127号 WINTER 目次を見る
■目 次
- ≫ 医歯連携による全人医療をめざす松本歯科大学病院がリニューアル。
- ≫ 「歯科薬理学講座」に王宝禮教授が着任。
- ≫ 検査・診断・投薬で治療する『口腔内科学』を実践。
- ≫ 薬理学を臨床に生かし、歯科医学の未来を切り拓く。
歯科薬理学講座
附属病院口腔内科 教授王 宝禮
口腔をひとつの臓器としてとらえ、検査・診断・投薬で治療する、口腔疾患に対する内科的治療学『口腔内科学』が歯科医学の新領域として注目されている。提唱・実践されているのは、松本歯科大学・王宝禮(おうほうれい)教授。西洋医学と東洋医学の融合をめざした、『口腔内科学』の発展に努められているプロジェクトの最前線を取材した。
■医歯連携による全人医療をめざす松本歯科大学病院がリニューアル。
長野県のほぼ中央、塩尻市に、松本歯科大学の開学とともに、松本歯科大学病院が長野県唯一の歯科大学病院として発足したのは、1972年6月。以来36年、「人にやさしくあれ」を理念に掲げながら、歯科医療全般にわたって、地域住民の口腔健康の向上に貢献しつつ、研究・教育・臨床研修の場としても、多大な役割を担ってきた。
今年4月15日、医科・歯科の連携や多面的な全人医療をめざす、地上4階・地下1階・約15,000㎡、総ガラス張りの病院に生まれ変わった。診療科は、歯科診療部、医科診療部、特別専門外来(歯科専門外来/医歯連携外来)の3診療部に統合。歯科医師225名、歯科衛生士・看護師107名、診療台108台、病床数31床を有する、先進の総合専門病院だ。
■「歯科薬理学講座」に王宝禮教授が着任。
「歯科薬理学講座」の二代目教授として王宝禮教授が大阪歯科大学より着任されることになったのは2002年4月。
王教授は、北海道大学歯学部附属病院で予防歯科学講座助手として臨床に携わり、アメリカ・フロリダ大学歯学部口腔生物学講座研究員として研鑽を積まれた。帰国後、大阪歯科大学薬理学講座で講師・助教授を歴任、これまで西洋医学的と東洋医学的治療法を専門に研究、教育、臨床を重ねられてきた。
「薬理学は、未知の生命現象を解明する生命科学であり、疾病の治癒・予防・診断に活かす健康科学でもあるのです。つまり、薬理学を学び、研究することが医学を知り、人を知ることにつながります」。
これまでの歯科医療は歴史的な背景から、保存や補綴など外科的な治療が主体で、歯学部教育は将来的には、内科的に検査、診断、薬物療法で口腔疾患に対応する教育の構築が、これからの課題である。また実際、臨床薬理学は医科に比べて層が薄いことは否めない。このような薬理学がおかれた現状から、歯科医療に新境地を見出したい。そんな情熱が王教授の『口腔内科学』の着想につながっていく。
現在、大学の講義および実習では、第2学年に薬理学を、第3学年に歯科薬理学・薬理学実習を履修し、遺伝子診断学、漢方医学、禁煙治療学を導入している。第4~6学年には、基礎と臨床を融合した臨床薬理学の教育に取り組んでいる。
また毎回の講義後に、講義・実習に対するアンケート調査や結果分析を行い、学生の声や要望に応えつつ、最新のトピックスや研究成果の講義も積極的に行うなど、薬理学を学び、実践する教育環境が充実・整備されている。
■検査・診断・投薬で治療する『口腔内科学』を実践。
「歯科薬理学講座」の教育・研究・臨床活動の原点は、王教授が提唱されている『口腔内科学』。『口腔内科学』とは、口腔をひとつの臓器としてとらえ、口腔疾患に対して、検査・診断・投薬によって治療を行う、外科的処置を伴わない内科的治療学の体系。講座では、スタッフがそれぞれ大きなテーマを与えられ、互いに協力し合って医学研究に取り組んでいる。
研究テーマは、「歯周病関連細菌バイオフィルムに対するマクロライド系抗菌薬の展開研究」「口腔疾患に対する漢方薬療法の開発」「口腔疾患に対する遺伝子診断」「唾液タンパク質の分泌機能解析」「歯周病の病態メカニズムの解明」「喫煙による口腔疾患の発症メカニズムの解明」「口腔乾燥症、歯肉増殖症の発症メカニズムの解明」「サプリメントの開発」と多岐にわたる。
「講座では、『臨学一体・産学連携』をめざして、研究・教育・臨床の3本のプロジェクトにメインスタッフと大学院生合わせて25人が、熱く楽しく地道に取り組んでいます。基礎研究は教育や臨床に還元してこそ生きてくる世界ですから」。
大学、大学院、歯科衛生士学科、看護学科の講義、学内の会議、全スタッフの研究データ検討会、連載誌の執筆、そして国内外の講演会や学会など飛び回る、日々多忙な王教授だ。
■薬理学を臨床に生かし、歯科医学の未来を切り拓く。
新病院の開院と同時に、王教授は、特別専門外来(医歯連携外来)に『口腔内科(歯科漢方)』を新設された。
「『口腔内科』は、従来の西洋医学治療に加えて、個々の患者さんの体質や特長を重視し、身体全体の調和を図るために、通常の歯科治療では治りにくい口腔乾燥症、口臭、舌痛症、味覚障害、口内炎、抜歯後疼痛、歯周疾患などの症状に対して、“証”を決定し、漢方薬を処方しています」。
“証”とは、身体の状況を自覚症状や他覚的所見、体格や性格などの特長を総合的に判断して得られる漢方医学独自の見立てだ。この“証”に基づいて、漢方薬が処方される。王教授は内科医の父から学んだ漢方医学を口腔疾患に実践する。
「『口腔内科』で実績を積み、国民の健康増進に寄与したい。『臨学一体』に軸足をおき、内科、口腔外科、歯周病科とチームを組みながら、西洋医学と東洋医学の薬物療法を融合した、最適・最善の歯科医療を実現したいですね」。
一方、どのような治療法も国民皆保険制度の枠内で行うのが原則、それが王教授の考えである。
「患者さんにとって有効な薬剤が数多くあるにもかかわらず、その中のいくつかの薬剤が国民健康保険適用外のために、投薬に限界があります。『口腔内科』的治療に社会保険を適用していかなければ、歯科医療の質の向上は望めません」。それゆえ王教授は、国民や学会に薬剤の保険導入を精力的に訴えている。
歯科医師が『口腔内科学』を科学的に理解して、検査や薬剤の有用性を明らかにし、臨床応用することが、今後ますます求められる時代になってきた。
吹き抜けのエントランスホールは、ゆとりと寛ぎに満たされている。
基礎・臨床薬理学研究室のメインスタッフの皆さん。左から、藤井恵子秘書、服部敏己准教授、今村泰弘講師、藤波義明助手、王宝禮教授、荒敏昭助教。
附属病院では、口腔内科と禁煙外来を中心に、藤垣佳久先生と王教授が担当。
地上4階・地下1階、約15,000㎡の院内には、診療台108台、病床31床が完備。歯科医師225名、歯科衛生士、看護師107名が診療に当っている。
各階の診療ゾーンは、患者さんの快適性、スタッフの利便性を重視し、デザイン、機能、行動動線などを配慮して設計されている。
1階受付カウンターの横に掲げられたインフォメーション・パネル。
目 次
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