる。 -
図8 ボーンマッピングにより得られた骨形態を印記するため、欠損部の近遠心的中央で診断用模型を分割する。 -
図9 サージカルテンプレートを製作するため、サベーヤーにてアンダーカットを描記する。また診断用WAX-UPの歯頸線などWAX-UPで得られた情報を模型に書き込む。 -
図10 インプラント唇・頬側縁上粘膜(b-cを結んだラインより上部)の生物学的比率。高さと幅の比率の平均はおよそ1:1.5である(H:W=1:1.5)。埋入位置や上部構造のsubgingival contourの基準となる。
図11 ボーンマッピングした数値を基に骨形態を描記する。生物学的比率(H:W=1:1.5)になるように頬側歯頸線部直下の粘膜の高さと幅を計測し、インプラント頂部の位置を決める。この場合、歯頸線の位置と骨形態を考慮し幅3mm、高さ2mmとし埋入深さも2mmに設定した。-
図12 インプラント埋入方向の設定。サベーヤーを使用し矢状面での診断用WAX-UPの歯軸方向にあわせる。この時パノラマX線写真でオトガイ孔や下顎管の位置、隣接歯の歯根形態などの確認も忘れてはならない。 -
図13 次に前頭面での診断用WAX-UPの歯軸方向にあわせる。ある程度、骨形態も考慮にいれ方向決めする。 -
図14 設定した埋入位置、方向に測定杆を使用し中心線を引く。これを基に埋入予定のインプラント体サイズを書き入れ、位置・方向・深さを再度確認する。ここではφ3.5mm、長さ11 mmのエレメントインプラントを選択した。 -
図15 サージカルテンプレート製作に用いるベクトパイロットドリル用ガイドスリーブ(上)とベクトパイロットドリルφ2.0(下)。ベクトパイロットドリルは埋入手術の最初に使用され、その後に続くドリルのガイドとなる。
図16 埋入の中心点をベクトパイロットドリルで埋入方向にあわせドリリングする。ドリリングする深さはベクトパイロットドリルが安定する深さとする。-
図17 サベーヤーとベクトパイロットドリルを使用し、ベクトパイロットドリル用ガイドスリーブをWAX固定する。この時のブロックアウトはサージカルテンプレートの維持安定のためアンダーカットをほんの少し残すようにする。 -
図18 分離材を塗布し即重レジン(オーソクリスタル)のクリアーを築盛する。またプレートが大きくレジン量が多い場合は流し込みレジンを使用したほうが簡単である。 -
図19 カーバイドバーで形態を整え、ペーパーコーンにワセリンをつけ研磨する。 -
図20 完成したサージカルテンプレートの頬側面観。適合と維持安定性を確認する。 -
図21 同じく咬合面観。術中にサージカルテンプレートの適合確認をしやすくするため、咬頭の一部を窓開けした形状とする。 -
図22 サージカルテンプレートにベクトパイロットドリルを試適した状態。ガイドスリーブにより埋入位置と方向が誘導される。
■サージカルテンプレートを用いたX線診断
製作したサージカルテンプレートのインプラント埋入位置、方向が正しいかどうか確認するため、口腔内に装着しパノラマX線画像(図23)やCT画像を撮影する。撮影されたガイドスリーブを基準に正しい位置、方向かどうか周囲組織とのかねあいを含め診断する。変更したい場合はガイドスリーブを付け直す。このステップは埋入前の再確認となるため非常に重要である。
図23 サージカルテンプレートを装着した状態のパノラマX線画像。ガイドスリーブが正しい位置、方向にあるかどうか周囲組織とのかねあいを含め画像診断する。変更したい場合はガイドスリーブを付け直す。
■臨床の実際
臨床における診断用WAX-UPとサージカルテンプレートの製作法を以下の図24~35にて解説する。<次号に続く。なお参考文献については最後に一括して掲載する。
図24 初診時の側方面観。-
図25 咬合器に付着された術前の診断用模型。下顎大臼歯部に2本のインプラント埋入を計画。上顎大臼歯の挺出が認められる。
図26 歯科医師からの情報を基に診断用WAX-UPする。対合関係と骨幅からインプラント部位では近遠心径8mmの小さめの大臼歯形態とした。また咬合平面をなおすため、対合歯の修復も計画した。これをゴール像として治療計画が立てられる。-
図27 サージカルテンプレートの製作。流し込みレジンによるベースプレート製作のためパラフィンワックスを圧接する。 -
図28 製作したベースプレートのガイドスリーブ装着部分をくりぬきガイドスリーブが当たらないことを確認する。 -
図29 サベーヤーとベクトパイロットドリルを使用し、診断用WAX-UPで導き出された正確な埋入位置・方向にガイドスリーブを即重レジンにて固定する。 -
図30 口腔内に装着されたサージカルテンプレート。サージカルテンプレートをしっかり位置固定しベクトパイロットドリルをガイドスリーブに挿入しドリリングする。 -
図31 ドリリングされ粘膜上に印記された埋入位置。 -
図32 形成された埋入窩。埋入方向・深さが正しいかどうか必ずデプスゲージを使用しステップごとに確認しながら形成を進める。 -
図33 垂直的骨欠損があったためインプラントを埋入し骨補填材料を填入し、吸収性膜にて被覆した。補綴的に適正な位置に埋入するためにはGBR法などの各種オグメンテーションテクニックが必要となる。 -
図34 術後の頬側面観。歯列、歯頸線も調和し診断用WAX-UPのゴール像どおりの修復となった。 -
図35 術後のX線画像。診断用WAX-UPを基に製作されたサージカルテンプレートを使用することにより補綴的に適正な位置・方向に正確に埋入することができる。適正な埋入位置はインプラント修復を成功させるための原則である。
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