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124号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

SPIシステムの技工<4> -オーバーデンチャーの製作法-

鶴巻春三/榎本紘昭  

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■目 次

■はじめに

本稿ではSPIシステムの技工の連載第4回目(最終回)として、SPIシステムを応用したオーバーデンチャーの製作方法について図説を中心に紹介する。

■SPIシステムによるオーバーデンチャーの症例

SPIシステムではデンチャー修復用の既成パーツとしては、ボールアタッチメント、バー用アバットメント、ミリングアバットメントが用意されている(図1)。
ボールアタッチメントはボール状の部分(メール部)とデンチャーに取り付けられたマトリックス(フィメール部)との維持構造となっている。
バー用アバットメントは、この上にバー用ゴールドコーピングをねじ止めし、これにバーをろう着し連結する。このバーにデンチャーに取り付けられたCMライダースリーブがかぶさる維持構造となっている。
ミリングアバットメントは、コーヌスタイプやテレスコープタイプなど用途に応じた角度にミリングし、その上に外冠を製作し維持構造としている。
本症例では下顎にボールアタッチメント(φ4.5)とミリングアバットメント(φ3.5のインプラントにはボールアタッチメントがないため使用)を維持装置としたオーバーデンチャーを製作した(図239)。

なお、本稿末尾に連載1~4の参考文献を一括掲載した。

  • [写真]デンチャー修復用の補綴パーツ
    図1 デンチャー修復用の補綴パーツ。左からボールアタッチメント、バー用アバットメント、ミリングアバットメント。
  • [写真]初診時正面観
    図2 初診時正面観。上下顎とも顎提の吸収が著しいうえ、左右高さも不調和となっており義歯の安定をより難しいものとしている。また不安定な義歯使用による顎位の変位も疑われた。
  • [写真]サージカルテンプレートを使用し埋入されたインプラントのパノラマX線画像
    図3 サージカルテンプレートを使用し埋入されたインプラントのパノラマX線画像。骨整形し、左右高さを調整した後、近心にφ3.5のエレメントインプラントを2本、遠心にφ4.5のエレメントインプラントを2本、それぞれ埋入した。
  • [写真]下顎臼歯部をフラットテーブルにした治療用義歯を装着
    図4 下顎臼歯部をフラットテーブルにした治療用義歯を装着し、安定した顎位を模索する。
  • [写真]印象コーピングオープントレー用シリンダー型を装着し個人トレーにて印象採得する
    図5 印象コーピングオープントレー用シリンダー型を装着し個人トレーにて印象採得する。オープントレー用のため、個人トレーに印象コーピングオープントレー用のスクリューがあたる部分を削合し穴をあける。
  • [写真]口腔内からはずした印象
    図6 印象コーピングを印象内に取り込むため、個人トレーの穴から出たスクリューを専用ドライバーではずしてから印象を口腔内からはずす。
  • [写真]印象コーピングが取り込まれた下顎印象
    図7 印象コーピングが取り込まれた下顎印象。黄色がφ3.5用、青がφ4.5用となっている。
  • [写真]アナログを印象コーピングに装着し、瞬間接着材を使用しワイヤーで固定する。その後、印象面にワセリンを塗りシリコン系ガムモデル材(karr、ソフトティシュームーラージュ)を注入する
    図8 アナログを印象コーピングに装着し、瞬間接着材を使用しワイヤーで固定する。その後、印象面にワセリンを塗りシリコン系ガムモデル材(karr、ソフトティシュームーラージュ)を注入する。
  • [写真]石膏を注入し、でき上がった作業模型
    図9 石膏を注入し、でき上がった作業模型。口腔内のインプラントの位置が精密に再現されている。
  • [写真]咬合床を製作するため、口腔内に使用しているジンジバルフォーマーと同サイズのものを作業模型に装着する
    図10 咬合床を製作するため、口腔内に使用しているジンジバルフォーマーと同サイズのものを作業模型に装着する。
  • [写真]咬合採得の終わった状態の下顎咬合床
    図11 咬合採得の終わった状態の下顎咬合床。この後人工歯排列を行いシリコーンインデックスをとり、これを基準にオーバーデンチャーの維持装置となるアバットメントの選択をする。
  • [写真]ボールアタッチメントの各種パーツと専用ドライバー
    図12 ボールアタッチメントの各種パーツと専用ドライバー。ボールアタッチメントは高さにロングとショートの二種類がある。本症例では歯肉の高さからロングを選択し、両側遠心のインプラントに使用することとした。
  • [写真]ミリングアバットメントとアバットメントスクリュー
    図13 ミリングアバットメントとアバットメントスクリュー。φ3.5のインプラントにはボールアタッチメントが用意されていないため、両側近心のφ3.5のインプラントにはミリングアバットメントを選択した。
  • [写真]選択したミリングアバットメントとボールアタッチメントを作業模型に装着した状態
    図14 選択したミリングアバットメントとボールアタッチメントを作業模型に装着した状態。左右の高さの不調和が顕著である。
  • [写真]左右高さのバランスを考え、左ミリングアバットメントの高さを多めに削合
    図15 左右高さのバランスを考え、左ミリングアバットメントの高さを多めに削合した。サベーヤーを使用しミリングによるアバットメント形態やインプラントの長軸方向などを計測し義歯の着脱方向を決定する。
  • [写真]ミリングマシーンにて軸面を6°にミリングする。歯肉縁ぎりぎりまでミリングする
    図16 ミリングマシーンにて軸面を6°にミリングする。歯肉縁ぎりぎりまでミリングする。
  • [写真]ポリッシャーWAXで仕上げミリングし完成した状態
    図17 ポリッシャーWAXで仕上げミリングし完成した状態。
  • [写真]咬合面観
    図18 咬合面観。ミリングアバットメントの舌側にはレジンキャップを同じ位置に戻すためのきざみが付与されている。
  • [写真]ミリングアバットメントのスクリューホールをWAXでブロックアウトし、パターンレジンにて印象用のレジンキャップを製作する
    図19 ミリングアバットメントのスクリューホールをWAXでブロックアウトし、パターンレジンにて印象用のレジンキャップを製作する。レジンキャップを戻しやすいように唇側や近心の位置をマジックでマークする。
  • [写真]口腔内に装着し、最終的な義歯印象を行う
    図20 口腔内に装着し、最終的な義歯印象を行う。レジンキャップは印象の圧力で浮き上がらないように適度な維持力を持たせておく。
  • [写真]採得された義歯印象
    図21 採得された義歯印象。レジンキャップがピックアップされているが、この時内面に印象材が入っていないことを確認する。ボールアタッチメントのボールの下部分に気泡が入らないように注意する。
  • [写真]義歯印象に戻すミリングアバットメントとボールアタッチメント用アナログ
    図22 義歯印象に戻すミリングアバットメントとボールアタッチメント用アナログ。
  • [写真]印象に戻し、ワイヤーで固定する
    図23 印象に戻し、ワイヤーで固定する。ミリングアバットメントの歯肉縁下部分はアナログとの接合部までWAXで薄くコーティングし、石膏模型からはずしやすい状態にしておく。
  • [写真]石膏を注入しでき上がった義歯製作用の作業模型
    図24 石膏を注入しでき上がった義歯製作用の作業模型。下顎作業模型が新しくなったので下顎のみ咬合床を製作する。
  • [写真]咬合採得し咬合器にマウントする
    図25 咬合採得し咬合器にマウントする。
  • [写真]下顎咬合床をはずした状態
    図26 下顎咬合床をはずした状態。人工歯排列によりインプラント部の設計を行ったのでクリアランスは十分確保されている。
  • [写真]ミリングアバットメント上に外冠を製作するため、パターンレジンにてレジンキャップを製作する
    図27 ミリングアバットメント上に外冠を製作するため、パターンレジンにてレジンキャップを製作する。この場合維持力を最小限とするため、パターンレジン築盛後は応力緩和の時間を十分にとることが必要である。
  • [写真]鋳造後、維持力調整する
    図28 鋳造後、維持力調整する。本症例ではボールアタッチメントの維持力を期待できるので、ミリングアバットメント部は支持、把持をメインとし維持力は50~100gと小さなものとした。
  • [写真]完成した外冠
    図29 完成した外冠。最終的に完成義歯に重合固定するときはカッティングジスク等でアンダーカットを付与し、サンドブラスト処理した後アロイプライマーを塗布し、重合固定する。
  • [写真]人工歯を排列し口腔内試適を行う
    図30 人工歯を排列し口腔内試適を行う。試適後、義歯の破折防止のためインプラント維持装置部を囲むようにスケルトンタイプのメタルフレームを製作し補強装置とする。
  • [写真]重合を終了し、割り出した状態
    図31 重合を終了し、割り出した状態。本症例ではデンチャーステイン(デンチャーカラーリングセット、ニッシン)を施し、流し込みレジンを注入法にて重合した。
  • [写真]研磨し完成した義歯の内面
    図32 研磨し完成した義歯の内面。本症例ではミリングアバットメントの外冠は2つ共、重合と一緒に固定した。精度の問題からボールアタッチメントのフィメールは口腔内で直接法にて固定する。
  • [写真]咬合面観
    図33 咬合面観。5番舌側のボールアタッチメント部の直上に穴をあけ、フィメールを固定する即重レジンの頓路とする。
  • [写真]オーバーデンチャーの維持装置となる補綴パーツの構成
    図34 オーバーデンチャーの維持装置となる補綴パーツの構成。ボールアタッチメントの上の黒いゴムリングがフィメールの位置決めの役割をする。その上のピンク色がフィメール(ボナ604・アタッチメントフィメール)。
  • [写真]口腔内に装着した状態
    図35 口腔内に装着した状態。黒いゴムリングによりフィメールが位置固定されている。この状態でフィメールを即重レジンで義歯に固定するが、即重レジンを多量に盛りすぎるとアンダーカットに入るので注意する。
  • [写真]固定されたボールアタッチメントのフィメール
    図36 固定されたボールアタッチメントのフィメール。即重レジンで固定後、ピンク色のスペーサーを取り外しフィメールの回りにスペースを作る。
  • [写真]ボールアタッチメントのフィメールの維持力を調整するための調節器(ボナ)
    図37 ボールアタッチメントのフィメールの維持力を調整するための調節器(ボナ)。左が緩めるためのディアクチベーター、右が強めるためのアクチベーター。共にハンドルを握り先端を押し込むように使用する。
  • [写真]義歯を外した状態の下顎唇面観
    図38 義歯を外した状態の下顎唇面観。左右ともに近心にミリングアバットメント、遠心にボールアタッチメントが装着されている。また正しい位置にインプラントが埋入されていることが見てとれる。
  • [写真]オーバーデンチャーを装着した状態
    図39 オーバーデンチャーを装着した状態。下顎をインプラント支台のオーバーデンチャーとしたことにより、義歯が動かず、安定した咬合が得られ顎位も安定する。
参考文献
  • 1) 榎本紘昭:究極のインプラント審美. 長期症例から学ぶ臨床テクニック. 東京. クインテッセンス, 2007.
  • 2) Nozawa T, Enomoto H, Tsurumaki S, Ito K:Biologic height-width ratio of the buccal supra-implant mucosa. Eur J Esthet Dent 2006 ; 1 : 208-214.
  • 3) 野澤 健、鶴巻春三:生物学的比率の概念に基づくインプラント審美修復. dental Magazine, No119, モリタ, 2007 : 48-65.
  • 4) Stein,R.S., Kuwata,M.:A dentist and dental technologist analyze current ceramo-metal procedures. Dent. Clin. North Am 1977 ; 21 : 729-749.
  • 5) 鶴巻春三、榎本紘昭:SPIシステムの技工:エステニアC&Bの上部構造への応用. dental Magazine, No115, モリタ, 2005 : 54-59.
  • 6) 鶴巻春三:軟組織に為害性を及ぼさないハイブリッドセラミックスの研磨法. QDT, 2006 : 31(4): 69-80.
  • 7) SPIシステムマニュアル. トーメンメディカル, アスパックコーポレーション, モリタ.
  • 8) エステニアC&B インプラントスーパーストラクチャー[ 前装鋳造冠及び前装鋳造ブリッジ] テクニカルインフォメーション. クラレメディカル, モリタ.

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