192号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ 押村先生が考える予防歯科とはどんなものでしょう
- ≫ 以前からさかんに言われている医科歯科連携についてはいかがでしょう
- ≫ 患者さんに鼻うがいをお勧めされていると伺いました
- ≫ 医科の先生と上手に連携するためのポイントがあればお聞かせください
- ≫ 今後、歯科医師にはどんな役割が求められるのでしょう
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愛知県名古屋市
かすもり・おしむら歯科・矯正歯科 口腔機能クリニック
院長 押村 憲昭
近年、歯科医療は単なる治療にとどまらず、全身の健康を考えた包括的なアプローチが求められています。鼻うがいを活用した医科歯科連携で、患者さんの健康管理に新たな可能性をもたらしている押村憲昭先生に、予防歯科の未来について詳しくお話を伺いました。
押村先生が考える予防歯科とはどんなものでしょう
現在の予防歯科には少し違和感があ ります。歯科医院に来ている人たちは 予防歯科に対する意識が高く、しっか りとケアを行っていますが、歯科医院 に来ない人たちも一定数いるため、歯 を失う人の割合は変わっていません。 例えば、小学校の歯科健診でう蝕のな い子どもが増えている一方で、特定の 支援が必要とされる環境にある子ども たち、あるいは発達に課題を抱える子 どもたちの間では、う蝕の割合が高い 傾向が見られます。このような社会的 背景から、予防歯科の本質は単に歯を 守ることだけでなく、歯科医院に来な い層へのアプローチが重要です。予防 歯科は、公衆衛生の一環として捉える べきだと考えています。例えば、当院 では、地域でラジオ体操を開催した り、子供食堂を運営したり、地域の病 院と協力して歯科の受診を促す活動に 取り組んでいます。これから歯科医師 の役割はもっと広がっていくべきだと 感じています。
以前からさかんに言われている医科歯科連携についてはいかがでしょう
当院では訪問診療にも力を入れていますが、歯科全体として見ると、「訪問診療は手間がかかる」という理由で普及が進んでいないことも大きな課題です。しかし、必要な医療は手間を惜しまずに提供することが大切だと考えています。特に高齢者の口腔機能を守ることは、肺炎予防に繋がる重要な役割を果たしています。医科歯科連携の重要性についてよく聞かれますが、私自身は特に意識して行っているという自覚はなく、むしろ自然な流れだと感じています。患者さんの高血圧や糖尿病に気づいた時、それを無視することはできません。歯科医師として、歯を治すだけでなく、内科や整形外科、皮膚科、耳鼻科の先生方と連携しながら、患者さんの全身の健康をサポートすることは、自然なあり方だと思います。
開業4年で3倍に増床。2024年7月には新たに小児矯正棟もオープンした。地域の内科や整形外科、皮膚科、耳鼻科から患者さんの紹介を多数受けている。
壁に飾られている感謝状や表彰状は、「歯科業界から地域貢献し、誰ひとり取り残さない社会」を目指す、押村先生の取り組みが評価されたもの。
近隣の保育園や小学校に配布している無記名の啓発資料。子どもから大人まで、口腔ケアや歯の健康に関する大切な情報がわかりやすくまとめられている。
患者さんに鼻うがいをお勧めされていると伺いました
特に、鼻づまりや無呼吸症候群と いった呼吸に関する問題は、口腔内の 健康に直結しており、口腔機能とも密 接に関わっています。そこで、当院では鼻の通りを良くするために、鼻うがいをお勧めしています。日本では口(喉)のうがいの習慣はありますが、鼻うがいの習慣はほとんどありません。多くの人が鼻うがいは痛いものと思っていますが、実際には痛みはなく、むしろ気持ちが良いものです。花粉や慢性的な鼻づまりに悩む人にも鼻うがいはとても効果的です。今後は、鼻うがいを“文化”として普及させていきたいと考えています。
特に子どもの鼻づまりは口呼吸を助長し、歯並びに大きく影響を与えるため、小児歯科矯正でも、鼻づまりのお子さんに鼻うがいを積極的に取り入れています。例えば、鼻がつまっていると、マウスピースが正しく装着できないことがありますが、鼻うがいによって鼻の通りが良くなることで、矯正治療がスムーズに進み、生活の質が向上することもあります。
ただ、重度の鼻づまりでは矯正治療に支障をきたすことがあるため、こうしたケースでは耳鼻科のサポートが欠かせません。親御さんが気づかない鼻づまりの問題を発見し、耳鼻科の先生と連携して早期に対処することが、子どもの健やかな成長に繋がります。
医科の先生と上手に連携するためのポイントがあればお聞かせください
実際に、地域の耳鼻科の先生方とは定期的に情報を共有し、互いに患者さんを紹介し合う体制を整えています。例えば、「フロー・サイナスケア」のような鼻うがい用のアイテムを導入する際も、鼻づまりが歯並びに影響することを耳鼻科の先生に説明し、その理解を得ることで、スムーズな連携を実現しています。このように、医科歯科連携の基本は、まずお互いに話し合い、理解し合うことです。
当院では、こうした取り組みを4年ほど前から進めており、その効果を実感しています。特に患者さんの紹介が増え、地域の医科の先生方からも「歯科はすごい」と評価されるようになりました。
医科歯科連携を進めるうえでは、歯科医師がただ待っているだけではなく、積極的に地域の医療ネットワークに飛び込んでいくことが重要です。私自身、歯科医師の枠を超え、地域の小学校や保育園と連携して、歯磨き教室を開いたり、健康教育を行ったりして、地域全体の健康を支えるために活動を続けています。こうした取り組みが、結果として地域全体の歯に対する意識を向上させ、う蝕の発生率を下げることに繋がっていると考えています。
今後、歯科医師にはどんな役割が求められるのでしょう
歯を治すことは手段であって目的ではありません。予防すべきは、患者さんの口腔機能や嚥下機能を維持することであり、それが今後の予防歯科の方向性であるべきだと思います。患者さんが最期まで食べられるかどうかが重要なゴールであり、それを支援することが歯科医師の役割です。
予防歯科の本質は公衆衛生にあり、包括的なアプローチで地域全体の健康意識を高めていくことが、本当の意味での予防です。この考え方をもっと広げ、歯科の役割を再定義していく必要があるのではないでしょうか。そして、歯科医院は単に歯を治療する場所ではなく、地域全体の健康を守る中核的な役割を果たすことが、これからますます求められていくと思います。
押村憲昭先生の予防歯科に対するお考えや、鼻うがいに関する取り組みは「DENTAL LIFE DESIGN」でもご覧いただけます。
ぜひそちらもご一読ください。
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