124号 SPRING 目次を見る
■目 次
■はじめに
硬質レジンジャケット冠の保険での位置づけ
硬質レジンジャケット冠は前装冠の保険導入により前歯単冠ではほとんど使われなくなった。しかしながら小臼歯には前裝冠が使用できないため、患者の審美的要求に応えるためには硬質レジンジャケット冠を用いるしかない。
ここで問題になるのは耐久性である。現行の保険制度では最低2年間は保たなければいけないが、非常に短期で破折する場合も少なくない。最悪の場合は試適時や咬合調整時に破折してしまう。保険での適応範囲はやや不明瞭であり「咬合応力に耐えうると思われる場合」となっているが、小臼歯部は咬合応力が小さい時もあり大きい場合もあるため、応用に際しては判断が難しいのが現実である。
硬質レジンジャケット冠がなぜ割れやすいかと言うと、硬質レジン自体の材質が脆いことによる。故にメタルクラウンと組み合わせることにより初めて強いクラウンとなり得るのである。しかし小臼歯に前装冠が使えない限り、保険療養範囲内で患者の審美的要求を満たす為には硬質レジンジャケット冠を用いざるを得ない。
硬質レジンジャケット冠は装着するまでは脆いままである。この割れやすいものを装着したからと言って不安がなくなったわけではない。
これらの問題点を改善するものとして、この度メタカラープライムアート(サンメディカル社)が発売された。このシステムの中には硬質レジンジャケット冠専用のファイバー強化型コンポジットレジン、ジャケットオペークが組み込まれている。
筆者はアラバマ大学在籍時にこの材料を試作品の段階から基礎実験、臨床試験で評価する機会を得たが、ここでは臨床での形成から装着までの手順を紹介し、注意事項を解説したい。
図1 メタカラープライムアート
術前
図2 正面観:上顎前歯にはメタルボンドが装着されているが、小臼歯の金属色が目立っている。-
図3 4に4/5冠、5にフルクラウンが装着されており、審美性が悪い。両歯ともジャケット冠の対象となる。
除去
図4 切り込み:通法に則り、まず金属冠に切り込みを入れ除去する。-
図5 除去後の状態:4はコンポジットレジンによる支台築造、5にはメタルコアが装着されていた。
支台歯形成
図6 推奨される支台歯形成のイラストを示した。-
図7 軸面:ジャケット冠が所定の厚みを取れるように軸面を形成する。マージンを深くすれば審美性は良くなるが、歯周組織の健康を維持することを重視し、極く僅かに縁下に設置した。マージン部の形態はディープシャンファーにした。 -
図8 クリアランスのチェック:咬合面を削除し、対合歯とのクリアランスを確保する。メタルクラウンとの大きな違いは確実なクリアランスの確保にある。筆者はバーニッシャー(American Dental社)が全面で通過することを目安としている。確認後に隅角部の面取りを行う。 -
図9 隣在歯の研磨:隣在歯の隣接面を削ることは好ましくないが、バーが触れて傷がついた場合は印象前に必ず研磨を行う必要がある。ここではコンポジットレジン研磨用ポイント(PoGo, Dentsply)を用いた。
印象
図10 歯肉圧排:印象に先立ち歯肉圧排を行う。歯周ポケットの深い場合、割愛することもあるが、この症例の場合、歯周組織は健康であり、圧排自体も容易ではない。-
図11 印象面:印象は寒天/アルジネート連合印象で行ったが、ジリコン印象でも構わない。形成限界の印象ができている。
テンポラリークラウン装着時
図12 最終補綴物がレジンジャケット冠でもテンポラリークラウンを装着しないわけにはいかない。仮着に際しては最終装着時の接着の妨げにならないように非ユージノール系のものを使用する。
完成ジャケット冠
図13 頬側観:ジャケットオペークと硬質レジンの色のなじみも良く審美性が非常に高いことが認められる。-
図14 咬合面観:満足のいく審美性が得られている。
試適
図15 テンポラリークラウンを除去し、形成面の溝に付着した仮封材はオレンジソルベント等で溶解除去し、試適を行う。-
図16 スプーンエキスカベーターによる除去。ジャケットオペークを用いていてもマージン部は硬質レジンのみであるから不用意にスプーンエキスカベーターでこじるとチッピングを起こす可能性があるので十分注意していただきたい。
試適後のコンポジットレジン修復
図17 隣在歯のコンポジットレジン充填を修復しなおす。形成は必要最低限の抑えることが重要である。-
図18 充填にはハイブリッドボンドとメタフィルFloを用いた。最終研磨はPoGo(Dentaply)で行った。
咬合調
図19 ジャケットオペークを用いていても接着前に強く噛めば絶対に割れないとは言えない。咬合調整時にはまず最初に軽く閉じてもらい早期接触を発見し、それから通常の咬合調整に移る。-
図20 わずかではあるが調整が必要な部分が認められるのでカーボランダムポイントで削合する。
研磨
図21 プライムアートはマイクロフィルコンポジットレジンなので研磨は非常に容易である。まずシリコンポイントで研磨を行う。-
図22 鹿革ホイールを用いて最終研磨を行う。
装着
図23 今回の装着時には、ジャケット冠の内面処理材としてポーセレンライナーMを用いた。-
図24 接着性セメントとしてスーパーボンドC&Bを用いた。 -
図25 装着にあたっては接着性レジンセメントを用いて支台歯との一体化を図る。まずクラウン内面にポーセレンライナーMを塗布し、セメント(スーパーボンドC&B)との確実な接着を図る。 -
図26 歯面処理:クエン酸を含むグリーン液でエッチングし、水洗する。 -
図27 歯面にアクチベートされたモノマーを塗布する。これによりモノマーが歯質に浸透し、さらにセメントの濡れを良くする。 -
図28 混和したスーパーボンドC&Bをクラウン内に流し込む。粘度が上がらないように速やかに作業を進める。 -
図29 クラウンを一気に圧接し、スーパーボンドが全周から溢出するのを確認する。 -
図30 モノマーで濡らした探針で余剰部を切り取っていく。 -
図31 デンタルフロスを通し、歯間部に残ったセメントを確実に除去する。
装着後
図32 咬合面観:審美性が非常に高いことが認められる。-
図33 頬面観:金属冠からジャケット冠に替わったことにより患者の表情も非常に明るくなり、十分な満足を得られた。
■臨床ケース
今回供覧した症例以外にも多数症例があるが、アラバマ大学在籍時に臨床試験したもので数年経過しているものがあるので紹介したい。図29、30の両ケースとも根管治療後に最終補綴がされないまま経過していたものである(アメリカでは治療費が高いため、患者がその後の修復処置を受けないことが少なくない)が、どちらも審美性が高く、また機能上とても満足が得られた。
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図34 根管治療の終了した上顎第二小臼歯に装着したケース。 -
図35 根管治療の終了した下顎第二小臼歯に装着したケース。
■おわりに
どんな材料でも同じであるが、材料を上手く使いこなすためには確かな知識と技術が必要となる。今回紹介した新しい硬質レジンジャケットクラウンシステムでも、ただ割れにくい、ということだけに頼るのではなく、支台歯形成、印象、仮封、接着といった一連の臨床術式を確実に遂行する必要があることは言うまでもない。
特に支台歯形成においては金属冠と同じつもりで行えば対合歯とのクリアランスが不十分になる可能性もあり、失敗につながるであろう。小臼歯に応用した場合には前装冠と違って非常に審美性が高いが、咬合面の摩耗が懸念される。耐摩耗性に関しては数十年保つ保証はできないが、アラバマ大学での臨床研究の結果を参考にすれば現在の保険制度に規定された2年間は十分に保つことは確証されている。
装着時には確実な接着が得られるようにしないと短期間で不都合が生じるであろうし、セメントの除去を確実に行わなければ審美修復ができた喜びどころか患者の歯周炎を心配しなくてはならなくなる。最善を尽くし、この材料を活かしていただきたい。
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