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192号 SPRING 目次を見る

Clinical Report

「i-TFC®システム」を用いた支台築造方法の選択~直接法と間接法~

笠原デンタルオフィス 副院長 笠原 明人

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キーワード:ファイバーコア/直接法による支台築造/間接法による支台築造

目 次

はじめに

当院では開業当初より様々な支台築造材料や方法を試してきたが、ファイバーポスト併用レジン支台築造(以降:ファイバーコア)を行った症例において、最終補綴物ごとファイバーコアが脱離する、ファイバーコアが水平的に破折するといった症例を立て続けに経験したことがある。
筆者の手技による問題もあるかも知れないが、支台築造用レジンやボンディング材への光の到達不足による重合不良、支台築造用レジンとファイバーポストの接着・嵌合不足、ファイバーコア自体の強度不足など、複数の原因が考えられた。
上記の問題点は手技だけでなく材料の性能も活用することで解決できると考え、サンメディカル株式会社から発売されている「i-TFCシステム」を採用したところ、それ以降は脱離や破折を経験していない。
今回は「i-TFCシステム」の特長や性能を示したうえで、2021年にリニューアルした「直接法ポストレジン」が入った「i-TFCシステム 直接法セット」(図1)と「間接法ポストレジン」が入った「i-TFCシステム 間接法セット」(図2)を用いて当院で行った支台築造症例を供覧する。

  • [写真] i-TFC®システム 直接法セット
    図1 i-TFC®システム 直接法セット
  • [写真] i-TFC®システム 間接法セット
    図2 i-TFC®システム 間接法セット

「i-TFC®システム」の特長と性能

以下に「i-TFCシステム」の基本的な特長を示す。
①「光ファイバーポスト」は内部の光ファイバーがポスト底部まで光を通すことで、根管深部のレジンを重合できる1)。また、編込み構造になっているため、その凹凸にレジンが浸透することで高い機械的嵌合力を発揮する。
②ファイバーポスト専用プライマー「ファイバーポストプライマー」を使用することで、ファイバーポストと専用レジンの接着強さをさらに向上させることが可能である2)
③補強用グラスファイバーである「スリーブ」や「アクセサリーファイバー」を併用することで、築造体の機械的強度を補える3)
④ポスト部とコア部にそれぞれ専用の光重合型レジンを採用することで操作性と物性の最適化を図っている。
以下に2021年にリニューアルした製品の特長を示す。
⑤使用方法に合わせてポスト部に使用するレジンの特性を変えている。
1.「直接法ポストレジン」:重合収縮率が低いため、C-ファクターの大きい根管内でもコントラクションギャップが生じにくく、窩壁との適合性が高い(表1)。また、光硬化深度が高いため、根管深部までしっかりと光重合し硬化する。
2.「間接法ポストレジン」:適度な重合収縮率で、間接法の際に離型が容易である。また、「直接法ポストレジン」と同様に光硬化深度が高く、石膏模型上でしっかりと光重合し硬化する。
⑥「i-TFCボンドⅡ」は、「ボンド」には拡散促進モノマー「4-META」、専用の「ボンドブラシ」には親水性アミノ酸系重合開始剤が配合されており、湿潤した根管象牙質においてもモノマーの拡散浸透と重合が促進され、根管象牙質への高い接着性を示す4)、1液性のデュアルキュア型ボンディング材である。

  • [表] 各ポストレジンの重合収縮率
    表1 各ポストレジンの重合収縮率
    (ISO17304準拠、サンメディカル(株)提供)

症例1.直接法による支台築造

56歳の女性、紹介により来院。デンタルX線写真(図3)とCBCT(図4)にてに根尖病変を認めたため、感染根管治療後に支台築造までを当院で行い、紹介元にて最終補綴処置を行っていただくこととなった。遠方からの来院ということもあり、来院回数を減らすためにも直接法で行うことを説明し同意を得た。
直接法は、その日のうちに築造と形成が完了する、窩洞にアンダーカットがあってもよいといった利点があるが、もう一方で、チェアタイムが長い、レジンの重合収縮が大きい、口腔内での築造操作が難しいという問題点5)もある。だが、「i-TFCシステム」の「直接法ポストレジン」を使用することでレジンの重合収縮を低減でき、「コアレジンフロー」を用いることで操作性を解決することができるため、自信をもって直接法で行うことができるようになっている。
根管治療後の経過は問題なく、支台築造へと移行した。まず、ラバーダム防湿を行った上で築造窩洞を清掃する(図5)。マイクロスコープ下にて側壁に残った根管充填材を残さないように確実に除去する。なお、ラバーダムと支台歯の隙間はフロアブルレジンで封鎖することで防湿を徹底している。
その後、ファイバーポストの配置をシミュレーションしながら試適する(図6)。外周にファイバーを配置させることでファイバーコア自体の強度を向上させ、根管内のポストレジンの体積を可及的に減らして重合収縮を抑える目的で、根管のサイズを考慮したファイバーアレンジメントを行う。
また、ファイバーコアの水平破折への抵抗性も考慮して、ファイバーポストの先端は骨縁下に到達する長さに調整している。
マイクロスコープのフィルターをオレンジフィルターに切り替え、「i-TFCボンドⅡ」の「ボンド」を「ボンドブラシ」で攪拌・混合した後、築造窩洞に混合液を塗布し(図7)、エアーブローする。「i-TFCボンドⅡ」を用いる場合、この時点での光照射は不要である。
次いで「直接法ポストレジン」を填入し(図8)、「ファイバーポストプライマー」に浸漬した「光ファイバーポスト」をシミュレーション通りに挿入し(図9)、光照射する。
その後、ファイバーポストと歯質の隙間やコア部には「コアレジンフロー」を築盛し(図10)、光照射にて最終重合後(図11)に支台歯形成まで行った(図12, 13)。

  • [写真] 術前 デンタルX線写真
    図3 術前。デンタルX線写真
  • [写真] CBCT像
    図4 CBCT像。に根尖病変を認める。
    (モリタ社製 Veraviewepocs 3Dにて撮影)
  • [写真] ラバーダムを装着し、徹底的に窩洞を清掃する
    図5 ラバーダムを装着し、徹底的に窩洞を清掃する。
  • [写真] ファイバーポストの試適
    図6 ファイバーポストの試適。本数と配置を決定する。
  • [写真] ボンディング処理を行う
    図7 ボンディング処理を行う。「i-TFCボンドⅡ」は光照射不要。
  • [写真] 「直接法ポストレジン」の填入
    図8 「直接法ポストレジン」の填入。
  • [写真] 「ファイバーポストプライマー」に浸漬した「光ファイバーポスト」を試適通りに挿入する
    図9 「ファイバーポストプライマー」に浸漬した「光ファイバーポスト」を試適通りに挿入する。
  • [写真] 「コアレジンフロー」の填入
    図10 「コアレジンフロー」の填入。
  • [写真] 光照射する
    図11 光照射する。
  • [写真] 支台歯形成を行う
    図12 硬化後、支台歯形成を行う。
  • [写真] 術後 デンタルX線写真
    図13 術後。デンタルX線写真

症例2.間接法による支台築造

37歳女性。術前デンタルX線写真(図14)にての根尖病変を認めたため、再根管治療後に支台築造を行い、最終補綴まで行うこととなった。
間接法では、重合収縮の影響を小さくできる、適正な支台歯形態を付与できる、といった利点がある一方で、来院回数が1回増える、仮着材の影響や仮封期間中に窩洞が汚染されるリスクなどの欠点がある5)
本患者は普段から当院に通っているため時間的余裕があり、部位が下顎大臼歯で窩洞が大型であることからレジンの重合収縮の影響を小さくできる利点を生かして間接法で支台築造を行うことにした。
根管充填後(図15)、印象採得し石膏模型を作製した(図16)。模型上でファイバーポストの配置や本数を確認した(図17)。
その後、間接法にてファイバーコアを作製した(図18)。ファイバーコアにはノブを設置しておくとその後の作業がしやすい。離型後、ポスト部にはアンダーカットがないようトリミングする。
接着操作前にラバーダム防湿を行った上で築造窩洞を清掃する(図19)。ファイバーコアの試適後、「ティースプライマー」で歯面処理を行う(図20)。また、ファイバーコアには「M&Cプライマー」を用いてシランカップリング処理を行う。その後、混和した「スーパーボンド(混和ラジオペーク)」(図21)を「スーパーボンド マイクロシリンジ」で吸引し(図22)、窩洞内に移送する。「スーパーボンド マイクロシリンジ」を使用できるポリマー粉末は種類が限られているため注意が必要である。
また、死腔ができないように混和泥が全周から溢れる程度の量を填入する(図23)。硬化後、支台歯形成を行う(図24, 25)。術後のデンタルX線写真(図26)の通り、死腔なくファイバーポストでの支台築造が完了した。

  • [写真] 初診時 デンタルX線写真
    図14 初診時。デンタルX線写真
  • [写真] 根管充填後
    図15 根管充填後
  • [写真] 石膏模型作製
    図16 石膏模型作製
  • [写真] 模型上で試適する
    図17 模型上で試適する。
  • [写真] 間接法にて作製したファイバーコア
    図18 間接法にて作製したファイバーコア。ノブを付けておく。
  • [写真] ラバーダムを装着し、徹底的に窩洞を清掃する
    図19 ラバーダムを装着し、徹底的に窩洞を清掃する。
  • [写真] 「ティースプライマー」にて歯面処理を行う
    図20 「ティースプライマー」にて歯面処理を行う。
  • [写真] 「スーパーボンド(混和ラジオペーク)」を混和する
    図21 「スーパーボンド(混和ラジオペーク)」を混和する。
  • [写真] 専用の「スーパーボンド® マイクロシリンジ」で吸引して混和泥を移送する
    図22 専用の「スーパーボンド® マイクロシリンジ」で吸引して混和泥を移送する。
  • [写真] セットした際に全周から溢れる程度の量を填入する
    図23 セットした際に全周から溢れる程度の量を填入する。
  • [写真] 術後 隣接面観
    図24 術後。隣接面観
  • [写真] 術後 咬合面観
    図25 術後。咬合面観
  • [写真] 術後 デンタルX線写真
    図26 術後。デンタルX線写真

おわりに

当院では、レジンの重合収縮によるコントラクションギャップを最重要視しており、直接法・間接法の判断基準は使用するレジンの量を目安にしている。具体的な症例に照らし合わせると、前歯と小臼歯は直接法、大臼歯は間接法で行うことが多い。
今回の症例1で紹介した「直接法ポストレジン」は低重合収縮型のバルクフィルレジンであり、今までは直接法を行うには躊躇してしまう窩洞の大きさであっても、自信をもって直接法での支台築造を行えるようになった。
直接法・間接法はそれぞれ利点欠点があるが、材料の性能でそれを補うことができれば、臨床上で優位だと考える。ただし、材料の性能を最大限に活かすには、ラバーダム防湿やマイクロスコープの使用も重要であり、診療環境の整備も必要だと考えている。
本稿が先生方の治療の一助になれば幸いである。

参考文献
  • 1) 吉居慎二,西野宇信,末松美希,諸冨孝彦,北村知昭:ファイバーポストの導光性が根管深部コンポジットレジンの重合に与える影響.日歯保存誌 59(1):40-46,2016.
  • 2) 渥美克幸,田上直美:支台築造用レジンとの接着におけるファイバーポスト前処理方法の検討.接着歯学 38(1):1-8,2020.
  • 3) 佐々木圭太:漏斗状根管に対するファイバーポスト併用レジン支台築造の補強に関する研究.日補綴歯会誌 2(3):157-166,2010.
  • 4) Shogo WAKAMATSU, Takuji IKEMI:Effect of Polymerization Accelerator on Dentin Bonding of One-step Bonding Agent. Dent Mater J26(1):7-13,2007.
  • 5) 坪田有史:支台築造とファイバーポストコアの現状. 日補綴歯会誌 9(2):94-100,2017.

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